ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

文字の大きさ
23 / 33

第二十二話

しおりを挟む
「これは・・・」
 イサリアが口澱んだ意味をヒロキは理解した。何しろその横穴の先は、これまで磨き上げられた石材によって構成されていた地下通路とは違い、岩盤を削ったような荒々しい岩肌が剥き出しの天然洞窟となっていたからだ。
「エリザはこの先に・・・」
 導き役の本人のクロリスも部屋に開いた穴から洞窟の先を見つめながら声を細める。この中に足を踏み入れるには本能的な抵抗を覚えたのだろう。
 同じ地下とはいえ、人間の手が加えられた石壁の空間と天然の洞窟とでは心理的な圧迫感がまるで違う。洞窟の先を照らし出しているヒロキも天井が崩れるのではないかと、不安から上ばかりを見つめてしまう。
「・・・外側に向かって石壁が崩されている。誰かが意図的に洞窟側への入口を作ったようだな。それも最近だ」
 ヒロキ達が洞窟に対して嫌悪を覚えている間にイサリアは自身の見聞を口にする。彼女の言う通り、石壁の残骸と思われる石材が洞窟に向かって散らばっていた。その状態から、この横穴が最近になって作られたことが確認出来る。
「ここから、エリザさんを攫った犯人が入って来たってこと?」
「いや、違う。いつものヒロキらしくないな。・・・外から壁を開けようとして、外側に残骸が崩れるわけがない。崩れるなら反対側だ。これはこちら側から開けたのだ。おそらくは学院が管理している地下迷宮の範囲から逃れるためだろう。ここから先は学院にとって想定外の空間だ。何かをするにはその方が都合良い。これを開けた者は予め地下に隣接する洞窟のことを知っていたのだろう」
「なるほど・・・。その何かって何?」
 勘違いを指摘されたヒロキだが、納得しながら話を促す。話の主軸を見抜くのは彼の長所だ。
「・・・例えば魔法儀式よ。この迷宮内は学院の管理化にあるから、あまりに強力な魔力を行使すれば上で控えている導師達に気付かれてしまう。ミーレが使うには過分な魔力を感じれば、導師達も不審に思うに決まっている・・・ここまでして行う魔法儀式・・・エリザを代償に・・・ああ!彼女の身が心配だわ!」
「それって・・・まさか・・・生贄の儀式ってこと?!」

 イサリアに代わってややヒステリー気味に答えるクロリスの言葉に、ヒロキは具体的な脅威を告げる。この世界では個人が持つ魔力で賄えない魔法を行使する際に、身代わりとも言える代償を用意する場合があると彼は聞かされている。
 実際、自分がイサリアにこの世界に呼び出された召喚魔法もその方法を使って実施されていた。この場合は高価な魔鉱石と呼ばれる魔力を帯びた鉱石が大量に使われたらしいが、もっと安価な代償も存在する。それが生贄だ。
 生きた動物を儀式に則って殺害することで、その生命力を魔力に変換することが可能らしい。更に人間を使えばその生贄にされる人間が持つ魔力と生命力が合わさって膨大な魔力を捻出できるとのことだった。以前、学院長がイサリアをきつく問い詰めたのもこういった事情があったからだ。
「そうだ。その可能性は否定できない・・・エリザの才能からすれば代償としての価値は非常に高い。まさかとは思うが・・・」
「わかった!急ごう!」
 最悪の可能性をイサリアも認めたことで、ヒロキはと率先して洞窟内に歩み出す。未知の場所への恐怖はあったが、親友の安否に怯えるクロリスの強張った顔を見ると、自分が男であることを自覚せざるを得なかった。

 洞窟内部に侵入したヒロキ達はしばらくして、小川のように流れる地下水脈に遭遇する。そこで改めて確認を行い、エリザの反応を示す下流に進路を取る。おそらくはこの洞窟は地下水脈が長い年月を掛けて作り上げた空間なのだろう。
 水は極めて清潔でそのまま飲料水としても利用出来そうだが、洞窟内の肌寒い気温からすると水温はかなり低いと思われた。そのため彼らは洞窟の中央を流れる水脈を避けて、足を濡らさないよう細心の注意を心掛けた。
「前方に光が見える」
 先頭を歩くヒロキはイサリア達に報告を行う。青白く輝く点は彼が照らしている魔法の光とは間違いなく別の光源だ。
「そのようだ・・・それにここより先は人の手が加えられた跡がある」
 イサリアの指摘どおり光に続く通路は地下水脈とは別の方向に続いていた。どうやったか知れないが表面が粘土のように滑らかになっている。
「・・・泥状に変換した後に再硬化させたのだ。前方からは殆ど魔力を感じない、罠等はないはずだ。この機会に一気に突入しよう。クロリスもいいな?!」
「ああ!」
「うん・・・」
 イサリアの提案にヒロキとクロリスは承諾を返す。魔法を使った土木作業技術はともかく、前方の光源にエリザが捕らわれているか、少なくても何らかの手掛かりがあるのは間違いないと思われた。
 敵の存在は不明だが、魔法の脅威を感じないのならばこちらから不意を突くのは有効な作戦だろう。ヒロキは先鋒として早足気味に光源へと接近を開始した。

 ヒロキ達の予測は直ぐに確証に変った。前方の光源、広間と思わしき空間に突入した彼らは地面に横たわっている銀髪の女性を発見したからだ。敵の存在も想定していたが、幸いにしてエリザと思われる女性以外の人影は見られない。
「エリザか!」
 おそらくはエリザの物なのだろう。床に投げ出された杖を光源とする淡い光の中でイサリアは銀髪の女性に呼び掛ける。
 その声に反応して女性は顔を上げるが、銀色の髪に隠された顔には猿轡が噛まされていて、手足は縄で自由が奪われていることがわかった。それでも整った顔付きとサファイアのように青い瞳からエリザ本人であることが確認出来る。
「待て、今それを外してやる!そんなに叫んでも意味がないぞ!涎を垂らすだけだ!ヒロキも手伝ってくれ!」
 イサリアの姿を認識したエリザは激しく声を上げようとするが、当然のことながら猿轡によってその声は醜い呻き声にしか聞こえない。
 状況としては酷い有様だがライバルの滑稽な様子にイサリアは苦笑を漏らす。もっとも、エリザには暴れるだけの体力があるという証拠でもあった。
 助けを頼まれたヒロキはエリザの後ろに回り込んで彼女の猿轡を外そうと結び目を解こうとするが、その間にも彼女はイサリアとヒロキに血走った視線を送って狂ったように喚き立てている。
 彼は何とか湿り気を帯びた猿轡を外してエリザの顔を露わにさせた。次は手足の縛めだが、こちらは腰の短剣で切断した方が早いと思われた。本来は儀礼的な装飾品であり、滅多なことで抜くなと言われた短剣だが、この状況で文句を言う者はいないだろう。
「ク・・・ゲホッ!クロリ・・・クロリスよ!彼女に!」
「大丈夫だ、心配ない。クロリスもここに来ている」
 咳と涎を撒き散らしながらエリザが必死に訴え掛けるので、ヒロキは彼女の手足の縛めを切るのに手間取る。手元を誤ると彼女の身体を傷つけてしまうからだ。この時彼はイサリアと同様にエリザが親友の安否を気に掛けているのだろうと思っていた。
「違う!クロリスに・・・」
 再度訴え掛けようとするエリザだが、イサリアがその場に崩れ落ちるように倒れると言葉を飲み込んだ。
 ヒロキも倒れる物音を聞くと縄を切る作業を中断し、何事かと顔を上げる。その視界に力なく倒れているイサリアの姿を捉えるが、何が起きたのかは理解出来なかった。それでも一瞬の驚きを乗り越えるとイサリアを助けるべく立ち上がろうとした。
「イサリア!」
「ヒロキ君・・・エリザから離れて!それと例の水晶球は下に置いて転がし成さない!杖に手を掛けたらイサリアの命はないわよ!」
 これまで暗闇の奥にいたクロリスが姿を現しながらヒロキに警告を発する。光源を宿している杖は作業の邪魔にならないように床に置いており、手から放していた。
 エリザの物と合わせて下から放たれる光の影響ためだろうか、クロリスの顔は冷たく険しく見える。杖を構えてこちらを静かに見つめる姿はまるで初めて見る人物のようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!

小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。 これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。 真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

処理中です...