その聖女、脳筋につき取扱注意!!

月暈シボ

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閉ざされた街

39 決戦その1

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「させるかよ!」
 ミシャの掛け声とともに魔族の頭部を狙って短剣が投擲される。アルディアに振り下ろそうとしていた巨腕はその短剣を弾くのに使われ、彼女は無傷での接近を成功させた。
「ふんがぁ!!」
『ぐがぁ!』
 すかさず魔族は足元にやって来たアルディを踏みつぶそうと右足を上げるが、アルディアはまさにその足の脛にメイスを叩き込む。
 人間で言えば筋肉で鍛えることの出来ない急所の一つだが、それは魔族も同じらしく短い悲鳴を漏らさせた。
『唸れ〝審判の剣〟よ!』
 出遅れたダレスだったが、アルディアが動き出すのは想定していた。
 いや、むしろ彼女としてはあれでも戦端を切るのを我慢していた方だろう。瞬時に〝ヘイスト〟を稼働させ〝審判の剣〟も解放させる。魔族に追撃を仕掛けてアルディアとは反対側、左脇腹を斬り割いた。
『その剣の光、やはりお主は・・・喰らえ!』
 立ち上がりの緒戦としては順調に見えたが魔族はその大口を開くと、より手強いと見たダレスに衝撃波を浴びせ掛ける。〝ヘイスト〟の加速能力で直撃は避けたもののダレスは見えない壁によって吹き飛ばされた。
「ダレスさん!!」
 魔族の反撃で弾け飛ぶダレスの目にしたアルディアは悲鳴を上げるが、メイスで魔族を殴る手を止めることはない。
 そしてアルディアは戦闘に集中することはあっても、その技量と戦闘センスは本物だった。怪物の口から発せられた衝撃波を脅威と見ると、側面に移動し自身が新たな標的となることを本能的に避けていた。
 手痛い反撃を受けたもののダレスは受身で衝撃を緩和させると、直ぐに立ち上がる。自身が敵の標的となり、その隙にアルディアと援護のミシャが魔族にダメージを与える。当初より計画していた魔族攻略法だ。
 ダレスの力は魔族に対して極めて有効だが、アルディアは深手の傷さえも一瞬で治癒する能力を持っている。つまり彼女さえ健在であれば、ダレス達は戦い続けることが可能なのである。
 それ故に、本来なら回復役の神官は積極的に前へ出て戦うべきではないのだが、アルディアは体力も防御力も備わっている。その火力を遊ばせるには勿体なかった。
 猪突猛進なアルディアではあるが、彼女を軸にした戦略を構築することで、その短所を長所に変えたのだ。

 魔族から距離を取ったダレスは追い打ちの衝撃波を避ける。最初の一発目は喰らってしまったが、魔族に与えたダメージに比べれば遙かに軽微といえるだろう。
 だが、たった今自分が斬り割いた魔族の脇腹はまるで何もなかったかのように、治癒し塞がりつつある。魔族は邪神の使徒である。彼らも神の加護を得られるのだ。
 魔族との戦いは単純な戦闘力の凌ぎ合いではなく、それぞれが持つ体力と魔力の比べ合いでもあった。もちろんそれはダレスも承知しており、それだけに長期戦を覚悟しての作戦であり、自分が標的役を受け持つ理由でもあった。
『だが・・・』とダレスは危機感を募らせる。魔族が仕立て上げたこの魔法陣の能力は未知数である。このままではじり貧となって敗北を喫(きっ)する恐れが頭を過(よ)ぎった。
『このまま一気に・・・』
 その想いが彼に焦燥感を齎(もたら)し、判断を悩ませる。ダレスは〝ヘイスト〟とは別に、とっておきの〝切り札〟も持っている。それを今使うべきか、迷っているのだ。

「ダレスさん!! 私に考えが!!」
 そんな折りにアルディアの声がダレスの耳に訴える。鼓膜を震わせる奇声ではなく、澄んだ清流を思わせる透きとおったような冷静な声だ。
 それと同時に先程の衝撃波で負った傷が癒えて痛みが消える。彼女が治癒の奇跡を与えてくれたのだ。
「この者は・・・邪神の加護を受けています! 私とミシャでこの魔法陣をなんとかします! その間、ダレスさん!! 敵を頼みます!!」
 更にアルディアはダレスの懸念(けねん)を読み取ったように、力を増している魔族への対応策を口にする。
「・・・わかった!! 任せてくれ!!」
 その言葉と援護を受けたダレスはありったけの大声で答える。
 あの〝脳筋〟のアルディアが目の敵の相手から離れて対応策を取ろうというのである。驚愕の事実であったが、ダレスは自分一人だけがこの〝苦難〟を背負っているわけではないことを改めて思い出した。
『おのれ!!』
 当然ながらダレス達の意図を聞いていた魔族はそうはさせまいと、戦線から離脱しようとするアルディアに攻撃を仕掛ける。
「うらあぁぁ!!」
 それを防ぐためにダレスは側面から渾身の力で斬撃を繰り出す。青い光を纏った彼の長剣は再び魔族の腕を斬り落とした。
『ぐぬ!! はぁ!!』
 短い悲鳴とともに魔族は身体を捻るとダレスに向けて衝撃を放つ。
 その反撃を読んでいた彼は横に飛び退いて避けるが、立ち上がった頃には斬り落としたばかりの敵の腕は断面から肉の塊が噴き出して、新たな腕を形成しつつあった。
『そなたからダンジェグ様への贄(にえ)にしてやろう!!』
 新しい腕を生やした魔族はその感触を確かめるように腕を横なぎに一閃する。その動きは巨体に似合わぬ早業で、これまでの攻撃で最も強烈な一撃だった。
「うがぁ!!」
 〝ヘイスト〟で直撃を避けたダレスだったが、僅(わず)かに掠(かす)った爪先によって大きく吹き飛ばされる。それでも追撃に備えて体勢を整えるダレスに魔族の嘲(あざけ)りが込められた思念の声が届いた。
『戦力を割いたのは失敗だったな! 集中運用は戦いの基本だぞ! ぐはははは!!』
 まるで教師が出来の悪い生徒を叱りつけるような言葉を吐くと、魔族は高笑いを行う。
 ダレスは奥歯を噛みしめて自分が置かれた現状を知る。敵は時間追うごとに強力になり、与えたダメージは直ぐに無効化されるのだ。そんな敵に一人で立ち向かうしかないのである。
「・・・それでもやるしかない!」
 絶望的な戦いではあったが、ダレスは自分に言い聞かせるように呟く、自分が耐えている間にアルディアとミシャが魔法陣をなんとかしてくれる。
 彼はそれを信じて剣を構えた。
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