白の星環 -ZODIAC LEGION-

桂圭人

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第二章 分断と対立

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白塔・緊急会議「星観の間」
白塔《アルカ・ブラン》に、再び十二の総帥が集められた。
だが、序幕の夜とは違う。
円卓の白金光は鈍く、星図の脈動は不規則だった。
天井の水晶に映る星々は、正確な軌道を描いているにもかかわらず、どこか“冷たすぎる”。

「各宮より、異常報告が相次いでいる」

天秤公正の声が、会議を切り裂く。
彼の前に、複数の星図と数値が重ねて投影された。

「豊穣国――作物は最適な成長率のみを示し、個体差が消失。畑は幾何学模様のように均質化している」

映像には、完璧に揃った麦穂が映る。
美しい。
だが、生き物の姿ではなかった。

「潮守国――潮汐は星位計算通りにのみ発生。嵐も、凪も、誤差なく制御されている」

「夢織国――」

一瞬、間が置かれる。

「住民の夢が、同一内容に収束。同じ夜、同じ情景、同じ結末を見ている」

会議場に、沈黙が落ちた。
夢とは、本来、最も個人的で、最も制御不能な領域だ。
そこにまで“秩序”が侵食している。
獅堂煌帝(しどう こうてい)が、低く唸るように言った。

「……これは、星の理の行使ではない」

白い瞳が、鋭く光る。

「理の“運用”ではなく、理の“強制”だ」

「その通りだ」

双河知音と智影が、ほぼ同時に声を重ねた。
二人の間に、古代文献が展開される。
星暦二百年代の記録。
すでに封印指定された思想文書。

「大賢者ケプラー」

知音が告げる。

「星の盟約を補完する理論として、『永遠の天球儀』を提唱した存在」

「人の生を星図として固定し、最も秩序的な未来のみを許容する思想」

智影が続ける。

「その結論は――自由意志の完全否定」

ざわめきが、円卓を巡った。
千年前に封印された名。
白の戒律を生んだ時代の、もう一つの到達点。

「……なぜ今だ」

誰かが、絞り出すように言った。

「我々の側に、原因があるからだ」

処音清雅(ところね せいが)が、静かに口を開く。
その声は穏やかだが、今まで一度も、この場で向けられたことのない“問い”を含んでいた。

「感情を抑圧するあまり、心に歪みを生じさせている者がいる」

数名の総帥が、わずかに身じろぎする。

「その“不完全さ”こそが、完璧を求めるケプラーの思想と共鳴したのではないか」

「……我々は、純白戒律を“防壁”としてきた」

清雅の白い瞳に、初めて苦悩が滲む。

「だが、抑え込んだ感情は消えない。歪みとなり、沈殿し、やがて――」

「ふざけるな!」

白羊炎牙が、勢いよく立ち上がった。
円卓の星図が、衝撃に揺れる。

「純白戒律があったからこそ、僕たちは金血の暴走を抑え、世界を守ってきた!」

炎のような視線が、清雅を射抜く。

「それを疑うのは、千年の盟約そのものを否定する行為だ!」

「疑っているのではない」

清雅は、視線を逸らさない。

「理解しようとしている」

その声は、静かだが揺るがない。

「感情と理性は、敵なのか。排除する以外に、道はないのか」

「星盟律典に反する!」

「戒律を破れば、金砂化が起こる!」

複数の声が、同時に上がった。
白羊。
金牛。
天秤。
蠍。
彼らは、秩序の側に立つ。
一方で。
巨蟹波守は、拳を握りしめたまま俯いている。
処音清雅は、静かに立ち続ける。
射馬疾風は、苛立ちを隠そうともしない。
魚住夢幻は、遠くを見るように天井の星を見つめていた。

「……星が、泣いている」

誰にも向けられない、独り言。
獅堂、双河、山賀(さんが)、水瓶は、沈黙を選ぶ。
王として、賢者として、まだ、決めきれずに。
円卓は、二つに割れた。
いや――
もともと一つではなかったものが、ついに表に出ただけだ。
そして、その分断こそが――
“彼”の望んだ形だった。

その夜。
白塔・地下封印区にて、白塔の最深部。
星光が届かず、祈りの声も届かない場所。
古代の扉が、そこにある。
表面を覆うのは、複雑に絡み合う星図。
その中心に刻まれた文字。
――ケプラーの法。
ひとつの影が、扉の前に立っていた。
総帥ではない。
だが、白の血に近い。
震える手が、星図に触れる。

「……ようやく、目覚めの時が来た」

低く、冷たい声が、扉の向こうから響いた。

「君たち白き者の矛盾が、僕の封印を解く」

声には、怒りも喜びもない。
ただ、確信だけがある。

「完璧を求めながら、不完全な存在であることに苦しむ」

「その軋みこそが、僕を呼んだ」

影は、かすれた声で答える。

「あなたの世界なら……」

指先が、石に食い込む。

「苦しまなくて済む。すべてが決まっているなら、迷わずに済む」

沈黙。
やがて、声が応えた。

「そうだ。君の願いは、合理的だ。僕は、それを叶えよう」

星図が、回転を始める。
封印が、音を立てて解けていく。
扉の向こうから現れたのは、星々をまとった巨人のような存在。
白髪、白眼。
だが、その瞳には、人間の温度が、一切ない。
肌には、天球儀と軌道環の文様、世界そのものを測るための肉体。

――星の法則を統べる者。

ケプラー。

彼は、静かに告げた。

「秩序とは、慈悲だ。迷いも、悲しみも、すべて計算すれば、消える」

その瞬間。
星環大陸のどこかで、誰かが初めて“自分の意志”を失った。
盟約の亀裂は、もはや戻らない。


おまけ 
ケプラーのぼやき
「どうせ、合体して1つにしろとか。みんな同じなんだから、まとめたらどうだとか。均一でよく出来たねって、ネタ切れにも程があるってとか。イケメンしかいねぇから、どうせ女しか寄ってこないとか。老人年齢も見た目だけ若くすればいいんじゃねとか、どうせ、見た目老人だと寄らないしな」
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