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9 一悶着
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この3枚目の写真は、不思議な写真でなぜだか人は写っていない。普通なら親子3人で写っても良さげなのに、なぜだか風景だけしか写っていなかった。
母親に聞くと、どうやら出産後に入院した部屋から見えた景色が忘れられなくて、思い出に撮ったとのことだった。でも場所自体は正確ではなかったらしい。窓の外を見ていたのは常に明け方の4時から5時あたりで、暗い空がだんだんと明るくなる時間帯だったと言っていた。なんでそんな時間に起きてたんだ?と聞いたら、写真を見ながら寂しそうな顔をして『中々眠れなくてね』と当時のことを懐かしむように言っていたっけ。
「く、倉田は画描くの上手いのか?俺は先に言っとくけど下手くそだから、あんまり期待すんなよ」
繁に話しかけるようには上手く行かない。緊張からなのか、気を使ってるからなのか、話し慣れた相手じゃないからなのか、いずれにせよ吃ってしまうのは恥ずかしい。
「普通」
余計な話題は避けて適当に切り上げようと、駆け足に喋ると、なんとまあ短い答えが返ってきた。もうこれは俺と会話をする気がないですという意思表示で間違いない。
「そうか。朝の時間に邪魔して悪かった。2週間後の美術の時間、よろしくな」
またしても気まずい雰囲気だ。でもとりあえず目標にしていた画は決めることができたから、アドバイスをくれた繁に感謝しなければ。
(あとで、アイスとか奢ってやるか)
その日、朝イチでやることが終わったため朝から最後の授業まで俺はウキウキだった。お昼ご飯の時は繁にお礼を込めて500円だけ渡したら、『ふざけてんの?』となぜかキレられ、結局もう300円渡すことになった。
「そういやさ、昨日高瀬と楠木がなんか揉めてたんだよな」
「高瀬と楠木?なんで?あの2人って仲良かったんだっけ?」
6限目の授業が終わり、一足先に帰り支度が出来た繁が俺の教室に現れた。帰りの準備をしている俺の隣に立ちながら別のクラスで起こった事をいつもの調子で話している。
「いや、仲は良くない。というか接点はない」
「?・・・じゃあなんで揉めてたんだ?」
「高瀬って誰かさんと一緒で父ちゃんが医者で実家が金持ちだろ?」
「うん」
「で、楠木はその反対だよな。高瀬が楠木の家のことからかって、金が無い奴が医学部行こうとすんなよって、なんか机蹴飛ばしながら噛み付いたらしいぜ」
「はぁ?なんで?」
詳しく聞くと、そもそもの発端が楠木だったらしい。楠木は正義感の強い奴で、おかしいことはおかしいとはっきり言う性格なのだが、それが欠点になっている事が多く、所謂人から煙たがられるタイプだ。高校生にもなってしかも今の時期、他人に構ってられる暇なんて大してないのに、世話焼きが過ぎる楠木は高瀬に対しても余計な事を言ったようだった。
「バカだな」
「バカだよな。ほっとけばいいのに」
「・・・でもまぁ、金が無くても頭が良ければ医学部には行けるからな。何かしら目的があって行こうとしてるやつのほうが多いから家庭環境で全面的に否定されてもムカつくだけだけど」
俺の家も金持ちじゃない。そりゃあ金があることにこしたことはないが、産まれた家がたまたまここだったから文句なんて言っても仕方がない。親に恵まれた俺はこれ以上望んだら多分罰が当たる。
「確かにそうかもな。そういえば、隣の倉田千秋くんはもう帰ったの?早くない?」
母親に聞くと、どうやら出産後に入院した部屋から見えた景色が忘れられなくて、思い出に撮ったとのことだった。でも場所自体は正確ではなかったらしい。窓の外を見ていたのは常に明け方の4時から5時あたりで、暗い空がだんだんと明るくなる時間帯だったと言っていた。なんでそんな時間に起きてたんだ?と聞いたら、写真を見ながら寂しそうな顔をして『中々眠れなくてね』と当時のことを懐かしむように言っていたっけ。
「く、倉田は画描くの上手いのか?俺は先に言っとくけど下手くそだから、あんまり期待すんなよ」
繁に話しかけるようには上手く行かない。緊張からなのか、気を使ってるからなのか、話し慣れた相手じゃないからなのか、いずれにせよ吃ってしまうのは恥ずかしい。
「普通」
余計な話題は避けて適当に切り上げようと、駆け足に喋ると、なんとまあ短い答えが返ってきた。もうこれは俺と会話をする気がないですという意思表示で間違いない。
「そうか。朝の時間に邪魔して悪かった。2週間後の美術の時間、よろしくな」
またしても気まずい雰囲気だ。でもとりあえず目標にしていた画は決めることができたから、アドバイスをくれた繁に感謝しなければ。
(あとで、アイスとか奢ってやるか)
その日、朝イチでやることが終わったため朝から最後の授業まで俺はウキウキだった。お昼ご飯の時は繁にお礼を込めて500円だけ渡したら、『ふざけてんの?』となぜかキレられ、結局もう300円渡すことになった。
「そういやさ、昨日高瀬と楠木がなんか揉めてたんだよな」
「高瀬と楠木?なんで?あの2人って仲良かったんだっけ?」
6限目の授業が終わり、一足先に帰り支度が出来た繁が俺の教室に現れた。帰りの準備をしている俺の隣に立ちながら別のクラスで起こった事をいつもの調子で話している。
「いや、仲は良くない。というか接点はない」
「?・・・じゃあなんで揉めてたんだ?」
「高瀬って誰かさんと一緒で父ちゃんが医者で実家が金持ちだろ?」
「うん」
「で、楠木はその反対だよな。高瀬が楠木の家のことからかって、金が無い奴が医学部行こうとすんなよって、なんか机蹴飛ばしながら噛み付いたらしいぜ」
「はぁ?なんで?」
詳しく聞くと、そもそもの発端が楠木だったらしい。楠木は正義感の強い奴で、おかしいことはおかしいとはっきり言う性格なのだが、それが欠点になっている事が多く、所謂人から煙たがられるタイプだ。高校生にもなってしかも今の時期、他人に構ってられる暇なんて大してないのに、世話焼きが過ぎる楠木は高瀬に対しても余計な事を言ったようだった。
「バカだな」
「バカだよな。ほっとけばいいのに」
「・・・でもまぁ、金が無くても頭が良ければ医学部には行けるからな。何かしら目的があって行こうとしてるやつのほうが多いから家庭環境で全面的に否定されてもムカつくだけだけど」
俺の家も金持ちじゃない。そりゃあ金があることにこしたことはないが、産まれた家がたまたまここだったから文句なんて言っても仕方がない。親に恵まれた俺はこれ以上望んだら多分罰が当たる。
「確かにそうかもな。そういえば、隣の倉田千秋くんはもう帰ったの?早くない?」
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