その聖女、脳筋につき取扱注意!!

月暈シボ

文字の大きさ
11 / 47
閉ざされた街

11 閉ざされた街

しおりを挟む
 ダレス達が侵入した西門は王国の首都カレードに至る街道に繋がっており、ハミルの表玄関とも言える場所だ。
 そのため、城門前の広場は衛兵の詰所といった公的な施設はもちろんのこと、本来ならば街を訪れた人々を目当てにした露天商や屋台が軒を連ねていて活気で賑わっているはずだった。
 だが、今は人の姿はなく、辺りを包む静寂と無残に散らばった様々な商品が、街に起きた異変が突然だったことをダレス達に推測させるのみだ。
 かつて門を護っていた衛兵達や近くで商いしていた人々がどこに消えたかは、全く窺い知れない。それでも結界によって街の外に逃げることが不可能となった以上、大きな混乱が起きたことだけが予想出来た。

「思っていたよりも静かだ・・・」
 周辺の状況を探りながらもダレスは率直な事実を口にする。
 アルディアの説明からすると、ハミルが魔族の復活によって孤立してから既に六日が経過している。その間、魔族が街内で暴虐の限りを尽くしている可能性もあったのだが、予想に反して街に残る被害は少ないように思えたのだ。
「ええ、人の気配はしませんが、逆に街への被害は少ないようです。もっとも、この区域だけ被害が少ないだけかもしれませんが・・・」
 ダレスの呟きにアルディアが反応する。後半は外れて欲しい推測だったのだろう、最後は濁すようにして口を閉ざした。
「アルディア様・・・建造物の被害は少ないですが・・・至る所に争った痕跡が残っています。この黒い染みは間違いなく血痕です・・・」
 ダレス達よりやや先行して、より内部を調べていたミシャが申し訳なさそうにアルディアの考えを否定する。
 ハミルの街中は門の外とは違い、石畳が整然と敷かれていて足跡等の痕跡を見て取ることが難しいが、忍びの技に熟知した彼女の眼には真実が映っているに違いない。

「これは・・・襲っているのは複数か?」
 ミシャの報告を受けてダレスもそちらに移動し、石畳に残された僅かな痕跡を調べる。
「そう。襲われた者達の動きからして、敵が一体ってことはないと思う。複数の・・・最低でも五体ほどの〝何か〟が背後や側面から、ここに留まっていた・・・おそらく門を目指して集まっていた群衆に、そっちの脇道から出て来て襲い掛かったのだと思う・・・」
「五体以上・・・」
「うん。はっきりわかるのは五体分の痕跡だけど、もっといたかもしれない」
 ダレスも傭兵を生業としており、ある程度の忍びの技を身に付けていたが、ミシャのそれは彼が見抜けなかった細かい点まで、この場所で起きた事実を明確に指摘する。
「どうやら、ハミルに封印されていた魔族は何らかの手段で自身の手勢を生み出せるようだな・・・」
 ミシャが痕跡から読み取った事実にから、ダレスは結論を口にする。人間が怪物と呼ぶ存在の中には、襲った者の血を吸うことで眷属にする吸血鬼や、男を魅了し意のままに支配する女妖魔のような、短期間でその勢力を増やすモノが存在する。
 魔族は神に近い存在故に、肉体的にも魔法的にも人間を遙かに上回る能力を持つ。個体差もあるはずで、今回のような特殊能力を持っていても不思議でなかった。

「そのようなことが・・・」
「魔族! 魔族ですって?!」
 アルディアの驚きをかき消すようにクロットが大声を上げた。同行を認められたものの、詳しい説明をされていなかった彼にとっては、寝耳に水のような単語だったのだろう。
「・・・ああ。これまでは教えることが出来なかったが、ハミルの中に入った以上はもう隠す意味がないからな、はっきり言おう。俺達はハミルに封印されていて、そして目覚めた魔族をどうにかするためにこの街に来た」
「この街に魔族が封印されていた! そ、そんな・・・では、あの光の壁は魔族を逃がさないようにするための・・・処置だったわけですか?!」
「そういうことだ」
「は、ハミルの街には多くの人が暮らしているのですよ! 魔族・・・が本当にいるなんて・・・今まで信じていませんでしたが・・・そんなとんでもない化物と・・・一緒に閉じ込めるなんて・・・ひ、酷(ひど)いじゃありませんか!!」
 実状を知ったクロットは、まるでダレスがこの街を魔族への生贄にしたかのように糾弾する。
「酷いと思うから、こうして助けに来ている! それにハミルの街に魔族を封じ込めたのは、この国の創設者とユラント教団だ! 俺は神々の喧嘩の後始末を仕方なしに・・・本当に仕方なしに片付けてやろうとしているだけだ! 感謝しろとは言わんが、文句を言うのは筋違いだぞ!」
「そ、そんな・・・」
 ダレスのキレ気味の反論を受け、クロットは怯えたように小柄な背をさらに小さくする。
「あ、あなたはどう責任を取るつもりですか?! ユラント教団の司祭様なのでしょう?!」
「も、もちろん・・・教団として事態を重く見ております・・・そのために・・・」
「やめろ! 彼女を責めるな! 魔族の封印はこの国が建国から国家的事業として成されていたことだ。その計画にユラント教団が関わっていたのは事実だが、それは彼女が生れる遙か前の出来事だ。それでも彼女は教団を代表して、今回の魔族の復活を阻止しよう尽力している。・・・そんな彼女を誰が非難出来る?!」
 追及の矛先をユラント教団の一員であるアルディアに変えようとしたクロットだったが、ダレスはそれを封じ、逆に訴える。彼としてもクロットの憤りは理解出来るのだが、それをアルディアにぶつけたところで意味はない。
「そ、それは・・・た、確かに・・・」
「そうだ! そして、今はつまらんことで言い争っている余裕はないはずだ!」
「ダレス!! こっちに何かが集まって来る!!」
 まだ完全には納得していないようではあったが、クロットはダレスの言葉を聞き入れる。だが、それと同時にミシャが警告を発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

処理中です...