4 / 26
4
しおりを挟む副長官から言われた言葉に、彼を見つめ返してそのまま固まった私は、出ない声を出そうと無意識に身体に力を入れていた。
「ちょっと待っていてください。再度医師を呼んできます」
珍しくかけている眼鏡のブリッジを中指でくいっと上げたパーシー副長官は気難しい顔をしながらそう言って席から立ち、ドアの方へ歩いて行った。
(・・・声がでない?なんで?)
喉を絞められた時に声帯の部分が損傷したのだろうか。声の出しすぎとか間違った歌い方で声帯が傷つくことは分かってるけど、絞められてでも傷つくの?
だとしたら医師に診てもらって治療すれば治る?
でも逆に言うと、治療しないと治らない?
(どうしよう・・・そういえば)
首はどうなってるのだろうか。ベッドで横になっていては見ることができない。首に違和感があるから、多分何か巻かれているのだとは思うけど、切られたわけじゃないし、血が出てるわけでもないから包帯自体は不要だと思うのだけれど。
傾けていた首を天井に戻した私は、何も考えられず無の状態になった。そして副長官が部屋から出ていったあとしばらくすると、部屋にまた戸をたたく音が響いた。
コンコン
「・・・・」
ノックをされたところでどうせ私は声が出ない。それに動けないからそのまま入ってくればいいのにと思ってしまったけど、少し忙しない歩幅の違う足音が室内に響いて数秒後、視界には見知らぬ顔が一つ覗き込んできたのが見えてギョッとした。
「エミリア様、私はスペンサーと申します。王都からこの神殿に定期的に派遣されている医師です」
そう自己紹介をしたこの男性は少しお年を召しているように思えた。白髪まじりで、顔にシワがあり、声も少しかすれている。
(王都から・・・こんな人居たんだ)
「先生、申し訳ないのですが、彼女の喉を見てもらえますか。先ほど話そうとした時、声が出ない様子でした。最初に別の者に診てもらった際、声帯は傷付いてないと言われたのですが」
「あぁ、なるほど。そういうことだったんですね。分かりました」
急いできたのだろうか、息が少し上がっていた先生は、副長官の顔を見て頷いてから、私に向き直った。
「申し訳ありません。急遽で来たものですから、最初にエミリア様を処置した医師とは別の者となりますので、エミリア様の喉の状態をまずは確認させていただきます。包帯を取りますから触らさせていただきます。不愉快であれば首を横に振ってください」
(・・・触るのはいいんだけどどんなふうになってるのか鏡が見たい・・・)
特にリアクションは取らず心の中でそう願った私は、先生から目を離しまた天井を見上げた。
◇◇◇
「ひととおり診察を終えました。結論から言うと、声帯は最初の方が診断されたとおり傷ついていません」
「・・・・・」
「そうですか。それなら原因は何なのでしょうかね」
先生の言葉に少し安堵した私は、副長官の言う疑問に耳を傾けた。
(それにしても、魔法で診察なんて・・・何も才がない人間からしたら羨ましいわ)
副長官の質問に先生が少し悩んだ素振りを見せたあと、重苦しそうに口を開いた瞬間、思い出したように副長官が口を挟んだ。
「あぁ、言い忘れていましたが、このことは内密にしていただけますか」
「内密・・・・ですか?」
「はい。内密にお願いします。決して口外しないように。このことはスペンサー先生と私、それからエミリアさんの3人だけが知ることとします。彼女に何か危害が及ぶといけないので。それに万が一外に漏れた場合、知ってる人数が少ないほうが漏らした人を特定しやすいですしね」
「・・・分かりました」
強い視線を医師の先生に送った副長官。圧力をかけるように言い放った不躾な言い方に、先生は頭を下げて了解した。
「それから、先ほどのパーシー副長官のご質問について、エミリアさんには申し訳ないのですが、一度この神殿を離れられたほうがいいかと思われます」
(・・・・え?)
「恐らく声が出ない原因の一つに、精神的なものが関係しているはずです。急激なストレスによって引き起こされたものかもしれませんので、ここから離れて、違う場所で静養してはいかがでしょうか」
(・・そんな)
そんなことをしたら私の生活が危うくなる。突然言われた内容に徐々に心臓がバクバクしてきて、手から冷や汗が出てきそうになった。
両親はすでに他界していて帰る家がないし、知り合いももちろんいない。ここで曲がりなりにも頑張って仕事をしてきたのに、こんな形で首を切られたらたまったもんじゃない。
私は嫌だという意思表示を込めて医師と副長官2人を交互に見ながら首を横に振った。
「そのことについては特に問題ありません」
必死に訴えていると、副長官は少し視線を下げて口を開いた。そういえばさっき明日以降のことについて話をしに来たと言っていたから、きっとそのことと関係しているに違いない。
「ですが」
「その件については大丈夫です。長官とも話し合った結果、エミリアさんにはここを出ていってもらうことにしましたから」
「・・・・」
(え・・・?)
「こんな事件があった以上噂は嫌でも広まります。好奇の目でさらされるでしょう。神殿は注目を集めて目立つ場所ではありませんから、貴方はここから出ていってもらうのが一番だと、そう長官と話し合いました」
いつも聞く穏やかな声とは裏腹に、今日のパーシー副長官はとても冷たくて、棘のある言葉が余計に突き刺さる気がした。前置きもクッションも無く直接的な表現で私の首を宣言した彼は、こんな残酷な人だったのだろうか。
「それに、万が一残るとしてもほかの部署は人が足りていますので引き取り手がいません。貴方は見習いのままずっと過ごしてきていますから、居なくなったところで特段問題はないです。声が出せない以上そもそも仕事になりませんし」
「・・・・」
「3日後にここから出ていってもらいます。最初診てもらった医師からは明日には動けるようになると診断をいただいているので、明日からさっそく準備してください」
声がでないから途中割って入ることもできない。
あまりにも唐突な退去命令と解雇の話に、何も考えられなくて、パーシー副長官に向けていたはずの視線はいつしか外れ、私は何もない空中を見ながら呆然としていた。
「これはお願いではありません、すでに確定事項なので反論は受け付けません。それと、3日後出ていくことも他の人には絶対に言わないでください。話は以上です。それでは先生、執務室に戻りましょう。書類を書いてもらわなければいけませんから、私についてきてください」
パーシー副長官が口を閉ざした直後、私に向けられた視線は2つだった。
一つは副長官からの突き刺さるような冷たい視線。
そしてもう一つは、哀れみが半分入り混じった人を見下すような、そんな視線。
それは今の部署に異動する前、私が神殿の中でたまに感じる視線と同じだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
【本編完結】召喚? 誘拐の間違いでは?
篠月珪霞
恋愛
「…え」
まず聞こえたのは、成功だー!!といういくつもの歓声。それ以降は幾人もの声が混じりあい、何を言っているのか分からなかった。
私、白井瑠璃は、いつものように、出勤するために自宅のドアを開けただけだった。
いつものように、起床し、準備して、仕事が終われば帰宅し、そうした普通の、変わりない毎日を過ごすはずだった。
過去形になったこの日を、きっと忘れることはない。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる