ZODIAC ORDER the over world

桂圭人

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最終章「語られなかったものの終わり」

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スコリスが消えてから、一ヶ月が過ぎた。
世界は、確かに平和になっていた。
六恋仏の影響を受けた人々の感情は、時間とともに少しずつ元の形を取り戻し、街には笑顔が戻った。カフェには賑わいが戻り、通りには何気ない会話が溢れている。
異常のない、平凡な日常。
誰もが、それを当然のように受け入れていた。
ゾディアックオーダー本部。
そこだけが、世界から切り離されたかのように静まり返っていた。
空気は重く、沈黙が常に漂っている。
かつての緊張感とも、活気とも違う、何かを失ったあとの静けさだった。
リブリウスは、もう議長ではなかった。
公平性を失った彼は、自らその座を降りた。
今は一隊員として、淡々と任務をこなしている。

「……長じゃなくても、何でもいい」

それが彼の口癖になっていた。

「仕事ができれば、それでいい」

言葉は軽くても、声には重みが残っていた。
アリエスの炎は、いまだ安定しない。
感情が揺れた瞬間、意図せず火花が散ることもある。

「生きてりゃ、何とかなるさ」

彼はそう言って笑う。だが、その目の奥には、拭いきれない疲労が沈んでいた。
サジタリオンは、本部にほとんど姿を見せなくなった。

「自由を愛しすぎて、居場所を失った」

自嘲気味にそう言うが、風の矢は定まらず、彼自身もまた定まらなかった。
ジェミニアの双子は、完全には重ならなくなった。
わずかな時間差。
それは埋まらない溝ではないが、確かに存在する隔たりだった。
それでも二人は寄り添い、手を取り合う。

「これが、私たちの新しい形」

そう言って、静かに笑った。
ピスシアは、現実と夢の境界を見失いつつあった。

「……スコリスが笑ってる夢を見るの」

ぼんやりと呟く。

「でも、現実では消えた」

「どっちが本当なんだろうね」

答えは、どこにもなかった。
キャンサルの癒しは、不完全なままだった。
身体の傷は癒せても、心の痛みには届かない。
彼女は時折、スコリスが消えた天文台跡を訪れる。

「……私は、あなたを癒せなかった」

その言葉は、風に溶けて消えた。
レオニスのカリスマは、完全に失われていた。
人々は彼を王として見ない。
それでも彼は言う。

「王でなくてもいい」

「生きていれば、それで十分だ」

だが、寂しさは隠しきれなかった。
カプリコルヌは、嘘がつけなくなった。
秩序を守るための方便も、誤魔化しも、口にできない。

「真実で秩序を保てるのか」

彼は、その矛盾に苦しみ続けていた。
ヴァルゴリアは、裁きの光しか使えなくなった。
癒しの光は、もう戻らない。

「無垢でありたかった……」

祈るように呟く。

「でも、もう戻れない」

アクアリウムは、誰とも話さなくなった。
未来演算は不安定になり、彼はよく天文台の屋上に立ち、空を見上げている。

「……未来が見えない」

「今しか、見えない」

それは、彼にとって最大の異常だった。
彼はスコリスを殺した。
仲間を殺した。

「必要だった」

そう信じようとするたび、彼女の最後の笑顔が蘇る。
タウルスだけは、ほとんど変わらなかった。

「守ることは、生かすこと」

その信条は揺るがない。
だが、彼女には一人の後輩がいた。名も知られぬ若い隊員。
彼は、倒れながら組織を支えた。
吐血しながら、それでも資料を読み、理論を組み直し、感情制御の基盤を書き換え続けた。
代償を負った先輩たちの分まで、生き残るために。

「恋は、消す。少しずつ、焦らずゆっくり着実へとな。それで、並行しながら、普通の感情を、守る」

その結論に至るまで、彼は何度も倒れ、何度も立ち上がった。
数ヶ月後、ゾディアックオーダーは変質した。
恋を消す組織ではあるものの。
組織全体を強化しつつ、恋を抹消しながら、恋から出てしまう憎しみや狂気も消しながら、普通の感情を守る組織へ。
不思議なことに、その再編が完了した頃、隊員たちは気づく。
失ったはずの力が、戻ってきている。
代償は残っている。
だが、強さは――
かつてと、同じ水準まで。
一年が過ぎた。
世界は平和だった。感情の振幅は小さくなったが、完全には失われていない。
スコリスの椅子は、空いたままだった。
ある夜、リブリウスは夢を見る。

「私は、今もあなたを愛している」

目を覚ました彼は、静かに呟く。

「……そうか」

三年後。
天文台跡に、石碑が立つ。

『ここに、一人の星が消えた』

リブリウスは石を拾う。
温かい、蠍の形の石。

「……ありがとう」

世界は静かに廻り続ける。
語られなかった恋は、消えなかったが、そのうちに気付いて消すことが出来る。
そう、全種類の恋が抹消されて、本当の平和が来るのを人々は、強く待ち望んでいる。
そして、誰も語らない静けさの中で、その想いは――確かに、息づいていた。
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