スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

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その1

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 木洩れ陽だけが頼りとなる色濃く茂った森の中を駆ける人影があった。手には抜き身の長剣が握られており、その刀身は既に赤黒い液体で彩られている。人影は何かを感じとったのだろう。唐突にその身を屈めると片足を軸に身体を反転させた。
 その途端、人影の真上を黒い巨大な物体が飛び越えようとする。馬ほどの大きさと質量を持つ何かの体当たりを間一髪避けた人影だったが、彼はそれに安堵することなく長剣の切っ先を下から押し付ける。毛皮を裂く手応えとともに生臭い鮮血が飛び散った。
 返り血を避けながら立ち上がった人影は手負いとなってなお、修敏な動きで体勢を整えた獣と向き合う。長剣を得物として戦っていた人影は、草臥れた鎖帷子で身を包んだ若い男だった。体格こそ成人のそれだが、その顔つきには未だ幼さを残している。おそらく歳の頃は18を超えていないだろう。対する敵は巨大な体躯のワーグである。

 ワーグとは魔狼とも呼ばれる狼の亜種で太古の〝神々の大戦〟では混沌側に与した種族である。並の狼を知能と体格で勝り、性質も残忍で恐るべき捕食者だった。そんなワーグの中でもその個体は特別だと思われた。何しろ体高だけで人並みの高さなのである。人間など一口で飲み込んでしまいそうだ。
 そんな規格外の怪物を前にして若き戦士は臆することなく長剣を正眼に構える。事実、ワーグは既に幾つかの手傷を負っていたが、彼の身体を纏う鎖帷子は古びてはいるものの、損傷は全く見たらなかった。
 それまでの均衡を崩して、耳を突き刺す激しい咆哮とともにワーグが戦士に襲い掛かる。それは言語とは呼べない発声ではあったが、激しい苛立ちと怒りが込められていた。このワーグは狩る側から狩られる側になりつつある自分の境遇を受け入れられなかったのである。相手は自分よりも体格で遙かに劣る、取るに足らない獲物でなければならないのだ。

 質量の優位を武器に正面から飛び掛かるワーグ巨体を男は紙一重で躱すと、流れるような動きで横一文字に長剣を薙ぎ払う。本来なら掠っただけで吹き飛ばされるような体格差だったが、男の長剣はワーグの右後ろ脚を捉えて両断する。恐るべき膂力と太刀筋、そして胆力である。
 脚の一本を失ったワーグだが、野生的な身体能力で再度体勢を整える。追撃を仕掛けようとしていた男もそれを見て思い留まった。下手に欲張って反撃を貰えば、今の有利な状況がふいになるからだ。
 それでも、これまでの展開は男の狙い通りであった。彼は当初からワーグに後れを取ることはないと自分の実力を信じていた。むしろ最悪の事態は自分に勝てぬと察したワーグに逃げられ、潜伏されることである。そのために序盤には敢えて深手は負わさず、後手に回り、脚を狙って機動力を落とすことを第一の戦術としたのである。
「今更だな・・・」
 再びワーグは、今度は焦燥を込めた咆哮を上げると、身を翻して森の奥へと逃げ出した。脚の一つを失ったことで、ようやく目の前の敵が自分の手に負えない相手だと認めたのである。もっとも、男はそんなワーグを嘲るわけでもなく、率直な気持ちを言葉にするとその後を追った。

 後ろの片足が無いにしては素早く森の中を駆け抜けて行くワーグだったが、一歩踏み出す度に傷口からの出血で体力を消耗させているはずである。長距離の移動は不可能で、おまけに流れ落ちた血は追跡のための確かな証拠となる。だから、男が焦る必要は無かった。待ち伏せをだけを警戒して確実に追い詰め、仕上げを施すだけだ。
 だが、しばらくして前方から発せられた二種類の音を聞いた時、男は嫌な予感を覚えて走る速度を上げた。自分の勘が確かならば、それは何かが断ち切られる音と巨大な物体が地面に崩れる落ちる音のはずだからだ。
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