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15.2
しおりを挟むそしてむかえた誕生日当日。
こんなことになるなんて…どうせなら眠くなる魔法かけてもらえばよかったと思っても時すでに遅し。
当日はどうなるのかさっぱり分からなくて、前日の夜ベッドに入ったはいいけどほとんど眠れなかった。
(メイドさんが呼びに来るって言ってたよね)
それまでは目を瞑っておこう。
毛布を目の下ギリギリまで被った私は、深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとした。それでも時間が気になって、中々頭の中が静かにならない。リクールに聞かれたこともまともに考えられなくて昨日1日無駄な日を過ごしたばかりだというのに。
(メイドさんっていつも来る人かな)
そうだよね、きっとそうだ。はぁ…とため息をついた時、部屋のドアがノックされた。
(き・・・・きた)
ガバっと勢いよく起きた私は、頬をパチンと叩いてからベッドを降りて部屋のドアを開けた。
「「「「「おはようございます。エミリア様」」」」」
(・・・あ、あれ)
「エミリア様、昨日はよく眠れましたでしょうか」
(・・・?????)
「本日は私共がエミリア様のご準備を担当しますので、複数人でお部屋にはいることお許しください」
「・・・・」
ドアを開けると、何故かメイドさんが5人居た。
いつも来る人を筆頭に、台車やら何やらがたくさん後方に見える。その光景に目を点にしながらドアを大きく開けて後ろに下がると、ぞろぞろ入ってきた彼女達はニコニコしながら私を頭の上から足の爪先まで確認するように見つめてきた。
(・・・な、なに?)
「エミリア様、ご準備しますので、服を脱いでください」
(は、・・・え?)
近付いてきたメイドの1人に、有無を言わさずお風呂場に連れて行かれた私は、あれよあれよという間に服を脱がされ首に巻かれた包帯も取られ頭からお湯をかけられた。
(何が起こってるの・・・)
楽しそうに話しながらも手を進めていく彼女達とは対照的に、私は一人ポツンと取り残されたまま頭にハテナを浮かばせながら言われるとおりに体を動かした。
(操り人形みたい・・・)
「エミリア様、お化粧の前に先にお着替えを」
(お、お着替え・・・?)
「こちらです」
ガウンを着させられていた私の目の前に現れたのは、白いドレスだった。胸元はレースの生地があしらわれ、腰のあたりで一回キュッと引き締まっている。裾に向けて広がるスカート部分の生地は肌触りが良さそうなシルクの素材を使っているように見えた。
(・・・・)
「このドレスは肩の部分が露出する使用になっておりますが、これを身に着けていただくので問題ありません。それと、目的地に着くころには太陽が天辺に昇っていますので、外気温自体は暖かいはずです」
別のメイドが差し出してきたのは素肌を感じさせる薄めのショールのようなもので、足首ほどの長さまである。フードのないローブのようなものという例えの方が分かりやすいかもしれない。
(・・・なんか)
「さぁ、着替えましょう。髪のほうも準備しなければいけませんので、今からは身動きが取れなくなります」
あまりに綺麗なドレスに見惚れた私は、彼女達の言葉に反応も相槌も打てなかった。
先にドレスを着付けてもらうとサイズぴったりだ。メイドさん達曰く、サイズが合わなくても魔法で調整できるから何も問題なかったとのこと。
今までしたことのなかったお化粧もしてもらい、髪も上手に仕上げてもらった。
そして最後にあの長いショールを肩から付けてもらい、少しだけヒールのある白い靴を履いて、姿見鑑の前に立った。
「エミリア様は元々お美しいので、そこまでお化粧は厚くしておりません。首元のほうもほとんど見た目はもう痣が残っておりませんので少しだけパウダーではたかせて頂きました。髪のほうはゆるく巻いて、ハーフアップにしております」
こんなに着飾ってもらうのなんて、当たり前だけど人生で初めてだ。誕生日だからってこんなにもしてもらうとは思わなかった。
「ちなみにですがこちらのドレスは、」
そこまで裾が広がってるわけじゃないから重くないし歩きやすい。行く場所がぜんぜん想像つかないけど、高貴な場所に行くのであれば、マナーが少し心配になる。
(どうしよ・・・パーティー会場とかじゃないよね)
「リクール様からの贈り物です」
(・・・え?)
「エミリア様、遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます」
(・・・・)
「何かあれば当主様が全てご対応されますので、行き先では気を張らずお過ごしになさってください」
今なんて言った…?
声が出ないからすぐに聞けなかった。
ドレスはリクールから?
あっという間に片付けたメイド達は、いつも来る一人のメイドを残して部屋から出ていってしまった。
そして残ったメイドが最後の確認をしてから口を開いた。
「エミリア様、リクール様がお待ちです。行きましょう」
「・・・・」
彼女の満足したような表情と力強い口調に気圧されながら頷いた私は、そのメイドにエスコートされながら廊下に出て彼が居るという玄関ホールまでやってきた。
(・・・あ)
たどり着いた先に居たのは、リクールとローブを着た2人の男性。何かを話しているようで、真剣な顔をしている。
(また・・・王子様みたいな格好してる)
どうしよう。やっぱり私なんか変だ。
ドキドキが止まらないし、心臓が口から出てきそう。
心臓じゃなくて声が出てきてほしいのだけれど。
この前見たパーティー帰りの彼とはまた違う装いの格好は、白いドレスで着飾っている私の服装に合わせる形できっと自然に馴染むようなものを選んだのだろう。
階段を下りるたびにふわりと揺れるそのショールが多少なりとも素肌を隠してくれるからありがたい。これがなかったら多分恥ずかしすぎて部屋から出られない。
「リクール様」
エスコートしてくれているメイドが、他の男性と話し込んでいるリクールに呼びかけると、彼はピクッと反応してゆっくりとこちらに振り返った。
「・・・・・」
メイドは一歩下がってお辞儀をするとそのまま視界から消えた。そしてリクールと話していたローブ姿の男性もいつの間にかパッと消えて居なくなってしまった。
ずっと私を見つめたまま何も喋らないリクールに不安を覚えた私は、手持ち無沙汰で声も出ないから、首を傾げて少しニコっと笑ってみた。
(・・・ど、どうしよう。なんでメイドさん消えちゃうの)
「すいません、見惚れていました」
(・・・?)
「天使かと」
口に手を当て恥ずかしそうな表情をしたリクールは、顔を少し赤くしている。何かボソッと言った声は私の耳には届かなくて、どうしたらいいか分からなくて戸惑っている私に一歩近づき手を差し伸べた。
「お綺麗です」
「・・・・」
「着てくださってありがとうございます」
差し出された手を取った私は、自分でも頬が高揚しているのを感じた。お化粧をして頬をチークでほんのり色付けているから、対外的には分からないけど、顔が熱い。
「目的地には転移して行くので、馬車にも乗りませんし、歩きませんから安心してください。初めて行く場所なので、安全のために魔法を唱えますから、目を閉じてください」
(声・・・出て欲しい)
「それから、」
彼と直接話をしたい。
彼の名前を自分の声で呼びたい。
「これから行く場所は、僕の我が儘になりますが、お付き合いいただければと思います。ご無礼をお許しください」
そんないつ叶うかもわからない願望を胸に、ぎゅっと握り返された手に微かな熱を感じた私は、彼の指示どおり目を瞑った。
◇◇◇
(・・・ここは)
あっという間に、着いたその場所が屋外だということに目を瞑っていても気が付いたのは、肌に当たる風が少し暖かかったからだ。
「目を開けてもらって大丈夫です」
リクールの声に反応して目をゆっくり開けると、見えたのは大きな木と、向こういっぱいに広がる草原だった。
「神殿のデイビッド長官からご厚意で連絡がありました」
(長官・・・?)
手を繋いだまま少し歩くと、墓石が見えた。
いくつか似たような墓石があるが、綺麗に白い花が添えられている。
「パーシーの葬儀では満足に時間が取れませんでしたから。それに、クソみたいな邪魔も入ったし」
(・・・ク、クソみたいな邪魔って)
笑いながら爽やかに言ってのけるリクールは、繋いだままの手を離そうとしない。転ける心配はないからもう離してもらっても大丈夫なんだけど…。
そして一際大きな墓石の前に来て足を止めたリクールの横に立った私は、そこに書いてある名前を見て、思わず握られているリクールの指を一瞬ぎゅっと握った。
「エミリア」
「・・・・」
「最後とは言いませんが、ここの空間は結界で囲われているため頻繁に来ることができない場所です。長官がエミリアのことを心配して、今日は特別に結界と時間を解放してくださいました」
そう言ったリクールは、そよ風でなびいた草が擦れる音に負けそうな声で、少し辛そうに続けた。
「僕もパーシーの最後を看取ることができませんでしたし、葬儀の日も落ち着いて彼の見送りが出来なかったので」
(・・・・・)
そうだ。
リクールもパーシー前副長官と長い時間を一緒に過ごしていたんだ。きっと私と同じように会話を交わして、もしかしたら嫌味も、たくさん言われたかもしれない。
「遅くなりましたけど、少し3人で一緒に過ごしませんか」
彼が連れてきてくれたのは、パーシー前副長官が眠るという墓石だった。
そしてオッドアイの目を細めて私を見つめてきたリクールは、今までにないくらい、悲しそうな表情をしていた。
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