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閉ざされた街
41 決戦その3
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アルディア達が最後の祭壇の浄化を終えると、床に描かれた魔法陣は更にその色を失い。脈動のような点滅も終息させる。
未だに禍々しい光と気配は残っているが、祭壇の力によって増幅されていた邪神の力は相当なほど弱まっていた。
「ダレスさん!!」
自身の役割を果たしたことでアルディアはそれまで耐えていた、衝動に身を委ねようと後ろを振り向く。思う存分メイスを振るい、ダレスを援護し邪神の使徒と戦うつもりでいたのである。
だが、彼女の瞳に映ったのは今まさに魔法陣が描かれた床に倒れるダレスの姿だった。全身は血まみれでその生死は定かではなかった。
「そんな!! ・・・ぶっ倒してやる!!!」
その光景を見たアルディアは現実を認めたくないとばかりに悲鳴を漏らすが、次の瞬間には神に仕える者にあるまじき言葉を叫ぶとメイスを振り上げながら魔族へと突撃を開始する。
これまで幾度となく奇声と雄叫びを上げて戦ってきた彼女だったが、実は怒りの感情に身を任せたのはこれが初めてである。
傍から見ると狂戦士のように戦うアルディアだが、彼女自身は常に自分がユラント神に仕える神官であることを忘れたことはない。ただ、ほんの少し夢中になってしまうだけであると信じている。
その証拠に〝白百合亭〟の戦いでは無謀ともいえたが、自身を囮にすることでノード達生存者を救っていた。
そんなアルディアではあったが、倒れるダレスの姿は彼女の胸を自身が傷付くよりも苦しめ、一人の人間、女姓としての想いを呼び起こさせたのである。
この感情の正体を表わす言葉を幼い頃から神殿で育った彼女は知らない。それでも寛大なユラント神なら、許して下さるだろうとアルディアは衝動を爆発させたのである。
『ふはは、そなた達もそのまま贄となれ!!』
魔族は笑い声を上げると、そのまま大口を開き、正面から迫るアルディアに衝撃波を浴びせ掛けた。
アルディア達によって自身が構築した魔法陣の力が弱められたのを知っていたが、ダレスを倒したことで魔族はその〝元〟は取れたと確信していた。彼女達を好きにさせたのも各個撃破するためで、目論見どおりである。
しかも、ダレスの次に厄介と思われたユラント神の神官は愚かにも再び正面から攻撃を仕掛けている。格好の標的だった。
「どりゃあぁぁぁ!!」
ダレスをも吹き飛ばした迫りくる不可視の壁をアルディアは身を屈めつつも気合の声で立ち向かう。
直後、まるで全力で走る暴れ馬にぶつかったような衝撃を受けるが、彼女は後退することなくその場に立っていた。
全身を襲う激痛に加え、割かれた額から流れ出る血がアルディアの右目を塞ぐが、彼女は再び前進を開始する。
神の奇跡も効果範囲がある。あまり離れていてはその効果を発揮させることが出来ない。アルディアの突進は衝動的に始まったが、床に倒れるダレスに一刻でも早く癒しの奇跡を授けるためには、それ以外に方法がなかったのである。
『耐えただと!!』
『(ユラント神よ、私とダレスをどうかお癒し下さい!)』
衝撃波を乗り越えて接敵したアルディアは、驚きを示す魔族の身体に渾身の力でメイスを振るいつつも、神への祈りを捧げる。
先程は神官であることを忘れ、一人の女であること優先させた彼女ではあったが、神は臍を曲げることなく、その願いを聞き届け彼女を蝕む全身の痛みを止め、額の傷を癒した。
「もう一発!!」
『ぐぬ!!』
ユラント神の加護が健在であることを確認したアルディアは、再び宿敵にメイスを振るい魔族に悲鳴を上げさせる。
魔法陣の力が弱まったことで圧倒的な治癒能力はもうない。魔族の巨体を持ってしてもアルディアの攻撃は脅威だった。
『小娘が!! 常命の者の分際で調子に乗るな!!』
更にメイスを叩きつけようとするアルディアだったが、横なぎ払われた魔族の一撃によって大きく吹き飛ばされる。
衝撃波に耐えたことで一瞬の隙を作り出していたが、魔族は〝ヘイスト〟を使うダレスの動きにも対応するのである。何度もアルディアの攻撃を許すはずがなかった。
「く!! だりゃあぁぁ!!
未だに淡い光を放つ床に叩きつけられたアルディアは、自身を踏みつぶそうとする魔族の足を雄叫びとともに咄嗟に両手で受け止める。
怪力が自慢のアルディアではあるが、質量の差は絶対的で徐々に魔族の足裏は彼女の顔に迫っていった。
「アルディア様!!」
これまで遠巻きに短剣での投擲でアルディアの援護していたミシャだったが、主人の窮地を前にして小剣を抜くと魔族に迫る。
『死に急ぎに来たか!! ははは!!』
まるで羽虫を払うかのように魔族は左腕を振るうが、ミシャはそれを常人とは思えぬ素早さで避ける。そして、避けただけでなくその丸太のような腕に飛び乗ると、掛け上げって魔族の頭部に小剣を突き刺した。
『なんだと!!』
片目を潰された魔族は悲鳴を漏らすが、残っていた右手でミシャを捕えるとそのまま広間の壁に向って投げつける。
激しい勢いで叩きつけられた彼女の身体は起き上がることなく沈黙した。
「み、ミシャ!!」
『ふふふ、これで終わりだ!! さあ、魔法陣にそなた血を吸わせるが良い!』
足元で悲鳴を上げるアルディアに向けて魔族は力を込めながら最後通牒を告げる。
この足が再び魔法陣に触れる時、魔族は過去の復讐を果たし、その血によって自身は完璧な存在となるはずだった。
そうすれば街を覆う結界を破るも不可能ではない。牢獄から真に解放されるだけなく、この国を再び自身の支配下に置くことが出来るはずだ。
『人の子は根絶やしにしてやるぞ!! ふははは!!』
「んあぁぁぁ!!」
『秩序を齎す光よ! 神々の王たる存在よ!』
魔族の高笑いとともに重圧に耐えるアルディアの耳に〝神代の言語〟の一節が響く。その明朗な思念の声はまるで言葉そのものが光を放っているようである。
今まさに押しつぶされようとしている彼女ではあったが、自分の信仰心とは比べものにならないほどのユラント神の存在と力を身近に感じた。
『迷いし人の子を導く者よ! 正義を守護する者よ!
我の根源の半分を成す者よ! 我が父ユラントよ!
その証として授けし〝審判の剣〟に真の力を!
今こそ実子たる我ダレセレティウスにその恩寵を授けたまえ!』
その〝神代の言語〟による願いが唱えられると同時に周囲には爆発にも似た力の奔流が起きた。ユラント神の司祭であるアルディアにはそれが神の力であることを瞬時に理解する。
それも自分のような信者を経由した間接的な力ではない、源泉たる神の純粋な〝力〟だ。あまりに強すぎるためアルディアは全身の肌を粟立たせる。
『馬鹿な・・・そんなはずは・・・その剣はあの戦いでユラントの肉体とともにこの世界から滅びたはずだ・・・』
突如、出現した圧倒的な力の存在に魔族はその身を竦ませる。信者のアルディアさえその身を震撼させるほどである。
邪神の使徒である魔族が平穏を保てるわけはなかった。その隙にアルディアは敵の足元から素早く逃げ出すと、魔族さえも怯えさせた存在を見る。
そこに立っていたのは光輝く長剣、いや青い光そのものを剣の形に具現化させた〝審判の剣〟を持つダレスの姿だった。
未だに禍々しい光と気配は残っているが、祭壇の力によって増幅されていた邪神の力は相当なほど弱まっていた。
「ダレスさん!!」
自身の役割を果たしたことでアルディアはそれまで耐えていた、衝動に身を委ねようと後ろを振り向く。思う存分メイスを振るい、ダレスを援護し邪神の使徒と戦うつもりでいたのである。
だが、彼女の瞳に映ったのは今まさに魔法陣が描かれた床に倒れるダレスの姿だった。全身は血まみれでその生死は定かではなかった。
「そんな!! ・・・ぶっ倒してやる!!!」
その光景を見たアルディアは現実を認めたくないとばかりに悲鳴を漏らすが、次の瞬間には神に仕える者にあるまじき言葉を叫ぶとメイスを振り上げながら魔族へと突撃を開始する。
これまで幾度となく奇声と雄叫びを上げて戦ってきた彼女だったが、実は怒りの感情に身を任せたのはこれが初めてである。
傍から見ると狂戦士のように戦うアルディアだが、彼女自身は常に自分がユラント神に仕える神官であることを忘れたことはない。ただ、ほんの少し夢中になってしまうだけであると信じている。
その証拠に〝白百合亭〟の戦いでは無謀ともいえたが、自身を囮にすることでノード達生存者を救っていた。
そんなアルディアではあったが、倒れるダレスの姿は彼女の胸を自身が傷付くよりも苦しめ、一人の人間、女姓としての想いを呼び起こさせたのである。
この感情の正体を表わす言葉を幼い頃から神殿で育った彼女は知らない。それでも寛大なユラント神なら、許して下さるだろうとアルディアは衝動を爆発させたのである。
『ふはは、そなた達もそのまま贄となれ!!』
魔族は笑い声を上げると、そのまま大口を開き、正面から迫るアルディアに衝撃波を浴びせ掛けた。
アルディア達によって自身が構築した魔法陣の力が弱められたのを知っていたが、ダレスを倒したことで魔族はその〝元〟は取れたと確信していた。彼女達を好きにさせたのも各個撃破するためで、目論見どおりである。
しかも、ダレスの次に厄介と思われたユラント神の神官は愚かにも再び正面から攻撃を仕掛けている。格好の標的だった。
「どりゃあぁぁぁ!!」
ダレスをも吹き飛ばした迫りくる不可視の壁をアルディアは身を屈めつつも気合の声で立ち向かう。
直後、まるで全力で走る暴れ馬にぶつかったような衝撃を受けるが、彼女は後退することなくその場に立っていた。
全身を襲う激痛に加え、割かれた額から流れ出る血がアルディアの右目を塞ぐが、彼女は再び前進を開始する。
神の奇跡も効果範囲がある。あまり離れていてはその効果を発揮させることが出来ない。アルディアの突進は衝動的に始まったが、床に倒れるダレスに一刻でも早く癒しの奇跡を授けるためには、それ以外に方法がなかったのである。
『耐えただと!!』
『(ユラント神よ、私とダレスをどうかお癒し下さい!)』
衝撃波を乗り越えて接敵したアルディアは、驚きを示す魔族の身体に渾身の力でメイスを振るいつつも、神への祈りを捧げる。
先程は神官であることを忘れ、一人の女であること優先させた彼女ではあったが、神は臍を曲げることなく、その願いを聞き届け彼女を蝕む全身の痛みを止め、額の傷を癒した。
「もう一発!!」
『ぐぬ!!』
ユラント神の加護が健在であることを確認したアルディアは、再び宿敵にメイスを振るい魔族に悲鳴を上げさせる。
魔法陣の力が弱まったことで圧倒的な治癒能力はもうない。魔族の巨体を持ってしてもアルディアの攻撃は脅威だった。
『小娘が!! 常命の者の分際で調子に乗るな!!』
更にメイスを叩きつけようとするアルディアだったが、横なぎ払われた魔族の一撃によって大きく吹き飛ばされる。
衝撃波に耐えたことで一瞬の隙を作り出していたが、魔族は〝ヘイスト〟を使うダレスの動きにも対応するのである。何度もアルディアの攻撃を許すはずがなかった。
「く!! だりゃあぁぁ!!
未だに淡い光を放つ床に叩きつけられたアルディアは、自身を踏みつぶそうとする魔族の足を雄叫びとともに咄嗟に両手で受け止める。
怪力が自慢のアルディアではあるが、質量の差は絶対的で徐々に魔族の足裏は彼女の顔に迫っていった。
「アルディア様!!」
これまで遠巻きに短剣での投擲でアルディアの援護していたミシャだったが、主人の窮地を前にして小剣を抜くと魔族に迫る。
『死に急ぎに来たか!! ははは!!』
まるで羽虫を払うかのように魔族は左腕を振るうが、ミシャはそれを常人とは思えぬ素早さで避ける。そして、避けただけでなくその丸太のような腕に飛び乗ると、掛け上げって魔族の頭部に小剣を突き刺した。
『なんだと!!』
片目を潰された魔族は悲鳴を漏らすが、残っていた右手でミシャを捕えるとそのまま広間の壁に向って投げつける。
激しい勢いで叩きつけられた彼女の身体は起き上がることなく沈黙した。
「み、ミシャ!!」
『ふふふ、これで終わりだ!! さあ、魔法陣にそなた血を吸わせるが良い!』
足元で悲鳴を上げるアルディアに向けて魔族は力を込めながら最後通牒を告げる。
この足が再び魔法陣に触れる時、魔族は過去の復讐を果たし、その血によって自身は完璧な存在となるはずだった。
そうすれば街を覆う結界を破るも不可能ではない。牢獄から真に解放されるだけなく、この国を再び自身の支配下に置くことが出来るはずだ。
『人の子は根絶やしにしてやるぞ!! ふははは!!』
「んあぁぁぁ!!」
『秩序を齎す光よ! 神々の王たる存在よ!』
魔族の高笑いとともに重圧に耐えるアルディアの耳に〝神代の言語〟の一節が響く。その明朗な思念の声はまるで言葉そのものが光を放っているようである。
今まさに押しつぶされようとしている彼女ではあったが、自分の信仰心とは比べものにならないほどのユラント神の存在と力を身近に感じた。
『迷いし人の子を導く者よ! 正義を守護する者よ!
我の根源の半分を成す者よ! 我が父ユラントよ!
その証として授けし〝審判の剣〟に真の力を!
今こそ実子たる我ダレセレティウスにその恩寵を授けたまえ!』
その〝神代の言語〟による願いが唱えられると同時に周囲には爆発にも似た力の奔流が起きた。ユラント神の司祭であるアルディアにはそれが神の力であることを瞬時に理解する。
それも自分のような信者を経由した間接的な力ではない、源泉たる神の純粋な〝力〟だ。あまりに強すぎるためアルディアは全身の肌を粟立たせる。
『馬鹿な・・・そんなはずは・・・その剣はあの戦いでユラントの肉体とともにこの世界から滅びたはずだ・・・』
突如、出現した圧倒的な力の存在に魔族はその身を竦ませる。信者のアルディアさえその身を震撼させるほどである。
邪神の使徒である魔族が平穏を保てるわけはなかった。その隙にアルディアは敵の足元から素早く逃げ出すと、魔族さえも怯えさせた存在を見る。
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