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電車の中の偶然
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次の日。毎年恒例の繁忙期の季節が来たということを思い知らされた。年末に向けた仕事でみんなピリピリしている。
そんな中後輩に任せた仕事がいつまでも報告しに来ないと思って様子を見に行った。
すると、なにやら一人であちらこちらと慌ただしくしている後輩の姿があった。
篠原君と言いかけた瞬間、思い詰めた顔でこちらに振り向いた。
「先輩、どうしましょう。。。」
「どうかしたの?」
「先輩から仕事もらったじゃないですかー。そ、それに必要な資料をなくしちゃって。」
聞けば小一時間前から探し続けていたという。
「いい篠原、こういうミスはすぐ報告しないといけないだろ。」
と少し怒りの混じった声で言ってしまった。
自分はまだこの時期の忙しさに慣れてなく、自分の仕事のことだけでも精いっぱいだったから。
結局見つからないまま、また作り直したほうが早いだろうということになってしまった。
ほんとすみませんでした、と何度も頭を下げる姿にさっきの自分の態度に罪悪感を抱く。
自分の仕事に戻り少し急いで終わらせて後輩の残っている仕事を引き受けることにした。
「先輩、すみませんでした。」
「いいよあとはやっとくから。」
いつまでも謝ってきそうな篠川を半分無理やり帰らせた。
篠原は申し訳なさそうに静かにドアに手をかけていた。
「篠原ー。このつけは忘年会で払ってもらうぞー。」
と冗談交じりで言うと社員のみんなも同じように篠川に冗談を言っていた。
すると篠原の表情は少し緩んで、大きな返事をして帰っていった。
午後8時頃、タイムカードを押して隆也は外に出た。
いつもとは少し重い足取りで駅まで歩く。
すっかりあたりも暗くなってイルミネーションは色鮮やかに帰り道を照らしていた。
だけど疲れているせいか、なんとなく味気なく感じる。
気が付くと駅の目の前まで着いていた。
すっかり華々しくなったクリスマスツリーに、イルミネーション。
それを見たさにかなりの人が集まっていて、駅前は賑やかだった。
そんな人たちを横にそそくさと駅の改札を抜け、電車に乗る。
電車内は人がたくさんいたものの、近くに一つ空いた席があったのでそこに座った。
あたりを見渡すと疲れた表情でスマートフォンを触る人たちと、おそらくイルミネーションを見に行っただろう賑やかな人たちとではっきり分かれていた。
僕はスマートフォンを触る気にならなかったので、少し背にもたれてぼんやりしていた。
そのとき一人の男性がゆっくりと目の前に現れてつり革をとった。
かなり大柄なおじさんで190㎝はあるだろうか。
つり革に体重をかける反動で一瞬前のめりになったので少し驚いた。
こちらに少しお辞儀をして体制を整えている。だしぶ疲れているのだろう。
茶色くて厚みのある大きなコートに、白くて長い立派な髭が口元全体を覆っている姿がとても印象的だった。
細い縁の眼鏡越しに見えるきれいな目には、不思議と優しさがあふれているように感じた。
大きなバッグと右手にぶら下げている紙袋を何度もごそごそと動かしているのを見て、思わず席を譲る。
少し遠慮しながらもありがとうございますと、席にどさっと座り込んだ。
そのとき目元がクシャっとなって優しさがあふれ出ていた。
立ち上がってつり革をとった時、紙袋の中に目が行った。
紙袋の中には、その外見に似合わぬほどの赤と白のはっきり分かれている生地が見えた。
サンタクロースの衣装だ。
それを見た瞬間どこか頭の中で整理がついた。
思わず声をかけてしまいその男性は少し驚いた顔をしながらも、優しく微笑んでゆっくりうなずいてくれた。
「あーやっぱり。雰囲気とそれでそうなんじゃないかと。
隆也はおじさんが持っている紙袋に手を指した。
「たしかにこれじゃあバレバレですねー。」
と照れくさそうな笑顔で小さく答えた。
少しの間あたたかな沈黙が流れた後、いろいろと質問してみた。
聞けば、子供たちにサプライズをするのが何よりの楽しみらしい。
「最初は驚いて目を真ん丸にして、それからふわーっと笑顔になるんです。その瞬間が何よりの楽しみですね。」
「確かに子供って純粋に喜びますもんねー。」
「そうなんですよー。もうこっちまでプレゼントをもらった気持ちになりますね。」
と少し会話が盛り上がった後、自宅近くの駅に着いた。
「すみません、では私はここで。」
と言いかけると彼もぼわっと立ち上がった。改めてみるとやっぱり大きい。まるで子供の頃に戻ったような感じがした。
「あっ私もここの駅なんですよ。偶然ですねー。」
とニコッと笑いかけて、一緒に電車を降りた。
こういうのは普通だと気まずくなるけど、不思議と気まずくはならなかった。
そのまま少し世間話をして駅のホームを出た。
帰り際のあいさつをしようとするとふと何かを思い出したかのように、ポケットから紙切れ一枚を出し渡してきた。
「なんですかこれ?」
「さっきの駅の前にある公園で毎年イベントをやるんですけど知ってます?」
「ええ、つい最近知りましたよ。」
「そうだったんですか。実は数量限定でこういうのを渡しているんですよ。」
紙切れの端には点線で囲まれた枠の中にプレゼント引換券と書いてあった。
「何人か行けない人が出て余ってしまいましてね。よかったらどうぞ。」
「あっすみませんが僕も行けないかもしれません。」
「大丈夫ですよ、行けそうになかったら誰かに渡しても構いませんので。」
「そうですか。それじゃあいただいておきます。」
そう言うと彼はにっこりして軽くお辞儀をして去っていった。
誘ってもらえたことは素直にうれしかった。けどきっと行けないだろう。
自宅とは逆方向に帰っていく彼を背に、隆也は家路についた。
そんな中後輩に任せた仕事がいつまでも報告しに来ないと思って様子を見に行った。
すると、なにやら一人であちらこちらと慌ただしくしている後輩の姿があった。
篠原君と言いかけた瞬間、思い詰めた顔でこちらに振り向いた。
「先輩、どうしましょう。。。」
「どうかしたの?」
「先輩から仕事もらったじゃないですかー。そ、それに必要な資料をなくしちゃって。」
聞けば小一時間前から探し続けていたという。
「いい篠原、こういうミスはすぐ報告しないといけないだろ。」
と少し怒りの混じった声で言ってしまった。
自分はまだこの時期の忙しさに慣れてなく、自分の仕事のことだけでも精いっぱいだったから。
結局見つからないまま、また作り直したほうが早いだろうということになってしまった。
ほんとすみませんでした、と何度も頭を下げる姿にさっきの自分の態度に罪悪感を抱く。
自分の仕事に戻り少し急いで終わらせて後輩の残っている仕事を引き受けることにした。
「先輩、すみませんでした。」
「いいよあとはやっとくから。」
いつまでも謝ってきそうな篠川を半分無理やり帰らせた。
篠原は申し訳なさそうに静かにドアに手をかけていた。
「篠原ー。このつけは忘年会で払ってもらうぞー。」
と冗談交じりで言うと社員のみんなも同じように篠川に冗談を言っていた。
すると篠原の表情は少し緩んで、大きな返事をして帰っていった。
午後8時頃、タイムカードを押して隆也は外に出た。
いつもとは少し重い足取りで駅まで歩く。
すっかりあたりも暗くなってイルミネーションは色鮮やかに帰り道を照らしていた。
だけど疲れているせいか、なんとなく味気なく感じる。
気が付くと駅の目の前まで着いていた。
すっかり華々しくなったクリスマスツリーに、イルミネーション。
それを見たさにかなりの人が集まっていて、駅前は賑やかだった。
そんな人たちを横にそそくさと駅の改札を抜け、電車に乗る。
電車内は人がたくさんいたものの、近くに一つ空いた席があったのでそこに座った。
あたりを見渡すと疲れた表情でスマートフォンを触る人たちと、おそらくイルミネーションを見に行っただろう賑やかな人たちとではっきり分かれていた。
僕はスマートフォンを触る気にならなかったので、少し背にもたれてぼんやりしていた。
そのとき一人の男性がゆっくりと目の前に現れてつり革をとった。
かなり大柄なおじさんで190㎝はあるだろうか。
つり革に体重をかける反動で一瞬前のめりになったので少し驚いた。
こちらに少しお辞儀をして体制を整えている。だしぶ疲れているのだろう。
茶色くて厚みのある大きなコートに、白くて長い立派な髭が口元全体を覆っている姿がとても印象的だった。
細い縁の眼鏡越しに見えるきれいな目には、不思議と優しさがあふれているように感じた。
大きなバッグと右手にぶら下げている紙袋を何度もごそごそと動かしているのを見て、思わず席を譲る。
少し遠慮しながらもありがとうございますと、席にどさっと座り込んだ。
そのとき目元がクシャっとなって優しさがあふれ出ていた。
立ち上がってつり革をとった時、紙袋の中に目が行った。
紙袋の中には、その外見に似合わぬほどの赤と白のはっきり分かれている生地が見えた。
サンタクロースの衣装だ。
それを見た瞬間どこか頭の中で整理がついた。
思わず声をかけてしまいその男性は少し驚いた顔をしながらも、優しく微笑んでゆっくりうなずいてくれた。
「あーやっぱり。雰囲気とそれでそうなんじゃないかと。
隆也はおじさんが持っている紙袋に手を指した。
「たしかにこれじゃあバレバレですねー。」
と照れくさそうな笑顔で小さく答えた。
少しの間あたたかな沈黙が流れた後、いろいろと質問してみた。
聞けば、子供たちにサプライズをするのが何よりの楽しみらしい。
「最初は驚いて目を真ん丸にして、それからふわーっと笑顔になるんです。その瞬間が何よりの楽しみですね。」
「確かに子供って純粋に喜びますもんねー。」
「そうなんですよー。もうこっちまでプレゼントをもらった気持ちになりますね。」
と少し会話が盛り上がった後、自宅近くの駅に着いた。
「すみません、では私はここで。」
と言いかけると彼もぼわっと立ち上がった。改めてみるとやっぱり大きい。まるで子供の頃に戻ったような感じがした。
「あっ私もここの駅なんですよ。偶然ですねー。」
とニコッと笑いかけて、一緒に電車を降りた。
こういうのは普通だと気まずくなるけど、不思議と気まずくはならなかった。
そのまま少し世間話をして駅のホームを出た。
帰り際のあいさつをしようとするとふと何かを思い出したかのように、ポケットから紙切れ一枚を出し渡してきた。
「なんですかこれ?」
「さっきの駅の前にある公園で毎年イベントをやるんですけど知ってます?」
「ええ、つい最近知りましたよ。」
「そうだったんですか。実は数量限定でこういうのを渡しているんですよ。」
紙切れの端には点線で囲まれた枠の中にプレゼント引換券と書いてあった。
「何人か行けない人が出て余ってしまいましてね。よかったらどうぞ。」
「あっすみませんが僕も行けないかもしれません。」
「大丈夫ですよ、行けそうになかったら誰かに渡しても構いませんので。」
「そうですか。それじゃあいただいておきます。」
そう言うと彼はにっこりして軽くお辞儀をして去っていった。
誘ってもらえたことは素直にうれしかった。けどきっと行けないだろう。
自宅とは逆方向に帰っていく彼を背に、隆也は家路についた。
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