神は死んだ。僕が殺した

tanahiro2010

文字の大きさ
2 / 6

001 静かな日常と、僕の陰

しおりを挟む
 僕の名は――いや、名乗る必要なんてないかもしれないね。どうせ、この物語において、僕の名前なんて些細な要素に過ぎないのだから。



 僕は、どこにでもいる、平凡で、特徴のない生徒だった。



 朝はギリギリに登校し、決まった席に無言で座り、誰とも目を合わせないように教科書を開き、終始静かに授業を受ける。話しかけられることは稀で、話しかける勇気など当然なかった。



 昼休みも、購買には行かず、持参した弁当を机の上に広げる。食べるスピードは速くもなく遅くもなく、ただ黙々と、時間を埋めるための作業のように口に運ぶ。



 教室の隅、窓から一番遠い列の、誰の目にも留まらない席。それが、僕の居場所だった。



 クラスメートの会話には耳を傾けていた。楽しそうな笑い声、恋バナ、ゲームの話題、誰かの悪口。それらを遠くから眺めるように、ひっそりと拾い集め、頭の片隅に蓄えていた。



 その中で、自分の名前が出る瞬間だけは、心臓が跳ねる。



 褒められていたら嬉しかった。けれど、大抵は違う。



「なんかアイツ、いつも一人で小説とか読んでてキモくない?」

「近く通るだけで暗くなるわー」

「てか目、合っただけで気まずいし。ああいう奴ほんと無理」



 そんな言葉を、僕は聞いてしまった。目を伏せ、顔を背け、知らないふりをした。でも、耳は勝手に拾ってしまう。



 それでも、表情は変えなかった。作り笑いすら浮かべず、ただ無関心を装い、小説のページを捲り続けた。



 感情を外に出すことは、僕にとって「贅沢」だった。怒りも悲しみも、見せたところで誰にも届かない。それならば、無かったことにする方がマシだと、いつしか僕は学んでしまったのだ。



 僕が唯一心を開けた存在がいるとすれば、それは家で待っている、小さな犬だけだった。



 言葉を持たず、裏切らず、ただ尻尾を振って僕を迎えてくれる。そんな存在だけが、僕の心をわずかに温めてくれた。



 そしてもう一つ、依存していたものがあった。



 それが、たった一人の「友人」だった。



 クラスメートと呼べるかどうかはわからない。彼女は、僕にとっての希望であり、唯一の「味方」だと信じていた。



 けれど、それは――まだ先の話になる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

処理中です...