ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

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第二十八話

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「おお、ヒロキ。目を覚ましたな!」
 ヒロキの心配は直ぐに取り越し苦労となる。何しろ彼の心配の渦中にあったイサリア本人が食事を乗せたお盆を持って現れたからだ。
 暗い地下で見た彼女の姿は幻想的であったが、やはり明るい場所で見るイサリアの整った顔は素晴らしい。特に今その顔には零れるような満面の笑みで飾られている。血色も良く健康体そのものだ。
「ああ、イサリア!良かった無事だったんだ!」
「うむ、昨晩は見苦しいところを見せてしまったが、一晩寝たので魔力の枯渇はすっかり回復した。・・・それと私個人としては悪い気はしないのだが、ここには私達以外の人間もいる。あまり大きい声を出さない方が良いだろう」
「そ、そうか・・・ごめん・・・」
 上半身を起こしてイサリアを出迎えたヒロキだったが、彼女の指摘に声を潜める。彼女に再び会えた嬉しさで思わず声を張り上げてしまったが、ここは病室だ。確かに騒いで良い場所ではない。
「いや、謝る程のことではないがな。とりあえず空腹だろうと思って食事を持ってきたぞ」
「おお、ありがとう。腹ペコだったんだ」
「うむ、そうであろうな。導師シャルレーが医療所付きのミゴールに食事の配膳を命じていたので、その役目を代わってもらったのだ」
「まじか、イサリアに気を使わせちゃったな」
「まあ、私のために瀕死の怪我を負わせてしまったようなものだからな、これくらいはしてやらんと。・・・そうだ、せっかくだから私が食べさせてやろう」
「え、ちょっと、そんな・・・」
 イサリアは脇の台に乗せたお盆からポタージュと思われる半粘液状の料理をスプーンで掬うと、ヒロキの口に近づける。献身的な介護ではあるが、自分で食事が摂れないほど弱っていないヒロキとしては、感謝よりも恥ずかしさの方が強かった。
「どうした?そうか・・・熱いと思っているのだな。・・・これでどうだ」
 何を勘違いしたのかイサリアは掬ったスプーンに自分の息を二回ほど吹きかけて冷まそうとする。
「ほら、口を開けるがよい」
 そこまでされるとヒロキも嬉しくないわけがなく、再度食事を促されたヒロキは照れつつもスプーンを口に含もうと口を開けた。
「・・・あれ?」
「・・・まさか、私がそこまですると本気で思ったのか?」
 いつまでたっても口に運ばれないことに疑問に思ったヒロキが改めてイサリアに視線を送ると、込み上げる笑いを堪えるように小刻みに震える彼女の姿を見つける。
「くそ!!また騙したな!イサリアの性悪!」
 先程の忠告を無視するようにヒロキは怒りを爆発させるが、イサリアはその口にスプーンを突っ込む。予期しないタイミングで放り込まれた食事にヒロキは咽ないように呼吸を整えるのに苦労するが、口に広がる粥のようなポタージュの味は空きっ腹の彼にとって甘露にも思える美味しさだった。
「ふふふ、騙したわけではないぞ!ヒロキの反応が見たかっただけだ。本当に君は期待を裏切らないな!」
「それを性悪って言うんだよ!」
 頃合いと見たのかイサリアはヒロキの口からスプーンを引き抜くと、そのまま彼の右手に差し出す。ここから先は自分で食べろということだろう。彼も文句を言いながらもそれを受け取った。身体は正直で更なる栄養を求めていたからだ。
「まあ、そんなに怒るな!私とヒロキの仲ではないか」
「ふん・・・」
 脇の台に置いていたお盆をヒロキの腿に乗せるとイサリアは甘えたような声を出す。一時は腹を立てていた彼もこれらがイサリア流の愛情表現であることを思い出すと、溜飲を下げる。何しろ彼女にこんなことをされる者はこの世界〝アデムス〟でも自分一人であろうという自負があったからだ。

「つまりはエリザもミゴールの昇格が認められるってこと?」
 病人向けだったのだろう流動食とも言えるポタージュの食事を終えたヒロキは、確認も兼ねてイサリアに問い掛ける。彼女と再会を果たし安否が判明したことで、話題は自然と陰謀に巻き込まれたミゴール昇格試験に移っていた。
「ああ、試験が妨害されてしまったからな。エリザが事件の報告に戻った段階でリタイアしていなかった受験者はそのまま合格が認められ、水晶を割ったエリザも帝国の危機をいち早く伝えた判断と行動はミゴール昇格に相応しいと判断されたようだ。もっとも、導師達にとっても今回の事件は寝耳に水であったらしく、対応に追われていて正式な発表はもう少し先になるだろうな」
「そうか・・・もう、そっちの面はもう心配しなくて良いんだな」
「うむ。だから、学院長を始めとする導師達の関心も、逃げたクロリスとその仲間、ルキノス派への対応に焦点が集まっている。西の辺境に追いやっていたと思われる反乱分子のルキノス派が、帝国内で陰謀を画策するほど中枢に入り込んでいたのだからな。学院だけでなく帝国そのものを揺るがす事件だ。これから〝鷹の学院〟だけでなく帝国内で大がかりなスパイ狩りが行なわれるだろう」
「まじか・・・」
 イサリアの見解にヒロキは溜息を吐く。この世界に限らず政治に強い関心を持っていない彼でも、スパイ狩りという言葉が持つ負のイメージを実感することが出来た。
 ルキノス派がどの程度の力を蓄えているかは知れないが、将来の幹部を養成する〝鷹の院〟にミーレとして紛れ込ませるほどだ、体制側としては大きな失策をしていたことになる。対抗する手段も大胆になるに違いなかった。
「まあ、ヒロキにとっては余談のようなものだがな・・・」
「そうだ・・・あと一週間もすれば、この世界だけでなくイサリアとも別れを告げるんだな・・・ううう・・・」
 イサリアの言葉で重大な事実を思い出されたヒロキは、寝台の上で膝を抱えるように蹲って嗚咽を漏らす。
「・・・最初に約束したではないか、ヒロキ泣かないでくれ・・・私も辛いのだ・・」
 それが呼び水となったようにイサリアの瞳にも涙が溢れる。彼女はヒロキと自分を癒すために彼の背中を撫でようとした。
「ははは、実は嘘泣きでした!あれ?!イサリア、泣いているのかな?」
「・・・こ、これはたまたまだ・・・いや!おのれヒロキ!乙女も謀るとは男の風上に置いておけぬ!恥を知れ!」
 突然顔を上げて笑い声を上げるヒロキに対して、イサリアは顔を真っ赤にして抗議の声を上げる。
「これまで騙されたお返しだ!むしろこれでおあいこだろう!」
「くそ!ヒロキのくせに!」
「ヒロキのくせにってなんだよ!」
「ヒロキにヒロキのくせにと言って何が悪い!」
「・・・君達。ここがどこか理解しているかな?」
「ご、ごめんなさい!!」
「こ、これはその!」
 意味不明な言い合いを始めるヒロキとイサリアだったが、奥からシャルレーが現れると同時に謝罪を口にする。いつもはミステリアスな笑みを湛えている彼女だが、この時ばかりは目が笑っていない。
 静穏が求められる治療所で喧嘩を始めた彼らに対して、堪忍袋の緒を切れる寸前といった具合だ。その後ヒロキはそんなに元気が有り余っているならと治療所を追い出されることになった。
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