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その35
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一方その頃、ジェダの側近ヘリオを倒して地下施設の先を進むサージの耳に、か細い声が届く。足を止めて聞き耳を立てると、それは若い女の泣き声だと思われた。折しも通路の十字路に差し掛かったところである。
その悲しげな旋律は左側の通路の先から泉のようにこんこんと湧き出しており、サージの胸に僅かながら憐憫の情を思い起こさせた。いずれにしても彼は次の行き先を決めるために、それまで歩んでいた進撃を止めざるを得なかった。
「うむ・・・」
泣き声の唯一の心当たりであるミリアのことを思いながらサージは考えを巡らす。これまで保留としていたが、そろそろはっきりさせる必要があるようだ。ジェダを倒してから彼女を助けるか、助けてからジェダを倒すかのどちらを選択するかである。
仮にこの泣き声がミリアのものだったとして、泣いているということは少なくても生存している証拠でもある。それなら後回しにしても良いだろうと思える。むしろミリアには一度、敵の止めを盗られている。彼女がジェダとの決戦の場にいないのはサージにとっては好都合だ。
そのように判断しながら彼は、左側を避けて正面の通路へ足を踏み出そうとした。
「・・・ああ!! ・・・きゃあ!! ・・・いや!!」
だが、それまで悲しみに打ちひしがれたような泣き声が突然、苦痛に喘ぐ悲鳴に変る。石壁で幾重にも反響しているため、判別は難しいがミリアの声色とは僅かに違うようにも感じられる。だが、確実に否定出来る要素もない。少なくても若い女であるのは確実だった。
「・・・仕方ないな・・・」
そう呟くとサージは行く先を左の通路へと変えた。それはミリアの状況を案じたのもあるが、理由の半分はこの作為的な現象を確かめるためだった。声の主が彼女ならそのまま助ければ良いし、仮に罠だったとしても敵がどんな策略を練っていたのか見定めることが出来る。彼にとってはどちらでも構わなかった。
「・・・助けて! 誰か! お願い!」
しばらく道なりに進み、サージは通路の突き当りである扉の前に到着する。いつしか悲鳴は懇願に変っており、声の主はこの扉の先で助けを待っているらしい。
流石にここまで近づけばその声の詳しく分析することが可能だ。サージの耳は声の主がミリアとは別人であると断定する。声色はかなり似ているが〝錬体術〟で強化された彼の耳は僅かな違いを感じ取った。
この事実により部屋の中にはミリアとは別の人物が危機に陥っているか、あるいは罠を張って彼を待ち構えているかのどちらかに絞られた。
「おらぁ!」
もっとも、既にミミックによって全身を丸ごと飲み込まれたサージである。臆することなく、その正体を見極めるために扉を蹴り開けた。
「きゃああ!」
罠の発動か敵の不意打ちを予想していたサージだったが、部屋の中に入った彼を出迎えたのは、荒々しい来訪に驚く若い女の悲鳴だ。
部屋の照明によって、暗闇に慣れたサージの目に声の主が浮かび上がる。その女は部屋の中央に置かれた豪華な寝台の上で足を折り曲げ、尻と腿が下になるように座っていた。濡れたような長い黒髪が特徴的で、露出の高い官能的なドレスを纏っている。
適度に盛り上がった胸と見事な曲線を描く腰部、怯えた表情でサージを見つめる顔つきも整っており、ミリアやローザと比べても勝るとも劣らぬ美女だった。
部屋の内装も貴族趣味をより色濃くした豪華な家具で満たされており華やかだ。特に印象的なのは壁に飾られた等身大の絵画である。踊り子と思われる半裸の女が浮かべる笑みは臨場感に溢れている。どうやらここは単純な寝室ではなく、快楽のために用意された部屋だと思われた。
だが、そんな淫靡な場所にそぐわない唯一の〝物〟が存在する。黒髪の美女を縛る枷だ。彼女は左足首を醜い鉄の枷と鎖で寝台に繋ぎ止められていた。
この状況からして、彼女はジェダのために用意された贄と推測するのが妥当だろう。最上級のバンパイアでは食事も厳選されるようだ。
「あ、あなたは? い、いえ! どうか・・・お助け下さい!!」
無言のまま自分と部屋の内部を値踏みするサージに対して、驚きから回復したのだろう自らの運命を嘆くように黒髪の女が改めて助けを求めた。
その悲しげな旋律は左側の通路の先から泉のようにこんこんと湧き出しており、サージの胸に僅かながら憐憫の情を思い起こさせた。いずれにしても彼は次の行き先を決めるために、それまで歩んでいた進撃を止めざるを得なかった。
「うむ・・・」
泣き声の唯一の心当たりであるミリアのことを思いながらサージは考えを巡らす。これまで保留としていたが、そろそろはっきりさせる必要があるようだ。ジェダを倒してから彼女を助けるか、助けてからジェダを倒すかのどちらを選択するかである。
仮にこの泣き声がミリアのものだったとして、泣いているということは少なくても生存している証拠でもある。それなら後回しにしても良いだろうと思える。むしろミリアには一度、敵の止めを盗られている。彼女がジェダとの決戦の場にいないのはサージにとっては好都合だ。
そのように判断しながら彼は、左側を避けて正面の通路へ足を踏み出そうとした。
「・・・ああ!! ・・・きゃあ!! ・・・いや!!」
だが、それまで悲しみに打ちひしがれたような泣き声が突然、苦痛に喘ぐ悲鳴に変る。石壁で幾重にも反響しているため、判別は難しいがミリアの声色とは僅かに違うようにも感じられる。だが、確実に否定出来る要素もない。少なくても若い女であるのは確実だった。
「・・・仕方ないな・・・」
そう呟くとサージは行く先を左の通路へと変えた。それはミリアの状況を案じたのもあるが、理由の半分はこの作為的な現象を確かめるためだった。声の主が彼女ならそのまま助ければ良いし、仮に罠だったとしても敵がどんな策略を練っていたのか見定めることが出来る。彼にとってはどちらでも構わなかった。
「・・・助けて! 誰か! お願い!」
しばらく道なりに進み、サージは通路の突き当りである扉の前に到着する。いつしか悲鳴は懇願に変っており、声の主はこの扉の先で助けを待っているらしい。
流石にここまで近づけばその声の詳しく分析することが可能だ。サージの耳は声の主がミリアとは別人であると断定する。声色はかなり似ているが〝錬体術〟で強化された彼の耳は僅かな違いを感じ取った。
この事実により部屋の中にはミリアとは別の人物が危機に陥っているか、あるいは罠を張って彼を待ち構えているかのどちらかに絞られた。
「おらぁ!」
もっとも、既にミミックによって全身を丸ごと飲み込まれたサージである。臆することなく、その正体を見極めるために扉を蹴り開けた。
「きゃああ!」
罠の発動か敵の不意打ちを予想していたサージだったが、部屋の中に入った彼を出迎えたのは、荒々しい来訪に驚く若い女の悲鳴だ。
部屋の照明によって、暗闇に慣れたサージの目に声の主が浮かび上がる。その女は部屋の中央に置かれた豪華な寝台の上で足を折り曲げ、尻と腿が下になるように座っていた。濡れたような長い黒髪が特徴的で、露出の高い官能的なドレスを纏っている。
適度に盛り上がった胸と見事な曲線を描く腰部、怯えた表情でサージを見つめる顔つきも整っており、ミリアやローザと比べても勝るとも劣らぬ美女だった。
部屋の内装も貴族趣味をより色濃くした豪華な家具で満たされており華やかだ。特に印象的なのは壁に飾られた等身大の絵画である。踊り子と思われる半裸の女が浮かべる笑みは臨場感に溢れている。どうやらここは単純な寝室ではなく、快楽のために用意された部屋だと思われた。
だが、そんな淫靡な場所にそぐわない唯一の〝物〟が存在する。黒髪の美女を縛る枷だ。彼女は左足首を醜い鉄の枷と鎖で寝台に繋ぎ止められていた。
この状況からして、彼女はジェダのために用意された贄と推測するのが妥当だろう。最上級のバンパイアでは食事も厳選されるようだ。
「あ、あなたは? い、いえ! どうか・・・お助け下さい!!」
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