聖女はクソです

ぷりん

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 「・・・・」

 思ってもなかったことを言われて頷いた私は、少し驚いた。ついこの前知ったばかりの人に言うとは、もしかして同情してくれているのだろうか。

 (ありがたいけど・・・・)
 
 そもそも一人じゃないという言葉は、聞こえはいいけど信頼に欠ける。どうせ最後は一人になるのだから、辛い時の慰めの言葉にしかならないことは分かっている。

 (いつまでもお世話になるわけじゃないしね)
 
 ほどなくして馬車が止まり、先に目の前の彼が立ち上がった。私は彼の指示があるまでは動かずにいたけど、一緒に外に出るように促されたため立ち上がり、後ろをついて馬車を降りた。

 (うわ・・・)
 
 転移魔法というのは体験したことがない。
 しかも神殿の区域内では何故か使えないようになっているから、実際に魔法陣なるものも見たことがない。馬車から降りた場所は、想像していたよりも木々が生茂り未だに神殿の領域内にいる感じがした。

 「大丈夫ですか?今いる場所から動かないでくださいね」

 淡々と述べていたからよく使っている魔法なのかもしれないけど、魔力消費半端なさそう。

 (本で読んだけど、最大人数は3人までって書いてあったかな・・・)
 
 だから2人で来たのかと、少し納得。私を含めれば3人だからあぶれることはない。でも馬車はどうするんだろう?馬の手綱を握っていた従事者に『動くな』と言われた私は、身動き一つせず降りた場所に突っ立っていた。

 「リクール様、準備はできましたのでいつでもどうぞ」
 「あぁ、分かった」

 従事者の言葉に相槌をうったリクールは、なにやら呪文を唱えているようだ。私達が立っているこのエリアの下に魔法陣らしき物は一切見当たらない。

 (よくわからない言葉・・・っていうかリクールって何者?)

 「エミリア様、眩しくなるので目をつぶるかフードを深く被っていただけますか」
 「・・・・」

 少しして唱え終わった彼は、妙な事を言った。そして唱え終わってるはずなのに何も起こらない。なぜ?と思いながら眩しくなるというワードが気になった私は、目をつぶる代わりにフードを深く被った。

 「それでは、行きましょう」

 私がフードを深く被ってからリクールがそう言うと、パチンと指を鳴らしたような音が聞こえてきて、その後すぐに地面が光った。
 
 (うっ・・・・わ!!!ひぇ!!!・・・目・・・目がっ)

 どんなふうに眩しくなるのか気になって、深く被ったフードの隙間から目をかっと見開いていた私は、この時地面を見ていた。こんな機会二度とないから自分の目で確かめたい。そんな軽い気持ちで開いていた目だったけど、あまりの衝撃波に秒で閉じた後、フードを支えていた両手を離し、すぐに目を覆った。

 (目が死んだ・・・・)

 その光は眩しいなんてものじゃない。
 実際は太陽が真下から出てきて直射で眼球を照らしているようなものだった。

  (チカチカする・・・目閉じててもチカチカする・・・真っ暗闇に光が何個も・・・)

 そして焦って取り乱していた私は、既にリクールの言う屋敷に着いたにも関わらず周りのことを気に掛ける余裕がなくて、彼に話しかけられるまでずっと目を隠していた。 
 
 「エミリア様」
 (どうしよ・・・目まで失ったら・・・でも今回は完璧に自己責任・・・ひぇ)
 「エミリア様・・・着きましたよ」
 (・・・?)

 リクールから2回名前を呼ばれようやく頭の中での自分との対話が終わった私は、覆っていた手はそのままに、目だけ開けた。

 (明るい・・・)

 手の隙間から漏れる明るい光に少しホッとして、今度はゆっくりと手を離した。
 ぼんやりと映ってだんだん視界良好になってくる目の前の景色は、神殿に居たときのものとは全く違う。太陽は少し昇りかけていて、空気は何故か神殿よりも澄んでいた。

 「大丈夫ですか?もしかして光にやられましたか?」
 「・・・・」
 「少しだけ違和感がありますが、目に直接的に影響するものではないので安心てください。すいません、本当は馬車の中にいたまま転移できれば良いんですが、魔法陣に直接足を触れておかないといけないので」
 
 (・・・魔法陣・・・あったの?)

 魔力がないから私には見えなかったのだろうか。

 「それと、フードはもう取っていただいても大丈夫ですよ。これから屋敷の中に案内します。すでに起きてる人も居ますが、まだ朝の早い時間帯なので、ほとんどはまだ休んでいますから、正門ではなく別の入り口から入りましょう」

 そして焦りといえばもう一つ。
 
 (・・・・)

 フードを既に取っていたリクールの表情はすぐに見えた。年齢かよく分からなかった彼の見た目はかなり若い。もしかして私と同い年か少し年上なのだろうか。
 荷物を持ち振り返って私に話しかけるその髪は、金色でよく見かける色だったけど、逆に目の色はそうではなかった。

 (・・・こ、この人)

 彼の瞳を見てすぐに目を逸らした私は、フードを取りながら昔聞いたパーシー副長官からの言葉をこの時になって初めて思い出していた。

 ――――――――

 『神殿で働くにあたって貴方に気を付けて欲しいことがあります』
 『なんですか?』
 『まずはその口のきき方』
 『・・・』
 『美しくないので勉強をしっかりしてください。まだ働ける年齢ではないので人前に出ることはしませんが、いずれ働くことになります。その時のために言葉遣いをしっかり覚えてください。ここでは色々な方が来られますから、当然貴族の方も来られるわけです。言い訳はいりません。そして悪口なんて以ての外です。分かっているとは思いますが心の中だけにしといてください』
 『うっ・・・はい』
 『あと、外部の男性と接触する機会は極力無くすようにしています』
 『・・・・え、なんで』
 『特に―――』
 
 鋭い視線をかましながら、淡々とした声で述べたパーシー副長官。だけど私の言葉を遮って次の言葉を強めの口調で続けた。

 『オッドアイの男性には気を付けてください』
 『・・・オッド・・・アイ?』
 『はい。両目の色が違う人です。遺伝的なものによるので特定の家系からしか輩出されませんが、彼らは魔力の保有量が異常です。本気を出せば一人で簡単に他国の軍を捻り潰すこともできる力を持っていますから。特に10代前半の若い時なんて魔力をコントロールする術を持ち合わせていませんので余計に危険です。貴方は魔力が全く無いので、そんなヤツに出くわしたら一目散に逃げるようにしてください。顔がカッコいいからって見た目でほだされてはダメですよ』
 
 ――――――――

 (・・・ど、どうしよ)

 今目の前にいるこの人は両目の色が違う。パーシー副長官が言ってたオッドアイの人だ。本当に居たんだ。
 あの時は何を言われてるのか、なんであんな事を言うのかよく分からなかった。だってオッドアイのくだりなんて私を怖がらせるためのただのジョークで、そもそもそんな人居ると思わなかったから。

 (でも・・・私今死んでないからこの人のとこに居ても大丈夫なんだよね・・・?え、っていうかパーシー副長官がオーケー出したんだよね?あの眼鏡昔自分で言ってたこと忘れてないよね?)

 「エミリア様、大丈夫ですか?」
 「っ・・・・」

 聞こえた声に慌てて顔を上げると、また目が合った。吸い込まれそうなほどの美しい金色の瞳と淡い透きとおった水色の瞳。
 なんとなく聞いたことのあるようなゆっくりとした口調も相まって、見つめられたその瞳から顔を逸らすことができず、そのまま彼を見つめながら大きく頷いた私は、何故か心臓がドキドキしていた。




 ◇◇◇


 「医師を先に呼んできますが、朝食も準備しておきますので、診察が終わり次第すぐに食べられるようにしておきます」

 別の入り口をとおって案内された部屋は、当たり前だけど神殿で割り当てられていた部屋よりも圧倒的に広かった。

 部屋までの長い廊下を歩いていると幾分心臓のドキドキはおさまったけど、まだ脈が少し早い気がする。運んでくれた荷物を受け取り、少し説明を聞いた後、リクールが最後に部屋から出ようとした時、彼は少し遠慮がちに口を開いた。

 「あの・・・嫌であれば無理にとは言いませんが、診察の時、僕も同席してもいいでしょうか。その場で何かできることがあるかもしれませんし」
 「・・・」

 もしかして魔法で治せるかもしれないということを示唆しているのだろうか。パーシー副長官のあの時の言葉が引っかかったけど、そもそも彼自身がこの人との間を取り持った時点で副長官の忠告の効力は切れてると思いたい。断る理由も無かった私は、縦に首を振った。
 


 ◇◇◇



 (・・・・はぁ・・・一人落ち着く)

 部屋にポツンと一人残された私は、ベッドに座っていた。ここ数日間で色々ありすぎてよく眠れてなかったから、眠気が襲ってくる。

 (・・・とりあえず眠らないように先に荷物を)

 着ていたコートは脱いでハンガーにかけた。
 神殿で着ていた服は制服だったため置いてきたから
今着ている物は完全に私服だ。少しよれてるけどなんだかんだで気に入っている。

 (これ・・・副長官から貰ったんだよね)

 置いてある全身鏡を見ながら、副長官がくれた服を眺めていた私は、この服を貰った日から随分背が伸びた。ふくらはぎが余裕で見えるし、なんなら色がくすんでいるけどシルエットが綺麗で休日は好んで着ている服だ。

 『知り合いから分けてもらいました。休みの日も制服でいるわけにはいかないので受け取ってください。今後は働けるようになれば服が支給されるので、ご自身の給料を使って勝手に買ってください』

 (・・・あの言い方は思い出しただけで腹が立ってくるけど)

 「・・・・」

 
 初めて神殿に行ってから、ずっとお世話になってた。
 なんだかんだいって気にかけてくれてたし、普通に会話をしてくれてたから嬉しかったのに。しかも2人だけの時は口が悪くても訂正されなかったし怒られもしなかった。

 (でも・・・情なんてないんだろうなぁ・・・)

 鏡に写った自分の髪が少し乱れていたため手でとかした私は、頬を2回叩き荷物の整理に戻った。

 (そういえば、ご飯って何が出るんだろう。っていうか声が戻るまでこのお屋敷で仕事とか貰ったほうがいいよね)

 私は客じゃない。
 だから、ちゃんと働かないと。
 診察を受けるときに、リクールも来るからそのときに聞いてみよう。

 パッパと少ない荷物を整理して、ベッドではなく今度はソファに座って背もたれにもたれていると、部屋のドアを叩く音がして、私は立ち上がった。

 
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