10 / 47
閉ざされた街
10 ハミル到着
しおりを挟む
西の空が赤味を差し始めた頃、ダレス達は目的地であるハミルに到着した。
規模こそ王都のカレードには劣るが、ハミルは立派な街だ。緩やかな曲線を描いて街を取り囲む城壁は人の背丈の四倍程の高さを誇り、その上には見張りが巡回するための幅と坊循が備わっている。王都と比べても遜色がないどころか、むしろより堅牢に感じられる程である。
それは外部からの敵を寄せ付けないための護りだけでなく、内に秘めた〝魔〟を外に出さないという街を創設した者達の想いを形にしたに違いなかった。
ダレスは更に観察を続け、街の被害を確認する。ざっとではあるが、門に繋がる街道から一通り観察した次第では城壁には一切の損傷も見つけられない。
もっとも、それもそのはずと言えるだろう。城壁と重なるように微かな光を放つ半可視化した壁が、すっぽり街を覆っている。これこそが魔族を封印するための最後の護りであり、ハミルの本当の意味での防壁なのだ。
一つの街を覆い隠すほどの大規模な結界を目の前にしながらダレス達は、感慨の言葉を漏らすことなく城門を目指す。
ダレスを始めアルディアやミシャもこれほど大掛かりな魔法現象を目にするのは、おそらく初めての経験だったに違いないが、今はそれを感情として表に出す余裕はない。
ただ、その圧倒的な存在と、それを可能にした歴代のハミルの住人の信仰心への敬意を胸の内に留めるのみである。
「私がユラント神の力をお借りして結界に一時的に穴を開けます。これで街中に入ることが出来ますが・・・中がどのような状態であるのかは窺い知れません。・・・覚悟はよろしいですね?」
城門に辿り着くとアルディアは率先して半分程閉められていた門をその怪力で抉じ開けると、露わになった光の結界を前にしてダレス達に告げる。
既にこれまで乗って来た馬は鞍を外して解放している。帰りの足はなくなるが、街の状況が知れない以上、管理に手間の掛かる馬は連れて行くわけにはいかない。そもそも〝帰り〟があるのかも現時点では不明だ。それ故に最後の確認だった。
そして、結界に覆われたハミルの中に入るため、アルディアがその役割を果たすのは当初からの予定である。
ユラント神への信仰心を源にした神聖魔法は敬虔な信者であれば、ある程度のコントロールが可能となる。もちろん、これほどの大規模な結界に干渉するのだからアルディアの神官としての実力は相当なレベルだ。まあ、だからこそ神に選ばれたのだろう。
「大丈夫です! アルディア様!」
真っ先にミシャが答える。その声には主人への期待に応えたいという思いが込められているらしく、気合に満ちているが、若さによる純朴な響きもあった。
「・・・ああ・・・そのために来た・・・」
一方、ダレスは今回の目的の困難さを噛みしめながらアルディアに頷く。彼はミシャとは違い、永らくこの世界で戦い、生き延びて来た経験と知識があった。
ユラント神から勇者として厄介事を押し付けられるほどの〝切り札〟を持つダレスではあるが、敵の魔族は神々に次ぐ力を持った存在だ。その魔族と正面切って戦うことになれば、彼といえども必ず勝てる保証はないのである。純朴ではいられなかった。
「つ、妻の安否を知るためです! 何があっても行く覚悟です!」
「・・・わかりました。では、いざ、ハミルへ!」
最後にクロットの返事を聞いたアルディアは自分自身の覚悟も決めたように力強く頷くと、街を覆う光の壁に右手を添えてユラント神への祈りを開始した。
『(峻厳なる正義の守護者よ! 大いなる我らが父ユラント神よ!
あなたに導かれた子らにその道を示したまえ!)』
発音だけでなく念を込めた〝神代の言語〟で詠唱されたアルディアの祈りはユラント神に届いたのだろう。彼女が手を添えていた地点を中心にして、人がやっと一人通れるだけの穴が結界に開く。
「先頭は俺が務めよう!」
中で魔族が待ち構えている可能性もあり、ダレスは臨戦態勢のまま真っ先に穴へと飛び込んだ。
「では! アルディア様、次は私が!」
「・・・私も行きます!」
一番手のダレスが無事を報せるとミシャがそれに続き、更にクロットが後を追った。
「・・・神よ、我々にご加護を!」
最後にアルディアがこの地方の共通語でユラント神に加護を祈ると、自らが明けた穴へとその身を投じる。彼女が街中に入ったのを見計らったように結界は徐々に小さくなり、やがて元の状態へと戻る。
ダレス達は外部から孤立、遮断されたハミルの街に自らの意志で侵入を開始した。
規模こそ王都のカレードには劣るが、ハミルは立派な街だ。緩やかな曲線を描いて街を取り囲む城壁は人の背丈の四倍程の高さを誇り、その上には見張りが巡回するための幅と坊循が備わっている。王都と比べても遜色がないどころか、むしろより堅牢に感じられる程である。
それは外部からの敵を寄せ付けないための護りだけでなく、内に秘めた〝魔〟を外に出さないという街を創設した者達の想いを形にしたに違いなかった。
ダレスは更に観察を続け、街の被害を確認する。ざっとではあるが、門に繋がる街道から一通り観察した次第では城壁には一切の損傷も見つけられない。
もっとも、それもそのはずと言えるだろう。城壁と重なるように微かな光を放つ半可視化した壁が、すっぽり街を覆っている。これこそが魔族を封印するための最後の護りであり、ハミルの本当の意味での防壁なのだ。
一つの街を覆い隠すほどの大規模な結界を目の前にしながらダレス達は、感慨の言葉を漏らすことなく城門を目指す。
ダレスを始めアルディアやミシャもこれほど大掛かりな魔法現象を目にするのは、おそらく初めての経験だったに違いないが、今はそれを感情として表に出す余裕はない。
ただ、その圧倒的な存在と、それを可能にした歴代のハミルの住人の信仰心への敬意を胸の内に留めるのみである。
「私がユラント神の力をお借りして結界に一時的に穴を開けます。これで街中に入ることが出来ますが・・・中がどのような状態であるのかは窺い知れません。・・・覚悟はよろしいですね?」
城門に辿り着くとアルディアは率先して半分程閉められていた門をその怪力で抉じ開けると、露わになった光の結界を前にしてダレス達に告げる。
既にこれまで乗って来た馬は鞍を外して解放している。帰りの足はなくなるが、街の状況が知れない以上、管理に手間の掛かる馬は連れて行くわけにはいかない。そもそも〝帰り〟があるのかも現時点では不明だ。それ故に最後の確認だった。
そして、結界に覆われたハミルの中に入るため、アルディアがその役割を果たすのは当初からの予定である。
ユラント神への信仰心を源にした神聖魔法は敬虔な信者であれば、ある程度のコントロールが可能となる。もちろん、これほどの大規模な結界に干渉するのだからアルディアの神官としての実力は相当なレベルだ。まあ、だからこそ神に選ばれたのだろう。
「大丈夫です! アルディア様!」
真っ先にミシャが答える。その声には主人への期待に応えたいという思いが込められているらしく、気合に満ちているが、若さによる純朴な響きもあった。
「・・・ああ・・・そのために来た・・・」
一方、ダレスは今回の目的の困難さを噛みしめながらアルディアに頷く。彼はミシャとは違い、永らくこの世界で戦い、生き延びて来た経験と知識があった。
ユラント神から勇者として厄介事を押し付けられるほどの〝切り札〟を持つダレスではあるが、敵の魔族は神々に次ぐ力を持った存在だ。その魔族と正面切って戦うことになれば、彼といえども必ず勝てる保証はないのである。純朴ではいられなかった。
「つ、妻の安否を知るためです! 何があっても行く覚悟です!」
「・・・わかりました。では、いざ、ハミルへ!」
最後にクロットの返事を聞いたアルディアは自分自身の覚悟も決めたように力強く頷くと、街を覆う光の壁に右手を添えてユラント神への祈りを開始した。
『(峻厳なる正義の守護者よ! 大いなる我らが父ユラント神よ!
あなたに導かれた子らにその道を示したまえ!)』
発音だけでなく念を込めた〝神代の言語〟で詠唱されたアルディアの祈りはユラント神に届いたのだろう。彼女が手を添えていた地点を中心にして、人がやっと一人通れるだけの穴が結界に開く。
「先頭は俺が務めよう!」
中で魔族が待ち構えている可能性もあり、ダレスは臨戦態勢のまま真っ先に穴へと飛び込んだ。
「では! アルディア様、次は私が!」
「・・・私も行きます!」
一番手のダレスが無事を報せるとミシャがそれに続き、更にクロットが後を追った。
「・・・神よ、我々にご加護を!」
最後にアルディアがこの地方の共通語でユラント神に加護を祈ると、自らが明けた穴へとその身を投じる。彼女が街中に入ったのを見計らったように結界は徐々に小さくなり、やがて元の状態へと戻る。
ダレス達は外部から孤立、遮断されたハミルの街に自らの意志で侵入を開始した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる