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序幕 星暦1247年・白塔の祈り
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白塔《アルカ・ブラン》最上階、星観の間。
そこは神殿であり、天文台であり、裁定の場でもあった。
円環状に並ぶ十二の玉座は、白金色の光を放ち、中心の円卓を囲んでいる。
円卓の表面には、黄道十二宮を象った星図が浮かび、星々の運行に合わせて、微細に脈動していた。
天井は水晶。
夜空そのものを切り取ったかのような透明度で、星暦の刻限に従い、恒星と惑星が静かに巡る。
雲はなく、風もない。
この場所では、自然ですら“理”に従う。
十二人の白き総帥が、席についていた。
白髪。白眼。
強靭な体躯と、異様なまでに整った静謐。
彼らは人でありながら、すでに半ば“星の装置”であった。
最初に口を開いたのは、第七宮――天秤公正(あまはかり こうせい)
「――盟約の輝きが、弱まりつつある」
その声は低く、平板で、感情の起伏を一切含まない。
彼の前に展開された星図には、黄道十二宮を結ぶ白金の光帯が映し出されている。
本来、完全な円を描くはずのそれに、わずかな歪みが生じていた。
裂け目、と呼ぶには小さすぎる。
だが、“誤差”と呼ぶには、致命的だった。
「誤差幅は?」
水瓶創機(すいびん そうき)が、左目の単眼鏡を調整する。
魔導分析装置が唸りを上げ、星光を数値へと変換していく。
「許容範囲の下限を、0.03%下回っている。自然劣化と断定するには、早すぎるな」
「千年が経過した」
天秤公正は淡々と続ける。
「星の盟約は永久ではない。いずれ綻びは生じる。
問題は――」
「それが“必然”か、“干渉”か、だ」
双河知音(そうが ちいね)が言葉を受け取る。
柔らかな微笑を浮かべたまま、視線は星図の深部を覗き込んでいた。
すぐ隣で、智影(さとかげ)が同じ調子で続ける。
「星の記憶《アーカイヴ・アストラル》を照合した。
過去七百年、同様の歪みは確認されていない」
一瞬の間。
「外部要因の可能性、87%」
その数値に、ざわめきは起こらない。
ここにいる者たちは、数字を感情で受け取らない。
だが、円卓の空気は、確実に重くなった。
「外部だろうが、内側だろうが――」
白羊炎牙(はくよう えんが)が、拳を円卓に叩きつけた。白金の星図が、衝撃に合わせて波打つ。
「敵がいるなら、叩き潰すだけだ! 星の均衡を乱す奴は、この炎で焼き尽くしてやる!」
その熱量は、場にそぐわない。だが誰も咎めない。
彼の役割が“そうである”ことを、全員が理解しているからだ。
「落ち着け、白羊」
金牛巌(かなうし いわお)の声が、低く、地を這うように響いた。彼は一切動かず、ただ星図の歪みを見つめている。
「敵を知らぬまま動くのは無策だ。まずは各宮、自国領域の魔素濃度を再測定せよ」
「結界、星門、民間星祭――すべてだ」
「異変は、必ずどこかに兆す」
総帥たちは、無言で頷いた。その瞬間、十二の意思は、完全に重なっていた。
理性、秩序、星の理。
感情は、戒律によって封じられ、個の迷いは許されない。
彼らは「白の柱」であり、世界を支える構造体そのものだ。
――本来ならば。
だが、円卓の誰もが、言葉にしない違和感を抱いていた。
星図の歪みではない。数値でも、兆候でもない。
もっと原始的なもので、もっと、人間的な感覚。
星々が、沈黙している。
いつもなら、星観の間では、微かに“応答”がある。星の記憶が、白の血に触れ、静かな共鳴を生む。だが今夜、それがない。
魚住夢幻(うおすみ むげん)が、ふと呟いた。
「……星が、夢を見ていない」
誰も問い返さなかった。
彼の言葉は、いつも説明にならず、だが的を外さない。天井の水晶越しに、星々は巡り続けている。
完璧な軌道で、寸分の狂いもなく。
だからこそ。
――何かが、確実に、狂い始めている。
白塔の祈りは、静かに続く。
だがこの夜を境に、星の秩序は、もはや“守るもの”ではなく、“問われるもの”へと変わっていた。
おまけ
乙女(女性向け)ゲームに向かってシコるケプラー
その後ろで包丁を持った魚住と水瓶
そこは神殿であり、天文台であり、裁定の場でもあった。
円環状に並ぶ十二の玉座は、白金色の光を放ち、中心の円卓を囲んでいる。
円卓の表面には、黄道十二宮を象った星図が浮かび、星々の運行に合わせて、微細に脈動していた。
天井は水晶。
夜空そのものを切り取ったかのような透明度で、星暦の刻限に従い、恒星と惑星が静かに巡る。
雲はなく、風もない。
この場所では、自然ですら“理”に従う。
十二人の白き総帥が、席についていた。
白髪。白眼。
強靭な体躯と、異様なまでに整った静謐。
彼らは人でありながら、すでに半ば“星の装置”であった。
最初に口を開いたのは、第七宮――天秤公正(あまはかり こうせい)
「――盟約の輝きが、弱まりつつある」
その声は低く、平板で、感情の起伏を一切含まない。
彼の前に展開された星図には、黄道十二宮を結ぶ白金の光帯が映し出されている。
本来、完全な円を描くはずのそれに、わずかな歪みが生じていた。
裂け目、と呼ぶには小さすぎる。
だが、“誤差”と呼ぶには、致命的だった。
「誤差幅は?」
水瓶創機(すいびん そうき)が、左目の単眼鏡を調整する。
魔導分析装置が唸りを上げ、星光を数値へと変換していく。
「許容範囲の下限を、0.03%下回っている。自然劣化と断定するには、早すぎるな」
「千年が経過した」
天秤公正は淡々と続ける。
「星の盟約は永久ではない。いずれ綻びは生じる。
問題は――」
「それが“必然”か、“干渉”か、だ」
双河知音(そうが ちいね)が言葉を受け取る。
柔らかな微笑を浮かべたまま、視線は星図の深部を覗き込んでいた。
すぐ隣で、智影(さとかげ)が同じ調子で続ける。
「星の記憶《アーカイヴ・アストラル》を照合した。
過去七百年、同様の歪みは確認されていない」
一瞬の間。
「外部要因の可能性、87%」
その数値に、ざわめきは起こらない。
ここにいる者たちは、数字を感情で受け取らない。
だが、円卓の空気は、確実に重くなった。
「外部だろうが、内側だろうが――」
白羊炎牙(はくよう えんが)が、拳を円卓に叩きつけた。白金の星図が、衝撃に合わせて波打つ。
「敵がいるなら、叩き潰すだけだ! 星の均衡を乱す奴は、この炎で焼き尽くしてやる!」
その熱量は、場にそぐわない。だが誰も咎めない。
彼の役割が“そうである”ことを、全員が理解しているからだ。
「落ち着け、白羊」
金牛巌(かなうし いわお)の声が、低く、地を這うように響いた。彼は一切動かず、ただ星図の歪みを見つめている。
「敵を知らぬまま動くのは無策だ。まずは各宮、自国領域の魔素濃度を再測定せよ」
「結界、星門、民間星祭――すべてだ」
「異変は、必ずどこかに兆す」
総帥たちは、無言で頷いた。その瞬間、十二の意思は、完全に重なっていた。
理性、秩序、星の理。
感情は、戒律によって封じられ、個の迷いは許されない。
彼らは「白の柱」であり、世界を支える構造体そのものだ。
――本来ならば。
だが、円卓の誰もが、言葉にしない違和感を抱いていた。
星図の歪みではない。数値でも、兆候でもない。
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星々が、沈黙している。
いつもなら、星観の間では、微かに“応答”がある。星の記憶が、白の血に触れ、静かな共鳴を生む。だが今夜、それがない。
魚住夢幻(うおすみ むげん)が、ふと呟いた。
「……星が、夢を見ていない」
誰も問い返さなかった。
彼の言葉は、いつも説明にならず、だが的を外さない。天井の水晶越しに、星々は巡り続けている。
完璧な軌道で、寸分の狂いもなく。
だからこそ。
――何かが、確実に、狂い始めている。
白塔の祈りは、静かに続く。
だがこの夜を境に、星の秩序は、もはや“守るもの”ではなく、“問われるもの”へと変わっていた。
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