5 / 22
一部
第5話最強の戦士と地獄の修行
しおりを挟む
トヨコ「三郎ー、起きたのー?
もう起こさないからねー」
三郎「起きたよー」
そう答えながら、三郎は内心で首を傾げていた。
身体が重い。だが、嫌な重さではない。
——こんなに寝ていたか?
枕元の時計を見る。
20:00
三郎「えっ!? こんな時間!?」
一瞬、状況を飲み込めず目を擦る。
昼寝のつもりだったはずだ。だが、外はすでに夜の気配だった。
慌ててドアを開け、台所を覗く。
三郎「母さん! ご飯は!?」
トヨコ「冷めるし勿体ないから、食べたわ」
悪びれもなく言い切られる。
三郎「えぇ……」
腹が空いているというより、
自分だけ取り残されたような感覚が胸に残る。
結局、文句を言う気力もなく、三郎は上着を掴んで外に出た。
――――――
三郎「……あんまり外出たくないんだけどな」
夜の空気は冷たく、頬を刺した。
昼と夜の境目が曖昧なこの時間帯が、昔から少し苦手だった。
コンビニの自動ドアが、間の抜けた電子音を立てて開く。
明るすぎる照明が、現実に引き戻してくる。
三郎「カップラーメンでいいか」
棚の前で数秒迷い、結局いつもの味を取る。
店員「カップラーメン一点ですね。
230円になります」
三郎「あ、はい」
会話はそれだけ。
レジ袋をぶら下げ、足早に家へ戻った。
――――――
自室に戻り、電気ポットに水を入れる。
三郎「ポットあるの助かる……3分か」
ボタンを押し、ベッドに腰を下ろす。
そのまま、無意識にため息が漏れた。
三郎「(整理しよう)」
顎に手を当て、天井を見つめる。
三郎「(死に戻りのループ。
原因は不明。でも“死ぬと戻る”のは確定)」
三郎「(回数を重ねると安定する可能性。
……それと、力不足なのは明らかだ)」
どんな敵だったか。
どこで判断を誤ったか。
思い返そうとすると、途中で途切れる。
ぴぴ。
三郎「あ、できた」
思考を中断し、カップを開けて湯を注ぐ。
立ち上る湯気が、現実を押し戻してくる。
三郎「……俺、醤油派なんだよな」
意味のない独り言を零しながら、ラーメンを啜った。
味は、いつも通りだった。
――――――
風呂場。
ジャー。
三郎「ひゃっ!? 冷たっ!」
反射的に声が出る。
トヨコ「この時間誰も入らないでしょ!
お湯切ってるわよ、我慢しなさい!」
三郎「もー……」
文句を言いながらも、手早く済ませる。
身体を拭き、布団に潜り込む。
三郎「(この感覚……少し慣れてきたな)」
死ぬことに、ではない。
“戻る”ことに、だ。
それが良いことなのかどうかは、分からなかった。
布団の中で目を閉じたまま、三郎はしばらく呼吸を整えた。
眠る前と、目覚めた直後のこの一瞬だけが、
唯一“戻れる”感覚だった。
それが現実なのか、逃げ場なのか。
自分でも、まだ分からない。
(……もう、普通には戻れないな)
そう思っても、不思議と恐怖はなかった。
――――――
目を開ける。
三郎「(……見えてきた)」
今まで霧がかかっていた感覚が、少しだけ澄んでいる。
足元の土の感触、空気の匂い、遠くの気配。
世界の輪郭が、前よりはっきりしていた。
三郎「(あの動物……狐だったのか)」
前はただの影だった。
今は、形として認識できる。
三郎「(そろそろヒサトが……)」
——来ない。
三郎「……来ない?」
胸の奥が、わずかにざわつく。
前回との違いが、はっきりと存在していた。
三郎「(前は宿を取った。
……なら、今回は教会からだ)」
選択肢を変える。
それだけで結果が変わるなら、やる価値はある。
そう決め、歩き出した。
――――――
途中、見覚えのない脇道に出る。
奥から、人の声がいくつも聞こえてきた。
三郎「……行ってみるか」
理由はない。
ただ、流れに逆らいたかった。
――――――
女村人A「きゃー! シュン様ー!」
女村人B「戦士シュン様ー!」
男村人たちもざわめく。
G「さすがだな、シュン様」
E「一晩で村周辺の魔物を狩り尽くしたって話だぞ」
三郎「……あの、すごい人なんですか?」
恐る恐る声をかける。
G「坊主、知らねぇのか?」
E「この村出身だ。
しかも、王国でも指折りだって噂だ」
G「……13で討伐柵を越えたらしい」
E「普通は18からだ。
無茶だと思ったがな」
三郎「……」
言葉が出なかった。
自分との差が、数字で突きつけられた気がした。
G「……あれ? 坊主?」
――――――
シュンの話を聞きながら、胸の奥がじりじりと熱くなる。
羨望でも、嫉妬でもない。
ただ、自分が何も積み上げていない事実だけが、
はっきりと浮かび上がった。
(死んで、戻って、また死んで。
それだけじゃ、何も変わらない)
三郎「……あの人と、ルミナさんに教われば」
胸の奥に、焦りが湧く。
このままじゃ、何度死んでも同じだ。
三郎「……追いつける」
声に出した瞬間、わずかに震えた。
それでも、言葉にしなければ前に進めない気がした。
急ぎ、教会へ戻る。
――――――
三郎「ルミナさん!」
ルミナ「こんにちは。どうなされました?」
三郎「単刀直入に言います!
僕に修行をつけてください!」
ルミナ「え、ええ……?」
能力検査。
緑の光。
ルミナ「……能力、ありませんね」
三郎「知ってます」
即答だった。
ルミナ「え?」
三郎「続けてください」
ルミナ「……魔法は使えます。
基礎的なものだけですが」
三郎「それで十分です。お願いします」
ルミナ「3日後、休暇なので……」
三郎「今日の仕事終わりで」
ルミナ「……3日後じゃ?」
三郎「ダメです」
ルミナ「……負けました」
――――――
夕方。
ルミナ「……実は私、半人前のシスターなんです」
三郎「それでもいいです」
ルミナ「教えられるのは基礎だけですよ?」
三郎「はい!」
その瞬間、
ルミナが距離を詰め、腕を掴む。
三郎「(近い!!
……いや、集中だ)」
心拍数が一気に上がる。
三郎「(……基礎、だよな?)」
ルミナの穏やかな笑顔を見て、
一瞬だけ油断した自分を、三郎は後で何度も後悔することになる。
ルミナ「聞いてます?」
三郎「聞いてます!!」
――――――
30分後。
ルミナ「覚えるの、早いですね」
ルミナ「では……私の攻撃を受けてみてください」
三郎「(……基礎、だよな?)」
嫌な予感が、遅れてやってくる。
ルミナ「行きますねー」
三郎「待っ——」
巨大な炎球。
三郎「——!!」
ドカーン。
――――――
三郎「……はっ!!」
飛び起きる。
冷や汗。
三郎「……新しいトラウマが、増えた」
心臓の鼓動は、まだ速い。
だが同時に、
確かに“前より見えていた”感覚も残っていた。
もう起こさないからねー」
三郎「起きたよー」
そう答えながら、三郎は内心で首を傾げていた。
身体が重い。だが、嫌な重さではない。
——こんなに寝ていたか?
枕元の時計を見る。
20:00
三郎「えっ!? こんな時間!?」
一瞬、状況を飲み込めず目を擦る。
昼寝のつもりだったはずだ。だが、外はすでに夜の気配だった。
慌ててドアを開け、台所を覗く。
三郎「母さん! ご飯は!?」
トヨコ「冷めるし勿体ないから、食べたわ」
悪びれもなく言い切られる。
三郎「えぇ……」
腹が空いているというより、
自分だけ取り残されたような感覚が胸に残る。
結局、文句を言う気力もなく、三郎は上着を掴んで外に出た。
――――――
三郎「……あんまり外出たくないんだけどな」
夜の空気は冷たく、頬を刺した。
昼と夜の境目が曖昧なこの時間帯が、昔から少し苦手だった。
コンビニの自動ドアが、間の抜けた電子音を立てて開く。
明るすぎる照明が、現実に引き戻してくる。
三郎「カップラーメンでいいか」
棚の前で数秒迷い、結局いつもの味を取る。
店員「カップラーメン一点ですね。
230円になります」
三郎「あ、はい」
会話はそれだけ。
レジ袋をぶら下げ、足早に家へ戻った。
――――――
自室に戻り、電気ポットに水を入れる。
三郎「ポットあるの助かる……3分か」
ボタンを押し、ベッドに腰を下ろす。
そのまま、無意識にため息が漏れた。
三郎「(整理しよう)」
顎に手を当て、天井を見つめる。
三郎「(死に戻りのループ。
原因は不明。でも“死ぬと戻る”のは確定)」
三郎「(回数を重ねると安定する可能性。
……それと、力不足なのは明らかだ)」
どんな敵だったか。
どこで判断を誤ったか。
思い返そうとすると、途中で途切れる。
ぴぴ。
三郎「あ、できた」
思考を中断し、カップを開けて湯を注ぐ。
立ち上る湯気が、現実を押し戻してくる。
三郎「……俺、醤油派なんだよな」
意味のない独り言を零しながら、ラーメンを啜った。
味は、いつも通りだった。
――――――
風呂場。
ジャー。
三郎「ひゃっ!? 冷たっ!」
反射的に声が出る。
トヨコ「この時間誰も入らないでしょ!
お湯切ってるわよ、我慢しなさい!」
三郎「もー……」
文句を言いながらも、手早く済ませる。
身体を拭き、布団に潜り込む。
三郎「(この感覚……少し慣れてきたな)」
死ぬことに、ではない。
“戻る”ことに、だ。
それが良いことなのかどうかは、分からなかった。
布団の中で目を閉じたまま、三郎はしばらく呼吸を整えた。
眠る前と、目覚めた直後のこの一瞬だけが、
唯一“戻れる”感覚だった。
それが現実なのか、逃げ場なのか。
自分でも、まだ分からない。
(……もう、普通には戻れないな)
そう思っても、不思議と恐怖はなかった。
――――――
目を開ける。
三郎「(……見えてきた)」
今まで霧がかかっていた感覚が、少しだけ澄んでいる。
足元の土の感触、空気の匂い、遠くの気配。
世界の輪郭が、前よりはっきりしていた。
三郎「(あの動物……狐だったのか)」
前はただの影だった。
今は、形として認識できる。
三郎「(そろそろヒサトが……)」
——来ない。
三郎「……来ない?」
胸の奥が、わずかにざわつく。
前回との違いが、はっきりと存在していた。
三郎「(前は宿を取った。
……なら、今回は教会からだ)」
選択肢を変える。
それだけで結果が変わるなら、やる価値はある。
そう決め、歩き出した。
――――――
途中、見覚えのない脇道に出る。
奥から、人の声がいくつも聞こえてきた。
三郎「……行ってみるか」
理由はない。
ただ、流れに逆らいたかった。
――――――
女村人A「きゃー! シュン様ー!」
女村人B「戦士シュン様ー!」
男村人たちもざわめく。
G「さすがだな、シュン様」
E「一晩で村周辺の魔物を狩り尽くしたって話だぞ」
三郎「……あの、すごい人なんですか?」
恐る恐る声をかける。
G「坊主、知らねぇのか?」
E「この村出身だ。
しかも、王国でも指折りだって噂だ」
G「……13で討伐柵を越えたらしい」
E「普通は18からだ。
無茶だと思ったがな」
三郎「……」
言葉が出なかった。
自分との差が、数字で突きつけられた気がした。
G「……あれ? 坊主?」
――――――
シュンの話を聞きながら、胸の奥がじりじりと熱くなる。
羨望でも、嫉妬でもない。
ただ、自分が何も積み上げていない事実だけが、
はっきりと浮かび上がった。
(死んで、戻って、また死んで。
それだけじゃ、何も変わらない)
三郎「……あの人と、ルミナさんに教われば」
胸の奥に、焦りが湧く。
このままじゃ、何度死んでも同じだ。
三郎「……追いつける」
声に出した瞬間、わずかに震えた。
それでも、言葉にしなければ前に進めない気がした。
急ぎ、教会へ戻る。
――――――
三郎「ルミナさん!」
ルミナ「こんにちは。どうなされました?」
三郎「単刀直入に言います!
僕に修行をつけてください!」
ルミナ「え、ええ……?」
能力検査。
緑の光。
ルミナ「……能力、ありませんね」
三郎「知ってます」
即答だった。
ルミナ「え?」
三郎「続けてください」
ルミナ「……魔法は使えます。
基礎的なものだけですが」
三郎「それで十分です。お願いします」
ルミナ「3日後、休暇なので……」
三郎「今日の仕事終わりで」
ルミナ「……3日後じゃ?」
三郎「ダメです」
ルミナ「……負けました」
――――――
夕方。
ルミナ「……実は私、半人前のシスターなんです」
三郎「それでもいいです」
ルミナ「教えられるのは基礎だけですよ?」
三郎「はい!」
その瞬間、
ルミナが距離を詰め、腕を掴む。
三郎「(近い!!
……いや、集中だ)」
心拍数が一気に上がる。
三郎「(……基礎、だよな?)」
ルミナの穏やかな笑顔を見て、
一瞬だけ油断した自分を、三郎は後で何度も後悔することになる。
ルミナ「聞いてます?」
三郎「聞いてます!!」
――――――
30分後。
ルミナ「覚えるの、早いですね」
ルミナ「では……私の攻撃を受けてみてください」
三郎「(……基礎、だよな?)」
嫌な予感が、遅れてやってくる。
ルミナ「行きますねー」
三郎「待っ——」
巨大な炎球。
三郎「——!!」
ドカーン。
――――――
三郎「……はっ!!」
飛び起きる。
冷や汗。
三郎「……新しいトラウマが、増えた」
心臓の鼓動は、まだ速い。
だが同時に、
確かに“前より見えていた”感覚も残っていた。
0
あなたにおすすめの小説
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
姉から全て奪う妹
明日井 真
ファンタジー
「お姉様!!酷いのよ!!マリーが私の物を奪っていくの!!」
可愛い顔をした悪魔みたいな妹が私に泣きすがってくる。
だから私はこう言うのよ。
「あら、それって貴女が私にしたのと同じじゃない?」
*カテゴリー不明のためファンタジーにお邪魔いたします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる