スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

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その32

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 そのミリアはギルドメンバーとしては異例の存在だった。彼女は思春期を終えた年頃に自分の意志でギルドの門を叩いたのである。そして通常は十二歳から始めても五年は掛かるとされる第三レアリングへの昇格を、以前から魔法を体系的に学んでいたらしいとはいえ、僅か半年で実現させている。
〝錬体術〟は身体能力を魔力で強化する魔法だが、元々の強さが高ければそれだけ効果的に作用する。男に交じっても遜色のないほどの体格を持つミリアは、魔法適性だけでなく素の身体能力の面でも戦闘員として極めて高いポテンシャルを備えていた。

 そんな天才的な才能を持った後輩に、ローザが嫉妬の念を多少なりに懐いたとしても責めることは出来ないだろう。何しろミリアはその外見の美貌だけでも目立つ存在だ、神々の恩恵を独り占めにしたと誰もが思うはずだった。
 だが、そんなローザもミリアが〝スレイヤー・ギルド〟に加わっている真の理由を知ることで互いが目指す未来が同じであると確信する。彼女もまた愛する者を〝混沌の僕〟に奪われていたからだ。
 悲劇に優劣を付けるのは無意味で愚かな行為だが、ミリアの事例はローザ達よりも複雑で過酷と思われた。何しろ彼女の父を殺して伯爵の地位を奪っただけでなく、バンパイアとして領民を家畜化している〝緋色のジェダ〟は彼女と血を分けた双子の弟なのである。

 三年前〝混沌〟に魅入られたジェダはバンパイアとして転生し、実の父親である先代コンサール伯爵を殺害してその地位を継いだ。正式な嫡子であり家臣の多くを眷属としたため、父親暗殺と当主の交代は問題無く遂行される。
 ジェダの唯一の失敗は双子の姉であるミリアを取り逃がしたことだろう。彼女は貴族の令嬢と思えない行動力を示す。
 具体的には見張りのレッサーバンパイアを銀の短剣で突き殺し、監禁されていた部屋から寝具をロープの代わりにして城から逃れ〝スレイヤー・ギルド〟の後ろ盾となっていた教団に駆け込んだのである。

 潜伏先に教団を選んだのは、元より修道院に入る予定があったためだが、これが以後のミリアの運命を決定付ける。ギルドの存在を嗅ぎつけた彼女は自ら志願し、バンパイアと化した弟から逃げ隠れて生きるのではなく自身の手で倒す運命を選び、立ち向かうと決意したのだ。
 その後、ミリアは異例の早さの二年でマイスターとなり、ジェダが正式な貴族であることから慎重策を取る〝スレイヤー・ギルド〟の中で正式な討伐命令が下されるのを一日千秋の思いで待っていたのである。
 そんなミリアの隠された決意を知った姉妹、特にローザはかつて彼女に抱いていたライバル心を棚上げとし、同志としてジェダ討伐に繋がる秘密任務に従事したのだった。

「持って来たよ!」
「・・・では、それを馬に括り付けたら合流地点まで移動します! マイスターミリアにはそれでまた暴れて貰いましょう!」
 しばらくして、巨大な戦斧を担いで戻ってきたリーザにローザは微笑みながら出発の合図を告げる。洗練されているとはお世辞にも言えない無骨な武器だが、それはミリアが内に秘める強さと性質を形にしているのだと思われた。
「・・・あの二人・・・やっぱり似た者同士ね・・・」
「え?! 姉さん今なんて?!」
「いえ、なんでもないわ! 出発しましょう!」
 思わず零してしまった独り言にリーザが反応を示すが、ローザはそれまで浮かべていた笑みを消すと出発を促した。運命に立ち向かうミリアのことは尊敬しているし、打倒ジェダに関しては命を賭けてでも協力するつもりだが、一人の女としては別だ。私的な思惑では彼女に遠慮はするつもりはなかったのである。
「わ、わかった!」
 急に機嫌が悪くなった姉の様子にリーザは理解が追いつかず、目を丸くして答えるのが精一杯だった。
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