スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

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その12

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 素焼きのカップから立ち上る甘い香りがサージの鼻腔を優しく擽る。彼にとって飲み物と言えば酒であり、これまでお茶などには一切の興味を持っていなかったが、これはこれで悪くないと認めるしかなかった。
 リーザが連れ帰った姉、ローザはミリア達の来訪を知ると、とりあえずとばかりに二人をカモミールティーでもてなしたのである。

「良い香りね、ありがとう!」
「いえ、この店で用意出来るのはハーブティーくらいですので、どうぞお楽しみ下さい」
 礼を告げるミリアにローザは畏まって答える。薬店なのだからハーブに関しては遠慮はいらない言うことなのだろう。
 ローザは長い黒髪をした二十代半ばの女性だった。顔の造形に関してはミリアには及ばないものの、服の上からでもわかるほど主張する大きな胸と腰付きは成熟した女のそれであり、独特の色気がある。男によってはミリアよりもローザをより高く評価する者もいると思われた。
「さっそくですが・・・いよいよ、その時が来たとのことですか?!」
 妹であるリーザに一瞬だけ視線を送りながらローザはミリアに問い掛ける。既に事情は聞いてはいたが、ことがことだけに直接確認したいのだろう。
 また、豊満な肉体を持つ姉に対してリーザの方は一目で快活とわかる少女だった。身を包む衣服は一般的な女性が纏うワンピースではなく、牧童が着るようなチェニックと脚を覆うジュポンであり、ポニーテールとして纏めている長い栗色の髪と濡れたような睫毛がなければ少年と見間違えてしまうだろう。年齢はサージと同年代か少し下ほどに違いなかった。
「ええ。これまで何回か機会を窺っていたけど、サージの協力を得られた今こそが、その時と判断しました! これ以上、見過ごしてしまえば、この国そのものが取りこまれてしまうでしょうから!」
「つまり、この方が参戦することで充分な勝機が出たと?」
 ミリアの言葉を正しく理解したローザは目の前に座るサージを見つめる。

 魔法の才能がない者からすれば、サージはただの若い傭兵にしか見えないだろう。剣の腕前は多少優れているのかもしれないが、それだけだ。だが、見る者が見ればその霊質の深層に計り知れない魔力が隠されているのを感じ取れるはずである。
 もっとも、潜在的な魔力の量が絶対的な強さというわけでもない。魔力は魔法を行使する際の燃料に過ぎず、魔法を扱う才能や造詣の深さはまた別だからだ。だが、それでも魔力の量は強さの指針の一つであった。

「ええ、そう。もちろん、墓所の正確な位置を知るのが前提だけど、サージが加わることで戦力的に問題はないはずです」
「・・・そうですか。サージ殿、参戦を感謝致します」
 ミリアの返事だけではなく、ローザ自身もサージから零れる底の見えない魔力を見抜いたのだろう。彼女は頭を下げて感謝を伝える。
「礼には及ばん、俺は俺がやりたいことをしているだけだ」
 それに対してサージは素っ気なく答えた。彼からすればミリア達からの評価は至極当然の結果である。謙遜も愉悦も無縁だった。
「ちょっと! あんた、まだレアリングですらないんでしょ?! なんでそんなに偉そうなのよ!」
 それまで黙ってやりとりを見守っていたリーザだったが、堪忍袋の緒が切れたとばかりにサージに不満をぶつける。彼女からすればギルドの正式メンバーでもないサージが、自分の姉やマイスターであるミリア以上の立場を気取っていると映ったのである。
「リーザ! 出しゃばるのはやめなさい!」
「いえ! 私からの説明が不十分だったのかもしれません。サージはギルド内の階位こそ、まだ持っていませんが、その戦闘力はマイスターである私よりも上で、戦闘に関しては彼の右に出る者はいないと断言出来ます!・・・確かに素行は口が裂けても良いとは言えませんが、彼はこれまで恐るべき〝混沌の僕〟達にたった一人で立ち向かっていたのですよ! 敬意に値します。それにリーザ、ギルドの階位や価値観だけが全てではありません。閉鎖的な考えや視点を持たないようにして下さい! 彼に謝罪を!」
「・・・わ、わかりました。サージ・・さん、失礼しました・・・」
 ミリアに窘められたリーザは完全には納得出来ないと顔では語りながらも、謝罪を口にする。
「構わん、若輩者にはよくあることだ。許そう」
「あ、ありがとうございます・・・」

「と、とりあえず、ローザ。最新の情報を聞かせてくれるかしら?」
 サージの尊大な態度にリーザの顔が真っ赤になるのを見たミリアは慌てて話を元に戻す。せっかく彼が水に流してくれたのである。これ以上、長引かせれば彼の機嫌を本当に損ねる可能性があった。
 何しろサージは相手が女だからといって手加減するような男ではない。怒らせればその代償を請求するはずである。そして彼にとって代償とは相手の命なのだ。
「はい! 早速ですが、ジェダが三日前からイスワン公爵の息女に求婚したという噂があります。私も先程まで、その情報の確認するために街に出ていました。現在の時点では噂に過ぎませんが、ジェダとイスワン公爵は以前から懇意な関係にあります。信憑性は高いかと・・・」
 ローザの方も、この噂を早く報せる機会を待っていたのだろう。胸の重みが取れたような顔を浮かべて、最重要と思われる情報を告げるのだった。
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