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無料の家

その家は”無料”で住めると話題になっていた。

家賃や光熱費は一切不要。ただし、生活の中で広告を閲覧する仕組みになっている。

例えば、壁には調理動画やファッションの広告が投影され、シャワーを浴びると「今ならボディソープが半額！」と音声が流れる。

広告を気にしなければ無料で住める――その手軽さがSNSで拡散され、たちまち大人気となった。



ある男がこの家に引っ越した。
お金に困っているわけではなかったが、家賃が無料というのは魅力的だ。

初日は驚きの連続だった。壁には絶えず広告が映り、冷蔵庫を開けるたびに商品が推奨される。シャワー中の広告音声には少しうんざりしたが、「まあ、無料だからな」と割り切った。

隣人たちも気のいい人ばかりで、「広告を見るだけでタダなら十分さ」と笑っていた。



ある日、家の中に新しい機能が追加された。
【部屋ランキング：他の住人の部屋を覗いてみませんか？】

男は軽い気持ちでランキングを開いてみた。
画面には他の住人の部屋が映し出され、それぞれランク付けされている。

上位の部屋は驚くほど豪華だった。
最新家具が揃い、自動で動く調理ロボットや高級スピーカーが設置されている。

「なんだこれ…？」

彼は思わず自分の部屋に目を向けた。そして、ランキングの最下位に自分の部屋が表示されているのを見つけた。



それから数日後、男はこんな広告を目にした。
【たった500円で、あなたの部屋がランクアップ！】

試しに「掃除ロボット付きプラン」を購入してみた。すると、部屋が少し快適になった。
掃除の手間がなくなり、気分も良い。

「500円でこれなら悪くないな」

それから、彼の生活には少しずつ「オプション」が増えていった。

【この調理ロボットで、あなたの部屋はさらに上質に！】
【今ならポイント2倍！家具を追加してワンランク上の暮らしを！】

どれも些細な提案に見えたが、男は気づけば購入ボタンを押していた。
「まあ、少しくらいならいいか」

掃除ロボットに調理ロボット、照明プランのアップグレード――課金した分だけ部屋が便利になり、心地よさが増していく。

「これがあると、もっと良くなるかもな」
彼は画面を見つめながら、また購入ボタンを押した。



その頃――。
とあるタワーマンションの最上階。

1人の男が高級スーツに身を包み、広々とした部屋に座っていた。

「よし、新しいオプションを追加しろ。今月の売上目標はさらに引き上げるぞ！」

彼の手元の画面には、膨大な収益データが映し出されている。住人たちの課金額を示すグラフは右肩上がりだ。

「家賃を取らなくても、こんなに稼げるなんてな」

笑い声が、豪華なシャンデリアの下で響き渡った。