スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

文字の大きさ
42 / 56

その42

しおりを挟む
「サージ!!」
 待ち望んでいたサージが現れたことでミリアは、その整った顔に最高潮の喜色を浮かべる。いつのも傲慢な態度がこれほど頼もしく見えるなど、彼女も思っていなかったことだ。
「礼儀がなってないな・・・姉さん、友達は選ぶべきじゃないか?」
 サージを一瞥したジェダは興奮する姉を横目に呆れたように告げる。この男、姉を救出にやって来た仲間らしいが、どう見ても傭兵崩れのならず者だ。敵対関係にあるとは言え、この程度の輩(やから)しか集められなかった彼女の境遇を気の毒に思ったのである。
「俺が粗忽(そこつ)なのは認めるが、バンパイア風情に礼儀を語られるほどじゃない。さっさとミリアを放して俺と勝負しろ!」
「言うじゃないか・・・ここに辿り着くまでには、私の側近達がいたはずだが?」
 長剣を突きつけて挑発するサージにジェダは苦笑を漏らしながら問い掛ける。頭の中まで筋肉が詰まっていると思われた男だが、嫌味を返せるだけの機転はあるようだ。
「さあな・・・答えるまでもないだろう」
「なるほど・・・愚問だったな」
 ヘリオとエリンダ、イリアの三人は自身の眷属の中でもトップスリーとも言える実力者である。彼らが人間如きに容易く倒させるとは思えなかったが、この不遜な男がここに現れたということは、そういうことなのだろう。
「納得したか! なら死ね!」
 厳密に言えばエリンダとイリアの二人は見逃していたのだが、サージもわざわざ〝チクる〟ことはせずに、最低限の口上は終えたとして戦いの幕を自ら開ける。

「ふ!」
 間合いを詰めるサージに対して、ジェダは羽交い絞めにしていたミリアの身体を投げ出す形で押し付ける。さすがのバンパイアも実力が未知数の相手に姉を抱えたまま挑む気はなかったのである。
「サージ! 踏んで!」
 だが、二人が衝突する寸前、ミリアが素早く床に転がりサージはまるで打ち合わせをしていたように彼女の肩を踏み台にして乗り越える。そして、その勢いを乗せたまま上段からジェダの頭を真っ二つにするべく長剣を振り下ろした。
「な! 貴様、姉さんを足蹴したな!!」
 その強烈な斬撃と言うよりは、姉を迷わず足蹴にしたサージの行動に対して驚きの声を上げながらジェダは後ろに退く。現在のミリアは肩が大きく開いた純白のドレスを纏っている。中身は別にしても、その姿はこれ以上の淑女はないと断言しても良いほどだ。そんな姉を躊躇なく踏みつけたサージに対する怒りだった。
「ん?!」
 そんなジェダの反応にサージは眉を顰める。彼とて好き好んでミリアを踏み付けたのではない。衝突を避けて攻撃を続ける手段としたまでだ。それにこれはミリア自身が望んだことであるし、そもそも敵であるジェダが気にするような事案とは思えなかったのである。

「サージ! 今まで隠していたけど、その男・・・ジェダは私の弟なの。誤解を招くと思って、今まで伝えることが出来なかった・・・」
「ああ、そういうことか・・・確かに、同じ色の髪をして・・・顔付きも少し似ているな」
 立ち上がりながら真実を告白するミリアの言葉に、サージは淡々と相槌を打つ。
「ふふふ・・・ええ、少しだけ似ているかもね」
 ミリアはサージの少し〝ズレた〟返答に苦笑を漏らしながら肯定する。詳しい事情を知らない者でも、光沢のある濃い金髪と瓜二つとばかりに似た顔を持つ自分とジェダの二人が並んでいれば、真っ先に血縁関係を想定するだろうし、伯爵の姉となれば貴族の一員だ。
 もっとも、ミリアはサージとの初対面で危うく彼に殺されそうになったことを忘れていない。なんとか宥めて仲間に勧誘することが出来たが、サージはその時になって初めて自分を麗しい美女と認めたのである。彼にとって、敵の身分や顔付きなど眼中にないのだ。
「・・・ところでサージ、ローザとリーザの二人は?!」
「もちろん無事だ。脱出の準備をしている」
「良かった・・・」
 サージという男を再認識したところで、ミリアは残りの仲間であるローザ姉妹の安否を気遣い、その返事に安堵する。

「で、倒してしまっても構わないよな?」
「・・・それは・・・」
 本題とばかり問い掛けるサージの確認にミリアは、一瞬の間を置く。〝混沌〟に魅入られた弟を倒す決意は既に二年前に完了したつもりでいたが、それを第三者から改めて問われると、はっきり口にするには僅かな躊躇(ためら)いがあった。
「もちろんよ!!」
 だが、彼女は毅然とした判断を下す。ジェダを倒さなければ、彼の復讐と野望によって多くの災害がこの国のみならず、人間社会に齎せられるだろう。そんなことは、あの優しかった母は求めていないと。
「了解した」
「ありがとう・・・」
 ミリアの判断にサージは頷く。その短い返答にこの男が何を思ったのかは、彼女も窺い知ることは出来ない。もしかしたら、本当に何も考えていないのかもしれない。それでも、ミリアは彼の不器用な優しさに礼を告げるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...