スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

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その10

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〝スレイヤー・ギルド〟は秘密組織ではあったが、ギルドを名乗る通り組合制を採用していた。明確な階級制を敷きつつも、組織としての決定には、マイスターと呼ばれる上位者による合議制が図られているのである。つまり、組織のトップであるギルドマスターは存在するが、この者がギルドの全てを掌握しているわけでなく、あくまでもマイスター達の共済組織なのだった。
 これは独裁と権力の固定化を防ぐには充分に機能したが、弱点としてマイスター達への権限の分散があった。つまり、マイスター以下のメンバーの上下関係は厳しいが、マイスター同士ではほぼ同格となるのである。
 これがギルドへの加入試験でありながら、サージが国家規模の脅威を秘めたバンパイア〝緋色のジェダ〟の討伐を命じられた原因だった。支部長はマイスターの称号を持つミリアが推薦したサージの加入を、彼女の権限では完全に拒否出来ないため、不可能だと判断した討伐対象を指名したのである。サージがその困難さを苦に逃げ出すと予想して。
 もっとも、サージにとってそんな支部長の思惑など眼中にはなく。翌日にはミリアと共にジェダが拠点とする領地に向けて出発していた。
 バンパイアを討ち取るには幾つかの試練や難題があるようだが、まずは現地に赴いて情報を集めることを優先させたのである。何しろ支部があるナダラザの街からジェダの領地までは徒歩で七日の距離がある。ミリアと相談する時間は充分にあった。

「ギルドの階級は大きく三つに分かれているの。マイスター、ゲゼレ、レアリングね。マイスターは親方で独自の弟子を持つことを許された組織幹部。ゲゼレは職人、ここでは戦士として一人前として単独行動が認められた者、マイスター候補生でもある。レアリングは徒弟、いずれはゲゼレ、マイスターとして次代の主力を目指す者達。更にそれぞれに三段階の階位が与えられており、私は上から三番目の第三級マイスターの称号を持っているわ」
「なるほど・・・若くして頭角を現しているのだな。やるではないか」
 狭い個室の中、ミリアから受けた説明にサージは頷くと共に賛辞を送る。彼の価値観からすれば称号など外野からの評価でしかないが、組織を運営するにはこのような基準が必要なのは理解していた。若い女性でありながらギルド上位に登り詰めたミリアの能力を認めたのである。
「ふふふ・・・ありがとう」
 自分よりも若く、未だレアリングですらないサージからの賛辞ではあったが、ミリアは素直に喜んだ。何しろ目の前の男は心にもないお世辞は決して口にしない者なのだ。下手な称号よりも価値がある一言だった。

「しかし、ジェダと奴の領地については良い噂しか聞かんな・・・」
 今日のギルドに関するレクチャーはそれで充分と判断したのだろう。サージは組んでいた脚を組み替えると本題に入る。
 二人はジェダが収める伯爵領まであと四日程の距離まで近づいており、先程まで宿屋の一階で情報を集め、今は旅人達から仕入れた噂話を吟味するためサージの個室に集まっているのである。
「そう、奴は若く卓越した領主として知られている。表向きにはね・・・。北の国境近くの領地を任されており、シュテム王国とは因縁のある隣国に睨みを利かしているし、それでいて領地内の税も低めに抑えられている」
「ふふふ。こちらもなかなかの有能だな」
 ジェダは討ち取るべき敵だったが、サージは率直な感想を告げる。ミリアを褒めたばかりの彼だが、敵だという事実から評価を曲げるつもりはないのである。
「でも、これだけの善政を行ないながらコンサーラ領の人口はこの三年間ほとんど増えてないのよ。おかしいでしょ?!」
「そんなことも事前に調べていたのか。なるほど・・・本気だな」
 コンサーラとはジェダの領地の名前である。領主の家門名がそのまま土地の名前になるのはよくあることだった。そして、近年の人口増減についてまで下調べをしているミリアの、打倒ジェダへの熱意と執念が知れる情報でもあった。
「確かに、他国から攻められず、税も軽いとなれば、人口が増えるのが自然だ。・・・何者かが間引いているのでもなければな!」
 ミリアが告げようとしていることを理解したサージは答えを出す。畜産で生計を立てている者が飼っている羊なり豚を一度に全て売りに出すことない。そうしてしまえば一時的には儲かるが、次はまた一から家畜を集めるか、あるいは新たな仕事を探すしかない。
 普通は〝種〟となる数を残して、それを上回った時だけ余剰分を売却する。ジェダはそれと同じことを領地としている人間達に行っていると思われた。

「ええ、そう。ボロを出さずに、目立たないようにしているけど、奴は着実に自らの死者の勢力を盤石、拡大させている。このまま見過ごしてしまえば、やがてはこの王国すら裏から支配してしまうでしょう!」
「一つの国が丸ごとバンパイアの牧場となるわけか・・・ふふふ、調子に乗るのも甚だしいな! さっさとぶっ潰してしまおう!」
 ミリアからジェダが目指す野望について聞かされたサージだったが、その事実に恐怖するのではなく、むしろ不敵な笑いで答える。
「もちろんよ! でも、奴が表向きには領主であることは忘れないで! この国そのものを敵に回してしまっては面倒だわ!」
 そんなサージを頼もしいと思いながらミリアは釘を刺すのも忘れない。彼女はサージが以前口にした国ごと滅ぼすという言葉を忘れていなかったのである。
 常識で考えれば大言壮語だろうが、ミリアはサージと直接剣を交えたことがある。その剣技の冴えと無尽蔵と思われるほど溢れる魔力をその身で体験していた。〝錬体術〟を駆使すれば千単位の兵士と戦うことも不可能でない。決して誇張ではないのだ。

「わかっている。俺もそこまでする気はない・・・なるべくな・・・」
「・・・ええ、お願い!」
 不安の残すサージの返答だったが、ミリアはとりあえずと納得する。彼女としても葛藤はあったが、これ以上強く出れば彼が独自に動き出す可能性があった。そうなってしまえば、相棒としての立場から抑制することさえも出来なくなる。今は引き下がるしかなかった。
 ミリアはバンパイアと目の前に座る若い男、このどちらが世界にとって、より危険な存在なのか心の中で自問した。
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