スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

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その5

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「ああ、魔力で身体を覆う技なら、誰かに習ったことはないな。無意識で扱っている。〝錬体術〟って名前があったんだな・・・」
「な、なんだって?! 独学?! 誰かに師事して覚えたわけじゃないの?!」
 サージの返答にミリアは上擦った声を上げて驚く。自分の身体を憑代に使うため難易度は低いとされる〝錬体術〟の魔法だが、それでも数年の訓練は必要とされる技である。質問の意図を察してはぐらかされた可能性もあるが、この男が教えたくないのなら別の反応をしただろう。
「ああ、俺は誰かに何かを教わった記憶はない」
「じゃ、剣技は誰に習ったの? まさか、それも我流かい?」
「いや、正直に言うと、俺にもわからん。俺はここ二ヶ月ほどの記憶しか持っていない。気付いたらトーリアの街にいて、それから適当に傭兵として旅をしながら、ついでに怪物を倒して回っている。実はサージって名前も本名かわからん。鎧のどこかに刻印されていただけだ。中古の可能性もあるからな。・・・まあ、この格好からすると以前も傭兵を生業としていたのだろうが・・・」
「そうだったのか・・・もしかして記憶を失った原因さえも心当たりがないのかい?」
「ああ、わからん。・・・気付いたら街の広場に立っていた。幸い、言葉や習慣は身体が覚えているらしく不自由はない」
「そうか・・・」
 サージの告白にミリアは困惑しながらも納得を示す。トーリアとはセラン河の西側に位置する王国の首都である。トーリアからこの辺りまで徒歩で移動するとなると、二ヶ月弱程の距離なので話の辻褄は合う。

「でも、君はなんで積極的に・・・悪名高い怪物を倒そうとするんだ? 報酬や名声が欲しいってわけでもないようだし、失った記憶を取り戻すためかい?」
 どこまでが事実かは不明だが、ミリアは核心となる質問を送る。彼が〝混沌の僕〟と戦う真意が知りたかった。
「うむ・・・俺も最初は戦う事で何か思い出せるのでは? と期待していたこともあったが、最近は純粋に戦いを楽しみたいだけだな。どうも俺は定期的に戦わないとストレスが溜まるらしい。何しろ怪物相手なら遠慮はいらんからな!」
「そうか・・・出来れば私にも遠慮してほしかったよ・・・」
「あの時は横取りされたことで頭に血が上っていたからな。それでも水に流しただろう。そっちも流してくれ」
「わかった・・・。まあ。君も仲間になってくれたしね」
 ミリアは皮肉を込めつつも笑顔で相槌を打つ。質問の答えは冗談のような理由だったが、偶然とは言え目の前に座る男を仲間に勧誘出来たのは僥倖と言えた。
 サージをこのまま野放しにしていたら、その力を何かしらの野望に向けていたかもしれないのである。自分を含む〝スレイヤー・ギルド〟が明確な方向性を示せば、彼はその力を〝混沌の僕〟を倒すために使用してくれるだろう。それは人間という種族にとって大きな幸いになると思われた。

「うむ、そういうわけだから、早く次の獲物の情報をくれ! ミリア、お前に止めを横取りされたから不完全燃焼だ。まあ、お前が相手してくれるなら話は別だ。その戦斧が飾りでないこと見せてくれ!」
「・・・私が君の相手をするつもりはないよ。それに、今後ついてはここに来るまでも軽く説明したはず! 本格的な討伐開始は、まずは君をギルドの支部で正式なメンバーとしてからだ。君もグレイバックを確実に倒すために序盤からは本気を見せず、まずは標的の機動力を封じる戦術を立てただろう。何事も順序があるんだよ!」
 ミリアにとって男から相手をせがまれるのは耳に胼胝が出来るほど聞かされた台詞だったが、目の前のサージにとって相手とは性的な対象ではなく命を賭けた勝負のことである。当然ながら辞退し、改めてこれからの予定を告げる。
「むう・・・確かにそうだな」
 それに対してサージは渋々ながらも納得を示す。傲慢で抜き身の刃のような男ではあるが、道理を聞き入れるだけの理性は持っているのである。

「そうだぜ、姉ちゃん! そんなヒヨッ子なんて相手しないで俺と楽しもうぜ!」
 サージとミリアは唐突に会話に割って入った声の主を揃って見上げる。二人が陣取るテーブルの前には髭を蓄えた大男が立っていた。その身を板金で補強された鎖帷子で包んでおり、おそらくはかつてのサージと同じく傭兵の類だと思われた。
「・・・彼と大事な話をしているの。遠慮してもらえるかしら!」
 大男が浮かべている下品な薄ら笑いから察したミリアが毅然とした声で返答する。場末の酒場では嫌でも目立つ彼女の容姿に目を付けていた大男が、サージがミリアを口説くのに失敗したと判断して、しゃしゃり出て来たのである。
「なんだ、その口のきき方は! この俺がそんなチビに劣るってか!!」
 ミリアとしては丁重に断ったつもりだったが、大男は侮辱と受け取り顔を真っ赤にして激昂する。肥大した自尊心が現実を受け入れることを拒み、なんとしても自分の思い通りにしようと足掻いているのである。
「チビとは俺のことか?」
「待って! 私が片付けるから!」
 椅子から立ち上がろうとするサージをミリアは懇願するように制止する。
「喧嘩を売られたのは俺だが?」
「私だって、あばずれ扱いされているのよ! こっちの方が先だわ。それに君、手加減する気ないでしょ?」
 ミリアの台詞に、ここは譲るとばかりに座り直すとサージは麦酒の盃に手を伸ばして傍観者となる。
「なんだ?! 腕ずくでモノにしろってか? いいぜ、可愛がって・・・」
 立ち上がったミリアに大男は再び軽口を浴びせようとするが、次の瞬間には彼女に片手一本で酒場の壁までその巨体を突き飛ばされて床に崩れ落ちるのだった。

「「「な!!」」」
 これまでのやり取りを遠巻きに眺めていた酒場全体が驚きの声で包まれた。ミリアも決してひ弱とは言えない体格の持ち主ではあったが、彼我の質量差は少なく見積もっても倍はあったはずである。〝錬体術〟を知らぬ者達からすれば夢でも見ているような光景だった。
 吹き飛んだ大男は口から泡を吐きながらも、なんとか立ち上がろうと手足をばたつかせる。失敗して再び床に倒れるが、どうやら死んではいないらしい。ミリアは最低限の手加減はしたのである。
「店を変えましょう!」
 酒場全体が衝撃に包まれる中、ミリアはサージに告げると自分の得物である戦斧をこれ見よがしに見せつけながら酒場の出口に向かう。騒ぎを起こした以上、長居して良いことはないのだ。
「うむ、ここは俺の奢りにしておこう。釣りはいらんぞ!」
 ミリアに告げながらサージは唖然としたままの給仕に向って銀貨を一枚投げつける。一般的な宿屋の宿泊代が銀貨二枚程度なので、麦酒二杯の代金としてはチップを含めても大胆な支払い方だ。
「ありがとう! そういうところは粋なのね!」
「ああ、なかなか良い張り手を見せてもらったからな!」
 二人はそれぞれ笑みを浮かべると何事も無かったかのように酒場を後にするのだった。
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