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川上 真

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善行ポイント

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男はある日、街中で奇妙なカードを拾った。コンビニのポイントカードに似た形だが、表面には「善行ポイントカード」とだけ書かれていた。裏面には簡単な説明が添えられている。

【あなたが善行を行うたびにポイントが付与されます。貯まったポイントは、ささやかな幸せに交換できます。】

「なんだこれ?」

怪しみながらも、男はポケットにしまった。



翌日、電車内で立っている高齢の女性に気づいた男は、試しに席を譲ってみた。その後、カードを確認すると、「5ポイント」と印字されている。

「本当にポイントが貯まるのか!」

それからというもの、男は意識的に善行を重ねるようになった。募金をしたり、道案内をしたりと、小さな行動を繰り返すたびにポイントが増えていく。50ポイントに達したころ、突然懸賞で商品券が当たり、100ポイントを超えた翌日には思いがけない昇進の知らせが届いた。

「これは本物だ……ポイントのおかげに違いない!」

男はさらに善行に励んだ。



しばらくして、男は街でちらほらと同じカードを持つ人々を見かけるようになった。駅で老人を助ける若い女性、募金箱の前でせっせと硬貨を投入するサラリーマン――。どの手にも、あの「ポイントカード」が握られている。

「他にも持ってる人がいるのか……まあ、みんなが善行を心がけるのは素晴らしいことだ。」

しかし、日が経つにつれ、「ポイントカード」を持つ人々が急増し、街中の至る所で善行に励む姿が見られるようになった。駅のホーム、公園、スーパー――人々の行動には次第にどこか不自然な緊張感が漂い始めていた。



ある日、駅で杖をついた老人が階段を上がろうとしている場面に出くわした男は、チャンスとばかりに急いで駆け寄った。

「今度こそポイントを稼ぐぞ!」

しかし、その直前に別の男が割り込んだ。

「俺がやります!」

さらに別の女性も横から手を伸ばした。

「私が助ける!」

老人の周囲には次々と人が集まり、全員がカードを握りしめて声を荒げ始めた。

「いや、俺が先に見つけた!」

「何言ってるの、私が助けるんだから!」

「邪魔するな!」

その場は一瞬で混乱に包まれた。



少し離れた場所でその光景を見ていた少女は、やがてため息をつきながら小さく呟いた。

「あー、このやり方でもダメか……」

そう言うと、少女は踵を返し、街の喧騒の中に溶け込むように姿を消した。

杖をついた老人は一人で階段を登り始めたが、その様子を見守る者は誰もいなかった。
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