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閉ざされた街
18 ノードの証言
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「思い出させて悪いがノード、お前はこれまで襲って来た化物よりも何倍も大きい奴を見たんだな!」
「うん・・・あいつらと比べものにならないほど大きくて、屋根から頭が出るほどだった!」
ダレスの問いにノードは当時の光景を脳裏に思い出したのだろう。やや興奮気味に答える。
アルディアの存在によって生存者の緊張が解れたこともあり、ダレスは目的である聞き込みを開始していた。多くは〝白百合亭〟の女将から得た情報を越えるモノではなかったが、遂にノードから魔族の本体と思われる情報を入手したのである。
エイラから麦粥、正確には野菜やらベーコンの切れ端やらを適当に放り込んだ〝ごった煮〟を与えられたノードは体力と気力を回復しており、この頃には六日前の恐怖を振り返る準備が出来ていた。
「そいつがどこから現れたか、わかるか?」
「おいらが見た時には街の中に突然現れていて・・・暴れていたけど、見たのは確か・・・北側だったからそっちから来たんだと思う!」
「なるほど。ではノードの働いていた宿屋は街のどの辺にあるんだ」
「ここから、少し離れた・・・ああ、地図でいればこの辺だよ!」
質問を続けるダレスを補足するように、付き添い役のエイラが羊皮紙に書いた街の簡単な地図をノードに見せて、土地勘のないダレス達に大まかな位置と距離を視覚的に教える。
「ああ、助かる。現在地の白百合亭があるのがここで・・・ノードが怪物を始めて見たのがここ。更にこの○印が王族の離宮、×印がユラント神教団の神殿か・・・」
エイラに礼を告げながら、ダレスは地図からの情報を吟味する。〝白百合亭〟はもちろんだが、ノードの働いていた宿屋もここからさほど離れていない街の南側に位置していた。更に街の拠点である王族の離宮は街のほぼ中央に存在し、ユラント神殿は広場を挟んだ南側に存在している。
魔族が封印されていたのはユラント神殿と思われるが、これまでの証言を元にすると魔族は復活直後から街の南側に向って移動を開始したようである。もし、復活した魔族が真っ先に街の最重要拠点である離宮を攻撃対象にしていれば、その間に街の住人が異変に気付いたはずだからだ。
これによって復活した魔族は街の破壊よりも街からの逃亡、もしくは脱出を当初の目的にしていたと推測出来る。それが街の破壊と住人の襲撃に切り替わったのは街を覆う結界に阻まれたためだろう。
この結界は王族を始めハミルに住む者達の信仰心がその原動力となっている。街の住民が物理的に消えれば、結界もやがては消えゆくはずだった。
特に今回の主敵である魔族は自身の眷属を生み出す能力を持っている。その方法はまだ定かではないが、ダレスは復活した魔族が街の住人を元にあの異形の怪物達を造り上げていると確信している。魔族は結界の限界を早めると同時にその手勢を増やし続けているのである。
「ハミルに王族は滞在していたのか?」
ノードの証言から復活した魔族の動向が見えて来たダレスは、結界を維持するもう一つの大きな要素である王族の存在についてアルディアに問い掛けた。
血筋は封印や結界に限らず魔法に置いて重要な要素を含んでいる。血液はそのものが霊的な力を持っており、親、兄弟そして子孫には代々と似た霊的資質が受け継がれる。
魔族を封印したのがこの国の創設者である建国王であるのなら、その子孫の血筋には封印を維持する大きな力があるはずだった。ハミルに離宮が置かれているのも、表向きには避暑地とされていたが、その実は魔族の封印を強化するための方便だったと思われる。
「・・・はい、第一王子のスレイオン殿下が・・・滞在されていたと聞いています」
ダレスの問いにアルディアは珍しく端切れの悪い調子で答える。
「第一王子が・・・」
アルディアに違和感を覚えたダレスは繰り返すようにその答えを口にする。
「ああ、スレイオン王子は肺病を患ってこの街に三年前から療養に来ていたんだよ。第一王子がこの街にずっと居たのはそのためさ!」
ダレスの疑問を察したのか、エイラがスレイオン王子に関する詳しい説明を行なう。
どこの国でも第一王子は後継者筆頭だ。その世継ぎが魔族の封印のためとはいえ、一人で王都を離れるのは異例である。だが、病気の療養を兼ねているのなら辻褄が合った。
もっとも、それは後継者としての役割は期待されていないという証拠ともいえる。アルディアの端切れが悪いのも、その辺りの事情を知っていたからだろう。
「では、そのスレイオン王子以外にこの国、ランゼル王国に王族はどれほどいるんだ?」
「・・・現在の国王ファルネル陛下には再婚された正妃陛下、弟君一人と妹君一人、そして二人のご子息がいらっしゃいます。弟君は将軍としてトラーダ帝国との国境線に軍を率いて対峙されており、妹君は隣国のルメン公国に嫁がれて国外に、そして第二、第三王子はまだ成人前の少年で、王都で教育を受けられています」
ダレスの新たな質問に、今度はエイラと交代するようにアルディアが詳しい説明を施した。やはり、彼女は王家の事情に精通しているようだ。
「なるほど・・・ハミルの封印を強化させるには、前の王妃が生んだ病気の第一王子が丁度良かったのだな・・・」
王族の役割を知ったダレスは納得を示す。最前線の現場指揮官に、隣国との縁組・・・庶民からすれば権力を持って贅沢な暮らしをしていると思われる王族だが、その責務や果たすべき役割は多い。特にランゼル王国はこのハミルに封印されていた魔族の管理も含まれていた。病気の王子さえも活用する必要があったのだ。
「・・・夜が明けたら、スレイオン王子の安否を確認するため、離宮の探索を開始しよう! 彼の生死を確認するまでは魔族本体との直接対決は避けるつもりだ!」
これまで集めた情報によってダレスは次の行動の指針を定める。
彼の推測では、ハミルの街が魔族の復活から六日が経過しても完全には破壊尽くされていない理由からスレイオン王子は未だ存命している可能性が高いと踏んでいた。王子の存在が魔族を抑制し、本来の力を抑えているのだ。
街を救出、解放するには、どこかに潜んでいる魔族の本体を叩き、再封印あるいは地上世界から完全消滅させる必要があるが、現在のところ敵の実力は不明だ。直接対決の前にダレスはスレイオン王子の安否を確認し、魔族に対抗する力を可能な限り高める必要があると判断したのである。
「ええ・・・スレイオン王子の安否は今回の鍵となるはずです!」
元よりダレスをリーダーとして受け入れていたアルディアであるが、毅然と今回の判断にも賛成を示した。
「あ、あたしらにも何か手伝うことはないかい?!」
当初はダレス達に懐疑的だったエイラだが、これまでの真摯に解決策を摸索する彼らの姿に感化されたように協力を訴える。
「・・・いや、大丈夫だ。身体を休める場所を提供してくれるだけで、充分に助かっている。明日からの捜索は俺達に任せて、あんたらはここの護りを固めて自分達の安全を考えてくれ!」
「そ、それなら、今夜はあたしが・・・いや、あんたらも食事はどうだい? あんまり美味いとは言えないけどさ!」
エイラは何かをダレスに告げようとするが、アルディアに視線を送ると途中で食事の誘いに切り替える。
「ああ、ありがたく頂こう!」
「ええ、感謝します!」
女将には自分達の食い扶持は気にしなくて良いと告げていたが、ダレス達が所持しているのは日持ちのする堅焼きのパンや干し肉の類である。温かい食事の誘いがあるのなら、断る道理はない。二人はエイラの誘いを喜んで受け入れた。
「うん・・・あいつらと比べものにならないほど大きくて、屋根から頭が出るほどだった!」
ダレスの問いにノードは当時の光景を脳裏に思い出したのだろう。やや興奮気味に答える。
アルディアの存在によって生存者の緊張が解れたこともあり、ダレスは目的である聞き込みを開始していた。多くは〝白百合亭〟の女将から得た情報を越えるモノではなかったが、遂にノードから魔族の本体と思われる情報を入手したのである。
エイラから麦粥、正確には野菜やらベーコンの切れ端やらを適当に放り込んだ〝ごった煮〟を与えられたノードは体力と気力を回復しており、この頃には六日前の恐怖を振り返る準備が出来ていた。
「そいつがどこから現れたか、わかるか?」
「おいらが見た時には街の中に突然現れていて・・・暴れていたけど、見たのは確か・・・北側だったからそっちから来たんだと思う!」
「なるほど。ではノードの働いていた宿屋は街のどの辺にあるんだ」
「ここから、少し離れた・・・ああ、地図でいればこの辺だよ!」
質問を続けるダレスを補足するように、付き添い役のエイラが羊皮紙に書いた街の簡単な地図をノードに見せて、土地勘のないダレス達に大まかな位置と距離を視覚的に教える。
「ああ、助かる。現在地の白百合亭があるのがここで・・・ノードが怪物を始めて見たのがここ。更にこの○印が王族の離宮、×印がユラント神教団の神殿か・・・」
エイラに礼を告げながら、ダレスは地図からの情報を吟味する。〝白百合亭〟はもちろんだが、ノードの働いていた宿屋もここからさほど離れていない街の南側に位置していた。更に街の拠点である王族の離宮は街のほぼ中央に存在し、ユラント神殿は広場を挟んだ南側に存在している。
魔族が封印されていたのはユラント神殿と思われるが、これまでの証言を元にすると魔族は復活直後から街の南側に向って移動を開始したようである。もし、復活した魔族が真っ先に街の最重要拠点である離宮を攻撃対象にしていれば、その間に街の住人が異変に気付いたはずだからだ。
これによって復活した魔族は街の破壊よりも街からの逃亡、もしくは脱出を当初の目的にしていたと推測出来る。それが街の破壊と住人の襲撃に切り替わったのは街を覆う結界に阻まれたためだろう。
この結界は王族を始めハミルに住む者達の信仰心がその原動力となっている。街の住民が物理的に消えれば、結界もやがては消えゆくはずだった。
特に今回の主敵である魔族は自身の眷属を生み出す能力を持っている。その方法はまだ定かではないが、ダレスは復活した魔族が街の住人を元にあの異形の怪物達を造り上げていると確信している。魔族は結界の限界を早めると同時にその手勢を増やし続けているのである。
「ハミルに王族は滞在していたのか?」
ノードの証言から復活した魔族の動向が見えて来たダレスは、結界を維持するもう一つの大きな要素である王族の存在についてアルディアに問い掛けた。
血筋は封印や結界に限らず魔法に置いて重要な要素を含んでいる。血液はそのものが霊的な力を持っており、親、兄弟そして子孫には代々と似た霊的資質が受け継がれる。
魔族を封印したのがこの国の創設者である建国王であるのなら、その子孫の血筋には封印を維持する大きな力があるはずだった。ハミルに離宮が置かれているのも、表向きには避暑地とされていたが、その実は魔族の封印を強化するための方便だったと思われる。
「・・・はい、第一王子のスレイオン殿下が・・・滞在されていたと聞いています」
ダレスの問いにアルディアは珍しく端切れの悪い調子で答える。
「第一王子が・・・」
アルディアに違和感を覚えたダレスは繰り返すようにその答えを口にする。
「ああ、スレイオン王子は肺病を患ってこの街に三年前から療養に来ていたんだよ。第一王子がこの街にずっと居たのはそのためさ!」
ダレスの疑問を察したのか、エイラがスレイオン王子に関する詳しい説明を行なう。
どこの国でも第一王子は後継者筆頭だ。その世継ぎが魔族の封印のためとはいえ、一人で王都を離れるのは異例である。だが、病気の療養を兼ねているのなら辻褄が合った。
もっとも、それは後継者としての役割は期待されていないという証拠ともいえる。アルディアの端切れが悪いのも、その辺りの事情を知っていたからだろう。
「では、そのスレイオン王子以外にこの国、ランゼル王国に王族はどれほどいるんだ?」
「・・・現在の国王ファルネル陛下には再婚された正妃陛下、弟君一人と妹君一人、そして二人のご子息がいらっしゃいます。弟君は将軍としてトラーダ帝国との国境線に軍を率いて対峙されており、妹君は隣国のルメン公国に嫁がれて国外に、そして第二、第三王子はまだ成人前の少年で、王都で教育を受けられています」
ダレスの新たな質問に、今度はエイラと交代するようにアルディアが詳しい説明を施した。やはり、彼女は王家の事情に精通しているようだ。
「なるほど・・・ハミルの封印を強化させるには、前の王妃が生んだ病気の第一王子が丁度良かったのだな・・・」
王族の役割を知ったダレスは納得を示す。最前線の現場指揮官に、隣国との縁組・・・庶民からすれば権力を持って贅沢な暮らしをしていると思われる王族だが、その責務や果たすべき役割は多い。特にランゼル王国はこのハミルに封印されていた魔族の管理も含まれていた。病気の王子さえも活用する必要があったのだ。
「・・・夜が明けたら、スレイオン王子の安否を確認するため、離宮の探索を開始しよう! 彼の生死を確認するまでは魔族本体との直接対決は避けるつもりだ!」
これまで集めた情報によってダレスは次の行動の指針を定める。
彼の推測では、ハミルの街が魔族の復活から六日が経過しても完全には破壊尽くされていない理由からスレイオン王子は未だ存命している可能性が高いと踏んでいた。王子の存在が魔族を抑制し、本来の力を抑えているのだ。
街を救出、解放するには、どこかに潜んでいる魔族の本体を叩き、再封印あるいは地上世界から完全消滅させる必要があるが、現在のところ敵の実力は不明だ。直接対決の前にダレスはスレイオン王子の安否を確認し、魔族に対抗する力を可能な限り高める必要があると判断したのである。
「ええ・・・スレイオン王子の安否は今回の鍵となるはずです!」
元よりダレスをリーダーとして受け入れていたアルディアであるが、毅然と今回の判断にも賛成を示した。
「あ、あたしらにも何か手伝うことはないかい?!」
当初はダレス達に懐疑的だったエイラだが、これまでの真摯に解決策を摸索する彼らの姿に感化されたように協力を訴える。
「・・・いや、大丈夫だ。身体を休める場所を提供してくれるだけで、充分に助かっている。明日からの捜索は俺達に任せて、あんたらはここの護りを固めて自分達の安全を考えてくれ!」
「そ、それなら、今夜はあたしが・・・いや、あんたらも食事はどうだい? あんまり美味いとは言えないけどさ!」
エイラは何かをダレスに告げようとするが、アルディアに視線を送ると途中で食事の誘いに切り替える。
「ああ、ありがたく頂こう!」
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女将には自分達の食い扶持は気にしなくて良いと告げていたが、ダレス達が所持しているのは日持ちのする堅焼きのパンや干し肉の類である。温かい食事の誘いがあるのなら、断る道理はない。二人はエイラの誘いを喜んで受け入れた。
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