眠れる勇者99九回目で

ネム・サブロウ

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第5話最強の戦士と地獄の修行

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トヨコ「三郎ー、起きたのー?
もう起こさないからねー」

三郎「起きたよー」

そう答えながら、三郎は内心で首を傾げていた。
身体が重い。だが、嫌な重さではない。
——こんなに寝ていたか?

枕元の時計を見る。

20:00

三郎「えっ!? こんな時間!?」

一瞬、状況を飲み込めず目を擦る。
昼寝のつもりだったはずだ。だが、外はすでに夜の気配だった。

慌ててドアを開け、台所を覗く。

三郎「母さん! ご飯は!?」

トヨコ「冷めるし勿体ないから、食べたわ」

悪びれもなく言い切られる。

三郎「えぇ……」

腹が空いているというより、
自分だけ取り残されたような感覚が胸に残る。
結局、文句を言う気力もなく、三郎は上着を掴んで外に出た。

――――――

三郎「……あんまり外出たくないんだけどな」

夜の空気は冷たく、頬を刺した。
昼と夜の境目が曖昧なこの時間帯が、昔から少し苦手だった。

コンビニの自動ドアが、間の抜けた電子音を立てて開く。
明るすぎる照明が、現実に引き戻してくる。

三郎「カップラーメンでいいか」

棚の前で数秒迷い、結局いつもの味を取る。

店員「カップラーメン一点ですね。
230円になります」

三郎「あ、はい」

会話はそれだけ。
レジ袋をぶら下げ、足早に家へ戻った。

――――――

自室に戻り、電気ポットに水を入れる。

三郎「ポットあるの助かる……3分か」

ボタンを押し、ベッドに腰を下ろす。
そのまま、無意識にため息が漏れた。

三郎「(整理しよう)」

顎に手を当て、天井を見つめる。

三郎「(死に戻りのループ。
原因は不明。でも“死ぬと戻る”のは確定)」

三郎「(回数を重ねると安定する可能性。
……それと、力不足なのは明らかだ)」

どんな敵だったか。
どこで判断を誤ったか。
思い返そうとすると、途中で途切れる。

ぴぴ。

三郎「あ、できた」

思考を中断し、カップを開けて湯を注ぐ。
立ち上る湯気が、現実を押し戻してくる。

三郎「……俺、醤油派なんだよな」

意味のない独り言を零しながら、ラーメンを啜った。
味は、いつも通りだった。

――――――

風呂場。

ジャー。

三郎「ひゃっ!? 冷たっ!」

反射的に声が出る。

トヨコ「この時間誰も入らないでしょ!
お湯切ってるわよ、我慢しなさい!」

三郎「もー……」

文句を言いながらも、手早く済ませる。
身体を拭き、布団に潜り込む。

三郎「(この感覚……少し慣れてきたな)」

死ぬことに、ではない。
“戻る”ことに、だ。

それが良いことなのかどうかは、分からなかった。

布団の中で目を閉じたまま、三郎はしばらく呼吸を整えた。
眠る前と、目覚めた直後のこの一瞬だけが、
唯一“戻れる”感覚だった。

それが現実なのか、逃げ場なのか。
自分でも、まだ分からない。

(……もう、普通には戻れないな)

そう思っても、不思議と恐怖はなかった。

――――――
目を開ける。

三郎「(……見えてきた)」

今まで霧がかかっていた感覚が、少しだけ澄んでいる。
足元の土の感触、空気の匂い、遠くの気配。
世界の輪郭が、前よりはっきりしていた。

三郎「(あの動物……狐だったのか)」

前はただの影だった。
今は、形として認識できる。

三郎「(そろそろヒサトが……)」

——来ない。

三郎「……来ない?」

胸の奥が、わずかにざわつく。
前回との違いが、はっきりと存在していた。

三郎「(前は宿を取った。
……なら、今回は教会からだ)」

選択肢を変える。
それだけで結果が変わるなら、やる価値はある。

そう決め、歩き出した。

――――――

途中、見覚えのない脇道に出る。
奥から、人の声がいくつも聞こえてきた。

三郎「……行ってみるか」

理由はない。
ただ、流れに逆らいたかった。

――――――

女村人A「きゃー! シュン様ー!」

女村人B「戦士シュン様ー!」

男村人たちもざわめく。

G「さすがだな、シュン様」

E「一晩で村周辺の魔物を狩り尽くしたって話だぞ」

三郎「……あの、すごい人なんですか?」

恐る恐る声をかける。

G「坊主、知らねぇのか?」

E「この村出身だ。
しかも、王国でも指折りだって噂だ」

G「……13で討伐柵を越えたらしい」

E「普通は18からだ。
無茶だと思ったがな」

三郎「……」

言葉が出なかった。
自分との差が、数字で突きつけられた気がした。

G「……あれ? 坊主?」

――――――

シュンの話を聞きながら、胸の奥がじりじりと熱くなる。
羨望でも、嫉妬でもない。
ただ、自分が何も積み上げていない事実だけが、
はっきりと浮かび上がった。

(死んで、戻って、また死んで。
それだけじゃ、何も変わらない)

三郎「……あの人と、ルミナさんに教われば」

胸の奥に、焦りが湧く。
このままじゃ、何度死んでも同じだ。

三郎「……追いつける」

声に出した瞬間、わずかに震えた。
それでも、言葉にしなければ前に進めない気がした。

急ぎ、教会へ戻る。

――――――

三郎「ルミナさん!」

ルミナ「こんにちは。どうなされました?」

三郎「単刀直入に言います!
僕に修行をつけてください!」

ルミナ「え、ええ……?」

能力検査。
緑の光。

ルミナ「……能力、ありませんね」

三郎「知ってます」

即答だった。

ルミナ「え?」

三郎「続けてください」

ルミナ「……魔法は使えます。
基礎的なものだけですが」

三郎「それで十分です。お願いします」

ルミナ「3日後、休暇なので……」

三郎「今日の仕事終わりで」

ルミナ「……3日後じゃ?」

三郎「ダメです」

ルミナ「……負けました」

――――――

夕方。

ルミナ「……実は私、半人前のシスターなんです」

三郎「それでもいいです」

ルミナ「教えられるのは基礎だけですよ?」

三郎「はい!」

その瞬間、
ルミナが距離を詰め、腕を掴む。

三郎「(近い!!
……いや、集中だ)」

心拍数が一気に上がる。

三郎「(……基礎、だよな?)」

ルミナの穏やかな笑顔を見て、
一瞬だけ油断した自分を、三郎は後で何度も後悔することになる。

ルミナ「聞いてます?」

三郎「聞いてます!!」

――――――

30分後。

ルミナ「覚えるの、早いですね」

ルミナ「では……私の攻撃を受けてみてください」

三郎「(……基礎、だよな?)」

嫌な予感が、遅れてやってくる。

ルミナ「行きますねー」

三郎「待っ——」

巨大な炎球。

三郎「——!!」

ドカーン。

――――――

三郎「……はっ!!」

飛び起きる。
冷や汗。

三郎「……新しいトラウマが、増えた」

心臓の鼓動は、まだ速い。
だが同時に、
確かに“前より見えていた”感覚も残っていた。
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