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しおりを挟む「今・・・・なんて」
私がこんなことを言うと思ってなかったのか、リクールは少し言葉に詰まって、涙を触る手の動きが止まった。
消えてしまった光のせいで余計に辺りが暗く感じるから、彼の顔も一瞬よく見えなくなった。
「・・・す・・・好きって」
うっ…人に気持ちを直接伝えるのってこんなに照れることなの。
神殿に居たときは、外部の男性とほとんど対面で接触がなかったから好意を抱くとか、カッコいいとかそんな価値観すら抱いたことがない。
「気が付いたらリクールのこと・・・好きに・・・なって」
「・・・・」
パーシー副長官の手紙を読んで、次にリクールの体温を感じたら、気持ちが左右に飛び散ってしまった。
せっかく未来を用意してくれたのに、その後リクールのことを好きだと自覚して、その両方が分かったのがほとんど同じタイミングだなんて。
「でも・・・眼鏡おじさんが・・・っ・・・たくさん」
「エミリア」
「っ・・・たくさん未来をくれたから・・・どうすればいいか分からなくて」
どちらかを取ると他方の気持ちを裏切ることになってしまう。そんな罪悪感を感じた私は、また無意識に下唇を噛もうとした。
「っ・・・・」
「噛まないでください」
「・・・」
「エミリア、聞いてください。パーシーが言ったことなら心配しなくても大丈夫です」
(・・・・え?)
リクールは泣いている私をなだめるように声のトーンを落として静かにしゃべり始めた。2人しかいないのにまるで内緒話をするかのように。
そして噛むのをやめさせるためか、彼が私の唇に親指を押し当てた。まるでそれが合図かのごとく、同時にボウッと音がして部屋の明かりが少しだけ照らされて、目の前にいるリクールの顔が見えるようになった。
「・・・・ど、どうし」
「色々手紙で提案されたようですが、それは僕と一緒に居てもできます。ここは神殿ではありませんし、なんなら僕の力を使えば好きな場所に転移し放題なので」
「・・・・」
「エミリア、僕は貴方がここを出て他の場所で1人で生きてみたいというのならそれは受け入れます。他に好きな男がいてその人のところに行きたいというのであればそれも仕方がないことです」
綺麗なオッドアイは、明るいとこに比べて少し色味が変化して見える。唇に触れた彼の指は一番ふっくらした所からなぞるように少しずつずれていき、口の端に来て止まった。
「でも、どうしたらいいか分からない理由がパーシーと僕であれば、それは悩む必要がありません。彼が言ったことは僕なら全部叶えられますから」
「・・・・っ」
「僕だけがあなたのことを好きなら手を引きますが、エミリアも僕に好意を持っているのなら話は違ってきますよね」
…まただ。
「欲しいものは欲しいと言えばいいのです」
たまに感じるこのなんとも言えない雰囲気。どんな感情から発せられているのか分からないけど、私のことを好きと言った手前怒ってるわけではなさそう。
「嫌なものは嫌とハッキリ言えばいいのです」
服の上からでも変な気持ちになるのに、剥き出しの欲が詰まった唇なんて敏感なところに手を伸ばされたらこの前みたいになってしまう。
はぁっ…とバレないように少し息を吸った私は、消え入るような声で「はい」とだけ返事をした。今はもう彼が言ったことに肯定も否定もできるほど脳みそにスペースが残っていない。
(・・・・どう・・しよ)
触れられている箇所がヒリヒリする。
ちょっとずつ熱で溶けていくような、お腹の底が疼くような、そんな今までに感じたことのない感覚がわいてきた自分の身体に戸惑いを隠せない。
息づかいが簡単にバレてしまうような距離のなさに頭が回らなくて、少し冷めたような目付きの彼に見つめられた私は、思考がついに停止してしまった。
(・・・どう・・して)
「・・・あ、あの」
触れていた彼の手から自身の手を離した私は、その震える手で自分の服を掴んだ。そしてまるで話し始めたばかりの幼子のように、辿々しい言葉遣いで彼に離れてくれと告げた。
いや、告げようとした…。
「・・・っ・・・リクっ・・・んっ」
頬を包んでいたリクールの手に力が入ったと思ったその瞬間、さっきまで触られていた指ではない別の柔らかさが私の唇に触れて、喋ろうと開きかけた口を塞がれてしまった。
「っ・・・ん・・ふ」
まるで凹凸がぴったりハマるように角度を変えながら乾いた唇を濡らしていく突然のその行為は、息が止まるほど長く続いた。
漏れる吐息も、恥ずかしくてくすぐったいような気持ちもお互いの唇が触れる時間が長くなるほど増えていく。
「はっ・・・んっ」
そして最後は痕が付きそうなほど自身の唇を私の唇に押し当て、名残惜しそうにわざと音を立てながらリクールはゆっくりと離れていった。
「・・・・っ」
冷めていたと思っていたその目は、やっぱりなんだか色味が変色しているように見える。
―綺麗―
無意識にそう思いながら、頬に添えられたリクールの手がなんだか気持ち良くて、恍惚とした視線を彼に向けているのが自分でも分かってしまう。そして私の中の女の部分が前に出てこようとしていることに相反する感情がわいてきた。
それでも深く甘い情緒に蕩け落ちそうになった時間はそれほど長く続くこともなく、口を動かすとまたすぐに唇が濡れてしまう距離しかないお互いの隙間に割り込んできたのは、誰かが舌打ちをしたような音だった。
(えっ・・・)
「邪魔が入る」
突然不機嫌にそう言い出したリクールは、うんざりしたように軽くため息をついた。何が起こってるのか分からなくて、誰のことかも分からない私は、この時はっと我に返って恥ずかしさで体から熱が一気に放出されるような感覚に陥った。
「リクっ・・・ん・・・はっ」
どうしようと、慌てふためきかけて彼の名前を呼ぼうとした瞬間、 部屋の外から聞こえてくる女性の声を気にするなとでも言わんばかりに、リクールは唇の間から舌先を入れてきた。そしてわずかにあいたお互いの隙間を埋めるかの如く、頬に触れていた手を私の頭の後ろに持っていった。
「っ・・・ん・・」
何このキス。
こんなキスするの?これってキス?
食べ物や飲み物以外のものが入ってくる妙な感覚に身体が後に仰け反りそうになる。
それに口の中がこんなに熱いだなんて。
リクールの舌が私の舌を撫でるたびに飲み込めない唾液が口の中に溜まっていく。
しまいには、彼が口を開けて中に入ってこようとするたびに、その溜まった唾液が口の端から流れ落ちて、首の方までつたっていった。
「んくっ・・・ふ・・はっ・・」
まるで甘い蜜を味わうかのようにゆっくりと私の口内に溜まった唾液と舌を絡めとったリクールは、微かな隙間を見つけては必死で息継ぎをする私に、少しだけ唇を離してこう言った。
「邪魔が入らない部屋に移動しましょう」
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