スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

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その20

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「な、なんなんだ・・・その強さ! あ、あんた・・・人間なのか?!」
 破壊された通りを茫然と見つめながらリーザはサージに詰問のような言葉を送る。彼には狼男に続いて窮地を救われたわけだが、彼女はそれを手放しには受け入れられなかったのである。
 狼男を圧倒するまでは理解出来ても、レッサーバンパイアの群を一瞬で消し去るのは、常識という規格を逸脱してからだ。
「さあな・・たぶん人間だ!」
「たぶん?! たぶんってあんた・・・」
 サージの曖昧な返答にリーザは絶句する。彼女は〝スレイヤー・ギルド〟では第一級レアリングの地位を与えられていた。諜報要員ではあったが、正規メンバーなので〝錬体術〟はもちろんのこと初歩の魔法は体得している。そんな彼女からして、サージが放った魔法は得体のしれない系統不明の技だった。
 強いて言うなら、魔力を矢や槍に具現化して標的にぶつける〝光弾〟の応用、強化版に見えるが規模が違い過ぎる。あれだけの魔力を具現化する能力と魔法適性があるのなら、灼熱の炎を創造して範囲的に放つ〝火球〟の方が遥かに効率的だ。常識を超えた魔力の総量とその使い方と言わざるを得なかった。

「リーザ! 今はそれどころではありません!」
「そうだ! 早くミリアと合流しよう! あいつのことだ、下手をするとジェダの頭をカチ割っているかもしれない。また止めを横取りされる! 急ごう!」
「・・・続きますよ。リーザ!」
「は、はい!」
 ローザの言葉にサージは頷くと再び移動を開始する。彼女はサージとの心配の方向性に齟齬を感じたが、それは胸に秘めて妹を促した。今はサージのでたらめな強さの秘密よりも、ミリアの安否が最優先課題なのだ。

「ミリア! どこだ?!」
 宿屋に裏庭に到着したサージは周囲に向ってミリアの存在を問い掛けた。何しろ馬車を留めていた納屋は跡形も無く吹き飛んでおり、更地となっている。もはや隠れる場所等どこにもない有様だった。
「サージさん! まだ息のある眷属がいます!」
「では、そいつに問い質そう!」
 納屋があった地点を中心にミリアと戦ったと思われるレッサーバンパイア達の死体が多数散らかっていたが、その一体は未だ歪な生命を保っていたらしい。ローザがその存在をサージに報せる。厳密に言えば既にバンパイアは人間としては一度死んでいるので、彼らが呼吸を必要としているはずはないのだが、そこはサージも深く追及しなかった。

「女! 血だ! 血をよこせぇ!!」
「騒ぐな!」
「ギャァ!!」
 男型のレッサーバンパイアは押さえていたローザに抵抗し噛み付こうとするが、サージに殴られて地面に転げ落ちる。並の武器では傷すら付けられないバンパイアの肉体だが〝錬体術〟で強化された拳骨はこの手の怪物にも有効だった。
「ミリアはどこだ? 金髪で馬鹿でかい斧を武器としている女だ!」
「に、人間ごときが・・・グガァ!!」
 その眷属は質問を無視して立ち上がろうとするが、サージに後頭部を踏まれたことで再度地面に顔を埋めることになる。
「ミリアはどこだ?!」
「ゲフ! あ、あの女なら・・今頃はご主人様の城で贄となっているだろうよ!! お、お前達も・・・あ、明日の朝までに・・・」
 二回目のサージの問いに眷属は土を吐き出しながら答える。もう一度無視すれば止めを刺されると本能的に悟ったのである。
「つまり、城に連れ去ったのだな? しかし、ミリアはお前達程度が束になっても負けるような女ではないはずだが?」
「貴様・・・馬鹿か?! あの女は・・・そんなことも知らずに伯爵様にたて・・・」
 あまりにも簡単にミリアがジェダの配下に連れ去れたことを疑問視するサージの言葉に、眷属は逆に呆れて彼を罵倒する。この男は、そんなことも知らずに主人である〝緋色のジェダ〟に歯向かおうとしているのかと。
「馬鹿とは何だ! お前こそ立場がわかってないな! あっ?!」
 立場を解からせようとしたサージだが、勢い余って捕虜としていた眷属の頭を踏み潰してしまう。興奮したことで〝錬体術〟の加減を誤ったのだ。

「・・・ミリアは城に連れ去れたようだ!」
 一呼吸入れるとサージは何事もなかったようにローザ達姉妹に告げる。
「・・・ええ・・・そのようです。急いで救出に向いましょう!」
「ああ! そうしよう!」
「・・・いや、ちょっと待って! 今そいつ! 今、何か重要なことを喋ろうとしていたじゃん!!」
 年嵩のローザは空気を読んでサージの失敗には何も触れなかったが、リーザは激しく彼を問い詰める。
「リーザ・・・誰にでも失敗はある。・・・太古に起きた〝神々の大戦〟もそのきっかけは、神々によるちょっとした行き違いが原因だったという。・・・もちろん、このことは知っているな?!」
「それは・・・知っているけど・・・それとこれは・・・」
「ならば、失敗は誰にでも起こり得るということだ。この俺にさえも・・・それに今はミリアの身を心配しよう!」
「リーザ、あなたの言いたいことはわかりますが・・・今はやるべきことに集中しましょう・・・」
「・・・わかった・・・で、どうするの?」
 完全に納得した様子ではなかったが、リーザは追及を諦める。サージの論点ずらしもあったが、確かに今はミリアのためにも迅速な行動が不可欠と言えた。

「もちろん、このままジェダの城に乗り込む! 邪魔する奴は皆殺しだ! まあ、ほとんどが一度死んでいるだろうがな! ふふふ」
 リーザの問いにサージは待っていましたと言わんばかりに笑みを浮かべるのだった。
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