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その31
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「姉さん! 水と食料はとりあえず三日分を確保したよ!」
「上出来だわ! こっちも馬具を付け終えたところ! さっそく順に乗せていきましょう!」
厩で作業をしていたローザは、報告に現れたリーザを短く褒めると次の仕事を促す。サージと別れた彼女達は予定通り、脱出の〝足〟となる馬と食料の確保を最優先に動いていた。本来なら予め用意していた馬車で離脱を図るつもりだったのだが、その馬車は既に保管していた納屋ごと破壊されている。一から準備する必要があったのである。
準備と言っても、その実体は窃盗だ。宿泊先だった宿屋の厩から四頭の馬を無断で拝借し、食堂から日持ちのするパンやチーズ、ベーコン等の食料をちょろまかしたである。
もっとも、バンパイアに支配された町で一般的な常識を語るのは不毛だろう。先に襲撃して来たのはジェダ側であるし、結果的には町を救うためのコストである。姉妹がその行動について良心を悩ませることはなかった。
そして町側も彼女達を盗人として咎めない。何しろ、ジェダの配下である眷属の大半はサージが物理的に消していたし、町で暮らす人間達も家の片隅で夜明けがやって来るのを震えて待つのが精一杯だったのである。
「残りを持って来た! それと姉さん、マイスターミリアの武器も見つけたよ! どうする?!」
食料が詰まった袋を幾つも抱えながら再び厩に現れたリーザはローザに問う。仲間の武器なので可能な限り回収すべきだが、ミリアが獲物とする戦斧は規格外の大きさと重量を誇っている。脱出の際にはその重さが枷となる。それ故のリーザは姉の判断を仰いだのである。
「・・・回収しましょう! 貴重な物ですし、道中はマイスターミリアの力が必要となるかもしれません!」
ローザもリスクを考慮して悩むが、最終的には回収を決断する。特にマイスター級のスレイヤーが持つ武器はギルドから授けられた特別な業物だ。蔑ろに出来なかった。
「了解!!」
姉の判断にリーザは嬉々として答えると、再び厩を脱兎の如く飛び出て行く。ミリアの武器を回収することで彼女の無事を確定させられたように思えたからだ。
「ミリア・・・無事でいて・・・」
そんな妹を見送りながらローザもミリアの安否を願うのだった。
ローザ姉妹がミリアと出会ったのは、三年前に彼女がギルド本部に新米レアリングとして配属された日のことだ。今でこそギルド内の階位で抜かれてしまったが、ローザ姉妹にとってミリアは後輩だった。師事する師匠役のマイスターは違ったが、年齢が近いだけに厳しい課題や訓練で打ちのめされる度に三人でお互いを励まし合ったのである。
〝スレイヤー・ギルド〟に身を投じている者の多くは家族や愛する人を〝混沌の僕〟によって亡くしていた。両親を幼い頃に怪物に殺され、孤児院に引き取られたローザ姉妹もそうだった。
そして、この孤児院は表向きには光の神を祀る教団が運営しているが、その実体は次代のギルドメンバーの確保と育成を目的にした組織だった。
孤児達は十二歳まで成長すると、それとなくギルドの存在を匂わされ、その過酷な任務に赴く決意を問われる。ローザはその選択に迷う事なく即決し、妹のリーザも五年遅れでその後に続いた。彼女達は目の前で〝混沌の僕〟に両親を殺されている。自分達が生き延びたのは仇である〝混沌の僕〟と戦い、同じ境遇の子供を二度と出さないためだと信じたのである。
ちなみにギルドへの参加を選ばなかった孤児の運命だが、彼らは魔法によってギルドの関する記憶の封印を授けられた後に各地の奉公先へ送られる。この世界では十二歳で労働力として認められるので、孤児院として最低限の役割は果たしたというわけだ。
怪物を狩る〝スレイヤー〟として生きる事を選んだ姉妹だが、ローザの方が壁に突き当たる。単独行動が許可される第三ゲゼレまでは階位を上げたが、持って生まれた魔力の総量が平均程度なため、戦闘への応用に限界が訪れたのである。
これを機に彼女は主戦力である戦闘員での出世を諦め、彼らを補助する捜索、諜報要員への転換を決意する。そして妹であるリーザも第三ゲゼレに昇格したことで〝緋色のジェダ〟の監視役を志願し二人での特別任務に赴いたのである。
発覚している〝混沌の僕〟の中ではトップクラスの難敵であるジェダを敢えて選んだのはミリアからの影響だ。彼女の過去と運命を交流の中で知ったローザ姉妹はミリアへの協力を誓ったのである。
「上出来だわ! こっちも馬具を付け終えたところ! さっそく順に乗せていきましょう!」
厩で作業をしていたローザは、報告に現れたリーザを短く褒めると次の仕事を促す。サージと別れた彼女達は予定通り、脱出の〝足〟となる馬と食料の確保を最優先に動いていた。本来なら予め用意していた馬車で離脱を図るつもりだったのだが、その馬車は既に保管していた納屋ごと破壊されている。一から準備する必要があったのである。
準備と言っても、その実体は窃盗だ。宿泊先だった宿屋の厩から四頭の馬を無断で拝借し、食堂から日持ちのするパンやチーズ、ベーコン等の食料をちょろまかしたである。
もっとも、バンパイアに支配された町で一般的な常識を語るのは不毛だろう。先に襲撃して来たのはジェダ側であるし、結果的には町を救うためのコストである。姉妹がその行動について良心を悩ませることはなかった。
そして町側も彼女達を盗人として咎めない。何しろ、ジェダの配下である眷属の大半はサージが物理的に消していたし、町で暮らす人間達も家の片隅で夜明けがやって来るのを震えて待つのが精一杯だったのである。
「残りを持って来た! それと姉さん、マイスターミリアの武器も見つけたよ! どうする?!」
食料が詰まった袋を幾つも抱えながら再び厩に現れたリーザはローザに問う。仲間の武器なので可能な限り回収すべきだが、ミリアが獲物とする戦斧は規格外の大きさと重量を誇っている。脱出の際にはその重さが枷となる。それ故のリーザは姉の判断を仰いだのである。
「・・・回収しましょう! 貴重な物ですし、道中はマイスターミリアの力が必要となるかもしれません!」
ローザもリスクを考慮して悩むが、最終的には回収を決断する。特にマイスター級のスレイヤーが持つ武器はギルドから授けられた特別な業物だ。蔑ろに出来なかった。
「了解!!」
姉の判断にリーザは嬉々として答えると、再び厩を脱兎の如く飛び出て行く。ミリアの武器を回収することで彼女の無事を確定させられたように思えたからだ。
「ミリア・・・無事でいて・・・」
そんな妹を見送りながらローザもミリアの安否を願うのだった。
ローザ姉妹がミリアと出会ったのは、三年前に彼女がギルド本部に新米レアリングとして配属された日のことだ。今でこそギルド内の階位で抜かれてしまったが、ローザ姉妹にとってミリアは後輩だった。師事する師匠役のマイスターは違ったが、年齢が近いだけに厳しい課題や訓練で打ちのめされる度に三人でお互いを励まし合ったのである。
〝スレイヤー・ギルド〟に身を投じている者の多くは家族や愛する人を〝混沌の僕〟によって亡くしていた。両親を幼い頃に怪物に殺され、孤児院に引き取られたローザ姉妹もそうだった。
そして、この孤児院は表向きには光の神を祀る教団が運営しているが、その実体は次代のギルドメンバーの確保と育成を目的にした組織だった。
孤児達は十二歳まで成長すると、それとなくギルドの存在を匂わされ、その過酷な任務に赴く決意を問われる。ローザはその選択に迷う事なく即決し、妹のリーザも五年遅れでその後に続いた。彼女達は目の前で〝混沌の僕〟に両親を殺されている。自分達が生き延びたのは仇である〝混沌の僕〟と戦い、同じ境遇の子供を二度と出さないためだと信じたのである。
ちなみにギルドへの参加を選ばなかった孤児の運命だが、彼らは魔法によってギルドの関する記憶の封印を授けられた後に各地の奉公先へ送られる。この世界では十二歳で労働力として認められるので、孤児院として最低限の役割は果たしたというわけだ。
怪物を狩る〝スレイヤー〟として生きる事を選んだ姉妹だが、ローザの方が壁に突き当たる。単独行動が許可される第三ゲゼレまでは階位を上げたが、持って生まれた魔力の総量が平均程度なため、戦闘への応用に限界が訪れたのである。
これを機に彼女は主戦力である戦闘員での出世を諦め、彼らを補助する捜索、諜報要員への転換を決意する。そして妹であるリーザも第三ゲゼレに昇格したことで〝緋色のジェダ〟の監視役を志願し二人での特別任務に赴いたのである。
発覚している〝混沌の僕〟の中ではトップクラスの難敵であるジェダを敢えて選んだのはミリアからの影響だ。彼女の過去と運命を交流の中で知ったローザ姉妹はミリアへの協力を誓ったのである。
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