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16(リクールside)
しおりを挟む「リクール殿、私は恐らく向こう一年の間にこの世から居なくなると思います」
聖女との婚約を問題なく解消するために、問題を起こすようにすると、謎な提案を受け取ったのは、まだ少し肌寒い時期だった。
そして神殿にいつものように外部のルートで入り、応接室にとおされた僕に開口一番でパーシーが告げたのは、とんでもない内容だった。
「・・・は?何言ってんの?」
冗談にしては少しキツイことを告白してきたこの男は、神殿の副長官であり、エミリアの保護者代わりでもある。
「冗談キツイって。そもそもここに来たのって婚約破棄のことについてだと思ってるんだが」
「私が今まで冗談を言ったことがありますか」
度の入ってない眼鏡をかけて僕を鋭い眼光で睨みつけたパーシーは、相変わらずの抑揚のない声で返事をした。
「私がここに連れてこられてからだいぶ経ちますが、」
そして、振り返って僕に背中を向け、眼鏡を外してから少し疲れたような声を出してため息をついた。
「そろそろ力が尽きます」
――――――――――
(それにしてもよくこんな複雑な座標を・・・)
パーシーの墓石に来た時、花が必要だと思って用意したのは、彼の葬儀の時に参列者に配られた白い花と同じ花だった。
僕のお願いに嫌な顔一つせず頷いてくれたエミリアに花束の半分を渡すと、束の花びらを優しく撫でてから墓石の前にそっと置いた。
先に膝を折って墓前で祈りを捧げるように手を合わせたエミリアは、綺麗な所作で当たり前のように目を瞑っている。
(・・・・なんて思われてるのか)
ここに来ることは事前に知らせなかった。
長官からここの座標を聞いた時、エミリアを連れて行ったほうがいいと判断したのは僕だった。どんな感情を抱いていたのかは分からないとはいえ、あんな別れ方をしたんだから多分納得してないし、彼女自身複雑だったと思う。
(声が戻らないのも・・・多分パーシーの事が精神的に追い打ちをかけてる気がする)
彼女の祈りを見つめながら、パーシーの残り火について具体的な話を聞いたときのことを思い出した僕は彼女から少し視線を外した。
(他の墓石もあるのか・・・全部神殿の関係者だよな)
元々、パーシーは神殿で働いていたわけではなかった。
その当時大規模な災害で彼が住んでいた地域が壊滅的にやられてしまい、その時の聖女が力を尽くしたが人的被害が全ては防げなかった。生き残ってしまったパーシーは、家族を救えなかった自分を責めて残りの人生を神に捧げようと、神殿に入って働くことに決めた。
(・・っていうのが表面上の理由だけど)
本当は、大規模な災害が起こったとき、聖女の力が足りなさすぎて人的被害が防げなかった。それだけならどうしようもなかったで済まされてしまったかもしれない。でもそもそも、その大規模災害っていうのをわざと作り出したのは聖女だったというのがあとで分かったらしい。自分の力を誇示したかったがためにあんな大騒動を起こしたと。
そのせいで何百もの命が犠牲になった。
生き残っても満足に暮らせる身体からは程遠い者も居た。
そしてその犠牲者の中にはパーシーの家族も居たようだ。
彼は、当時結婚していて、奥さんと子どもが2人居たらしい。男の子と女の子で、女の子は産まれてすぐの赤子だったと長官が言っていた。
権力にもお金にも興味がなかった彼は、自身が持って生まれた力に気が付かれまいと、静かに暮らしていたらしい。それなのに、たまたま聖女の生贄に選ばれた地域がパーシーが住んでいた場所で、あんなことになってしまった。
パーシーの能力は他者の力を吸収する力だ。
もしこれが、癒しの能力であれば、きっと自分自身で家族を助けることが容易にできただろう。パーシーは僕等カタルシスが持つ魔力量とほぼ同等の力を保持していたのだから。
家族が亡くなって、自身の力までも暴露されてしまったパーシーは、その力を利用したい皇族に神殿に行くことを強要されてしまった。
それ以来ずっと神殿で、外部からの悪意あるあらゆる魔法を昼夜を問わず結界をとおして吸収し続けていた。
文字通り命を削りながら。
(疑問点は吸収した外部の異力がどこに行っていたのかだけど・・・)
あとから考えると分かることではあるが、当時はそんなことまで頭がまわらなかった。多分、僕に付き合ってくれていた訓練も、彼の身体を蝕み続けていたのかもしれない。
(・・・終わったか)
パーシーとの会話が終わったのか、顔を上げたエミリアに僕は声をかけようとした。少しでも彼女の中で何か足枷になっているものを取り除ければと思いながら足を一歩踏み出した時、エミリアの行動を見て思わず開きかけた口を閉じた。
「・・・・・」
顔を上げたエミリアは、左手に自分の唇を押し当てたあと、その左手でパーシーの墓石にそっと触れた。そして立ち上がって振り返った彼女は、僕の目を見てニコっと笑った。
(ありがとうございます。連れてきてくれて)
口の動きがそう告げていたのを見て、目を細めた僕は少し安堵した。本心がどうであれ、さっきの彼女の行動に嫌な気持ちが含まれていないのは確かだ。
「僕のほうこそありがとうございます」
入れ替わりで、残り半分の花束をエミリアが置いた花の横に並べると、生ぬるい風が少し右頬を撫でた。
「・・・・」
聞きたいことは山ほどある。
でも、何を言っても返ってこない返事を考えると虚しくなる。それにきっとため息をつきながらいつものように
冷めた口調で言い返されるのがオチだろう。
だからせめて、パーシーの魂が亡くなった奥さんと子どもたちに無事に会えればいいと、そう願って墓石に触れた。
そして自分の両親が亡くなった時とは違う悲しみが脳裏に刻まれたこの瞬間、パーシー・ウィリアムは死んだのだと、最後の別れだと自分に言い聞かせて、エミリアと2人で彼の墓石を後にした。
◇◇◇
「身体は辛くないですか」
屋敷に戻ってくると、隣でそわそわしているエミリアが僕の腕を掴んだまま下を向いていた。
ぎゅっと握ってきたその手が大丈夫と言っているのかそうでないのかは定かでないが、もしかすると屋敷のみんなに出迎えられたから落ち着かないのかもしれない。綺麗だからもうちょっと顔を見たいけど中々こっちを向いてくれない彼女のことを考えた僕は、すぐに自分の部屋に彼女を連れて戻った。
「エミリア、座ってください」
座るよう促すと、やっと落ち着いたのか少しホッとしているような表情に見える。
「疲れましたか」
慣れないドレスに慣れない環境だったから多分気疲れはしている。それでも健気に首を横に振った彼女は、何故か僕を見つめている。何か言いたいことがあるのだろうかと、聞こうとしたその時、部屋のドアを誰かがノックした。
「リクール様、エミリア様をお迎えにあがりました」
「あぁ・・・入ってくれ」
「失礼します」
着替えてもらうためメイドに来るように指示を出していたからそのとおりにしてくれたのは当たり前だが、タイミングが悪い。あとで聞けばいいやと入室を許可した。
「僕の寝室を使ってくれ」
「かしこまりました」
エミリアを見ると、メイドに話しかけられて少し嬉しそうな顔をしている。頷いて立ち上がった彼女は僕に顔を向け少し頭を下げてから別室へと消えていった。
「・・・・はぁ」
可愛すぎる。
独り占めしたい欲がどんどん酷くなる。
男を紹介してくれとか言われたらそいつの事殺しそう。
顔半分を手で覆って舌打ちをした僕は、また聞こえてきたドアのノック音に危うい思考を停止させた。
「なんだ」
「リクール様、少々お時間よろしいでしょうか。神殿から伝達が届きました」
(・・・神殿?)
「入ってくれ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは執事長だった。
伝達とは言いながら少し分厚い書類を抱えている。
「神殿の長官から送られてきました」
「・・・・」
「それと、カードによる伝言付きでした」
「伝言?なんて言ってたんだ?」
受け取ると見た目よりかは軽い。
宛名は僕の名前で、差出人は長官直々だった。
開けようとして封を切ると、長官の魔力がフッと一瞬漂ってすぐに消えた。
「神殿の長官によると、書類の中身は全部で3通とのこと。1つは、リクール様に、もう2つはエミリア様に。ただし、エミリア様宛の2つのうち1つは、リクール様が保管しておいて欲しいということでした。保管すべき書類は封が青色だということです」
執事長のいうことを聞きながら中身を取り出すと、伝言のとおりで、青色の封がしてある書類は他に比べて少し厚みがあった。
「・・・中身なんだろうな」
宛名はエミリアで、差出人はパーシー・ウィリアムと書いてある。他の2つはどうやら手紙のようだ。僕宛もエミリア宛も、どちらも差出人はパーシーだった。
(・・・わざわざエミリアの誕生日に送ってくるってことは、元々用意されてたってことか)
「エミリア様は今どちらに」
「ん?あぁ、僕の寝室にいる」
「さようでございますか。お食事はどちらに運べばよろしいでしょう」
「・・・僕の寝室にしてくれ。多分疲れてるから大掛かりだと余計に疲れさせるかもしれない」
「承知いたしました。ではそのようにいたします」
「あぁ、頼む」
執事長がお辞儀をして出ていったのを見送ると、僕はすぐにパーシーからの手紙の封を切った。
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