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その52
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「うう、まだ・・・これからが・・・」
祠を取り巻く結界とその中に至る青銅の扉を破壊したミリアは〝スマッシャー〟の柄を頼りに上体を起こした。
限界を超える魔力を注ぎ込んだことで、無事な部位を探すのが不可能なほど全身が激痛に苛まれているが、ここで休むわけにいかない。現時点では〝墓所〟を護る結界を抉じ開けたに過ぎない。ジェダと〝混沌〟の結び付きを断つには祠の中に隠されている〝墓所〟そのものを破壊する必要があるからだ。それ故にミリアは片足を引き摺りながら、前進を続ける。ジェダと〝邪神〟の野望を完全に滅ぼすために。
禍々しい〝レグルス神〟の気配が満ちる中をミリアは自身が打ち破った青銅の扉を越えて果敢にも突き進む、そして彼女は擦れる目で暗闇の中に浮かび上がる一つの石棺を発見する。
これこそがジェダの〝墓所〟に間違いないだろう。ミリアは老婆が階段を登るように慎重に〝スマッシャー〟を頭上に振り上げた。既に愛用の斧を振るうことさえ、今の彼女には大仕事となっている。いつ気絶してもおかしくない状況だった。
〝墓所〟とは真祖のバンパイアが〝邪神〟への忠誠を誓った土の保管場所を意味する。〝邪神〟に魅入れた者は自らの首を斬り裂いて命を捧げることによって不死の存在に転生するのだが、その行為は〝邪神〟への貢物であると同時に肉体を失った神にこの世界に直接介入するための〝道〟を作る儀式魔法でもあった。
忠誠を誓って自ら命の絶った者の血がしみ込んだ土は強力な呪物となり、魂だけの存在となった〝邪神〟の力を崇拝者であるバンパイアに〝加護〟として与えるだけでなく、この世界に〝邪神〟の意志を伝える〝道〟となった。
そんな〝邪神〟との〝契約書〟とも言える〝墓所〟だが、理論的に破壊することは難しくない。結論から言えば〝邪神〟に聖別化された土を散らかしてしまえば〝加護〟の供給を止めることが出来る。どんなに強力であっても、儀式なので、その様式を保持出来なくすれば効果が失われる。そして、その状態でバンパイアの肉体を破壊すれば、完全に滅ぼすことが可能となった。
ジェダとの決着を果たすべくミリアが戦斧を振り下ろそうとした瞬間、唐突な浮遊感に襲われる。歯を食いしばって激痛を訴える身体のコントロールを維持しようとするが、バランスを崩してその場に倒れてしまう。頭を打ちつけないよう最低限の受身を取るのが精一杯だ。
〝墓所〟を破壊するために再び立ち上がろうとミリアは四肢に力を込めるが、地面に向って抑え込むような激しい振動がそれを許さないとばかりに邪魔をする。この時になって彼女は自分が転倒した原因を知る。自分の体力の限界ではなく、中庭あるいは、城ごと揺らす激しい地震によって引き起こされたのだと。
「サージ!!」
弱った身体では立ち上がることも出来ない振動の中でミリアは真っ先にサージの名を口にする。揺れ方からして、この激しい地震は地下施設の崩落によって引き起こされたに違いないないからだ。地中深くに生き埋めにされてしまっては流石の彼も成す術がない。その無事を祈らずにはいられなかった。
思えばサージという男は全てにおいて謎に満ちた存在だった。過去の経歴は一切不明で、サージと言う名も本名である確証はなく、正確な年齢も不明だ。規格外の戦闘力を持ちながら、それを自身の野望に費やすようなことはなく、人類の敵とも言える〝混沌の僕〟を個人的な趣味として倒して回っていただけだ。
彼の性質はお世辞にも良いとは言えず粗野で直情的だ。そのせいで初対面では殺されかけもしたが、理を訴えれば素直に聞き入れる柔軟性は備えており、こちらが悪意を持たない限り話しの通じる相手でもあった。
ミリアにとって当初、サージとの出会いはあくまで偶然であり〝スレイヤー・ギルド〟に勧誘したのも〝錬体術〟を高度に操る謎の魔法剣士を野放しにするくらいなら、ある程度でも〝ギルド〟の管理化に置く方が良いという判断からだった。彼との出会いが停滞していた自分の運命を動かす梃子なるとは、ミリア自身もこの時には思いもよらなかったことである。
サージとの邂逅以降、まるで歯車が噛み合ったようにミリアの悲願が動き出した。元は彼の加入を渋った支部長の嫌がらせではあったが、これにより貴族であるジェダ討伐が解禁されたのだ。〝スレイヤー・ギルド〟の総力を挙げた任務ではないが、王族との婚姻を目論んでいた弟を止める絶妙なタイミングでの決起だった。
この時からミリアはサージとの出会いに運命を感じ始めていた。彼は〝秩序の神々〟がジェダと戦う自分を援護するために、この地上世界に送ってくれた〝勇者〟と呼ぶべき存在なのではないかと思えたのだ。もっとも、これはあくまで確証のない仮定である。彼女の都合の良い解釈とも言えた。
客観的な事実は、サージと言う男を本人の了承があるとはいえ、自分が立ち向かうべき運命に巻き込んだだけである。何の対価や見返りを求めずに命を賭けて〝混沌の下僕〟と戦うサージの安否は、ミリアにとって自身の命よりも大事な事象だった。
祠を取り巻く結界とその中に至る青銅の扉を破壊したミリアは〝スマッシャー〟の柄を頼りに上体を起こした。
限界を超える魔力を注ぎ込んだことで、無事な部位を探すのが不可能なほど全身が激痛に苛まれているが、ここで休むわけにいかない。現時点では〝墓所〟を護る結界を抉じ開けたに過ぎない。ジェダと〝混沌〟の結び付きを断つには祠の中に隠されている〝墓所〟そのものを破壊する必要があるからだ。それ故にミリアは片足を引き摺りながら、前進を続ける。ジェダと〝邪神〟の野望を完全に滅ぼすために。
禍々しい〝レグルス神〟の気配が満ちる中をミリアは自身が打ち破った青銅の扉を越えて果敢にも突き進む、そして彼女は擦れる目で暗闇の中に浮かび上がる一つの石棺を発見する。
これこそがジェダの〝墓所〟に間違いないだろう。ミリアは老婆が階段を登るように慎重に〝スマッシャー〟を頭上に振り上げた。既に愛用の斧を振るうことさえ、今の彼女には大仕事となっている。いつ気絶してもおかしくない状況だった。
〝墓所〟とは真祖のバンパイアが〝邪神〟への忠誠を誓った土の保管場所を意味する。〝邪神〟に魅入れた者は自らの首を斬り裂いて命を捧げることによって不死の存在に転生するのだが、その行為は〝邪神〟への貢物であると同時に肉体を失った神にこの世界に直接介入するための〝道〟を作る儀式魔法でもあった。
忠誠を誓って自ら命の絶った者の血がしみ込んだ土は強力な呪物となり、魂だけの存在となった〝邪神〟の力を崇拝者であるバンパイアに〝加護〟として与えるだけでなく、この世界に〝邪神〟の意志を伝える〝道〟となった。
そんな〝邪神〟との〝契約書〟とも言える〝墓所〟だが、理論的に破壊することは難しくない。結論から言えば〝邪神〟に聖別化された土を散らかしてしまえば〝加護〟の供給を止めることが出来る。どんなに強力であっても、儀式なので、その様式を保持出来なくすれば効果が失われる。そして、その状態でバンパイアの肉体を破壊すれば、完全に滅ぼすことが可能となった。
ジェダとの決着を果たすべくミリアが戦斧を振り下ろそうとした瞬間、唐突な浮遊感に襲われる。歯を食いしばって激痛を訴える身体のコントロールを維持しようとするが、バランスを崩してその場に倒れてしまう。頭を打ちつけないよう最低限の受身を取るのが精一杯だ。
〝墓所〟を破壊するために再び立ち上がろうとミリアは四肢に力を込めるが、地面に向って抑え込むような激しい振動がそれを許さないとばかりに邪魔をする。この時になって彼女は自分が転倒した原因を知る。自分の体力の限界ではなく、中庭あるいは、城ごと揺らす激しい地震によって引き起こされたのだと。
「サージ!!」
弱った身体では立ち上がることも出来ない振動の中でミリアは真っ先にサージの名を口にする。揺れ方からして、この激しい地震は地下施設の崩落によって引き起こされたに違いないないからだ。地中深くに生き埋めにされてしまっては流石の彼も成す術がない。その無事を祈らずにはいられなかった。
思えばサージという男は全てにおいて謎に満ちた存在だった。過去の経歴は一切不明で、サージと言う名も本名である確証はなく、正確な年齢も不明だ。規格外の戦闘力を持ちながら、それを自身の野望に費やすようなことはなく、人類の敵とも言える〝混沌の僕〟を個人的な趣味として倒して回っていただけだ。
彼の性質はお世辞にも良いとは言えず粗野で直情的だ。そのせいで初対面では殺されかけもしたが、理を訴えれば素直に聞き入れる柔軟性は備えており、こちらが悪意を持たない限り話しの通じる相手でもあった。
ミリアにとって当初、サージとの出会いはあくまで偶然であり〝スレイヤー・ギルド〟に勧誘したのも〝錬体術〟を高度に操る謎の魔法剣士を野放しにするくらいなら、ある程度でも〝ギルド〟の管理化に置く方が良いという判断からだった。彼との出会いが停滞していた自分の運命を動かす梃子なるとは、ミリア自身もこの時には思いもよらなかったことである。
サージとの邂逅以降、まるで歯車が噛み合ったようにミリアの悲願が動き出した。元は彼の加入を渋った支部長の嫌がらせではあったが、これにより貴族であるジェダ討伐が解禁されたのだ。〝スレイヤー・ギルド〟の総力を挙げた任務ではないが、王族との婚姻を目論んでいた弟を止める絶妙なタイミングでの決起だった。
この時からミリアはサージとの出会いに運命を感じ始めていた。彼は〝秩序の神々〟がジェダと戦う自分を援護するために、この地上世界に送ってくれた〝勇者〟と呼ぶべき存在なのではないかと思えたのだ。もっとも、これはあくまで確証のない仮定である。彼女の都合の良い解釈とも言えた。
客観的な事実は、サージと言う男を本人の了承があるとはいえ、自分が立ち向かうべき運命に巻き込んだだけである。何の対価や見返りを求めずに命を賭けて〝混沌の下僕〟と戦うサージの安否は、ミリアにとって自身の命よりも大事な事象だった。
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