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閉ざされた街
47 新たな旅立ち
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早朝の淡い光が街道を歩むダレス達を照らす。まるで光そのものが彼らの旅立ちを祝福しているようだ。
エイラ達に別れを告げた彼らはハミルを去って一路、南に進路を取っていた。
その方角を選んだのには特に理由があったからではない。単に王都に至る道を避けただけだ。
「でも・・・良かったのですか? ダレスさん?!」
その南への街道を山賊に警戒しながら黙々と先頭を進むダレスに、二番手を歩むアルディアから唐突に問い掛けられる。
「ん、何がだ?」
その漠然とした問いにダレスは後ろを振り拭きながら説明を求める。心当たりがなかったのである。
「・・・いえ、その・・・エイラさんとの約束です・・・」
自身も見つめるダレスの視線を避けるようにアルディアは俯きながら顔を赤くして答える。
「え、なんで?! エイラとの約束って・・・詳しい内容のことまで知っていたのか!!」
ダレスは驚きの声を上げて最後尾のミシャに視線を送るが、自分は違うとばかりに彼女は首を振る。
ミシャがアルディアにエイラとの約束を報告したのかと思ったが違うようだ。さすがに彼女もそんなことで嘘はつかないはずである。つまりアルディアは自身でエイラとの約束を察したのだろう。
「あ、あれは・・・ちょっとした冗談みたいもので・・・男を勇気付けるためのほ、方便で・・・エイラも本気じゃなかったはずだ!」
「・・それでは、ダレスさんも本気ではなかったということですね?!」
弁明するダレスにアルディアは近づくと、彼の右手で優しく握り、その本意を確かめるように見つめる。憂いで濡れた青い瞳と完璧に均整の取れた顔はまさしく聖女のそれだった。
「も、もちろんだ!」
「ああ、良かった!!」
断言するダレスの言葉にアルディアはその整った顔に相応しい笑顔を浮かべた。
「・・・でも実は、少しだけ惜しいとか思っていませんか?」
だが、アルディアは直ぐに真顔を取り戻すと改めてダレスに問い掛ける。彼の本能が危険を察知し、握られた手を振りほどこうとするが、それは彼女の怪力によって万力で締められたように〝ビク〟ともしなかった。
「い、いや・・・お、思ってない!!」
「本当ですか?! 正直に言って下さい。怒りませんから!!」
「お、思ってないって!!」
いや、もう怒っているだろ! の言葉を飲み込むとダレスは再度否定する。だが、アルディアはそれで満足せずに彼の手を握る両手に力を込めながら無言で見つめ続ける。
一瞬前まで聖女に見えたアルディアだが、美しいだけに迫力があった。
「じ、実はほんの少し、微かに、ちょびっとだけ、勿体ないかなって思ったかも・・・」
アルディアの無言の圧力に負けたダレスは遂に本心を暴露する。
「そうですか・・・まあ、エイラさんも魅力的な女性ですし、男性なら仕方ないかもしれませんね・・・でも、これからは、私がいるのですから気を付けて下さいね!!」
更に怒りを込み上げらせると思われたアルディアだが、うって変わって穏やかな表情を取り戻すとダレスを解放する。どうやら彼女はエイラに気を持ったことよりも、見え透いた嘘をついてことに怒っていたようだ。
「・・・ん? それって?!」
大事な利き腕を潰される危機を脱したダレスは一旦安堵するが、アルディアの言葉を思い出すと今度は彼が聞き手に回る。事実上の告白と思えたからだ。
「い、今のは、こ、言葉のあやです。いや、あやではなく・・・なんでもありません!! 忘れて下さい!!」
「ははは、なら、そういうことにしておこうかな。でも、利き手を潰すのだけは勘弁してくれよ!」
一人で勝手に怒り、動揺するアルディアにダレスは苦笑を浮かべると彼女の願いを聞き届ける。今更だが、とんでもない聖女様である。
「ああ!! もう、そんなにアルディア様にくっつくなぁ!!」
そんな二人の状況に癇癪を起したミシャが、ダレスとアルディアの間に割って入る。
「わかった、わかった! だからってそんなに俺に抱き付くなよ!」
「ば、馬鹿! これは抱き付いたんじゃない!! お前をアルディア様か引き離すために・・・」
身体を使って押し出すようにダレスからアルディアを引き離したミシャだが、ダレスの突っ込みに顔を真っ赤にして弁明する。アルディアの従者である彼女も主人に負けず劣らず個性的な女性なのだ。
「ふふ、もちろん冗談だ。 旅は長い、先を急ごう!!」
「ええ、そうですね。つまらない質問をしてしまいました!」
「も、もちろんだ!」
頷く仲間達の返事にダレスは付け加える。
『旅は長いが、退屈だけはしそうにないな!』
こうしてダレス、アルディア、ミシャの三人は新たな冒険の旅に身を委ねるのだった。
その聖女、脳筋につき取扱注意!! 閉ざされた街 了
エイラ達に別れを告げた彼らはハミルを去って一路、南に進路を取っていた。
その方角を選んだのには特に理由があったからではない。単に王都に至る道を避けただけだ。
「でも・・・良かったのですか? ダレスさん?!」
その南への街道を山賊に警戒しながら黙々と先頭を進むダレスに、二番手を歩むアルディアから唐突に問い掛けられる。
「ん、何がだ?」
その漠然とした問いにダレスは後ろを振り拭きながら説明を求める。心当たりがなかったのである。
「・・・いえ、その・・・エイラさんとの約束です・・・」
自身も見つめるダレスの視線を避けるようにアルディアは俯きながら顔を赤くして答える。
「え、なんで?! エイラとの約束って・・・詳しい内容のことまで知っていたのか!!」
ダレスは驚きの声を上げて最後尾のミシャに視線を送るが、自分は違うとばかりに彼女は首を振る。
ミシャがアルディアにエイラとの約束を報告したのかと思ったが違うようだ。さすがに彼女もそんなことで嘘はつかないはずである。つまりアルディアは自身でエイラとの約束を察したのだろう。
「あ、あれは・・・ちょっとした冗談みたいもので・・・男を勇気付けるためのほ、方便で・・・エイラも本気じゃなかったはずだ!」
「・・それでは、ダレスさんも本気ではなかったということですね?!」
弁明するダレスにアルディアは近づくと、彼の右手で優しく握り、その本意を確かめるように見つめる。憂いで濡れた青い瞳と完璧に均整の取れた顔はまさしく聖女のそれだった。
「も、もちろんだ!」
「ああ、良かった!!」
断言するダレスの言葉にアルディアはその整った顔に相応しい笑顔を浮かべた。
「・・・でも実は、少しだけ惜しいとか思っていませんか?」
だが、アルディアは直ぐに真顔を取り戻すと改めてダレスに問い掛ける。彼の本能が危険を察知し、握られた手を振りほどこうとするが、それは彼女の怪力によって万力で締められたように〝ビク〟ともしなかった。
「い、いや・・・お、思ってない!!」
「本当ですか?! 正直に言って下さい。怒りませんから!!」
「お、思ってないって!!」
いや、もう怒っているだろ! の言葉を飲み込むとダレスは再度否定する。だが、アルディアはそれで満足せずに彼の手を握る両手に力を込めながら無言で見つめ続ける。
一瞬前まで聖女に見えたアルディアだが、美しいだけに迫力があった。
「じ、実はほんの少し、微かに、ちょびっとだけ、勿体ないかなって思ったかも・・・」
アルディアの無言の圧力に負けたダレスは遂に本心を暴露する。
「そうですか・・・まあ、エイラさんも魅力的な女性ですし、男性なら仕方ないかもしれませんね・・・でも、これからは、私がいるのですから気を付けて下さいね!!」
更に怒りを込み上げらせると思われたアルディアだが、うって変わって穏やかな表情を取り戻すとダレスを解放する。どうやら彼女はエイラに気を持ったことよりも、見え透いた嘘をついてことに怒っていたようだ。
「・・・ん? それって?!」
大事な利き腕を潰される危機を脱したダレスは一旦安堵するが、アルディアの言葉を思い出すと今度は彼が聞き手に回る。事実上の告白と思えたからだ。
「い、今のは、こ、言葉のあやです。いや、あやではなく・・・なんでもありません!! 忘れて下さい!!」
「ははは、なら、そういうことにしておこうかな。でも、利き手を潰すのだけは勘弁してくれよ!」
一人で勝手に怒り、動揺するアルディアにダレスは苦笑を浮かべると彼女の願いを聞き届ける。今更だが、とんでもない聖女様である。
「ああ!! もう、そんなにアルディア様にくっつくなぁ!!」
そんな二人の状況に癇癪を起したミシャが、ダレスとアルディアの間に割って入る。
「わかった、わかった! だからってそんなに俺に抱き付くなよ!」
「ば、馬鹿! これは抱き付いたんじゃない!! お前をアルディア様か引き離すために・・・」
身体を使って押し出すようにダレスからアルディアを引き離したミシャだが、ダレスの突っ込みに顔を真っ赤にして弁明する。アルディアの従者である彼女も主人に負けず劣らず個性的な女性なのだ。
「ふふ、もちろん冗談だ。 旅は長い、先を急ごう!!」
「ええ、そうですね。つまらない質問をしてしまいました!」
「も、もちろんだ!」
頷く仲間達の返事にダレスは付け加える。
『旅は長いが、退屈だけはしそうにないな!』
こうしてダレス、アルディア、ミシャの三人は新たな冒険の旅に身を委ねるのだった。
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