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閉ざされた街
45 その正体
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それから二日間ダレス達は生存者の探索と怪物の残党狩り、そして死体の回収のために街を回り〝白百合亭〟のような即席の避難所を何カ所も発見した。
静養が必要な者は〝白百合亭〟につれて戻り、戦える者にはそのまま自警団への参加を要請する。
この中には街の衛兵やランゼル王国の騎士の生き残りも多くおり、ダレスは自警団の運営を彼らに任せることにする。ハミルは彼らの街である。本業に任せたのだ。
街に山賊達に対抗する力が備わったところで、ダレスはいよいよ街を外界から閉ざす結界の解除を開始する。
あまり伸ばしてしまっては、今度は内部の人間同士で残り少ない食料の取り合いが始まるだろう。限度があるのだ。
もっとも、その前にダレス達には一仕事が残っていた。
「クロット、そろそろお前の願いを聞く余裕が出て来た。これからお前の家があった地区を探索する。付いて来るか?」
「ええ!! もちろんです!! お願いします!!」
昼食のために〝白百合亭〟に戻っていたダレスは午後の探索に向うに当たってクロットに声を掛けた。この数日間、彼は生存者の探索に向うダレス達にしつこい程同行を求めていたのである。
もちろん、魔族を倒したとはとはいえ街の治安は回復していないし、救助者を運び込んでいる〝白百合亭〟には仕事が山ほどある。今日まで彼には我慢してもらい雑用係りとして働いてもらっていたのだ。
そんなクロットだったのでやっと自分の番が来たとばかりに、喜んでダレス達の探索に加わった。
「魔族の脅威はダレスさん達の活躍で去ったわけですが、この街の封鎖はいつ頃解けるのでしょう?」
「自警団に加わった衛兵の生き残りはどれくらいの数なのですか?」
〝白百合亭〟を出たクロットはさっそくとばかりダレス達を質問攻めにする。
「まだしばらくかかりそうだ。魔族が残した眷属がまだ街のどこかに隠れているからな・・・」
「残念だが、そんなに多くない。一人でも多く見つけ出して戦力になってもらわないとだ・・・」
既にアルディアとミシャには言い含めてあるのでダレスが主な話し相手としてクロットに事実とは異なる情報を教える。
「そういえば、クロット。お前の妻はどんな女性なんだ? 馴れ初めは?」
やがて目標としていた地点、新たな自警団の拠点となった堅牢な貴族の屋敷が目に入ると今度は逆にダレスがクロットに問い掛ける。
「・・・私の妻アエロはやや小柄で栗色の髪をしています。特別な美人ではありませんが、私にとっては可愛らしい女性です。アエロとはまだ若い時、行商人として独立する前に取引先から紹介されたんです。彼女も私を気に入ってくれたらしく、その後は順調に交際を重ねて半年ほどで結婚しましたね」
「なるほど・・・ではクロット、あんたはこのハミルの出身なのか?」
「ええ、そうです。まさか、自分が生まれ育ったこの街に永らく魔族が封印されていたとは思いませんでした・・・」
「ん? それはおかしいな!」
話を魔族の話題に移そうとするクロットにダレスは待ったを掛ける。
「な、何がです?!」
「だって、あんたの喋り方には西方風・・・いや、はっきり言おう。あんたの発音にはトラーダ帝国風の鈍りがある。ハミルで育った人間がそんな鈍りを持っているなんて不自然だろ?!」
「な、何を突然!! 私にトラーダ鈍りがあるなんて! そんなわけない! ちゃんとこの国の言葉は勉強したんだ!! 鈍りなんて・・・クソ!!」
いきなりダレスに糾弾されたことで動揺したのだろう。クロットは余計なことまで弁明しようとしてしまう。途中で失敗に気付くが、自分を取り囲むように立つダレス達の態度で罠に嵌ったこと知る。
ダレスは最初からクロットの正体を看破していたのである。今のやり取りは決定的な証拠を掴むための確認でしかないのだ。
「やはりクロット、お前はトラーダ帝国に雇われた間者だったな!」
ダレスはクロットも正体を言い当てた。
「いつ気付いたのです?」
もはや言い訳が通用しないとわかると、クロットは悪びれる様子もなくダレスに問い掛ける。
もう、うだつ上がらない商人はどこにもいない。覚悟を決めた忍びの者がそこにいた。
「違和感は最初からあった。気付いたのは〝白百合亭〟に辿り着いた頃だ。妻を心配するにしてもお前は必至過ぎたからな!」
ダレスは多少の嘘で脚色した答えで返す。クロットが怪しいと感じたのは事実だが、まだそこ頃には彼の正体がトラーダ帝国の間者とは気付いていなかった。彼の正体を察したのは魔族と対決しスレイオンの記憶に触れた時である。
王子は自らが放った間者としてクロットの姿を思い浮かべていた。
スレイオンが魔族の誘惑に落ちたのは王家のアルディア暗殺を知ったからだが、利害関係のないダレスからすれば、例え現王妃に野心があったとしても、果たしてこれまで存在自体が秘密にされ僧籍に入ったアルディアを暗殺の対象にするかという疑問があった。
そんなことをすれば、受け入れ先となったユラント教団との関係は悪化するし、魔族の件がなくてもスレイオン王子とは血で血を争う戦いになるだろう。
アルディア暗殺は現王妃にとってもリスクのわりに成功させたとことでうま味に乏しい計画なのだ。
だが、視点を変えるとクロットがスレイオンに齎したこの暗殺計画によって多大な利益を得る存在がいた。
それはランゼル王国に領土的野心を持つトラーダ帝国である。クロットの正体がこの国の間者だと仮定すると、全ての謎が解ける。
そのためにダレスはクロットを連れ出し一芝居打って彼の正体を突き止めたのである。
「ああ、確かにあれはちょっとやり過ぎでしたね・・・でも街の様子とあなた達のことを知るには着いて行くしかなかったのですよ! 何しろ噂のアルディア王女が目の前に現れたとあってはね!」
「・・・私は王女などではありません。ですがそんなことよりも、あなたには問いたいことがあります。・・・あなたがスレイオン王子を魔族の誘惑に誘い込んだのですか?」
正体を認めたクロットに自分の名を出されたアルディアが問い詰める。この問いが事実なら本当の黒幕はこの小柄な男ということになる。
「ふ、まさか! この街が何かを隠していることには勘付いていましたが、まさか魔族が封印されているとは、あなた方に出会うまで私も知りませんでしたよ!! だからこそ王都に向う途中に聞いた噂を確かめるためにハミルに戻ったのです。まあ、アルディア王女・・・いえアルディア嬢、あなた本人に出会うとは夢にも思っていませんでしたが・・・私に与えられた使命はハミルで起ったことを正確に帝国に報告することと、第一王子に近づき、現王妃と間に不和を起こすこと。それだけです。・・・そして魔族は人類の敵です。例え知っていたとしても利用しようとは思わなかったでしょう。ランゼル王国が滅ぼされれば、次は我が帝国が標的されるのは目に見えていますからね・・・」
「そうですか・・・」
嘘か本当か定かではないが、クロットは魔族に関しては関与を否定しアルディアは一先ずの納得を示した。
「今ここで首を刎ねたいところだが・・・最後に聞きたいことがある。現王妃がアルディアの暗殺を企てたのは事実だったのか?」
「・・・いいえ、あれは私のでっち上げです。王妃が自分の息子である第二王子に王位を与えようとしてスレイオン王子を失脚させたのは事実ですが、そんな計画はありません。・・・それでどうします私を、ここで殺しますか? ちなみに妻もいませんよ、嘘です。調べればすぐに分かりますからね。白状しときます」
最後とされた質問にクロットは堂々とした態度で答えるだけでなく、ダレス達に自分の処遇を問い掛けた。様々な思惑が重なった結果ではあるが、やはりこの男が直接的な黒幕だったのだ。
「・・・今更、お前を殺したところで何かが変わるわけではない。それにどこまでが本当なのかわからんからな。処遇はこの街に、自警団に任せるつもりだ。彼らなら口の割り方も知っているだろう」
クロットの問いに答えるダレスだが、最後は二人の仲間に確認するように告げる。
「ええ・・・それで構いません・・・」
まだ完全に納得したわけではないだろうがアルディアはダレスの考えに賛成を示した。
クロットがスレイオンを騙したのは事実だが、彼を殺したところで何かを得るわけではない。それにランゼル王国の人間としてならばクロットは死罪でも問題の無い極悪人だが、ユラント神の神官としてなら彼を罰することは出来ない。
トラーダ帝国とランゼル王国と国家間で争っているのである。策略も戦いの一つの形態なのだ。人間同士の争いは神が関与する問題ではなかった。
「じゃあ、ふん縛るかな!!」
そしてアルディアが許したことでミシャはクロットを縛りに掛かる。ここで下手に抵抗すればダレスの長剣かアルディアのメイスの餌食になるのは目に見えている。当の本人も抵抗することなく大人しく従う。
これで結界を解除する全ての条件が揃ったのだった。
静養が必要な者は〝白百合亭〟につれて戻り、戦える者にはそのまま自警団への参加を要請する。
この中には街の衛兵やランゼル王国の騎士の生き残りも多くおり、ダレスは自警団の運営を彼らに任せることにする。ハミルは彼らの街である。本業に任せたのだ。
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もっとも、その前にダレス達には一仕事が残っていた。
「クロット、そろそろお前の願いを聞く余裕が出て来た。これからお前の家があった地区を探索する。付いて来るか?」
「ええ!! もちろんです!! お願いします!!」
昼食のために〝白百合亭〟に戻っていたダレスは午後の探索に向うに当たってクロットに声を掛けた。この数日間、彼は生存者の探索に向うダレス達にしつこい程同行を求めていたのである。
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そんなクロットだったのでやっと自分の番が来たとばかりに、喜んでダレス達の探索に加わった。
「魔族の脅威はダレスさん達の活躍で去ったわけですが、この街の封鎖はいつ頃解けるのでしょう?」
「自警団に加わった衛兵の生き残りはどれくらいの数なのですか?」
〝白百合亭〟を出たクロットはさっそくとばかりダレス達を質問攻めにする。
「まだしばらくかかりそうだ。魔族が残した眷属がまだ街のどこかに隠れているからな・・・」
「残念だが、そんなに多くない。一人でも多く見つけ出して戦力になってもらわないとだ・・・」
既にアルディアとミシャには言い含めてあるのでダレスが主な話し相手としてクロットに事実とは異なる情報を教える。
「そういえば、クロット。お前の妻はどんな女性なんだ? 馴れ初めは?」
やがて目標としていた地点、新たな自警団の拠点となった堅牢な貴族の屋敷が目に入ると今度は逆にダレスがクロットに問い掛ける。
「・・・私の妻アエロはやや小柄で栗色の髪をしています。特別な美人ではありませんが、私にとっては可愛らしい女性です。アエロとはまだ若い時、行商人として独立する前に取引先から紹介されたんです。彼女も私を気に入ってくれたらしく、その後は順調に交際を重ねて半年ほどで結婚しましたね」
「なるほど・・・ではクロット、あんたはこのハミルの出身なのか?」
「ええ、そうです。まさか、自分が生まれ育ったこの街に永らく魔族が封印されていたとは思いませんでした・・・」
「ん? それはおかしいな!」
話を魔族の話題に移そうとするクロットにダレスは待ったを掛ける。
「な、何がです?!」
「だって、あんたの喋り方には西方風・・・いや、はっきり言おう。あんたの発音にはトラーダ帝国風の鈍りがある。ハミルで育った人間がそんな鈍りを持っているなんて不自然だろ?!」
「な、何を突然!! 私にトラーダ鈍りがあるなんて! そんなわけない! ちゃんとこの国の言葉は勉強したんだ!! 鈍りなんて・・・クソ!!」
いきなりダレスに糾弾されたことで動揺したのだろう。クロットは余計なことまで弁明しようとしてしまう。途中で失敗に気付くが、自分を取り囲むように立つダレス達の態度で罠に嵌ったこと知る。
ダレスは最初からクロットの正体を看破していたのである。今のやり取りは決定的な証拠を掴むための確認でしかないのだ。
「やはりクロット、お前はトラーダ帝国に雇われた間者だったな!」
ダレスはクロットも正体を言い当てた。
「いつ気付いたのです?」
もはや言い訳が通用しないとわかると、クロットは悪びれる様子もなくダレスに問い掛ける。
もう、うだつ上がらない商人はどこにもいない。覚悟を決めた忍びの者がそこにいた。
「違和感は最初からあった。気付いたのは〝白百合亭〟に辿り着いた頃だ。妻を心配するにしてもお前は必至過ぎたからな!」
ダレスは多少の嘘で脚色した答えで返す。クロットが怪しいと感じたのは事実だが、まだそこ頃には彼の正体がトラーダ帝国の間者とは気付いていなかった。彼の正体を察したのは魔族と対決しスレイオンの記憶に触れた時である。
王子は自らが放った間者としてクロットの姿を思い浮かべていた。
スレイオンが魔族の誘惑に落ちたのは王家のアルディア暗殺を知ったからだが、利害関係のないダレスからすれば、例え現王妃に野心があったとしても、果たしてこれまで存在自体が秘密にされ僧籍に入ったアルディアを暗殺の対象にするかという疑問があった。
そんなことをすれば、受け入れ先となったユラント教団との関係は悪化するし、魔族の件がなくてもスレイオン王子とは血で血を争う戦いになるだろう。
アルディア暗殺は現王妃にとってもリスクのわりに成功させたとことでうま味に乏しい計画なのだ。
だが、視点を変えるとクロットがスレイオンに齎したこの暗殺計画によって多大な利益を得る存在がいた。
それはランゼル王国に領土的野心を持つトラーダ帝国である。クロットの正体がこの国の間者だと仮定すると、全ての謎が解ける。
そのためにダレスはクロットを連れ出し一芝居打って彼の正体を突き止めたのである。
「ああ、確かにあれはちょっとやり過ぎでしたね・・・でも街の様子とあなた達のことを知るには着いて行くしかなかったのですよ! 何しろ噂のアルディア王女が目の前に現れたとあってはね!」
「・・・私は王女などではありません。ですがそんなことよりも、あなたには問いたいことがあります。・・・あなたがスレイオン王子を魔族の誘惑に誘い込んだのですか?」
正体を認めたクロットに自分の名を出されたアルディアが問い詰める。この問いが事実なら本当の黒幕はこの小柄な男ということになる。
「ふ、まさか! この街が何かを隠していることには勘付いていましたが、まさか魔族が封印されているとは、あなた方に出会うまで私も知りませんでしたよ!! だからこそ王都に向う途中に聞いた噂を確かめるためにハミルに戻ったのです。まあ、アルディア王女・・・いえアルディア嬢、あなた本人に出会うとは夢にも思っていませんでしたが・・・私に与えられた使命はハミルで起ったことを正確に帝国に報告することと、第一王子に近づき、現王妃と間に不和を起こすこと。それだけです。・・・そして魔族は人類の敵です。例え知っていたとしても利用しようとは思わなかったでしょう。ランゼル王国が滅ぼされれば、次は我が帝国が標的されるのは目に見えていますからね・・・」
「そうですか・・・」
嘘か本当か定かではないが、クロットは魔族に関しては関与を否定しアルディアは一先ずの納得を示した。
「今ここで首を刎ねたいところだが・・・最後に聞きたいことがある。現王妃がアルディアの暗殺を企てたのは事実だったのか?」
「・・・いいえ、あれは私のでっち上げです。王妃が自分の息子である第二王子に王位を与えようとしてスレイオン王子を失脚させたのは事実ですが、そんな計画はありません。・・・それでどうします私を、ここで殺しますか? ちなみに妻もいませんよ、嘘です。調べればすぐに分かりますからね。白状しときます」
最後とされた質問にクロットは堂々とした態度で答えるだけでなく、ダレス達に自分の処遇を問い掛けた。様々な思惑が重なった結果ではあるが、やはりこの男が直接的な黒幕だったのだ。
「・・・今更、お前を殺したところで何かが変わるわけではない。それにどこまでが本当なのかわからんからな。処遇はこの街に、自警団に任せるつもりだ。彼らなら口の割り方も知っているだろう」
クロットの問いに答えるダレスだが、最後は二人の仲間に確認するように告げる。
「ええ・・・それで構いません・・・」
まだ完全に納得したわけではないだろうがアルディアはダレスの考えに賛成を示した。
クロットがスレイオンを騙したのは事実だが、彼を殺したところで何かを得るわけではない。それにランゼル王国の人間としてならばクロットは死罪でも問題の無い極悪人だが、ユラント神の神官としてなら彼を罰することは出来ない。
トラーダ帝国とランゼル王国と国家間で争っているのである。策略も戦いの一つの形態なのだ。人間同士の争いは神が関与する問題ではなかった。
「じゃあ、ふん縛るかな!!」
そしてアルディアが許したことでミシャはクロットを縛りに掛かる。ここで下手に抵抗すればダレスの長剣かアルディアのメイスの餌食になるのは目に見えている。当の本人も抵抗することなく大人しく従う。
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