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あんなとこに連れて行ってもらえるなんて。
まるで違う世界にいるようだった。
「エミリア様、これからお食事ですので服はこちらに着替えて頂きます」
屋敷に戻ってきて何故かリクールの部屋に一緒に行ったはいいけど、今度は寝室にとおされて今は別の服に着替えている。
(・・・カッコよくて見惚れてたなんて言ったら変に思われるかもしれないよね)
それにしても、魔力のない私でもあの空間は居心地が良かった。ふわふわと宙に浮いているようで、なんのしがらみも嫌な感じもしない。只々、穏やかな時間が流れていて、目を瞑ったらそのまま深い眠りにはいれそうな、そんな場所だった。
(あそこならきっとパーシー前副長官もゆっくり休めるのかな)
もう一度行きたいなんて言えないけど、何度も思い出してしまうような場所。心まで洗われた感じがする。喉の奥につっかえていたものが取れたようなそんな感覚がした私は、朝から何も食べていないことを思い出してお腹が鳴りそうになった。
(さっき食事って言ってたよね・・・何が出るんだろう。リクールと一緒に食べるのかな)
どうせなら1人でバクバクとマナーとか気にせず食べたい。お腹いっぱいに食べて飲んで、そのままベッドに横になってぐーすか寝たい。
そんな贅沢なことを思いながら着替え終わって、メイドさんと一緒に寝室を出た。
(・・・?)
寝室を出て最初に目に飛び込んできたのは、リクールが席に座り妙に気難しい顔をしている様子だった。
何か紙のようなものを手にして、それを眺めている。
「リクール様、エミリア様のお着替え終わりました」
「あぁ、ありがとう」
(・・・・何かあったのかな)
私が着替えていたからリクールも着替えたと思ったけど、服装は出かけた時のままだ。服を室内用に替えた私を見たリクールは、持っていた紙をしまい席を立った。
「お腹は空いてますか」
目の前に来た彼に頷くと、少し待つように言われたからソファに座った。さっきのリクールの様子が気になってしまったけど、もしかして仕事の事だろうか。
(招集がかかったのかな・・・)
リクールはメイドさんに何か言ってから寝室へと入っていった。私に向ける表情は変わってないけど、見送った彼の背中がなんだか少し寂しそうに見える。
「エミリア様、リクール様も今からお着替えをされますので少しお待ちください。お食事はこの後すぐにお持ちいたします。それでは私は一旦下がらせていただきます」
(仕事じゃない・・・?)
特段急ぎの内容ではないということなのか。メイドさんはお辞儀をして部屋から去って行って私は部屋にポツンと一人残されてしまった。
(それにしても・・・広い・・・)
ソファも大きいし、貴族の主君の部屋はだいたいこういうものなのだろうか。お金が凄いかかってそうな造りだ。
そして時間はなんだかんだいってお昼をとうに過ぎている。
(どうりでお腹が空くわけだ)
メイクも髪も、もとに戻してもらったからいつもどおりの自分になった私は、ソファの背もたれに寄りかかった。緊張感がとけて長く息をはいてから天井を見上げて少しだけ目を瞑ったけど、眠ってしまいそうだったからすぐに目を開けた。
そういえば、リクールは1人で着付けをしているのだろうか。男性は簡単なの?結構複雑そうに見えたけど。それとも脱ぐだけだから1人でできる?
(魔法で着替えとかできるのかな)
静かな部屋には時計のカチっカチっカチっという音だけが聞こえる。そしてあっと突然思い出したように包帯が巻かれていない首元に手を当てた私は、少しだけ喉を擦った。
「すいません、お待たせしました」
「・・・・」
「首が痛むんですか」
ガチャとドアが開く音がした方向に目を向けると、ラフな格好のリクールが寝室から出てきた。たまたま擦っていたところを見られてしまった私はまた首を横に振り、慌てて立ち上がる。
「ならいいのですが。すいません、突然なのですが、エミリアに渡さなければいけないものがあります」
「・・・・」
そう言ったリクールは、自身の机の引き出しを開けて、書類を取り出した。彼の手には封の色が違う手紙のようなものが握られている。
「パーシーはどうやら僕とエミリアに手紙を残していたようです」
(・・・・え?)
「僕宛のものは先ほど読みました。今僕が持っているこの2つはエミリア宛です。青い封のほうは、僕が保管するように言われてるので、先にこの手紙だけお渡しします」
リクールは説明がてら薄めの封筒のほうを私に手渡した。
「僕がこの青色の封を管理する理由は、エミリアの手紙の中にも書いてあると僕の手紙に書いてありました」
もしかして、さっき浮かない顔をしていたのは、パーシーからの手紙を読んでいたから?
(何が書かれてたんだろう。あの人のことだから嫌味なことを書いたのかな・・・でも)
リクールはきっと笑いながら跳ね返す人だから、あんな表情をしてたってことはもっと違う内容だったのかもしれない。リクールに渡された手紙を両手で受け取った私は、私の名前が書いてある封の表をじっと見つめた。
「読むのは食事の後でいいですよ。先に渡したかっただけなので」
リクールの少し切なさが混じったような声色に私は思わず顔を上げた。距離が近いのは今に始まったことじゃないけれど、屋敷に戻ってくるまでリクールのことを見るたびにドキドキしていた私は、今この瞬間だけ何故かそんな感情がわかなくて、只々純粋に彼を心配してしまった。
(分かりました)と頷いて、受け取るだけ受け取った手紙は、一旦寝室のベッド脇に置かせてもらった。
食事が運ばれてきたから、そのまま寝室の方でリクールと一緒に食べたけど、やっぱりなんか様子がおかしい。
それでもこんな時でさえお腹は正直で、心配しながらも全て平らげた私は最後にお茶を飲みながら彼に話しかけた。
〘何かありましたか〙
「・・・・」
〘私ができることがあれば力になりたいです。なんでもします。遠慮なく言ってください〙
ここまでずっと気にかけてくれた。
恩返しをできるなら今しかない。
羽ペンを久しぶりに出して私は空中に文字を書いた。
(・・・どうしても気になる)
それを読んで少しびっくりしたように眉を上げたリクールは、考え込むような仕草をしてから何故かニヤリと笑って口を開いた。
「・・・本当に何でもしてくれるのですか」
〘当然です。お世話になりましたから〙
「・・・・そうですね。分かりました。それじゃあ、そのご提案はいざって時に取っておきます」
結局何があったかは言わなかったリクールに、それでも気合を入れて私は頷いた。少し元気を取り戻したように見える彼の雰囲気に、〘分かりました〙と返した返事はちょっとだけ文字がぶれてしまっていた。
「エミリア」
「・・・・」
「貴方が手紙を読むときは、僕は隣の執務室にいます。この寝室は使ってもらって結構ですから、読み終わってもし僕が必要なら呼んでください」
(どういうこと・・・?)
言葉の真意は掴めないけどゆっくりと首を縦に振った私に、リクールはニコっと笑った。
食事を終えてからリクールが呼んだメイドさんに片付けをしてもらい、少しだけ話をした後、彼は寝室から出て行った。
(・・・なんであんなこと言ったんだろう)
閉まるドアの音が妙に重く感じられる。
まだ夜になってないから窓からは明かりが差し込んでいる寝室の雰囲気とは随分と対照的だ。視線をドアからベッド脇に移して、置いていた手紙を見つめた私は、その手紙に手を伸ばしてベッドに座った。
(・・・ここじゃまずいかな)
あっ"と思ってすぐに立った私は、近くに置いてあるイスに座り直して、ドキドキしながら封を切った。
1枚の紙が中に入っている。
思ったより緊張しているのか、手が震えてきた。
手の汗も何故かここに来て急に出てくるなんて。
(・・変なこと書いてあったらどうしよ)
深呼吸をしても止まらないその手の震えは、何を予感してのことだったのか。
2つ折りにされていた紙を広げて私はパーシー前副長官からの手紙を読み始めた。
――――――――――
エミリアさんへ
まず初めに、貴方に謝っておくことがあります。
――――――――――
綺麗な文字で書かれた文章は、謝罪から始まっていた。
あの人らしくないその文章にまた下唇を噛みそうになった私は、口から息を吐いて噛まないように指で唇を押さえた。
――――――――――
エミリアさんへ
まず初めに、貴方に謝っておくことがあります。
貴方が神殿に来て働き始めてから、ずっと見習いとしてやってもらっていましたが、それは私の判断でした。頑張ってる姿を見て心苦しかったのですが、これは最初から決めていたことでした。
貴方が18歳の成人を迎えたら、神殿から出て外の世界で生きてほしかったからです。
神殿という場所は、外界からある意味隔離された場所です。外の世界を知らないままあんな場所に閉じ込められて一生を過ごさせるわけにはいかなかった。神殿に連れてきたのは私ですが、それは貴方にきちんとした教育を受けて欲しかったからです。神殿に連れてくれば私の裁量で大抵のことは可能でしたから。保護者になりきれなかった哀れな親心をお許しください。
文字の習得も、作法やマナーの教育も、神殿とは何ら関係のなさそうな経済や法律の勉強も、全て外の世界で貴方が生きていくために必要なものでした。
貴方は文句を言いながらも真剣に取り組んでいてくれてました。渡した本を引きちぎって壁に投げつけていたのを何回か目撃したことがありましたが、それも今となってはいい思い出です。
神殿という場所に縛られず、好きなように生きて欲しい。世の中には美味しいものがたくさんあります。貴方に似合う綺麗な服もたくさんあります。時間を忘れるほど美しい場所もあります。貴方のことを応援してくれる素敵な人もたくさん居ます。
エミリアさん、貴方は賢くて強い人です。
外の世界に行っても、必ず上手くやっていけます。
お金の心配はしないでください。
リクール殿に預けた青色の封の中に、お金を引き出すために必要な書類が入っていますから、中を見て欲しい分だけ使ってください。死んだ人間がお金の管理はできませんので、そこはカタルシスの名で管理してもらうようにリクール殿にお願いしてあります。
唯一の心残りは、あんな形で貴方を見送ってしまったことです。申し訳なかった。何一つ貴方に優しい言葉をかけてあげられませんでしたから。
そのかわり、今の貴方には、貴方を大事に思って、守ってくれる人が近くに居るはずです。
その人を頼ってください。
貴方はもう1人ではないのですから。
最後に、エミリアさん、18歳の誕生日おめでとうございます。
貴方のこれからの幸せを心から願っています。
パーシー・ウィリアム
――――――――――――
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