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その53
しおりを挟む「全ての善き神々よ! 彼にご加護を!!」
サージの無事を神々への祈りながらミリアは未だ余韻が残る揺れの中、〝クラッシャー〟を杖代わりにしながら立ち上がる。既に痛みのことなどは概念からも消えていた。サージなら、あの男なら、きっとこの絶対的な危機をも涼しい顔をして乗り越えるだろう。今やるべきことは絶望に打ちひしがれることではなく、ジェダの〝墓所〟を破壊することなのだと自分に言い聞かせる。
「これで・・・全てに決着を!!」
決意を叫びながらミリアによって大きく振り下ろされた古代の戦斧は今度こそと、狙いを誤ることなく石棺の蓋のみならず全体を半分に打ち砕く。更に彼女が割れた石棺を横から薙ぎ払ったことにより、石棺は幾辺の欠片になりながら、中に収納されていた黒い土塊を祠の床に散乱させた。
「神々よこの地に〝祝福〟を!!」
最後にミリアはダメ押しとして祠に散らばった土に対して〝祝福〟の魔法を授けた。
〝錬体術〟を主軸にして戦う彼女ではあるが、体系としては神聖魔法に分類される魔法も扱うことが出来た。神聖魔法は魔力を消費することによって高次元の存在である神に自身の願いを届けさせる魔法系統である。単純な魔力の総量や強さだけでなく、神への信仰心が重要な要素を秘めている。
そのため生来の魔力が低い者でも信仰心次第では神の力を借りることによって、大きな効果を生むことが可能だった。ジェダが〝邪神〟に忠誠を誓ってバンパイアに転生した儀式も広義にはこの神聖魔法の一つである。
ちなみにミリアの神聖魔法の技量はそれほど高くない。その理由は、彼女が信仰しているのが特定の一柱だけなのではなく〝秩序の神々〟を均等に敬愛しているからだ。
このような信仰概念はこの世界では珍しくはなく、むしろ一般的だ。元より人間は〝神代の大戦〟において〝秩序の神々〟について戦っている。自陣営の神々を丸ごと支援するのは当然とも言えた。もっとも、信仰される神からすれば自分だけを信仰する信者の方が可愛く思えるだろうし、強い〝加護〟を与えたくなるはずだ。それ故にミリアが扱える神聖魔法は〝祝福〟のような初期の魔法に限られていた。
そのミリアが使用した〝祝福〟はその名の通り、神の祝福を対象者や対象物に与える魔法である。〝祝福〟といってもバンパイアであるジェダが〝邪神〟から授けられたような圧倒的な〝加護〟ではく、敵対的な呪いや魔法への抵抗力を僅かに上げる程度のモノでしかない。だが、今の状況では〝邪神〟レゼルスの縄張りだった場所に〝秩序の神々〟の祝福を与えたわけであり、それを上書きする効果があった。
わかりやすく例えるならば、証拠となる契約書を細かく破いたあとにインクをぶちまけて書かれていた文字さえも読めなくしたような状況と言える。ミリアは〝墓所〟の破壊に成功したのだった。
「やった・・・遂に墓所を・・・」
「よ・・・よくも、やってくれたな、姉さん!!」
本懐を遂げてその場に崩れ落ちるミリアの耳に、いつの間にか這い寄るように現れたジェダの声が響く。その台詞には激しい憤怒の念が込められているが、ミリアが戦慄したのは自分に向けられた弟の怒りではなく、彼が単独でこの場に現れた事実に対してである。
サージが無事ならジェダを猟犬のように追い掛けて来るはずだからだ。この事実はあの男が地下に生き埋めになったことを示していた。神々はサージに対しては祝福を与えてくれなかったのだ。
「・・・ああ!」
それでもミリアは悲しみを忘れて立ち上がろうとするが、ジェダがそれを許すはずもなく背後から押さえ付けられてしまう。
「二年前に取り逃がした姉さんが、いつか止めにやってくるとは思っていたが・・・ここまで手ずらされるとは予想外だったよ!! まさか僕の〝墓所〟を台無しにしてしまうとはね!!」
「ジェダ・・・あなたはもう不死でもなんでもないわ! 今その肉体を破壊すれば、あなたは滅び・・・うぐ!!」
耳元で責めるジェダにミリアは事実を突きつけるが、腕を捩じられたことで悲鳴を漏らす。もはや彼女には抵抗する力は残されていなかった。
「ふふ、確かに〝墓所〟は穢されてしまったけど、また新しく創り出すのは不可能じゃない! 材料は目の前にあるしね!!」
「な、なんですって!!」
「言葉通りの意味だよ、姉さん! 僕は自分の命を捧げることでバンパイアに転生して〝墓所〟を創り出したが・・・双子の姉の命はきっと〝レグルス神〟にも気に入って頂けるだろう!」
命を賭ける想いで破壊した〝墓所〟を再び創り出すというジェダの言葉にミリアは驚愕するが、当の本人は子供に諭すように告げる。
「馬鹿な・・・いや、確かに私は・・・」
否定しようとしたミリアだったが、途中でその言葉を飲み込む。自分とジェダは間違いなく双子の姉弟である。今では道を違えたとはいえ、その霊質は極めて酷似しているし、何より麗しい美少女でもある。〝邪神〟に捧げる生贄としては申し分がなかった。
「残念だよ・・・姉さん・・・せっかく、眷属にしてあげようと思っていたのに! おっと!! 自死なんてしないでくれよ!」
ミリアの次の行動を読んだのだろう。ジェダはミリアの下顎を抑えつける。これで舌を噛み切ることも不可能となった。
「うぐぐぐ!!」
悔し涙を流しながらミリアはジェダを振り払おうと必死にもがくが、魔力を枯渇させた彼女にバンパイアに対抗する力はない。まるで赤子の用に成す術なく取り抑えられてしまう。
弟の過ちと野望を止めるために、ここまで苦心を費やして追い詰めながらも、却って血を分けた姉であることが災いしてジェダに再起の機会を与えることになるとは運命の皮肉としか言いようがない。ミリアにとっては〝スレイヤー・ギルド〟に身を投じた二年の歳月だけでなく、自分の人生全てを否定されたのも一緒だった。
「そうだ! 姉さん! もっと絶望してくれ! 我が神よ! 大いなるレゼルスよ! 今一度、御身に贄を捧げましょう!」
姉の魂が黒く濁る様を見たジェダは歓喜と〝邪神〟を讃える声を上げながら、ミリアに首に自身の尖った爪を突き付ける。後はその白い首筋を斬り裂いて鮮血を床に散った土に振り掛けるだけである。それで自分は再びレゼルス神の〝加護〟を得られるはずだった。
「な!!!」
だが、ジェダは突然、大事な生贄であるミリアを投げ捨てるように解放すると、その場から後ろに退避する。一瞬の間を置いて二人がそれまでいた足元から、突如として光の柱が間欠泉のように湧き上がる。それは射線上に存在するものは如何なる存在であろうと消し去る〝閃光砲〟の光だった。
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