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しおりを挟む出たというか、追い出されたという方が正しいけど、副長官は良い方にわざと歪曲して伝えたのだろうか。絶対に自分達を良く見せようとしてそういう言い方にしたに違いない。
(・・・あんのクソ眼鏡)
というかリクールってどこかで聞いたことのある名前のような…ないような…。
はて…?
記憶を辿って行ってみても中々辿り着かない。ただの勘違いか、似たような名前を聞いたことがあるから馴染みがあるように思ったのだろうか。
「それから、これからのことですが、ここから少し馬車に乗って市街地のほうへ出ます。神殿の区域から出れば転移魔法が使えるので、屋敷へはあっという間です。乗り心地が悪いですが、少しだけ我慢お願いします」
「・・・・」
考えながら聞いていると、最初のほうを聞き逃してしまった。とりあえず縦に首を何回も振って『分かった』アピールだけはしておいたけど、余りにも返事の仕方が不自然だからきっと変に思われてる。
自分で伝えろと言われたから、念のため紙とペンはポッケに入れてるけど。
(どうやって・・・話そう)
足元しか見えていない状況で、馬車の中は少し薄暗い。
もしかして文字を紙に書いて渡しても見にくいのでは?ということに気がついた私は、宿泊先で落ち着いたら最初に言えばいいかと、目をつぶった。
(無理に話さなくてもいいって言われたし・・・)
本当は話せるのなら話したい。あの事件があったから男の人が怖くなったかと聞かれれば答えはNOだし、2人っきりになるのも特段嫌ではない。どちらかと言うと絞められた首にいきなり触れられそうになると多分身体が拒絶反応を起こしそうで、そっちのほうが怖い。
(・・・声・・・治るのかな・・声帯は傷付いてないって言われたけど・・)
2人の医師からのお墨付きだ。しかもただ外側を診察とかじゃなくて魔法で体内を確認してもらってるからきっと確実。そういえば神殿にあった病棟はこじんまりとしていたから一般的に使われているものじゃない気がするけど、あそこの職員はみんな癒しの才があるのだろうか。
(羨ましいー・・・っていうか最初に目覚ました時に居た人、確か主任とか言ってたっけ・・・カイリー?って名前?だったよね)
副長官が現れた時の態度が異様に変化してたのは記憶に新しい。
あの人に媚なんか売っても効かないんだけどね、とフンッと鼻を鳴らした時、唐突に彼女の話が頭に蘇って、私は思わず口を開けた。そしてそのまま数秒動きが止まった。
(あ・・・・・あぁあああああぁああ!!??!!!)
リクール?リクールって言った?…。
確かカイリーもそんなような名前を出していた気がす…。
『リクール様に助けられてここに連れてこられました』
『リクール様に助けられてここに連れてこられました』
『リクール様に助けられてここに連れてこられました』
開いた口が塞がらないというのはこういうことか。フードを被っておいて良かった。今絶対とんでもない間抜け面をしていると、同じ言い回しが3回頭の中でこだましてから、ポッケに慌てて手を突っ込んだ。
(え、ちょっと待って・・・)
助けてくれたってことは、もしかして…。
あの卑猥な体勢も見られていたということだろうか。
股を無理やり広げられて、下着が見えていたあの格好を…。
(は・・・恥ずかしい・・・どうしよう・・・)
最悪だ。目の前にいる人が本人だったら本当に最悪だ。
そしてあの事件を恐らく誰よりも把握している人物で、なのに何故かあんな目にあった私を引き取ろうとしているおかしな人。
わたわたと落ち着きがなくなってきた私は、ポッケに手を入れたまま左足のかかとを上げて揺らし始めた。
カタカタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
カタカタカタカタ
「あの・・・大丈夫でしょうか」
いつからか無意識にストレスが溜まるとこんなことをするようになってしまった。かけられた声に気がまわらずずっと一人で頭の中で会話をしていた私は、馬車がガタッと揺れた僅かな振動で我に戻った。
(はっ・・・・!!いや、ちょっと待って。恥ずかしがってる場合じゃない)
命の危険を助けてくれた方にまずはお礼を述べなくては。せめて、いや、ちゃんとお礼を言わないと。
ポッケに入れていた手を取り出した私は、一緒に握って
取り出した紙とペンを顔の目の前に持ってきた。そして左手を動かして、本人確認もせずに助けてくれたお礼と、馬車を走らせてくれたこと、それに、今は声が出ないということを紙に書いて彼に渡した。
「・・・・」
「見ても?」
彼からの問いかけに、深く被っていたフードを少し上げて顔を見せた私は、ゆっくりと頷いた。そして私が顔を上げるとバチッと目が合って、少し驚いたような顔をしていた。
(・・・・顔になんかついてたかな。あんまり見えてないといいけど)
そういえば昨日の夜噛んで血が出た唇は今朝見た時まだ治ってなかったから、もしかしてそれを見てびっくりしたのかも…。
そんなことを思いながらその紙に目を落として読んでいる姿を私はドキドキしながら見守った。紙を少しグシャッと握る音がしてギョッとした私は、少し身体がこわばった。
「・・・そういうことだったんですね」
「・・・・」
「パーシー副長官からは『声』のことについては何も聞いてなかったので」
あ、これは…。
多分、なんか良くない方向に話が進みそうな会話の流れ…。
と、身体の緊張感が解けないまま次に何を言われるのか怖くて、私は彼が紙を握っている手元に視線を落としていた。
「エミリア様」
「・・・・」
名前を呼ばれて、なんとなく覚悟した私は自分の足元に視線をさらに落とした。そしてそれと同時に、壁からゴンゴンッと音がして、リクールが後ろを振り返ると、何故か壁を叩き返した。
「すいません。話の続きはまた後ほど。もう神殿の区域からは出ましたので、少ししたら馬車を降ります。そこからは転移魔法で僕の屋敷まで戻るので、戻ったら食事より先に、医師に診てもらいましょう」
(・・・医師・・・また?)
そういえば2回診てもらったことは伝えてない。それも伝えなければと慌てて紙を取り出そうとした時、彼は続けてこういった。
「喉だけじゃなくて、他のところも。女性の医師が居るのでその人に頼みます」
「・・・・」
(他のところ…)
どんな診察をされるんだろと思った矢先、彼は私の目をじっと見つめてきた。馬車の中はカーテンで窓が閉ざされているため薄暗い。私の瞳の色は珍しい紫色だけど、彼の瞳は何色だろう。なんとなく綺麗な色をしているような気がして、私も彼を見つめ返していた。
「あんな事があった後なのでいきなりは無理かもしれませんが、僕のこと遠慮せずに頼ってください」
「・・・・」
「もう一人じゃないので」
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