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ケプラーVSアルゼ
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虚空に浮かぶ天球儀の間。
星々が渦を巻き、重力も上下も意味を失った空間で、二つの思想が正面から向き合っていた。
ケプラーは静かに佇む。白銀に近い瞳は感情を映さず、背後では無数の星軌道が精密な数式のように回転している。
対するアルゼ=シャダは、柔らかな微笑を浮かべていた。視線の奥に宿る光が、空間そのものをわずかに歪ませる。
「宇宙は完璧な法則で動く」
ケプラーの声は低く、冷えている。
「人間の自由意志はノイズだ。君の言う『守護』は、崩壊を遅らせるだけの誤魔化しにすぎぬ。十二宮を解体し、永遠の天球儀を起動する。すべてを軌道に固定せよ。それが真の秩序だ」
アルゼ=シャダは楽しげに肩をすくめる。
「冷たいねえ。でも、嫌いじゃない。君の秩序は星みたいに美しい。でもさ、人類はそんなに単純じゃないんだ。僕の守護は“嘘”で精神を安定させる。真実は刺激が強すぎるからね。戦争の芽を先に摘むほうが、ずっと効率的だと思わない?」
ケプラーは即座に切り返す。
「効率を語るなら、決定論こそ最適解だ。生涯を天球儀に記録し、不要な分岐を改変する。不確定性を排除すれば、悲劇は起こらない。君の嘘は一時的だ。星位予測では、いずれ破綻する」
アルゼの瞳が妖しく揺れ、周囲の星が一瞬、軌道を乱す。
「あは……いいね。君の理論、すごく刺激的だ。認識再構成で、君の記憶を少し覗いてみようか? 感情はノイズだって言うけど、今、君の論理は確実に揺れてる。精神汚染、試してみる?」
「不要だ」
ケプラーが手を上げる。
楕円の呪縛が展開し、アルゼの立つ空間が星の軌跡に固定される。
「秩序とは、哀しみすら計算に含めることだ。君の『愛』は管理にすぎぬ。星の盟約を崩し、世界を天球儀へ変換する。それで結論は出る」
アルゼは拘束されながらも、楽しそうに笑った。
「ふふふ……負けだよ、今回は。でも、君と混ざったら、どんな世界になるんだろうね。楽しみだ。今日は退くよ」
論戦は、ケプラーの勝利で幕を閉じた。
だが、アルゼの言葉は確かに何かを残した。ケプラーの理性には、目に見えない微細な亀裂が走っていた。
数日後。
地上に投影された星空の庭園で、二人は再会する。人工の夜空の下、静かな風が草木を揺らしていた。
「来てくれてありがとう、ケプラー」
アルゼは柔らかく微笑む。
「論戦は君の勝ち。でも、僕の影響もゼロじゃなかったでしょ? 今日は仲直り。星を眺めながら話そう」
ケプラーは無表情のまま、星空を見上げる。
「デイト(デート)は不確定性を増やす行為だ。だが……星位予測では、この接触が秩序的な結果を生む可能性が示されている」
二人は並んで歩く。
アルゼの指先が、ケプラーの法衣に触れる。金色の星図が、淡く光を返した。
「綺麗だね。その星図。君は感情を排除するけど、嘘で守られた世界なら、君の秩序も生きるかもしれない。融合、考えてみない?」
ケプラーは一瞬、言葉を選ぶ。
「融合……新たな軌道か。君の手法は管理だが、法則に近い。運命の天球儀に、君を変数として記録する価値はある」
星空の下、二人は腰を下ろす。
現実がわずかに歪み、人工の星々が静かに瞬いた。
「冷たいのに、妙に刺激的だよ」
アルゼは息を吐き、微笑む。
「仲直りだね。次は勝つけど、今は……この時間を楽しもう」
「秩序の中に、君の要素を組み込む」
ケプラーは淡々と告げる。
「永遠の天球儀は、より完全になるかもしれぬ」
夜は静かに更けていった。
対立は消えない。だが、思想は絡み合い、奇妙な調和が生まれていた。星々だけが、その証人だった。
翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収された。
星々が渦を巻き、重力も上下も意味を失った空間で、二つの思想が正面から向き合っていた。
ケプラーは静かに佇む。白銀に近い瞳は感情を映さず、背後では無数の星軌道が精密な数式のように回転している。
対するアルゼ=シャダは、柔らかな微笑を浮かべていた。視線の奥に宿る光が、空間そのものをわずかに歪ませる。
「宇宙は完璧な法則で動く」
ケプラーの声は低く、冷えている。
「人間の自由意志はノイズだ。君の言う『守護』は、崩壊を遅らせるだけの誤魔化しにすぎぬ。十二宮を解体し、永遠の天球儀を起動する。すべてを軌道に固定せよ。それが真の秩序だ」
アルゼ=シャダは楽しげに肩をすくめる。
「冷たいねえ。でも、嫌いじゃない。君の秩序は星みたいに美しい。でもさ、人類はそんなに単純じゃないんだ。僕の守護は“嘘”で精神を安定させる。真実は刺激が強すぎるからね。戦争の芽を先に摘むほうが、ずっと効率的だと思わない?」
ケプラーは即座に切り返す。
「効率を語るなら、決定論こそ最適解だ。生涯を天球儀に記録し、不要な分岐を改変する。不確定性を排除すれば、悲劇は起こらない。君の嘘は一時的だ。星位予測では、いずれ破綻する」
アルゼの瞳が妖しく揺れ、周囲の星が一瞬、軌道を乱す。
「あは……いいね。君の理論、すごく刺激的だ。認識再構成で、君の記憶を少し覗いてみようか? 感情はノイズだって言うけど、今、君の論理は確実に揺れてる。精神汚染、試してみる?」
「不要だ」
ケプラーが手を上げる。
楕円の呪縛が展開し、アルゼの立つ空間が星の軌跡に固定される。
「秩序とは、哀しみすら計算に含めることだ。君の『愛』は管理にすぎぬ。星の盟約を崩し、世界を天球儀へ変換する。それで結論は出る」
アルゼは拘束されながらも、楽しそうに笑った。
「ふふふ……負けだよ、今回は。でも、君と混ざったら、どんな世界になるんだろうね。楽しみだ。今日は退くよ」
論戦は、ケプラーの勝利で幕を閉じた。
だが、アルゼの言葉は確かに何かを残した。ケプラーの理性には、目に見えない微細な亀裂が走っていた。
数日後。
地上に投影された星空の庭園で、二人は再会する。人工の夜空の下、静かな風が草木を揺らしていた。
「来てくれてありがとう、ケプラー」
アルゼは柔らかく微笑む。
「論戦は君の勝ち。でも、僕の影響もゼロじゃなかったでしょ? 今日は仲直り。星を眺めながら話そう」
ケプラーは無表情のまま、星空を見上げる。
「デイト(デート)は不確定性を増やす行為だ。だが……星位予測では、この接触が秩序的な結果を生む可能性が示されている」
二人は並んで歩く。
アルゼの指先が、ケプラーの法衣に触れる。金色の星図が、淡く光を返した。
「綺麗だね。その星図。君は感情を排除するけど、嘘で守られた世界なら、君の秩序も生きるかもしれない。融合、考えてみない?」
ケプラーは一瞬、言葉を選ぶ。
「融合……新たな軌道か。君の手法は管理だが、法則に近い。運命の天球儀に、君を変数として記録する価値はある」
星空の下、二人は腰を下ろす。
現実がわずかに歪み、人工の星々が静かに瞬いた。
「冷たいのに、妙に刺激的だよ」
アルゼは息を吐き、微笑む。
「仲直りだね。次は勝つけど、今は……この時間を楽しもう」
「秩序の中に、君の要素を組み込む」
ケプラーは淡々と告げる。
「永遠の天球儀は、より完全になるかもしれぬ」
夜は静かに更けていった。
対立は消えない。だが、思想は絡み合い、奇妙な調和が生まれていた。星々だけが、その証人だった。
翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収された。
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