眠れる勇者99九回目で

ネム・サブロウ

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一部

二部第1話毒の魔人、準幹部候補

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シュン「三郎さん、この先に小さな町があります。そこで一度、休みましょうか」

三郎「わかった……」

喉の奥がひりつく。
乾いた空気を吸い込むたび、肺の内側が擦れるように痛んだ。
息を切らしながらそう答えた、その時だった。

背後から、拍子抜けするほど軽い声がかかる。

商人「お二人さん、どちらまで?」

反射的に肩が強張る。
旅を続ける中で、背後から声をかけられること自体が久しぶりだった。
振り返ると、荷車を引いた中年の男が、にこにこと笑って立っていた。
日に焼けた顔、緩んだ目元。どこにでもいそうな行商人の風体。

シュン「ええ。この先の町で休憩を取ろうと思いまして」

三郎「おじさーん、乗せてくれよ~」

疲労を誤魔化すように、わざと砕けた声を出す。
足の裏がじんじんと痛み、もう限界だった。

商人「いいですよ。ちょうど同じ場所に行くところでしたから」

三郎「やったぁー!」

三郎は両手を掲げて喜び、そのまま荷車に飛び乗った。
木の板がきしむ感触が、妙に現実的で、生きている証のように感じられる。

シュン「ありがとうございます」

そうして二人は、商人の荷車に乗り込み、町へ向かい始めた。
車輪が回るたび、砂利を踏み潰す音が一定のリズムで続く。



商人「ところで、お二人は何を?」

車輪の音に紛れるように投げられた問い。
何気ないはずの一言が、やけに耳に残る。

三郎「僕がゆ——」

言いかけた瞬間、横から手が伸びた。
シュンが、迷いなく三郎の口を押さえる。

シュン(小声)「三郎さん、身分は明かさない方がいい」

三郎(小声)「なんでだ?」

シュンは、視線だけで商人の背中を示した。
その背中は、荷車を引く人間のものとしては、不自然なほど安定していた。

シュン「……この人、人間じゃありません」

三郎「えっ!?」

思わず声が漏れた、その瞬間。

荷車が止まった。
急停止によって、体が前に揺れる。
軋む音が、やけに大きく響いた。

商人が、ゆっくりと振り向く。

商人「……ほぉ~」

歪んだ笑みが、口元に貼り付く。
人の顔をしたまま、どこか“ズレて”いる。

商人「勘がいいなぁ~。朱里、知ってるだろぉ?」

次の瞬間だった。

皮膚が裂ける音。
肉が捲れ、血の色とは異なる毒々しい色彩が現れる。
人の形を保ちながら、異形の輪郭が浮かび上がった。

商人「俺もなぁ~、あいつと同じ……準幹部候補なんだぁ~」

三郎は吐き気を堪え、思わず一歩後ずさる。
視界が揺れ、胃の奥が反転する感覚に、喉が鳴った。

シュン「三郎さん、しっかり!」

三郎「……すまん」

シュン「奇形変異型魔人です」

シュンは自然に三郎の前へ出る。
剣が抜かれ、空気を切り裂く鋭い音がした。

シュン「人間に化けるのは当たり前。理性と痛覚が欠けていて、戦い方が異常なのが特徴です」

三郎「見た目で十分わかるわ!」



三郎は、ぐっと歯を噛みしめ、一歩前へ出た。
足元の砂利を踏み砕く感触が、覚悟を固めさせる。

三郎「シュン……今回は俺にやらせてくれ」

シュン「……本気ですか」

三郎「魔王に勝つんだ。こいつを倒せなくて、どうする」

短い沈黙。
風だけが、二人の間を抜けた。

シュンは剣を下ろす。

シュン「……わかりました。でも危なくなったら止めます」

三郎「任せろ」

魔人「何コソコソ話してんだぁ~」

歪んだ眼孔が、ぎょろりと開く。

魔人「俺の名前はフリアリスだぁ~。毒の魔人だよぉ~」

狂気じみた笑い声が、鼓膜を叩く。

フリアリス「情報全部吐かせて、殺してやるぅ~」



次の瞬間。

毒を帯びた斬撃が、空気を裂いて飛んできた。
地面が抉れ、紫色の煙が立ち上る。

三郎は即座に地面を蹴り、岩魔法で受け止める。
衝撃が腕に走り、骨が軋む。

フリアリス「雑魚が先かぁ~」

怒号と共に、フリアリスは鉄の筒を取り出した。

三郎「鉄パイプ!?(ヤンキーかよ!)」

三郎は風を脚に纏い、地を滑るように突っ込む。
視界が一気に前方へ引き伸ばされる。

フリアリス「ほぉ……」

鉄パイプから、弾丸のような何かが放たれる。

三郎「ぐっ……!」

直撃は避けた。
だが、頬と腕をかすめ、皮膚が焼けるように痺れる。

フリアリス「チッ——!」

舌打ちと同時に、叫ぶ。

フリアリス「今のは当たるはずだったんだぞぉ~!!」

三郎は歯を食いしばり、足に纏っていた風を強引に引き剥がす。
肺が悲鳴を上げるのを無視し、次の瞬間、それを全身へと巡らせた。

フリアリス「……なるほどなぁ~」

歪んだ笑み。

フリアリス「ヴェルドキシン毒だぁ~。もう二発掠ってるなぁ~」

三郎「クソ……蜂毒かよ!」



三郎は走りながら、地面に手をついた。

炎柱が立ち上がる。
熱気が肌を焼き、視界が歪む。

だが、フリアリスは軽々とかわした。

フリアリス「四大元素だけかぁ? 朱里はこんなのに……」

フリアリスは毒と風を纏い、突進する。
圧力だけで、周囲の空気が震えた。

三郎も踏み込む。

剣と鉄がぶつかり合い、火花が散る。
衝撃が腕を通して全身に伝わる。

フリアリス「剣だけは、そこそこだなぁ~」

三郎「互角だと思ってんのかよ!」

背後から、研ぎ澄まされた岩が突き刺さる。

フリアリス「ぐっ……!」

怒りと共に、身体が膨れ上がる。
肉が盛り上がり、骨格が歪む。

体は変異し、六つの眼が生えた。

フリアリス「最終形態だぁぁ!!」

毒の竜巻を纏った一撃が、三郎に迫る。
視界が緑に染まる。



——その時。

シュン「間に合った」

一瞬。

鉄パイプは、粉々に砕け散った。

シュンは、目の前に立っていた。

フリアリス「このクソチビが——」

拳が振るわれる。
次の瞬間、腕は地に落ちていた。

シュンの剣には、業火のような炎。

シュン「……熱消毒です」

一閃。

フリアリスは、崩れ落ちた。



シュンは風で静かに地上へ降りる。

三郎「……シュン、やっぱお前すげぇな……」

シュン「でも三郎さん、確実に強くなってます」

その言葉を聞いた瞬間、三郎は膝をついた。

三郎「……すまん、死ぬかも」

シュン「大丈夫です。もう神の加護で処置しました」

三郎「……え?」

三郎は、きょとんとした顔をした。
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