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川上 真

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壊れた約束

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この世界では、約束が形になる。

小さな約束は、小さなガラス玉として現れる。
手のひらに収まり、光を当てると虹色に輝く。

大きな約束は、水晶のような姿になる。
昼は七色に光り、夜は静かに淡い光を放つ。

約束が守られる限り、それらは美しく輝き続ける。

しかし、一度破られれば――
ひびが入り、濁り、やがて跡形もなく砕け散る。



男の部屋には、いくつもの約束が転がっていた。

部屋の隅には、ガラス玉や小さな水晶が並んでいる。それらは、友人や家族と交わした約束が守られている証だ。それらは静かに輝き、部屋を彩っている。

しかし、その隣には、ひび割れたガラス玉がいくつも転がっていた。
破られた約束の残骸だ。

一度は直そうとしたこともあった。
欠片を繋ぎ合わせたり、磨いたり。
けれど、再び輝きを取り戻すことはなかった。

「壊れた約束は、戻らないんだな……」

男は、それらを捨てることはできなかった。
捨ててしまえば、破った約束の記憶まで消えてしまうような気がしたからだ。



男の住む街の広場には、大きな水晶の岩があった。
それは、この街の人々が共有する「約束の形」だ。

【自然を守る】
【街を発展させる】
【未来のために力を合わせる】

そんな街の約束を形にした水晶は、街の中央で長い間静かに輝いていた。

だが最近、表面にひびが入り、輝きが鈍くなっていた。

「誰かが約束を破ったな」
そう思いつつも、誰も深く考えようとはしなかった。



ある日、男が広場を訪れると、水晶の岩が不穏な様子を見せていた。

表面のひびが広がり、破片が地面に落ちて砕ける音が響く。

「この岩、もう限界じゃないか?」
「なくなったら、どうなるんだろう?」

人々は不安そうに見上げていたが、誰も手を伸ばそうとはしない。

やがて、岩は崩れ落ち、静かだった広場に、鈍い音が響き渡る。

人々は立ち尽くした。
しかし、しばらくすると、何事もなかったかのように一人、また一人と去っていった。

「こんな岩がなくても、街は変わらないさ」
誰かの小さな声が聞こえた。



そして、いくつかの月が過ぎたある日。

大地が揺れた。

地面に無数のひびが走り、建物が崩れ始める。街中には驚きと悲鳴が響き渡った。

男はその場に立ち尽くしていた。

遠くの地平線には、巨大な亀裂が広がっていた。
それは、まるで地球全体にひびが入ったかのようだった。

男は静かに呟いた。
「壊れた約束は、もう戻らない……」

やがて人類の「約束の形」は、その形を失った。
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