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8 写真
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セットしたアラームよりも早く起きてしまった俺は家を出るのも早かった。落ち着いて朝ごはんも食べられず、かき込んでしまいむせ返ってしまった俺の様子を見た母さんは、不思議そうに『何してんの?』とだけ一言。心配の仕方がおかしい彼女は、普通に天然っぽい。
「くそ・・・・なんでこんなに緊張しなきゃならないんだ」
誰かに告白するわけでもないのに、口から心臓が出てきそうなくらいバクバクする。そして学校に着いて入った教室には誰もいなくて、ここで初めて少し落ち着きを取り戻した。
「これ・・・と、これと・・・それからこれ」
カバンから取り出した写真を机の上に並べた俺はその写真をじっと見た。選択肢が3つだけとか少なすぎるだろうか。だけど昨日しか時間がなかったから仕方がない。家の中を引っかき回して風景だけが写った写真を3枚掻っ攫ってきた。課題を描く当日の日は、近ければその場に行ってもいいし、遠ければ写真を使って描いても問題ない。ただネットから拾ってきた画像はダメで、人が写っていてもダメだ。純粋にただ風景だけを描く必要がある。
(・・・3枚目とかほとんど覚えてないもんな)
1枚目と2枚目は家族で旅行に行った時に父さんが撮った写真だ。山奥のサービスエリアで、空気が綺麗なところだった。
「あの時の飯美味かったな」
一旦出した写真はそのままに、勉強道具を片付けた俺は時計を見た。時間は7時ピッタリで、教室にはまだ誰も居ない。初日からずっと隣の倉田は俺より先に来ているらしく、毎回教室に入ると必ず目に入るのに、今日に限っては俺の方が早かったらしい。倉田の姿はなかった。
「もしかして今日休む日とかじゃないよな」
月に数回休む日があることは把握してるけど、いつかなんて知らない。理由は知らないがそもそも2年生にもなって同じように休むのだろうか。それさえも謎だ。
時計の針の動きが妙にゆっくりな感じがして、それに耐えられず貧乏揺すりが始まってしまった。だけどそれと同時に教室のドアがガラッと開く音がして、視線をそっちに動かすとそこには倉田の姿があった。
(あ・・・)
来た。
ちゃんと来た。
(・・・当たり前か)
そして教室に入ってくるヤツの様子をなぜかこの時凝視していた俺は、倉田に話しかけられるまでそのことに気がついていなかった。
「何?」
「・・・・え?」
「なんか用?」
多分今考えるとかなり失礼だった気がする。
たいして知らないやつにずっと見られるのって誰でも気分がいいものではない。ただ、この時ばかりはこんな失礼な態度を無意識に取ってしまった自分を褒めてあげたい。
この上ない質問のタイミングに、机の上に並べた写真をここぞとばかりに倉田に見るように促した。
「いきなりごめん・・・こ、この写真なら、倉田はどれがいいと思う?」
無機質な表情に、少し甘さを含んだ目元は全く笑ってなくて、そこに見える瞳は心なしか茶色く見える。全体的に色素が薄いのだろうか、髪も黒くはない。
初めて真正面からコイツの事を見た俺は、動かされたその視線を目で追っていた。
「・・・・」
「昨日美術の時間に先生が言ってただろ。2週間後の授業でやる課題を決めておけって。だからどんな風景にするのか決めようと思って、一応写真持ってきた」
そう言った俺に、倉田は特に反論することなく机の写真を手に取った。この様子を見ると、課題のことを考えていたかは別として、多分先生が言っていた事はちゃんと聞いていたんだと思う。暫く3枚の写真を見ながら、決めたであろうその写真を一番上にして俺の机の上に戻した。
「これでいい」
倉田が選んだのは、3枚のうち一番最後に見ていた写真だった。
「そ、そうか・・・倉田が描きたい画とか他にあるならそれでもいいけど、」
表情が変わらないから本当にいいのか分からない。というか俺がここまでしてあげる義理ってなんだ。『これでいい』という言葉の裏には、なんとなく課題はやる気がないですというニュアンスにも取れた。
(俺が聞かなかったら絶対課題無視してだだろ)
「まぁ、無いなら別にこれでいいんだけど・・・じゃあこれにしよう」
倉田が選んだ写真。
これは俺が産まれて病院から退院した時、母さんが記念にと言って1枚だけ撮った写真だった。
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