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サンタさん
しおりを挟む12月22日、すっかり街はクリスマス色に染まろうとしていた。
駅前に見えたのは、せっせとイルミネーションやクリスマスツリーの準備をしている人たち。
駅と一体化しているような自然豊かで大きな公園では、すでにカラフルなイルミネーションが飾られ駅のホームに負けず光を放っている。
それらに影響されたように、通り過ぎる店にもちらほらと装飾が施されていた。
けれど、それを眺める隆也の表情は少し曇っていた。
「先輩、どうかしたんですか?」
少し沈黙になったことで後輩の篠川が聞いてきた。今年入社した新米だ。
「そういえば、篠川君はこのあたりに住んでるんだっけ?」
「そうですよ。結構近くてーこのあたりには結構遊びに来たりしましたよ。」
クシャっとした笑顔で篠川は答えた。
「へーそうなんだ。じゃあここのあたりって昔からこんな感じなの?」
街の装飾を見ながらふときいてみた。
「何がですか?」
「この装飾とかだよ。子供のころからこんなに華やかにしてたの?」
「ああ、先輩はこの街に来て3年目でしたっけ。そうですよ、駅周辺はイルミネーションがすごくて昔から有名だったんです。」
確かにこの時期になるとイルミネーション見たさに駅周辺が混雑しているのをよく目にする。
「子供の頃は、毎年ある公園のイベントに家族と行ってました。そういえば高校に入ってぐらいからずっと行ってませんね。」
「なに仲悪くなっちゃったの?」
「そんなんじゃないですよ。ほら思春期ですよ、思春期。高校性くらいになると家族と一緒にいるのがなんか恥ずかしくなりません?」
「まー、わからなくないけど。じゃあ彼女と行ったってことね。」
「そうそう彼女と一緒にイルミネーションをー、って彼女いなかったですよ!」
「あはは。」
「あははじゃないですよ。まったくー。あっそういえば忘年会ってどんな感じなんですか?」
今日は仕事の帰り際に社内で忘年会の話題が出た。
結局今年も宴会好きな鈴木部長が行先の店を決めるらしい。
「んーそうだなー。楽しいけど、飲み会ってより宴会ってイメージだね。」
「へー宴会ですか。宴会って言ったらなんか芸をしたりするイメージがありますけど。」
「するよ。」
「えっ。」
「部長がね。」
「あー、なんかやりそーな人ですもんねー。」
「そうそう、酔っぱらうと抑えがきかなくなっちゃってさー。もう全部服脱いだり。」
「ええーもうそれはダメなやつじゃないですか!」
「さすがにそこまではいかないけどね。」
「あーよかった。」
「でも止めないと脱いじゃうから大変だよ。」
「ははは、それはそれでたいへんそうですね。」
そんな他愛ない話をしているといつの間にか駅の目の前まで着いていた。
駅のホーム前にはまだ飾りが施されていないものの、大きなクリスマスツリーがそびえたっていた。
その横に広がる自然豊かな公園には、かなりの数のイルミネーションが輝いているのが見える。
少し奥を覗いてみると大きな広場があり、ステージのようなものも見えた。
そのステージ周辺で赤と白の目立つ格好をした大柄な人が子供と遊んでいるのを見た。
「サンタさんじゃん。」
「どれですか? ああ、あのおじさんですか?近所では有名なんですよ。近所のサンタさん、なんて呼ばれているくらいで。」
「へー、近所のサンタさんかー。」
「僕も子供の頃よく遊んでもらってましたから。」
懐かしいなあとつぶやいている篠川が、ふと何かを思い出したかのように目を丸くさせた。
「そういえばクリスマスじゃないですか!」
「え、今気づいたの。」
「だってだって最近忙しくなってきたじゃないですかー。だからー」
「さすがにイルミネーションとかで気づかない?」
「社会人になるとこーー、年末ーとか忘年会ーっていうほうが大きくなっちゃって。」
そういえばその通りだった。クリスマスに何か特別なことをするなんて社会人になってからは少しもなかった。他人ごとではない。
「そういえば、公園でイベントか何かあるんだったっけ?」
「そうですよ。ステージでの催し物とか屋台とかあるんですよ。」
「お祭りみたいじゃん。」
「そう、お祭りみたいで楽しいんですよ。」
イベントの話や過去の話で少し盛り上がった後、そろそろ帰ろうかと言っていつものように満員電車に乗り、僕らは家路についた。
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