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(時間が経つのが早い・・・)
なんで来てほしくない日は、早く来てしまうのだろうか。
電気もつけない部屋で、窓に備え付けのくすんだ白いカーテンから漏れる光が、ベッドに腰掛けていた私の足を照らしている。片付けて準備が終わり床に置いてある少ない荷物を眺めながら、漠然と明日はどうしようと考えていた。
明日の朝ここを出ていかねばならない。
どうやって生活しよう。
誰も頼りがない。お金も満足にあるわけではない。
(それに・・・)
声が出ないから仕事も探せない。
ほぼ詰んだ状態の自分の今の現状に、湧き上がる涙を無理矢理押さえつけようと、生唾を飲み込んだ私は唇を噛んだ。
(・・・身体が動くのがせめてもの救い)
パーシー副長官に言われた次の日から、体は本当に思いどおり動くようになった。
だけど心は動きが鈍い。ずっと負の感情から逃れられないでいる。何も悪いことをしていないのに、頑張って生きてきたのに、これ以上何を頑張れというのだろうか。
疲れた。もう、本当に嫌だ。
このままいっそ誰か私のことを殺してくれないか。
半ば投げやりに極端なことを柄にもなく考えると、少しだけ気分が楽になる。うわべだけの気分転換に噛んだ唇を無意識に右手で拭ると、手に少し血が滲んでいた。
(・・・・)
現実味のない明日に、もしかしたらこれはまだ夢なのではと何回も思いたくなる。そんなとき、部屋のドアがコンコンッとノックされる音がして、慌てて右手をベッドの脇においていたタオルで拭き、音の方に顔を向けた。
「エミリアさん、私です。パーシーです」
「・・・・」
(副長官・・?)
こんな夜に何か用なのだろうか。一気に言われたあの言葉の数々が頭から離れなくて、声を聞いて身体が強張る。
これ以上冷たいことを言われるのはゴメンだと思いながら、恐る恐る部屋のドアを開けて顔をのぞかせると、今回も眼鏡をかけていた。
「明日のことを伝えに来ました」
「・・・・」
「明日は朝の4時、裏口から出ていってください」
(・・・朝・・・の4時?・・・は、早くない?なんで?)
じっと私を見つめるその瞳に敵意は含まれていない。どちらかと言うと今回は哀れみのような視線だ。
「・・・・」
「一応の確認ですが、部屋に戻ってから誰とも接触はしていませんね?」
質問にゆっくりと頷いた私は、副長官が後ろを気にする素振りを見せたことに眉をひそめた。
「いいですか。今から言うことをよく聞いてください。1回しか言いません。明日、最初に言ったとおりここを朝の4時に出てください。そして裏口を出たら、馬車がすぐ見える位置に居るはずなのでそれに乗ってください」
(馬車・・・・?)
何も問題がないかの如く淡々とした口調で言い放ったパーシー副長官にぎょっとした私は思わず口を開けた。ここから出たあとの行き先があるの?もしかして、副長官が手配してくれたの?
「誤解されると嫌なので言っておきますけど私が手配したわけではありません。それから、貴方を迎えに来る御方は、エミリアさんの声が出ないことを知りません」
(迎えに来る御方?・・・・はぁ?)
なにそれ?それじゃあどうやって意思疎通をはかれば?確実に無視してると思われてしまうけど、そんな不躾な態度でも問題ない人なのだろうか?
「貴方が声が出ないことは直接彼らに伝えてください」
「・・・・」
だ、だからどうやって伝えるんだ。
紙とペン?
取り出しやすいようにコートのポッケにでもしまっといたほうがいいのだろうか?
「それでは私はそろそろ行きます」
「・・・・」
この人は私が魔法を使えないことは知っているはずなのに、伝達の仕方はまさかのゼロ提案。
(なんで…こう途切れ途切れの情報を小出しするんだろ)
お別れの言葉も、さっぱりとしたもので、心なんて一切こもってない。長きに渡る交流が副長官とはあったはずなのに。
(声が出るようになったら、罵倒してやる)
今まで過ごしてきた人生のせいで人間不信が少し強い傾向にある私は心の中限定で口が悪いいわゆる内弁慶だ。もしどこかで会うことがあったら今度は直接文句のオンパレードで副長官の耳を塞いでやると、閉まったドアを見て思った。
◇◇◇
(あ・・・・)
言われたとおり朝支度を終えてこっそりと抜け出した神殿。外はまだ暗くて、朝日が昇る前だった。裏口を抜けると、パーシー副長官が言っていたように、既に馬車がそこに止まっていた。
「エミリア様」
「・・・・」
馬車の前には手綱を握った従事者がいる。ということは、あと一人は目の前で私の名前を呼んだこの人だ。
「荷物はそれだけですか?」
そうです・・・と心の中で呟いた私は首を大きく縦に振った。
「分かりました。男と2人でいるのは嫌かもしれませんが乗ってください。自己紹介は馬車の中で。あぁ、あとそれと、被っていただいているフードはそのままでお願いします。屋敷に着いたら取っていただいて構いません」
そう言う彼はわりと若めの声をしている。どこの人かもわからないけど、チラっと顔をみようと思ってフードを少しずらすと、相手の男性もフードを深く被っていたから顔は分からなかった。
(・・・・知り合い・・・とかじゃなさそう)
律儀に荷物を持ってくれた彼に促されるように先に馬車に乗り込んだ私。窓の外はカーテンで覆われていて見ることはできない。声が出ないため少し遅れて馬車に乗ってきたその男性にお礼も言えず、被っていたフードの端を引っ張ってより深くフードを被り下を向いた。
(第一印象絶対最悪だ・・・本当にすいません)
何を好き好んでこんな女の送迎を申し出たのか。
私は神殿外に知り合いはいないため、この人が誰だかまるで分からない。
「エミリア様、朝の早い時間帯にすいませんでした。この時間帯しか都合が良くなかったので」
「・・・・」
「そのままで構いません。無理に喋ろうとしなくて大丈夫ですから聞いてください。私はリクールと申します。貴方のことが心配で以前から面識のあった副長官に様子を伺ったところ、神殿から出られるとのことだったので、それであれば私どもの屋敷で過ごしていただければと思いお迎えに来た次第です」
(リクール・・・?)
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