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一部
8話目少年が勇者になった日
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国王「シュン、いつか必ず魔王討伐に行ってもらうぞ」
玉座の間に響いたその声は、命令というよりも、すでに決められた未来を告げる宣告のようだった。
誰もが反論できない重さを帯び、空気そのものを縛りつける。
重厚な柱に囲まれた玉座の間は、静まり返っていた。
兵士も、貴族も、誰一人として口を挟まない。
その沈黙こそが、この言葉の絶対性を物語っていた。
シュン「……全滅させるで。敵は全て」
即答だった。
考える時間すら与えないような反応。
ためらいも、感情の揺れもない。
そこには使命感すら感じられなかった。
その言葉を聞いた瞬間、三郎は微かな違和感を覚えた。
怒りでも、決意でもない。
そこにあったのは、もっと冷たく、もっと重いものだった。
まるで、すでに何かを失い切った人間が、
残された義務だけを淡々と口にしているような声。
三郎は、その瞬間に理解してしまった。
これは英雄の覚悟ではない。
怨念に近い、沈殿した感情だと。
三郎は初めて、怨念の宿った勇者の眼を見た。
底の見えない暗さと、焦点の合わない冷たさ。
まるで、未来ではなく過去だけを見つめているかのようだった。
その言葉に、重みと寒さを同時に感じ、
三郎は無意識のうちに息を呑んでいた。
⸻
その頃、スミロは門番から、シュンは道場にいると伝えられ、静かに道場へと向かっていた。
廊下を進む足音は、やけに大きく響く。
それだけで、自分の心が乱れていることを思い知らされた。
足取りは重く、呼吸は浅い。
扉の前で立ち止まると、自然と拳が震えていることに気づいた。
扉を開ける手は、はっきりと震えていた。
胸の内を満たしていたのは、後悔と罪悪感だった。
シュンへの想い、そしてショウタへの想い。
守れなかった命が、頭の中で何度も繰り返される。
「もし、あの時――」
考えても意味のない仮定が、何度も浮かんでは消える。
だが、扉はスミロが手をかける前に、内側から開いた。
そこに立っていたのは、シュンだった。
シュン
「師匠……どうしたのですか? そんなボロボロで」
シュンの声には、戸惑いが混じっていた。
そしてその表情には、混乱と、
「師匠は最強である」という自身の信念が崩れ落ちる瞬間の絶望が浮かんでいた。
――それは、三郎がこの世界に来るより、はるか昔の話だ。
スミロ
「シュン……すまん……すまん」
喉が詰まり、それ以上の言葉が出てこない。
シュン
「え……どういうことですか」
すでに、嫌な予感はしていた。
胸の奥が締めつけられるように痛む。
だが、それを認めることが怖くて、聞き返してしまった。
スミロ
「お母さんを……守りきれなかった」
声は震え、悔しさを押し殺したように掠れていた。
その言葉を聞いた瞬間、シュンは信じられないという表情を浮かべた。
時間が止まったかのように、思考が追いつかない。
否定しようとする心と、理解してしまった頭が、激しく衝突する。
次の瞬間、膝から崩れ落ちた。
声を上げ、地面を叩き、
その場で、子供のように号泣した。
⸻
捜索開始から三日後。
重たい空気を引きずるように、グルートたちが戻ってきた。
誰も顔を上げようとしない。
そのまま道場へと走り込む。
グルート
「失礼します、スミロ坊ちゃん」
スミロ
「入れ」
その一言には、希望と絶望、
相反する二色の感情が、はっきりと滲んでいた。
グルート
「申し訳ございません。
ショウタ様は……お亡くなりになられていました」
その言葉が落ちた瞬間、空気が凍りつく。
スミロは、感情を押し殺したまま、静かに死因を尋ねた。
グルート
「腹部を貫通されていました。
前方からの攻撃と思われます。
断定はできませんが……貫通痕が大きすぎました」
その報告を聞き、スミロの中で一つの考えが形を成す。
――粕田の息子を庇い、その息子に腹部を貫かれたのだと。
否定する理由は、どこにもなかった。
その日を境に、
シュンの世界は、音もなく、静かに崩れていった。
⸻
その事件から四年後。
シュン、十七歳。
かつての少年は、すでに面影を残すのみだった。
スミロは父親が寝たきりとなり、
若くして国王として君臨し、将軍としても戦場に立っていた。
グルートは、その側近となり、常に傍に控えていた。
スミロ
「シュン……復讐の時が来た。
粕田の息子が、本家がなくなった今、
自分たちこそが本家だと主張し、我らにすり寄ってきた」
シュン
「師匠……いや、国王様。
やらせてください」
その声に、迷いはなかった。
だが、そこに喜びもなかった。
スミロ
「行ってこい。グルートをつける」
その後、シュンは分家を壊滅させた。
だが、その行為は、心を軽くすることはなかった。
むしろ、胸の奥に澱のような感情を残したままだった。
過去の出来事は、シュンの中で、
勇者という存在そのものへの考えを、
徐々に嫌悪へと変えていった。
国王
「あやつは、勇者や戦士である前に、少年だったのだ」
その言葉を、三郎は黙って背中越しに聞いていた。
そして、ようやく理解してしまう。
なぜシュンが、勇者という言葉に、
あれほど敏感なのかを。
ヒサト
「Zzz」
場違いな寝息が、小さく響く。
シュンは空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
シュン
「……親父」
その言葉が、過去へ向けられたものなのか、
それとも、まだ見ぬ未来へ向けられたものなのか。
それは、シュンにしかわからなかった。
玉座の間に響いたその声は、命令というよりも、すでに決められた未来を告げる宣告のようだった。
誰もが反論できない重さを帯び、空気そのものを縛りつける。
重厚な柱に囲まれた玉座の間は、静まり返っていた。
兵士も、貴族も、誰一人として口を挟まない。
その沈黙こそが、この言葉の絶対性を物語っていた。
シュン「……全滅させるで。敵は全て」
即答だった。
考える時間すら与えないような反応。
ためらいも、感情の揺れもない。
そこには使命感すら感じられなかった。
その言葉を聞いた瞬間、三郎は微かな違和感を覚えた。
怒りでも、決意でもない。
そこにあったのは、もっと冷たく、もっと重いものだった。
まるで、すでに何かを失い切った人間が、
残された義務だけを淡々と口にしているような声。
三郎は、その瞬間に理解してしまった。
これは英雄の覚悟ではない。
怨念に近い、沈殿した感情だと。
三郎は初めて、怨念の宿った勇者の眼を見た。
底の見えない暗さと、焦点の合わない冷たさ。
まるで、未来ではなく過去だけを見つめているかのようだった。
その言葉に、重みと寒さを同時に感じ、
三郎は無意識のうちに息を呑んでいた。
⸻
その頃、スミロは門番から、シュンは道場にいると伝えられ、静かに道場へと向かっていた。
廊下を進む足音は、やけに大きく響く。
それだけで、自分の心が乱れていることを思い知らされた。
足取りは重く、呼吸は浅い。
扉の前で立ち止まると、自然と拳が震えていることに気づいた。
扉を開ける手は、はっきりと震えていた。
胸の内を満たしていたのは、後悔と罪悪感だった。
シュンへの想い、そしてショウタへの想い。
守れなかった命が、頭の中で何度も繰り返される。
「もし、あの時――」
考えても意味のない仮定が、何度も浮かんでは消える。
だが、扉はスミロが手をかける前に、内側から開いた。
そこに立っていたのは、シュンだった。
シュン
「師匠……どうしたのですか? そんなボロボロで」
シュンの声には、戸惑いが混じっていた。
そしてその表情には、混乱と、
「師匠は最強である」という自身の信念が崩れ落ちる瞬間の絶望が浮かんでいた。
――それは、三郎がこの世界に来るより、はるか昔の話だ。
スミロ
「シュン……すまん……すまん」
喉が詰まり、それ以上の言葉が出てこない。
シュン
「え……どういうことですか」
すでに、嫌な予感はしていた。
胸の奥が締めつけられるように痛む。
だが、それを認めることが怖くて、聞き返してしまった。
スミロ
「お母さんを……守りきれなかった」
声は震え、悔しさを押し殺したように掠れていた。
その言葉を聞いた瞬間、シュンは信じられないという表情を浮かべた。
時間が止まったかのように、思考が追いつかない。
否定しようとする心と、理解してしまった頭が、激しく衝突する。
次の瞬間、膝から崩れ落ちた。
声を上げ、地面を叩き、
その場で、子供のように号泣した。
⸻
捜索開始から三日後。
重たい空気を引きずるように、グルートたちが戻ってきた。
誰も顔を上げようとしない。
そのまま道場へと走り込む。
グルート
「失礼します、スミロ坊ちゃん」
スミロ
「入れ」
その一言には、希望と絶望、
相反する二色の感情が、はっきりと滲んでいた。
グルート
「申し訳ございません。
ショウタ様は……お亡くなりになられていました」
その言葉が落ちた瞬間、空気が凍りつく。
スミロは、感情を押し殺したまま、静かに死因を尋ねた。
グルート
「腹部を貫通されていました。
前方からの攻撃と思われます。
断定はできませんが……貫通痕が大きすぎました」
その報告を聞き、スミロの中で一つの考えが形を成す。
――粕田の息子を庇い、その息子に腹部を貫かれたのだと。
否定する理由は、どこにもなかった。
その日を境に、
シュンの世界は、音もなく、静かに崩れていった。
⸻
その事件から四年後。
シュン、十七歳。
かつての少年は、すでに面影を残すのみだった。
スミロは父親が寝たきりとなり、
若くして国王として君臨し、将軍としても戦場に立っていた。
グルートは、その側近となり、常に傍に控えていた。
スミロ
「シュン……復讐の時が来た。
粕田の息子が、本家がなくなった今、
自分たちこそが本家だと主張し、我らにすり寄ってきた」
シュン
「師匠……いや、国王様。
やらせてください」
その声に、迷いはなかった。
だが、そこに喜びもなかった。
スミロ
「行ってこい。グルートをつける」
その後、シュンは分家を壊滅させた。
だが、その行為は、心を軽くすることはなかった。
むしろ、胸の奥に澱のような感情を残したままだった。
過去の出来事は、シュンの中で、
勇者という存在そのものへの考えを、
徐々に嫌悪へと変えていった。
国王
「あやつは、勇者や戦士である前に、少年だったのだ」
その言葉を、三郎は黙って背中越しに聞いていた。
そして、ようやく理解してしまう。
なぜシュンが、勇者という言葉に、
あれほど敏感なのかを。
ヒサト
「Zzz」
場違いな寝息が、小さく響く。
シュンは空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
シュン
「……親父」
その言葉が、過去へ向けられたものなのか、
それとも、まだ見ぬ未来へ向けられたものなのか。
それは、シュンにしかわからなかった。
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