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(・・・あ、)
まただ。
目が覚めて、ボーっと天井を眺めながら息だけのため息をついた。
最近なんでかよく分からないけど、ぐっすり眠れない日があったから診察に来たリリー先生にそれを相談した。もちろんリクールにも話がいってしまったのは仕方がないことなんだけど…。
(休みすぎて寝られないのかな・・・)
リクールが魔法を使って私の睡眠を促してくれるようになった。どういう魔法なのかはぜんぜん教えてくれないけど、身体に害はないらしい。
夜寝る前にリクールが訪ねてきて、話してるうちに体のどこかしらが温かくなって眠気が一気に来る、というのが一連の流れで、そして朝までぐっすり嫌な夢も見ずに寝てしまう。
(ありがたいけど・・・)
これ無しでぐっすり寝られるようにしなければ。
両手を上に伸ばしてストレッチをした私は、ベッドから出て服を整えた。乱れた掛け布団と毛布もある程度整えるとだんだん頭が起きてくる。
(昨日のリクールに言われたこと・・・考えなきゃ)
トボトボと歩いて窓辺に行きカーテンを開けた。
晴れている空は綺麗な真っ白い雲が数個ほど見える。風も穏やかに木々を揺らしていて、空の水色は遥か遠くの方まで終わりがない。
「・・・・」
少しだけ眺めてから、洋服棚の方に向かった私は、服を着替えた。朝食の時間は少し先だけど、部屋まで持ってきてくれるからそれまでは自分の時間になる。
(声が戻ったあとは、とりあえずこの屋敷からでないといけない)
これ以上ご厚意に甘えられないし、それに私ももう成人を迎える。昔みたいに何も分からない、ただ目の前に居る大人に手を伸ばしてほしいものをすがる自分ではない。
イスに座ってノートを取り出した私は、肘をついて思いつく限り必要な物を頭に浮かべた。そしてそれを全て書きだそうとしたけれど、少し考えてから、目を瞑ってフッと笑ってしまった。
(ふふふ・・・ふふ・・・)
右側の口角を上げて笑う癖はここに来てからなくなったかと思ったけど、事務仕事をやってきた長年の癖が簡単に消えるわけもなく。
両手を祈るように握りおでこに付けて、両ひじを机の上に置いた。
そして数秒後、握っていた両手を離して、腕を組み天井を見上げた。
(・・・ツテが一切ない)
リクールが私の意見を尊重してくれると言っていたけど、市街地に知り合いなんて皆無だし、リクールと繋がりのある人のところを紹介してもらっても、彼の噂が耳に入ってくるからそれは避けたい。
(・・・結婚話とか・・・あんまり聞きたくないし)
昨日の休憩室での会話を聞いて、心がざわついた。
なんでこんな気持ちになるのかは分からないけど、居心地のいいものではないことは確かだ。
(顔見知りがツテでいるって嘘言えば大丈夫かな)
助けてくれたから何か返す必要があるけど、リクールは全部欲しいものは簡単に手に入りそうだから、何をあげれば喜ぶのか分からない。
というか…。
異性との関わりがないから、喜ばせ方なんて知らない。
男性なんてパーシー前副長官ぐらいだったし…。そういえば長官もたまに話しかけてくれたような。
(元気かな・・・)
前副長官とは真逆の人だった。いつも穏やかで優しい人。まさに神殿で働く人の鑑のような存在。声なんて荒げないし、勉強が嫌でサボろうとしてたらこっそり甘いお菓子とかくれたし。
(はぁ・・・ダメだ)
今は未来に希望なんかない。
希望を抱いていた場所からはもう既に追い出されてしまったのだから。
『エミリアさん、勤勉は大切なことです。勉強でも労働でもなんにしろ、毎日の積み重ねは嘘をつきません』
(・・・・)
『しっかり勉強をしてください。貴方の将来のためです』
机に再度も肘でたれかかろうとしたけど、何故かそのまま突っ伏してしまった。長官との微かな思い出を思い出していた私は、パーシー前副長官に言われたことがふと頭の中に流れてきた途端、ノートのページを少しだけグシャっとしてそのまま破ろうとしていた。
(将来のためって・・・)
ずっと見習いで、何一つ昇格しなかった私の将来。
神殿にとってあんまり使い物にならなかったのだろうか。
けっこう頑張ったんだけど、ダメだったのかなと、感情がまた下降気味になって、気分がズドーンと落ちそうになった私は、握っていた紙を破らずに手から離した。
あぁ、今はストレスのない生活だ、と思っていた…いや、確かにストレスはない。そうだ。ただ、ふとした瞬間に自分でストレスが溜まる考え方をしているだけなのだ。
カタカタカタと、下半身から聞こえる音にまた貧乏揺すりをしていることに気が付いた自分に嘲笑した私は、これではダメだと自分の頬をバチンと2回叩いた。
◇◇◇
「そういえば、エミリアの誕生日、何が欲しいか決めましたか」
(あ・・・・)
「もしまだ考えてないのであれば、僕が決めていいでしょうか。プレゼントしたいものがあるので」
朝食か運ばれてきて食べ終わったあと、屋敷の周りを散歩しようとしたところ、今日は休みだからとリクールも一緒に歩くことになった。
(昨日のことがあるから正直気まずいかと思ったけど)
リクールは案外普通だ。
話す彼を見上げると、昨日の王子様の姿が脳裏に浮かぶ。軍の仕事以外にも、やることなんてたんまりあるはず。それに近い将来、彼はきっとどこかの貴族のご令嬢と結婚して子をもうけるのだろう。それが当主という立場の責務であり、義務でもある。何よりこの国にとって必要なこの家系の血を絶やしてはいけないのだから。
(・・・・こんな人誰もほっとかないよね)
「―――ア・・・エミリア」
「・・・っ」
「大丈夫ですか」
(あっ・・・)
しまった、と焦った時にはリクールの話が頭から消え去っていた。昨日の事が思ったより強く心に残ってるのか、彼の穏やかな表情を見ながら話はそっちのけでおかしなことを考えていた。
「体調がすぐれないですか」
(・・・どうしよう・・・なんか・・私・・・変だ)
慌てて首を横に振った私は、どんな顔をしていいか分からず、彼から視線をそらした。
「部屋に戻りましょう。お送りします」
失礼なことをしてしまった。もしかしたら気分を悪くしたかもしれない。いや、かもしれないじゃなくて、してしまった、だ。リクールの声も心なしか少し冷たく感じる。
「エミリア」
(・・・・?)
「掴まってください」
(え、え?・・・・ひゃっ!!)
突然背中に回った手に、聞こえた言葉が結び付かなくてふと顔を上げると、何故か足が宙に浮いている。
あまりにもびっくりしすぎてリクールの首にしがみついた私は、目ん玉が落ちるんじゃないかと思うほど目を見開いてしまった、
(え、え・・え?な、なに・・・なんでこんなことっ)
「先ほど僕が聞いたのは、貴方の誕生日プレゼントのことです」
「・・・・」
「パーシーの事があったので、切り出しにくかったのですが、明後日はエミリアの誕生日ですよね」
(え・・・あれ、なんで知ってるの)
確かこの前誕生日の話題が出た時、具体的な日付は言ってなかった気がする。そんなことを思って一瞬我に返ったけど、体中に感じるリクールの体温に自分の心臓のドクドクという音がさらに恥ずかしさを加速していった。
「プレゼントしたいものがあるので、当日お渡しします」
抱かれているからリクールの顔がずっと近い。重くないのかなと思いながらコクンと頷いた私は、部屋に戻るまでの間、誰にも会いませんようにと願った。
「あとそれと、これは急遽決まったことなのですが、当日は行くところがあるので一緒に出かけてもらいます」
(・・・行くところ?)
「少し準備してから行くので、エミリアのことをメイドが起こしに来ますから、待っていてください」
部屋についてベッドまで運んでくれたリクールは謎な言葉を残して、私の部屋を去って行った。
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