32 / 56
その32
しおりを挟む
そのミリアはギルドメンバーとしては異例の存在だった。彼女は思春期を終えた年頃に自分の意志でギルドの門を叩いたのである。そして通常は十二歳から始めても五年は掛かるとされる第三レアリングへの昇格を、以前から魔法を体系的に学んでいたらしいとはいえ、僅か半年で実現させている。
〝錬体術〟は身体能力を魔力で強化する魔法だが、元々の強さが高ければそれだけ効果的に作用する。男に交じっても遜色のないほどの体格を持つミリアは、魔法適性だけでなく素の身体能力の面でも戦闘員として極めて高いポテンシャルを備えていた。
そんな天才的な才能を持った後輩に、ローザが嫉妬の念を多少なりに懐いたとしても責めることは出来ないだろう。何しろミリアはその外見の美貌だけでも目立つ存在だ、神々の恩恵を独り占めにしたと誰もが思うはずだった。
だが、そんなローザもミリアが〝スレイヤー・ギルド〟に加わっている真の理由を知ることで互いが目指す未来が同じであると確信する。彼女もまた愛する者を〝混沌の僕〟に奪われていたからだ。
悲劇に優劣を付けるのは無意味で愚かな行為だが、ミリアの事例はローザ達よりも複雑で過酷と思われた。何しろ彼女の父を殺して伯爵の地位を奪っただけでなく、バンパイアとして領民を家畜化している〝緋色のジェダ〟は彼女と血を分けた双子の弟なのである。
三年前〝混沌〟に魅入られたジェダはバンパイアとして転生し、実の父親である先代コンサール伯爵を殺害してその地位を継いだ。正式な嫡子であり家臣の多くを眷属としたため、父親暗殺と当主の交代は問題無く遂行される。
ジェダの唯一の失敗は双子の姉であるミリアを取り逃がしたことだろう。彼女は貴族の令嬢と思えない行動力を示す。
具体的には見張りのレッサーバンパイアを銀の短剣で突き殺し、監禁されていた部屋から寝具をロープの代わりにして城から逃れ〝スレイヤー・ギルド〟の後ろ盾となっていた教団に駆け込んだのである。
潜伏先に教団を選んだのは、元より修道院に入る予定があったためだが、これが以後のミリアの運命を決定付ける。ギルドの存在を嗅ぎつけた彼女は自ら志願し、バンパイアと化した弟から逃げ隠れて生きるのではなく自身の手で倒す運命を選び、立ち向かうと決意したのだ。
その後、ミリアは異例の早さの二年でマイスターとなり、ジェダが正式な貴族であることから慎重策を取る〝スレイヤー・ギルド〟の中で正式な討伐命令が下されるのを一日千秋の思いで待っていたのである。
そんなミリアの隠された決意を知った姉妹、特にローザはかつて彼女に抱いていたライバル心を棚上げとし、同志としてジェダ討伐に繋がる秘密任務に従事したのだった。
「持って来たよ!」
「・・・では、それを馬に括り付けたら合流地点まで移動します! マイスターミリアにはそれでまた暴れて貰いましょう!」
しばらくして、巨大な戦斧を担いで戻ってきたリーザにローザは微笑みながら出発の合図を告げる。洗練されているとはお世辞にも言えない無骨な武器だが、それはミリアが内に秘める強さと性質を形にしているのだと思われた。
「・・・あの二人・・・やっぱり似た者同士ね・・・」
「え?! 姉さん今なんて?!」
「いえ、なんでもないわ! 出発しましょう!」
思わず零してしまった独り言にリーザが反応を示すが、ローザはそれまで浮かべていた笑みを消すと出発を促した。運命に立ち向かうミリアのことは尊敬しているし、打倒ジェダに関しては命を賭けてでも協力するつもりだが、一人の女としては別だ。私的な思惑では彼女に遠慮はするつもりはなかったのである。
「わ、わかった!」
急に機嫌が悪くなった姉の様子にリーザは理解が追いつかず、目を丸くして答えるのが精一杯だった。
〝錬体術〟は身体能力を魔力で強化する魔法だが、元々の強さが高ければそれだけ効果的に作用する。男に交じっても遜色のないほどの体格を持つミリアは、魔法適性だけでなく素の身体能力の面でも戦闘員として極めて高いポテンシャルを備えていた。
そんな天才的な才能を持った後輩に、ローザが嫉妬の念を多少なりに懐いたとしても責めることは出来ないだろう。何しろミリアはその外見の美貌だけでも目立つ存在だ、神々の恩恵を独り占めにしたと誰もが思うはずだった。
だが、そんなローザもミリアが〝スレイヤー・ギルド〟に加わっている真の理由を知ることで互いが目指す未来が同じであると確信する。彼女もまた愛する者を〝混沌の僕〟に奪われていたからだ。
悲劇に優劣を付けるのは無意味で愚かな行為だが、ミリアの事例はローザ達よりも複雑で過酷と思われた。何しろ彼女の父を殺して伯爵の地位を奪っただけでなく、バンパイアとして領民を家畜化している〝緋色のジェダ〟は彼女と血を分けた双子の弟なのである。
三年前〝混沌〟に魅入られたジェダはバンパイアとして転生し、実の父親である先代コンサール伯爵を殺害してその地位を継いだ。正式な嫡子であり家臣の多くを眷属としたため、父親暗殺と当主の交代は問題無く遂行される。
ジェダの唯一の失敗は双子の姉であるミリアを取り逃がしたことだろう。彼女は貴族の令嬢と思えない行動力を示す。
具体的には見張りのレッサーバンパイアを銀の短剣で突き殺し、監禁されていた部屋から寝具をロープの代わりにして城から逃れ〝スレイヤー・ギルド〟の後ろ盾となっていた教団に駆け込んだのである。
潜伏先に教団を選んだのは、元より修道院に入る予定があったためだが、これが以後のミリアの運命を決定付ける。ギルドの存在を嗅ぎつけた彼女は自ら志願し、バンパイアと化した弟から逃げ隠れて生きるのではなく自身の手で倒す運命を選び、立ち向かうと決意したのだ。
その後、ミリアは異例の早さの二年でマイスターとなり、ジェダが正式な貴族であることから慎重策を取る〝スレイヤー・ギルド〟の中で正式な討伐命令が下されるのを一日千秋の思いで待っていたのである。
そんなミリアの隠された決意を知った姉妹、特にローザはかつて彼女に抱いていたライバル心を棚上げとし、同志としてジェダ討伐に繋がる秘密任務に従事したのだった。
「持って来たよ!」
「・・・では、それを馬に括り付けたら合流地点まで移動します! マイスターミリアにはそれでまた暴れて貰いましょう!」
しばらくして、巨大な戦斧を担いで戻ってきたリーザにローザは微笑みながら出発の合図を告げる。洗練されているとはお世辞にも言えない無骨な武器だが、それはミリアが内に秘める強さと性質を形にしているのだと思われた。
「・・・あの二人・・・やっぱり似た者同士ね・・・」
「え?! 姉さん今なんて?!」
「いえ、なんでもないわ! 出発しましょう!」
思わず零してしまった独り言にリーザが反応を示すが、ローザはそれまで浮かべていた笑みを消すと出発を促した。運命に立ち向かうミリアのことは尊敬しているし、打倒ジェダに関しては命を賭けてでも協力するつもりだが、一人の女としては別だ。私的な思惑では彼女に遠慮はするつもりはなかったのである。
「わ、わかった!」
急に機嫌が悪くなった姉の様子にリーザは理解が追いつかず、目を丸くして答えるのが精一杯だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる