遠い記憶のクロシェット

うずまきしろう

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④ 失敗の思い出

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 ♦♦♦


 毎朝目覚まし時計を設定していると、人は段々と、その騒がしい音に拒絶感を覚えるようになる。


 そのせいなのか、いつからか不協和音が鳴り響く前に、ふと目を覚ますようになる人は多い。


 かく言う僕も、ここ数年はそんな調子の毎日が続いている。
 

 僕はそれが、正確な体内時計によってもたらされる良い現象なのだとばかり思っていた。
 しかし、実際はその真逆であることを知ったのはごく最近だ。
 

 なんでもそれは、過緊張と呼ばれるストレスの一種らしい。
 放っておくとまず精神が、そして次第に肉体が不健康になるようだ。
 

 過緊張に陥らないようにするには、睡眠前のリラックスが重要だということである。
 まるで流し見た記事の受け売りだが、気を付けるに越したことはないだろう。
 

 尤も、当時の僕に目覚まし時計を使う必要はなかった。
 仮に寝坊したとしても、母さんが叩き起こしてくれるし、あの鬱陶しい雑音以外にも、寝覚めに繋がるものが多数あったのだ。
 

 喉奥に感じた干ばつと、肌を覆う気怠い湿り気。
 それが天然の目覚ましとなって、意識が覚醒する。
 

 眠気の抜けない身体に鞭打って瞼をこじ開ける。
 まず、窓枠の中に浮かぶお日様の姿がぼんやりと見えた。
 

 天気良好であることを確認すると、僕は早速、朝の支度に取り掛かった。


 生温い水で顔を洗う。
 朝ご飯を食べて寝間着から着替える。
 残りの準備を慌ただしく済ませ、玄関を飛び出した。
 

 そのまま僕は外の世界を歩き始めたわけだが、しかし、向かう先はいつもの場所ではなかった。


 数十メートルほどの等間隔で、家々の白い瓦塀かわらべいと小さな雑木林が繰り返される。
 ときおり、刈り取られた雑草の山が放置されている空き地を通り抜けた。
 

 背負う黒い鞄は、漬物石が入っているのかと思うぐらいにずっしりと重い。
 ひび割れたアスファルト上をひたすら歩き続ける。
 被る黄色い帽子に汗が滲み始めたところで、この町で一番の建造物に出くわした。
 

 縦横何メートルという具体的な大きさを図ったことはないが、その気になれば、この街の住民ほとんどがここに収まるのではないだろうか。
 

 雨風に晒され、濁った灰色に汚れた外壁は三階部分まで続いている。
 その上部には、のっぺりとした青銅色の屋根が見えた。
 

 左のだだっ広い砂地に目を向ける。
 そこには申し訳程度の遊具が点在していた。
 

 改めて正面に向き直ると、門前では教師が数人、活力のある挨拶を飛ばしている。
 そして、キャッチボールを受け取った児童たちもまた、元気よく挨拶を返していた。
 

 僕もその中に紛れ込んで校門を潜り、下駄箱で靴を履き替える。
 左手の廊下を通り抜け、真っすぐ自らの教室に向かっていく。
 要するに、僕は学校に来たわけだ。
 

 つい一週間ほど前、とうとう、長きに渡った夏休みに終止符が打たれてしまった。
 

 世界は未だ異常な高温で包まれているし、蝉たちが鳴り止んだわけでもない。
 それでも、季節に一つの節目がやってきたことは明らかだ。
 

 今や陽が沈むと、秋虫が微かに騒ぎ立てるようになった。
 そうなると当然、名目上、猛暑の危険性ゆえに与えられるお休みも打ち切りということである。
 

 そんなこんなで二学期の日常に吞まれつつある僕は、以来、山に向かうことはめっきりなくなった、というわけではない。
 

 僕は学校が終わればいつもの場所に飛んでいったし、やっぱり鈴音も、僕より一足先に大樹の傍で待っていてくれた。
 以前と比べて遊ぶ時間は限られてはいたが、僕らは相変わらず山中で落ち合っていた。
 

 学校が再開して一つ疑問に思ったのは、ここでは、彼女の姿が一切見えないことだった。
 

 あんまり露骨に探すのもみっともない気がした。
 だからそれとなく学校内を見渡しているだけだが、どの学年にも、鈴音らしき人物は見当たらなかった。
 

 まぁ恐らく、彼女は隣町のお嬢様学校にでも通っているのだろう。


 実際、この辺りに住んでいる子供たちには、少なからずそういう奴らもいた。
 それに、こんな辺鄙の学校では、あれ程の知識を手にすることは不可能に近い話だとも思えた。

 
 教室に到着して程なくすると、まずは担任の主導する朝学活が始まった。


 それが終わると退屈な一時間目の国語が始まって、次は図工の時間で…という風にして、学校での一日が過ぎ去っていく。
 

 しかし、僕が真面目に授業に取り組んでいるのかと言われると、それは体裁だけのことだ。
 ノートと教科書を開いて鉛筆を握っているが、意識は放課後のことばかりに向いていた。
 

 給食を食べ終えると昼休みが訪れた。
 僕は当たり前のように、鞄から図書館で借りてきた本を一冊取り出す。
 しおりを挟んだ頁へ目を移し、自然に関する造詣を深めようとした。


「千風。今日こそサッカーしに行こうぜ!」


 寸でのところで横槍が入って、僕は声の主を見やった。


 夏休み中遊び回っていたのだろう。
 僕と同じかそれ以上に日に焼けている日向が、いつものメンバーを代表して声を掛けてくれた。


 でも僕はと言えば、変わらぬ一点張りだ。


「ごめん。今日は本読みたいから、また今度な」


 昨日まではこれで引き下がっていたのだが、今日の日向はまだ諦めないらしい。
 彼は眉を寄せて言う。


「お前、そういう奴じゃなかっただろ?」


「読書も悪くないもんだって気づいたんだよ」


 僕は合気道のような受け流しで言葉を返す。
 ぞろぞろと、彼の後に続いた友人たちが顔を顰めた。


「夏休みの時も全然遊びに来なかったしさ、最近付き合い悪いんじゃねーの?」


 そう言われてしまっては、こちらとしても立つ瀬がなかった。
 確かに僕は夏休み中、日向達をほったらかしにして、鈴音との時間を過ごしていたのだから。
 

 少しばかり、居心地の良くない雰囲気がその場に流れる。
 今日ぐらいはみんなとサッカーするか。


 嫌な気配を敏感に感じ取った僕は、状況を好転させるために席から立ち上がろうとした。
 

 だがそのタイミングで、電撃的に一つ良い考えが思い浮かぶ。
 僕は席から立ち上がる前に、日向達にこう言葉を返した。


「なぁ、良かったら今日の放課後、久しぶりに山で遊ばないか?」


 日向達は怪訝そうな表情を浮かべた。
 しかし最後には「分かった。じゃあ放課後な」と返事をくれた。


 それを機に、僕は手元の本を開ける仕草を取ってやる。
 彼らはため息をついて校庭へ向かっていった。
 

 その背中を見送った僕は、今日の放課後をますます楽しみに思いながら、本の内容に集中し始めた。

 
 この時に僕が思い付いたアイデアが、僕自身の交友関係の安寧という点において、大変優れたものであったことは間違いなかったのだと思う。
 

 ただ、一つだけ見落としがあった。
 それは、自分にとって良い考えというものは、その大抵が他人にとっては都合の悪いものだということだろう。


 ♦♦♦


 六つ目の授業が終わり、事務的な帰りの会が切り上げられる。
 ちょうど、開放のチャイムが学校中を包み込んだ。


 学生のオアシスたる放課後に辿り着いた皆は、伸び伸びとした様子で下校を始めている。
 

 僕はその中でも一際早く正門を潜り抜けた。
 一旦、荷物を置きに家へと向かう。


 その勢いで日向達との集合地点に向かったものだから、僕は一番乗りに集合場所の空き地に到着した。
 遅れて彼らもやって来て、僕は勇み足を向けて彼らを先導した。


「山ってそっちじゃないだろ?」


「いや、こっちにもっといい場所があるんだ」


 彼らの制止に構わず、僕は一直線に歩みを進めていく。
 いつも通りの道筋を辿って森の中に入り、彼らに先立って山道を辿った。
 

 ──鈴音と日向達を友達にしてしまおう。


 僕が思い付いた良案というのは、そういったものだった。
 

 というのも、彼女と彼らが仲良くなってくれた暁には、僕は日向達との時間も大切に出来るし、鈴音は僕以外の山で遊べる友達を作れるわけだし、日向達も鈴音という新たな仲間を見つけられることになる。
 これは一石二鳥どころか三鳥ではないか。


 この妙案にはなんの欠点も見当たらない。
 無理にでもつっかえるところを捻り出すと、僕と鈴音だけの時間が失われてしまうことだろうか。
 

 しかしそれも、僕にとっては些末な問題でしかなかった。
 寧ろ、このまま彼らに彼女のことを知らせずに、僕と鈴音だけの関係を維持することの方が問題だとすら思えた。
 

 考えてもみてくれ。
 彼女の素晴らしい知識の恩恵を僕だけが受け取るなんて、それはスイカ丸ごとを独占するようなものではないか。
 

 鈴音の培った見聞は、僕以外の人間にも披露すべきものでしかない。
 それを僕一人が取って隠してしまうことなど、どうして許されようか。
 

 つまりは僕は鈴音と過ごす日々の中で、彼女に友愛を抱いたことはもちろん、そこには敬愛のような感情さえ芽生えていた。
 その結果として、彼女が日向達にどのような心象を抱こうとも一向に構わなかったのだ。


「実はさ、夏休みに仲良くなった子がいるんだ」


 不思議といつもより長く思える道のりを進みながら、僕は日向達に鈴音のことを語り始めた。
 

 植物とか昆虫とか、山の知識に関しては右に出る者がいないのだとか。
 なんと自分よりも素早く斜面を登れるのだとか。
 僕は彼女の魅力を、自分のことのように自慢げに話していたのだと思う。
 

 やっとのことで緩やかな坂道の上に辿り着く。
 前方にはシンボルツリーが聳え立っていた。
 普段通り、僕は大樹へ歩み寄ろうとして、ふと、大きな違和感を覚えた。


「…鈴音?」


 その妙な引っ掛かりの原因を突き止めるよう、僕は試しに彼女の名を呟いた。
 

 すると、僕の掛け声に気が付いた鈴音が、いつも通りに大樹の裏側から笑顔で姿を見せてくれる、という普段の流れが生じない。
 

 この場には閑散としたそよ風が吹き通すばかりだ。
 首を振って辺りを見回してみても、白いワンピースを着た彼女の華奢な姿は影も形もなかった。
 

 その事実を前に、僕はなんとなく釈然としなかった理由に気が付く。
 居ない。
 鈴音が居ないのだ。
 

 その初めての事態を前にして、途端に僕は若干の焦りを覚えた。
 これまでは当たり前のようにこの場で落ち合ってきたからこそ、鈴音が来ないことなど、僕は想定もしていなかったのだ。


「おい、鈴音。何処に居るんだよ?」


 僕はまるで、そこにいるはずの誰かに手を伸ばすようにして何度か声掛けをする。
 しかし、僕の呼び声に彼女が反応することはなかった。


「…おかしいな。ごめん、みんな──」


 まぁ、鈴音だってここに来れない日もあるか。
 今日は少し都合が悪かったか。
 

 そうやって僕が、彼女の不在に納得しようとしていたその時のことだ。
 ぽつりと、誰かが呟いた。


「なんだよ。鈴音ちゃんなんていねーじゃねーか」


「いや、今日はまだ来てないって言うか──」


 余程、鈴音に会えることを期待してくれていたのだろう。
 少々棘生えた言葉が空気を引き裂いた。


 僕はタイミングが悪かったことを説明しようとするも、便乗するようにまた誰かが言った。


「千風。鈴音ちゃんに振られたんじゃねーの?」


「はぁ?ちが──」


 今度は斜め上の方向から、僕を小馬鹿にするような言葉が飛んできた。
 僕はとっさに弁解を図ろうとする。
 だが重ねるように、次から次へと嘲笑の混じった声が交錯した。


「あーあ、可哀想になぁ」


「女の尻なんか追い掛けて、ダセーの」


「そもそも鈴音ちゃんの話だって嘘なんじゃないのか?俺はそんな子、学校でも見たことないしさぁー?」


「そうかもな。本の読み過ぎで頭おかしくなったんだろうなぁー」


 そこでようやく、僕は理解した。
 その尖った言葉のどれもが、間違いなく僕自身に向けられた悪口であることを。


 最近一緒に遊べていないことが、日向達よりも読書を優先したことが、そんなに面白くなかったのだろうか。
 それからも彼らは僕を散々に冷やかし、気の済むまでせせら笑った後に、勝手にその場を去っていった。
 

 取り残された僕は、曰く言い難い表情で突っ立っていた。
 彼らの放った誹謗中傷の一つ一つを頭の中で噛み砕いては、沸々とした感情を煮やしていた。
 

 今日はこれ以上、この場に居ても意味がない。
 取り敢えず家に帰ろう。
 不快感が積もり積もって、目に映るもの全てが厭わしく思えてしまう前に、僕はその場から踵を返そうとした。
 

 だが、やけに神経質になっていた僕の耳は、不自然に小石の転がる僅かな音を聞き逃さなかった。
 

 反射的に振り返る。
 そこには、こっそりと、大樹の裏から顔を出す鈴音の姿が見えた。
 

 数秒、視線が合った状態が続く。
 彼女は気まずそうにこちらにやって来た。


「…居たのか?」


 その数秒間、僕は頭の上で何を考えていただろうか。
 短く、いつもより少し低い声で、僕は慎重に尋ねた。
 

 少し間があって「…うん」と鈴音は小さく頷いた。


「…居たなら、なんで出てきてくれなかったんだよ」


 あの時ここに居たことを肯定されてしまえば、僕はそう聞かずにはいられなかった。
 

 彼女の返すであろう言葉を幾通りも推測した。
 例えそれが納得できないものであったとしても、出来るだけ穏便でいられるよう、ある程度の耐性を整えた上で僕は鈴音の答えを待った。
 

 けれど、彼女が取った行動は僕の準備を大きく上回るものであった。
 

 鈴音はいつも通りにへらと笑い、何事もなかったかのようにその口を動かそうとした。


「今日はさ、あっちの方に行ってみよっか──」


「なんでって聞いたんだよ!!」


 目の前が真っ赤に染まった気がした。
 思わず、怒鳴りつけるような大声が腹の底から飛び出る。
 

 僕が猛る感情のままに叫んでやると、鈴音は突然の大声に怯えたように、その身体をビクリと硬直させた。
 

 気に喰わなかった。


 皆がいる前で鈴音が出てきてくれなかったこと。
 僕の呼び掛けを無視したこと。
 そして何よりも、こっちの気持ちも考えずにへらへらと笑ったこと。
 

 その何から何までが、不愉快でならなかった。
 鈴音の常套手段であるお茶濁しが、この瞬間には悪手でしかなかったのだ。
 

 せめて真っ当な理由を説明してくれれば、僕も怒りを腹の奥底に沈めようと思っていた。
 でも、鈴音はあろうことか、ふざけた笑顔でそれを誤魔化そうとした。
 

 それはまさしく火に油を注ぐようで、僕の中で煮えたぎる炎を増々駆り立てた。
 

 怒気に溺れて視野が急激に狭まっていた僕は、もう、鈴音が日向達と結託して僕を陥れようとしたのだとか、そんな飛躍の過ぎる狭窄にまで陥ってしまっていた。
 

 急所を突かれたからだろう。
 静寂が周囲に染み渡るその最中、鈴音は何も言えず仕舞いであった。
 僕は燃え上がる怒りのままに、続けて言葉で殴りつけた。


「どうして理由を教えてくれないんだよ!!あれか?僕が笑い者にされてる姿を見て楽しかったのか!?」


「ち、ちがっ──」


「あぁ、それはそれは面白かったんだろうなぁ!こっちは酷い目に遭ったって言うのにな!!」


 僕が吐き捨てるように罵倒の言葉を繰り返そうとも、彼女はやはり口を結び続けていた。
 

 いや、実際の鈴音は、必死になって何か言葉を探していたのだと思う。
 けれど、怒りに囚われて暴走機関となった僕に掛けるべき言葉を見つけられずに、ただひたすら困り果てていただけなのだ。
 

 一度燃え上がった炎は、そう簡単には鎮火しない。
 これが良くないことだということぐらい、僕も頭の片隅では分かっていた。
 

 それでも心と頭は一致してくれない。
 頭の片隅で急ブレーキを踏みこもうとも、僕は怒りの燃料となる薪を燃やし尽くすことでしか、平静を取り戻すという手段以外が選べなかった。
 

「僕がどんな気持ちになったかも想像出来なかったのか!?」


「この人でなし!!」


 そうして僕が、更なる罵詈雑言を放った瞬間のことだった。
 あれほどの激昂が、瞬く間に冷めてしまったのは。
 


 これまで一切微動だにしなかった鈴音が、突然、その瞳孔を大きく震わせた。
 


 途端、心には僕の燃やした炎がちっぽけに思えるほどの大滝が降り注いだ。
 大量の水を被った薪は呆気なく黒い炭に変じた。
 

 何か、不味いことを言ってしまった。


 鈴音の怯えたような反応を見て、僕は直感的にその事実に辿り着いた。
 

 その頃にはもう、半ば強制的に、冷静さは手のひらに握らされていた。
 さっきまではあれほど饒舌に啖呵を切っていたというのに、今度の僕はまるっきり言葉を失ってしまった。
 

 小さな瓶に淀んだ空気を詰め込んだみたいに、居心地の悪い雰囲気がその場に漂っている。
 時の流れが嫌に遅く感じる。
 何かに衝撃を受けている鈴音から目が離せない。
 

 僕を見ているようで何処か別の場所を見ていた彼女は、とうとう我に返った。
 

 僕の視線が向けられていることに気が付く。
 鈴音はいつも通りの笑顔を浮かべようとして、でも、その笑みにはぎこちない固さが混じっていた。


「…ごめんね」
 


 鈴音は悲しそうに、乾いた笑顔で僕に言った。
 


 計り知れない衝撃が身体中に響き渡った。
 胸には、大きな杭を打ち込まれていた。
 哀愁漂う笑顔を前にして、僕は息が詰まるほどに苦しくて仕方がなかった。


 その時、僕が返すべき言葉は何千通りとあったはずなのに、僕は口を動かすどころか、喉を震わすことさえ叶わなかった。
 

 そんな僕を一瞥した彼女は、逃げ去るように向こうへ駆けてしまった。
 

 今度こそ、僕はたった一人、唖然とその場に取り残される。
 

 肌を撫でた秋風が、孤独の冷たさを際立たせていた。
 



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