秘密と自殺と片想い

松藤 四十二

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文庫本とカバー

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 可愛いから始まり、かっこいいになった。きっと歳をとると素敵になるのだろう。
 俺のことを友達の少ない普通の男だと思ったり、ブ男だと思ったりする人がいると思う。例えば、夏目冬子が俺のことを知らない誰かに話をするとしよう。おそらく、夏目冬子は俺の性格や状況から描写しはじめるだろう。ちょっとおかしな人でね、友達も少なくてクラスで孤立していてね、そうかと思ったらいきなり話しかけてきたり……、頭は別に悪くないんだけど、なんだか少し気持ち悪いの。
 こうなったら、俺の顔を気にする人なんていないだろう。誰もかっこいいとは思わないはずだ。勝手に頭のなかで、普通の顔か不細工な顔をしている変な男なのだろう、性格もおかしいのだから顔もどこか捻くれているはずだ、と想像していると思う。だが、その想像を裏切り、俺の顔はかっこいいのだ。これは嘘ではない。小学生の頃からバレンタインデーのチョコレートをたくさん貰っていたし、告白されたこともある。そして中学に入ると、その数は増えた。一年生のときは、上級生から、二年生と三年生のときは一年生からチョコレートを貰い、告白された。
 だが、これが示しているように、彼女たちは一度俺という人間を知ってしまうと、なぜか急に冷めてしまうようだ。俺にチョコレートをくれた人や告白してきた人が再び俺の前に現れることはなかった。それは俺が彼女たちに変人だと思われ、性格も悪いと思われたからかもしれない。だから、決してモテているわけではない。俺はただ顔がいい男なのだ。
 それでも俺のことを好きだと言ってくれた人がいる。それは元彼女のあの子だ。彼女とは幼馴染で、昔からずっと遊んでいた。仲もいいし、お互い自然に好きになった。だから初めてキスしたのもあの子だし、初体験もあの子とだ。
 では、なぜ別れたのか。まぁ、その話を思い出すのはやめておこう。
 うまく寝られなかった夜は、こんなふうに過去のことを思い出しながら寝ている。それはきっと、寝付くには悪いことなのだろうが、俺はなぜかそうせずにはいられない。
 俺は可愛い子を見つけたのに興奮したのか、昨晩、ベッドに入ってもうまく眠れなかった。仕方なく、自分がいかに昔から顔がいいのか思い出した。
 初めてチョコレートを貰い、告白されたときはうれしかったものだが、次第にそれも薄れていった。経験と記憶というのは、たまにいらなくなってしまう。もちろん、そう思うのが贅沢だということは分かっている。
 俺は自室のドア付近に設置した、けたたましく鳴る目覚まし時計を止めにベッドから出た。毛布を引きずりたいと思うくらい、寒い朝だった。
 歯を磨き、顔を洗い、朝食を食べ、制服を着た。そして自転車を漕いで、学校へと向かった。赤信号で横断歩道に止まると、あの制服を着た女子生徒が前を通った。思わず顔を見て、あの子じゃないのを確認した。
 学校に着いても、あの子のことを考えていた。昼休みも、教科書とノートを開いて、勉強をしている振りをしながら、色々と妄想をしていた。どこにデートに行こうか、どんな手をしているのだろうか。
 だが放課後になると、俺は思考をしっかりと切り替えた。自分が思っていた以上に、すんなりとスイッチが切り替わるのを感じて、驚いたくらいだった。
 俺は自転車を漕いで、本屋へと向かった。今日はマスエさんという、あの店員さんが来ているはずだ。
 駅近くのスーパーに自転車をとめ、俺はさっそく本屋へと向かった。
 レジカウンターにはあの、おばさん店員がいた。
 俺は周りを見渡し、マスエさんを探した。コミックコーナーへ行き、その奥の角を曲がると、資格・検定のコーナーにマスエさんがいた。彼女は在庫を本棚の下にある引き出しに入れているようだった。
 すみません、俺がそう言うと、彼女は屈んだままこちらを向き、俺を確認すると立ち上がった。今日は、髪を後ろで三つ編にしていた。
「はい。どうなさいましたか」
「あの、この前」と俺は言い、文庫本を鞄から取り出した。「これがここで買われたかどうか聞いたのですが」
「……ああ、はい」彼女は思い出したのか、軽く顔をあげた。
「あの、どうして、ここでこの本が買われたか分かったんですか? 一昨日、違う店員さんに聞いたら、分からないって言われたんですけど」
「ああ」彼女は少し笑った。
 化粧は薄く地味だが、なかなか綺麗な人だなと俺は思った。
「それはですね。その文庫本のカバーで分かったんです」
 カバーで?
「そのカバー、私がここに入ったばかりのときにやって、少し変なんです。左右対称じゃなくて、左に少しずれているんです。持ちにくくないですか?」
 俺は本を開いて持ってみた。たしかに本を持つと、紙のカバーの左が少し浮く。俺はベッドで横になり、枕に押しつけて読んでいたから気にならなかったのかもしれない。
 では、なぜ九月の初旬に買われたと分かったのだろうか。俺はそのことも聞いた。
「この仕事を始めたのが8月の終わり頃だったので、それは九月だと。あと、普通はカバーが変になったらやり直しているんですけど、その……高校生だったかな、お客さんはそれでいいですって……。だから覚えてるんです」
「その高校生、どんな感じでした?」
「……うーん。普通の高校生だと思いましたけど。ああ、でも少し急いでいるようだったかなぁ」
 急いでいた? なぜ?
「他に何かありませんでしたか」
「うーん。いや、とくに何もなかったと思いますけど」
 俺はそれを聞くと、礼を言って、文庫本コーナーへと移動した。そして、ぐるっと本屋内を一周してから、外へと出た。その間、俺はなぜ友達がカバーをかけなおして貰わなかったのか。そして、なぜ急いでいる様子だったのかを考えた。
 俺はそのまま駅を出て、道路を横切り、公園へと入った。昨日と同じように小学生たちがそこで遊んでいたが、ベンチで数十分待っても、あの可愛い子は現れなかった。
 気分は奇妙なものだった。友達のことで悩み、女の子のことで浮ついていた。何かがごまかされているような気がして、釈然としなかった。
 俺は両手で目の前を暗くして、次のことを考えることにした。
 まず友達のことに関して。これは正直に言うと、停滞しはじめた。次の一歩をどこに踏み出すべきか分からない。だが、謎はある。それを解いていくしかない。しかし、そこを解決していくには、やはりどこかを探らなければならない。どこだろう。それが分からない。あいつはなぜ急いでいる様子だったのだろう。急いでいたのなら、なぜカバーをかけてもらったのだ。……カバーをかけてもらっているときに何かが起きたのか? それは何だ。何が起きたのだ。それはきっと友達の予想していないことだろう。……電話? メール? では、それは誰からのものだ。いや、マスエさんは携帯電話を取り出したとは言っていなかった。急いでいるようだと言っただけだ。では、もしかして、誰かを見かけたのか? そうだとしたら、それは一体誰だ。……いやいや、待て。待てよ、俺。例えそうだとしても、それが自殺の理由と関係あるのか? 分からない。だが、謎は謎だ。
 俺はいつの間にか止めていた息を吐き、空を見上げた。青い空が高いところにある。息を大きく吸い、また吐いた。
 次に公園で目が合った可愛らしい女の子のことを考えた。一目惚れというのに出合ったことがない俺にはよく分からないが、彼女の外見に惹きつけられたのは間違いない。
 そしてこちらの方は、対処方法が早く見つかった。
 香月君にもう一度会おうじゃないか。
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