眠れる勇者99九回目で

ネム・サブロウ

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第7話希望を捨てていなかった

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三郎が目を覚ました。

三郎「……ん?」

白い天井。
鼻を突く消毒液の匂い。
眠たい頭のまま、ゆっくりと周囲を見渡す。

視界が定まるまでに、数秒かかった。
頭の奥がじんわりと痺れ、夢と現実の境目がまだ曖昧なままだ。
身体を動かそうとすると、全身が重く、思うように力が入らない。

三郎「ここは……?」

看護師「先生! 起きました!」

三郎「(先生? 何のことだ……)」

次の瞬間、三郎は勢いよく上体を起こした。

三郎「!!(ここだ!)」

胸の奥が、ざわりと揺れた。
この感覚には覚えがある。
“戻ってきた”と、直感が告げていた。

医者「お、起きましたか。おはようございます、三郎君」

三郎「え? 誰ですか? なんでここに――」

トヨコ「あなた!!」

勢いよく駆け寄ってきたトヨコが、三郎を強く抱きしめた。

細い腕なのに、驚くほど力がこもっていた。
震える肩越しに、必死に抑えていた感情が伝わってくる。

トヨコ「いつまで寝てるのよ!
どれだけ心配したと思ってるの!」

三郎「母さん……」

トヨコの目から、濁りのない涙が流れていた。

その涙を見た瞬間、胸の奥がきしんだ。
自分がどれだけ長く、ここにいなかったのかを思い知らされる。

先生「三郎君、安心してください。検査しましたが、今のところ身体に異常はありません。ただ、また同じようなことが続くようでしたら、通院を考えましょう」

トヨコ「ありがとうございます、先生。……三郎、帰ろう」

三郎「う、うん」

三郎は病院を出た。



帰りの車の中。

三郎「……か、母さん。なんで車があるの?」

トヨコ「救急隊の人にね、“今の段階では命の危険はない”って言われたの。だから車で救急車を追いかけたのよ」

三郎「……そうなんだ」

短い沈黙。

トヨコ「……ねえ、三郎。ああなった心当たり、ないの?」

声は暗く、低かった。

三郎「……その、夢に入り込みすぎたっていうか……異世界、みたいな……」

トヨコ「ふざけないで!」

車内の空気が一気に張り詰める。

トヨコ「高校卒業してから引きこもって!どれだけ母さんを困らせるの!お父さんも、あなたが小さい時に亡くなって……貯金だって減ってきてるのよ!」

三郎「俺にだって、分からないんだよ!」

三郎も声を荒げた。

三郎「原因も、どうしたらいいかも!
産まなきゃよかった!?
俺だって、こんな貧乏な家に生まれたくなかったよ!」

二人は感情をぶつけ合い、そのまま口を閉ざした。



家に着くと、三郎は無言で車を降り、自分の部屋へ戻っていった。

三郎「……本当のこと言っただけなのに」

髪を掻きむしる。

三郎「あ”ぁー……むしゃくしゃする!」

ベッドに倒れ込み、目を閉じた。

三郎「(異世界に行く気も……正直しないな)」

そう思いながら、意識はゆっくりと沈んでいった。



三郎「……でも、来たか」

異世界。

三郎「よし、切り替えよう。
俺は前より強い。シュンさんにも“スライム程度なら勝てる”って言われた」

三郎「今回は……国王のところだ」

三郎「道が分からない時は――あいつだよな」

スキップしながら、武器屋エンジェル方面へ向かう。

三郎「この辺に……」

三郎「あれ? いない?」

困っていると、聞き覚えのある声がした。

三郎「……いた!」

三郎「ヒサトちゃん!」

ヒサト「……どちら様でしょうか?」

紫髪の少女が、首を傾げる。

三郎「あ、いや……違くはないんだけど。道案内してほしくて」

ヒサト「案内役なら、お任せください!」

二人は歩き出す。
ヒサトの表情が、ぱっと明るくなった。

ヒサト「どちらへ?」

三郎「国王様のところです」

ヒサト「え? もしかして、勇者様ですか?」

三郎「え、なんで?」

ヒサト「国王様が“見知らぬ者が来たら勇者だ”って言ってましたから」

三郎「……そうです。勇者になりに来ました」

ヒサト「着きました!」

三郎「もう?!」

ヒサト「はい。遠くはないんですが、道が複雑なので、初めて来られる方は迷いがちなんです」

三郎「そうなんですね~」

ヒサト「あんまり興味なさそうですよね」

ヒサトは、むすっとした表情で三郎を見つめる。

三郎「そ、そんなことないですよ~」

ヒサト「……まあいいです。ここに居てもなんですし」

ヒサト「早速行きましょう、国王様の元へ」



巨大で威厳ある城が、目の前にそびえ立っていた。

ヒサト「ぼーっとしないでください。行きますよ」

三郎「あ、待って。名前、言ってなかった」

ヒサト「そうでした!」

三郎「田中三郎です」

ヒサト「私はヒサト。最初の町の案内役です」

門番「国王様に会う証拠は?」

ヒサト「私、案内人よ!」

門番「それでもダメです」

そこへ――

シュン「門番さん。この二人は、私が同行します」

門番「シュン様が一緒なら……どうぞ」



三人で城内へ。

ヒサト「シュン兄さん!」

三郎「兄妹!?」

シュン「違う違う。小さい頃に遊んでただけだよ。ワハハ、ヒック」

ヒサト「まだその癖、治ってないんですか」

三郎「変な癖ですね」

シュン「……あ?」



名物・100階階段。

15階目

シュン「余裕だね」

三郎「はい、そうですね!」

ヒサト「またまた、行けます!」

ヒサトは軽やかに走り、先へ飛ばしていく。

シュン「元気だなー」

三郎「待ってー!」



30階目

シュン「余裕だね」

三郎「ハァハァ……そうですね……ハァハァ……」

三郎は膝に手をつき、呼吸を整えながら階段を上っていた。

ヒサト「ハァ……ハァ……」

ヒサトも手すりに掴まり、少しずつ足を運んでいる。



50階目

シュン「余裕だね」

三郎「……」

ヒサト「……」

返事がない。

シュン「あれ? 二人とも?」

シュンが振り返ると、

手すりにもたれかかり、動かなくなっている二人の姿があった。

シュンは苦笑しながら、二人をそれぞれ担ぎ上げる。

シュン「しょうがないな、二人とも」



100階

そこには「国王」と記された門に近い巨大な扉があり、
近づくだけで重圧がのしかかってくるようだった。

シュンは二人を担いだまま、扉の前で膝をつく。

シュン「国王様、参りました」

国王「……入れ」

扉の向こうには、
海千山千をくぐり抜けてきた一国の王が、堂々と玉座に座していた。

国王「シュン、なぜ二人を?」

シュン「階段で力尽きまして」

三郎「は、初めまして。田中三郎です」

国王「……来たか、三郎」

三郎「?」

国王「彼は“勇者”として呼んだ者だ」

シュン「……そうですか」

国王「シュン。三郎と共に勇者一行に――」

シュン「それはできません」

即答だった。

国王「……だが、いつか魔王討伐には向かってもらう」

シュン「承知しました」

シュンはヒサトを担ぎ、去っていった。

三郎「国王様! シュンの過去を教えてください!」

国王「……いいだろう。
彼はな、元々“勇者の末裔”だった」

三郎「勇者の……末裔?」

国王「あいつが、まだ希望を捨てていなかった頃の話だ」
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