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一部
二部第1話毒の魔人、準幹部候補
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シュン「三郎さん、この先に小さな町があります。そこで一度、休みましょうか」
三郎「わかった……」
喉の奥がひりつく。
乾いた空気を吸い込むたび、肺の内側が擦れるように痛んだ。
息を切らしながらそう答えた、その時だった。
背後から、拍子抜けするほど軽い声がかかる。
商人「お二人さん、どちらまで?」
反射的に肩が強張る。
旅を続ける中で、背後から声をかけられること自体が久しぶりだった。
振り返ると、荷車を引いた中年の男が、にこにこと笑って立っていた。
日に焼けた顔、緩んだ目元。どこにでもいそうな行商人の風体。
シュン「ええ。この先の町で休憩を取ろうと思いまして」
三郎「おじさーん、乗せてくれよ~」
疲労を誤魔化すように、わざと砕けた声を出す。
足の裏がじんじんと痛み、もう限界だった。
商人「いいですよ。ちょうど同じ場所に行くところでしたから」
三郎「やったぁー!」
三郎は両手を掲げて喜び、そのまま荷車に飛び乗った。
木の板がきしむ感触が、妙に現実的で、生きている証のように感じられる。
シュン「ありがとうございます」
そうして二人は、商人の荷車に乗り込み、町へ向かい始めた。
車輪が回るたび、砂利を踏み潰す音が一定のリズムで続く。
⸻
商人「ところで、お二人は何を?」
車輪の音に紛れるように投げられた問い。
何気ないはずの一言が、やけに耳に残る。
三郎「僕がゆ——」
言いかけた瞬間、横から手が伸びた。
シュンが、迷いなく三郎の口を押さえる。
シュン(小声)「三郎さん、身分は明かさない方がいい」
三郎(小声)「なんでだ?」
シュンは、視線だけで商人の背中を示した。
その背中は、荷車を引く人間のものとしては、不自然なほど安定していた。
シュン「……この人、人間じゃありません」
三郎「えっ!?」
思わず声が漏れた、その瞬間。
荷車が止まった。
急停止によって、体が前に揺れる。
軋む音が、やけに大きく響いた。
商人が、ゆっくりと振り向く。
商人「……ほぉ~」
歪んだ笑みが、口元に貼り付く。
人の顔をしたまま、どこか“ズレて”いる。
商人「勘がいいなぁ~。朱里、知ってるだろぉ?」
次の瞬間だった。
皮膚が裂ける音。
肉が捲れ、血の色とは異なる毒々しい色彩が現れる。
人の形を保ちながら、異形の輪郭が浮かび上がった。
商人「俺もなぁ~、あいつと同じ……準幹部候補なんだぁ~」
三郎は吐き気を堪え、思わず一歩後ずさる。
視界が揺れ、胃の奥が反転する感覚に、喉が鳴った。
シュン「三郎さん、しっかり!」
三郎「……すまん」
シュン「奇形変異型魔人です」
シュンは自然に三郎の前へ出る。
剣が抜かれ、空気を切り裂く鋭い音がした。
シュン「人間に化けるのは当たり前。理性と痛覚が欠けていて、戦い方が異常なのが特徴です」
三郎「見た目で十分わかるわ!」
⸻
三郎は、ぐっと歯を噛みしめ、一歩前へ出た。
足元の砂利を踏み砕く感触が、覚悟を固めさせる。
三郎「シュン……今回は俺にやらせてくれ」
シュン「……本気ですか」
三郎「魔王に勝つんだ。こいつを倒せなくて、どうする」
短い沈黙。
風だけが、二人の間を抜けた。
シュンは剣を下ろす。
シュン「……わかりました。でも危なくなったら止めます」
三郎「任せろ」
魔人「何コソコソ話してんだぁ~」
歪んだ眼孔が、ぎょろりと開く。
魔人「俺の名前はフリアリスだぁ~。毒の魔人だよぉ~」
狂気じみた笑い声が、鼓膜を叩く。
フリアリス「情報全部吐かせて、殺してやるぅ~」
⸻
次の瞬間。
毒を帯びた斬撃が、空気を裂いて飛んできた。
地面が抉れ、紫色の煙が立ち上る。
三郎は即座に地面を蹴り、岩魔法で受け止める。
衝撃が腕に走り、骨が軋む。
フリアリス「雑魚が先かぁ~」
怒号と共に、フリアリスは鉄の筒を取り出した。
三郎「鉄パイプ!?(ヤンキーかよ!)」
三郎は風を脚に纏い、地を滑るように突っ込む。
視界が一気に前方へ引き伸ばされる。
フリアリス「ほぉ……」
鉄パイプから、弾丸のような何かが放たれる。
三郎「ぐっ……!」
直撃は避けた。
だが、頬と腕をかすめ、皮膚が焼けるように痺れる。
フリアリス「チッ——!」
舌打ちと同時に、叫ぶ。
フリアリス「今のは当たるはずだったんだぞぉ~!!」
三郎は歯を食いしばり、足に纏っていた風を強引に引き剥がす。
肺が悲鳴を上げるのを無視し、次の瞬間、それを全身へと巡らせた。
フリアリス「……なるほどなぁ~」
歪んだ笑み。
フリアリス「ヴェルドキシン毒だぁ~。もう二発掠ってるなぁ~」
三郎「クソ……蜂毒かよ!」
⸻
三郎は走りながら、地面に手をついた。
炎柱が立ち上がる。
熱気が肌を焼き、視界が歪む。
だが、フリアリスは軽々とかわした。
フリアリス「四大元素だけかぁ? 朱里はこんなのに……」
フリアリスは毒と風を纏い、突進する。
圧力だけで、周囲の空気が震えた。
三郎も踏み込む。
剣と鉄がぶつかり合い、火花が散る。
衝撃が腕を通して全身に伝わる。
フリアリス「剣だけは、そこそこだなぁ~」
三郎「互角だと思ってんのかよ!」
背後から、研ぎ澄まされた岩が突き刺さる。
フリアリス「ぐっ……!」
怒りと共に、身体が膨れ上がる。
肉が盛り上がり、骨格が歪む。
体は変異し、六つの眼が生えた。
フリアリス「最終形態だぁぁ!!」
毒の竜巻を纏った一撃が、三郎に迫る。
視界が緑に染まる。
⸻
——その時。
シュン「間に合った」
一瞬。
鉄パイプは、粉々に砕け散った。
シュンは、目の前に立っていた。
フリアリス「このクソチビが——」
拳が振るわれる。
次の瞬間、腕は地に落ちていた。
シュンの剣には、業火のような炎。
シュン「……熱消毒です」
一閃。
フリアリスは、崩れ落ちた。
⸻
シュンは風で静かに地上へ降りる。
三郎「……シュン、やっぱお前すげぇな……」
シュン「でも三郎さん、確実に強くなってます」
その言葉を聞いた瞬間、三郎は膝をついた。
三郎「……すまん、死ぬかも」
シュン「大丈夫です。もう神の加護で処置しました」
三郎「……え?」
三郎は、きょとんとした顔をした。
三郎「わかった……」
喉の奥がひりつく。
乾いた空気を吸い込むたび、肺の内側が擦れるように痛んだ。
息を切らしながらそう答えた、その時だった。
背後から、拍子抜けするほど軽い声がかかる。
商人「お二人さん、どちらまで?」
反射的に肩が強張る。
旅を続ける中で、背後から声をかけられること自体が久しぶりだった。
振り返ると、荷車を引いた中年の男が、にこにこと笑って立っていた。
日に焼けた顔、緩んだ目元。どこにでもいそうな行商人の風体。
シュン「ええ。この先の町で休憩を取ろうと思いまして」
三郎「おじさーん、乗せてくれよ~」
疲労を誤魔化すように、わざと砕けた声を出す。
足の裏がじんじんと痛み、もう限界だった。
商人「いいですよ。ちょうど同じ場所に行くところでしたから」
三郎「やったぁー!」
三郎は両手を掲げて喜び、そのまま荷車に飛び乗った。
木の板がきしむ感触が、妙に現実的で、生きている証のように感じられる。
シュン「ありがとうございます」
そうして二人は、商人の荷車に乗り込み、町へ向かい始めた。
車輪が回るたび、砂利を踏み潰す音が一定のリズムで続く。
⸻
商人「ところで、お二人は何を?」
車輪の音に紛れるように投げられた問い。
何気ないはずの一言が、やけに耳に残る。
三郎「僕がゆ——」
言いかけた瞬間、横から手が伸びた。
シュンが、迷いなく三郎の口を押さえる。
シュン(小声)「三郎さん、身分は明かさない方がいい」
三郎(小声)「なんでだ?」
シュンは、視線だけで商人の背中を示した。
その背中は、荷車を引く人間のものとしては、不自然なほど安定していた。
シュン「……この人、人間じゃありません」
三郎「えっ!?」
思わず声が漏れた、その瞬間。
荷車が止まった。
急停止によって、体が前に揺れる。
軋む音が、やけに大きく響いた。
商人が、ゆっくりと振り向く。
商人「……ほぉ~」
歪んだ笑みが、口元に貼り付く。
人の顔をしたまま、どこか“ズレて”いる。
商人「勘がいいなぁ~。朱里、知ってるだろぉ?」
次の瞬間だった。
皮膚が裂ける音。
肉が捲れ、血の色とは異なる毒々しい色彩が現れる。
人の形を保ちながら、異形の輪郭が浮かび上がった。
商人「俺もなぁ~、あいつと同じ……準幹部候補なんだぁ~」
三郎は吐き気を堪え、思わず一歩後ずさる。
視界が揺れ、胃の奥が反転する感覚に、喉が鳴った。
シュン「三郎さん、しっかり!」
三郎「……すまん」
シュン「奇形変異型魔人です」
シュンは自然に三郎の前へ出る。
剣が抜かれ、空気を切り裂く鋭い音がした。
シュン「人間に化けるのは当たり前。理性と痛覚が欠けていて、戦い方が異常なのが特徴です」
三郎「見た目で十分わかるわ!」
⸻
三郎は、ぐっと歯を噛みしめ、一歩前へ出た。
足元の砂利を踏み砕く感触が、覚悟を固めさせる。
三郎「シュン……今回は俺にやらせてくれ」
シュン「……本気ですか」
三郎「魔王に勝つんだ。こいつを倒せなくて、どうする」
短い沈黙。
風だけが、二人の間を抜けた。
シュンは剣を下ろす。
シュン「……わかりました。でも危なくなったら止めます」
三郎「任せろ」
魔人「何コソコソ話してんだぁ~」
歪んだ眼孔が、ぎょろりと開く。
魔人「俺の名前はフリアリスだぁ~。毒の魔人だよぉ~」
狂気じみた笑い声が、鼓膜を叩く。
フリアリス「情報全部吐かせて、殺してやるぅ~」
⸻
次の瞬間。
毒を帯びた斬撃が、空気を裂いて飛んできた。
地面が抉れ、紫色の煙が立ち上る。
三郎は即座に地面を蹴り、岩魔法で受け止める。
衝撃が腕に走り、骨が軋む。
フリアリス「雑魚が先かぁ~」
怒号と共に、フリアリスは鉄の筒を取り出した。
三郎「鉄パイプ!?(ヤンキーかよ!)」
三郎は風を脚に纏い、地を滑るように突っ込む。
視界が一気に前方へ引き伸ばされる。
フリアリス「ほぉ……」
鉄パイプから、弾丸のような何かが放たれる。
三郎「ぐっ……!」
直撃は避けた。
だが、頬と腕をかすめ、皮膚が焼けるように痺れる。
フリアリス「チッ——!」
舌打ちと同時に、叫ぶ。
フリアリス「今のは当たるはずだったんだぞぉ~!!」
三郎は歯を食いしばり、足に纏っていた風を強引に引き剥がす。
肺が悲鳴を上げるのを無視し、次の瞬間、それを全身へと巡らせた。
フリアリス「……なるほどなぁ~」
歪んだ笑み。
フリアリス「ヴェルドキシン毒だぁ~。もう二発掠ってるなぁ~」
三郎「クソ……蜂毒かよ!」
⸻
三郎は走りながら、地面に手をついた。
炎柱が立ち上がる。
熱気が肌を焼き、視界が歪む。
だが、フリアリスは軽々とかわした。
フリアリス「四大元素だけかぁ? 朱里はこんなのに……」
フリアリスは毒と風を纏い、突進する。
圧力だけで、周囲の空気が震えた。
三郎も踏み込む。
剣と鉄がぶつかり合い、火花が散る。
衝撃が腕を通して全身に伝わる。
フリアリス「剣だけは、そこそこだなぁ~」
三郎「互角だと思ってんのかよ!」
背後から、研ぎ澄まされた岩が突き刺さる。
フリアリス「ぐっ……!」
怒りと共に、身体が膨れ上がる。
肉が盛り上がり、骨格が歪む。
体は変異し、六つの眼が生えた。
フリアリス「最終形態だぁぁ!!」
毒の竜巻を纏った一撃が、三郎に迫る。
視界が緑に染まる。
⸻
——その時。
シュン「間に合った」
一瞬。
鉄パイプは、粉々に砕け散った。
シュンは、目の前に立っていた。
フリアリス「このクソチビが——」
拳が振るわれる。
次の瞬間、腕は地に落ちていた。
シュンの剣には、業火のような炎。
シュン「……熱消毒です」
一閃。
フリアリスは、崩れ落ちた。
⸻
シュンは風で静かに地上へ降りる。
三郎「……シュン、やっぱお前すげぇな……」
シュン「でも三郎さん、確実に強くなってます」
その言葉を聞いた瞬間、三郎は膝をついた。
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