水彩画の名前にちなんで

松藤 四十二

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グランシアの向こう、小景

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 休日に一日中寝ても、美味しいものを食べても、サウナに行っても、誰かに愚痴を聞いてもらっても、山に登っても、日帰り旅行をしても、体内にこもった熱のような疲れがとれないときがある。大抵の場合、それは人間関係による疲れで、一人ではどうしようもないことだった。
 例えば上司や同僚が、仕事で助けてくれないとか。例えば失恋したとか。例えば友だちとケンカをしたとか。
 言葉にしてみれば簡単だけど、具体的に言えばまた疲れそうで、口にしたくない。
 そんなものが、今もあった。
 八方塞がりのような心持ちの中で、唯一、縋れるものといえば、子どもの頃の秘密基地、その跡地だった。男女関係なく無邪気に遊んでいた頃に、まるで自分たちだけの世界で発見されたような場所に、秘密基地をつくった。小川の近くで、背の低い雑草たちが草原のようにあった。そこにスーパーで手に入れたダンボールを敷き、壁と屋根らしきものをつけ、中でお菓子を食べたり、狭い中で寝転がったり、話したり。そんな遊びをした。それが一週間続き、いつの間にか大人に見つかり、絶対に行かないように厳しく言われ、思い出の中だけに存在するようになる。そんな秘密基地だった。
 しかし、跡地だけは現実にまだあった。グランシアという名前のレストランの横にある小道を通ると、そこに行けた。
 道を抜けると視界が開け、小川が迎えてくれる。そして、そこには昔のように雑草が生えている。違うところといえば、どこかの飼い猫のなわばりになっているということだ。跡地に行く度に、猫はいる。
 このことを知っているのは、自分だけかもしれないと思っている。小学生の頃の友だちのほとんどは都会に出たし、何人かは結婚して子育てや仕事に忙しくしていた。残った一人も引きこもっていた。
 似たようなもので、自分も殻に閉じこもっていた。外出と仕事の分だけ、社会と関わっているだけで、引きこもりの彼女と対して違いはない。
 恋人とは別れたし、仕事もうまくいかない。それでも職場と家を往復せざる得ない。でも、つらい。つらいのは、薄めることはできても、消滅させることはできない。あいつらには、芯がある。酷いことだ。
 その日は、どうしても泣きたくなり、近所の商店でビールとメザシを買い、跡地へ向かった。
 跡地に着くと、持ってきたビニールシートをひろげて、座った。ビールを開け、一口飲み、小川と草花を見た。悲しみや焦り、憎しみが出てきたが、押し込めるように、またビールを飲んだ。
 チャリンと、鈴の音が聞こえた。
 その方向を見ると、青色の首輪をつけた、いつもの猫が走ってきた。
 彼は側までやってきて、ペタリと座った。
 頭を撫で、それから首を撫でてやると、お腹を見せてきた。この瞬間がたまらなく好きだった。許しを得た気分だった。
 猫カフェには行ったことがない。でも、きっとこんな気持ちになるんだなと想像できる。
 そして、泣き始めると、彼は毛繕いを始めた。
 長い間、存分に、しっかりと自分自身をケアしていた。
 まるで私の代わりに、私が納得するまで、彼はざらついた舌で舐めていた。
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