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しおりを挟む「すいません」
え…。
「どうやら、僕達みたいなのがいっぱい居るらしくて」
リクールの言ったとおり、宿に寄って一泊することになった。濡れた上着を脱いで馬車に乗り込んだ私達はたまにリクールが使っているという宿に来た。宿自体はそこまで大きくないけど、値段が高いから滅多なことがない限り満室にならないらしい。
それなのに…。
「ここです。中は狭くないので。あとベッドも広いので寝心地はいいはずです」
3階にある部屋にとおされて3人だけで部屋の前まで来た。すぐに帰る予定だったからそもそも荷物なんて無いに等しい。
そして歩きながらカウンターでの会話の内容を聞いたとき、私は卒倒しかけた。
「部屋がここ以外埋まってるって言われました・・・まぁ転移魔法使って来た人が多い証拠でしょうね」
リクール曰く、部屋は一室だけしか空きがなかったらしい。彼が鍵をあけた部屋は、確かに一人で使うにはかなり広い。だけど3人では狭いのでは?というかベッド一つしかないけど分配はどうすれば?…という疑問を持った私は混乱していた。
「エミリアさん、先にお風呂に入ってください。そのままだと風邪を引きますので」
「・・・・」
「着替えはお風呂場の引き出しに用意してありますから大丈夫です。お湯は流してもらって大丈夫ですよ」
(それは・・・ありがたいけど・・・ど、どうなるんだろう)
声がでないから咄嗟に浮かんだ疑問が解決できない。
服が濡れたままで、下着まで水浸しのような感覚が少し気持ち悪いから確かに早く脱ぎたいんだけど…。
「エミリアさんがお風呂から上がったら、少し話がしたいので僕はここで待っています」
(・・・話?)
天候の変化に伴い気温が一気に下がっていたため部屋の中央に設置された暖炉には薪が用意されていた。おもむろに暖炉の前で手をかざしたリクールは、そう言いながらニコっと笑っている。
(あ・・・青い炎)
かざした手からは炎がボォッと前触れもなく出てきた。
濡れているせいでいつも見る髪型と違うリクールは濡れた前髪が鬱陶しいのか上げている。青炎でついた火が照らした彼のオッドアイが綺麗に揺らめいているように見えて、幻想的なその瞳を少しだけ見つめてしまった私は、自分の前髪から頬に滴り落ちてきた水滴にはっとして、慌てて顔を伏せて頷き、お風呂場の方へと急いだ。
◇◇◇
お風呂はシャワーだけにしようかと思っていたけど、服を脱いで中に入ると、お湯が溜められていた。
(リクールが言ってたのってこれのことだったんだ)
部屋の準備に少し時間がかかると言われてロビーで待っていたけど、どうやら風邪を引かないようにお湯の準備もしてくれていたらしい。
湯気が漂うお風呂の中で、先にシャワーで暖かいお湯を浴びた私はこのタイミングでくしゃみをしてしまった。
(・・・早く身体洗わなきゃ)
いつものように素早く洗って、それから用意された暖かいお湯に肩まで思いっきり浸かった。
(はぁ~・・・・気持ちいい)
膝を抱えて縮こまりながらその温かさにしばらく目をつぶってホッとしていた私はだんだんと現実に戻ってきて、神殿の中で最後に見たパーシー副長官のことを思い出していた。
なんだかとても綺麗な顔をしていた。
生気がないから当たり前だけど、いつもより顔が白かったし、周りに花が一緒に横たわってたから、より一層穏やかに見えた。
(・・・今までずっと気難しそうな顔してたもんな)
迷惑をたくさんかけた。
記憶がないほど文句も言ったし、ふてくされて言うこと聞かなかった時もあった。パーシー副長官は言い返してこないことが何回もあったから…。
きっと、たくさん傷付けた。
幼いながらに無神経なことをたくさん言った。
表情は変わらなかったけど、口答えばかりしていた昔の私のことをきっと一回でも「引き取らなければよかった」と思ったことがあるに違いない。
自分が聖女様から言われたことに対して酷く嫌な気持ちになったことを考えた時、きっとパーシー副長官もこんな気持ちになっていたのだろうかと、今になって気が付いて、罪悪感でいっぱいになった。
なんでもっとちゃんと向き合わなかったんだろう。
なんであんなに、思ったことをすぐ言ってしまったのだろう。
(最初から・・・もっとちゃんとしとけばよかった。同じスラム出身でもずっと優しい子もいたのに…)
甘えが過ぎた自分の過去の行動と二度と取り戻せない言葉達に後悔だけが膨らんでいくのと同時に、謝った所で所詮私の自己満足で終わるだけだということも分かっているから、たとえ彼が生きていたとしても、私は結局謝ることも何もできないでそのまま過ごしていたんだろうなと思ってしまった。
(・・・なんでこんな私を引き取ったんだろう)
これ以上浸かってるとのぼせそうだった私はお湯から上がってもう一度体を流してからお湯を捨て、外に出た。
◇◇◇
(・・・へ、変じゃないよね)
棚に入っていたのはこれしかなかったからそれを着たけど…。
明らかに女性用だと分かるそのネグリジェを今までの人生で一度も着たことがない私はかなり戸惑っていた。幸いにもそこまで露出しているわけではないから、壁にかけられているローブを羽織れば特に問題がない。
(えぇっと・・・これに入れて置いとけば宿の人が洗ってくれるんだよね・・・っていうか盗まれないのかな)
髪を乾かして、濡れた服と下着を専用の袋に入れた私は、回収箱にその袋を入れたあとドアを開けた。
(ルキアって子、後に腕組んで立ってたけどずっとあのままなのかな)
不思議に思いながら暖炉のほうに戻ると、暖炉の火を見ながらソファに座っているリクールとやっぱりまだ腕を後に組んで立ったままのルキアが居た。
(・・・わ、割り込みにくい)
時間が経つにつれて外は雨が酷くなっていっている。窓を突き破りそうな勢いの大きな雨粒が窓のガラスを打ち付ける音は静寂の中で聞くと不気味で怖い。
恐る恐るソファに近付くと、リクールはすぐに立って私をソファに座るように促した。
「暖まりましたか」
「・・・・」
彼の質問に頷くと、リクールは何故かソファではなく床にあぐらをかいて座ってしまった。大の大人が横になれるほどじゅうぶんに大きいソファなのに。
「ご飯はもう少ししたら運ばれてきます。食欲が無くても少しだけでいいので食べてください」
また頷いた私は両手を控えめに叩いてペンを出した。
今日のことについてお礼を言わなければ。それに…。
〘今日はありがとうございました。貴方が居なければパーシー副長官の最後に会えませんでした。とても感謝しています〙
文字が空中に浮かぶ中、どんな反応をされるのか怖くて、彼の方を見ずに続けてペンを動かした。
〘それと、聖女様が言っていた私のことについてはお忘れください。リクールには関係ないのに不快な思いをさせてしまったかもしれません。申し訳ありませんでした〙
「・・・・」
書き終わってペンを動かすのをやめた私は、ローブの胸元をギュッと握った。正直軽く流す程度で終わってくれれば一番嬉しい。
(そういえば、話ってなんだろう・・・)
リクールは話がしたいって言ってたけど、聖女様との会話のことだろうか。他者に漏らすなとか?それなら別に話す人なんて居ないから胸を張って大丈夫だと言えると思いながら、下を向いて次にリクールが喋り出すのを待っていた。
「エミリアさんには申し訳ないんだけど、その聖女様が言ってたことについて、僕は話をしたくて」
(えっ・・・)
「一番疑問に思ったのは、あの女が、エミリアさんの声が出ないことを知っていたということです。僕すら知らなかったので、パーシー副長官が周りに漏らしていたとは思えないのですが」
(・・・あ・・あの女)
「それに僕の屋敷の使用人達は屋敷内で知り得た情報を外に漏らすと、契約違反で罰が下る魔法がかけられているので誰かが漏らしたということはないと思います。あと、あの女のことはみんな嫌っているので、近付きたいと思う人は居ないはずです」
「・・・・」
「エミリアさんの声が出ないことを知っていた人は、神殿内でパーシー副長官と貴方の他に誰がいましたか?」
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