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44.恋人同士
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「失礼、彼は知り合いだ。その支払いは俺が立て替えよう」
「これはこれは、ありがとうございます」
ジェラルドは、カフェの従業員に声をかけると、代金を手渡した。代金さえもらえば文句はない従業員は笑顔で領収書をジェラルドに手渡すと、店の中に入って行った。
「……ジェラルド、どうしてここに」
「おや、立て替えのお礼より質問が先かい? ここにコートネイの店があるから視察に来ていたんだ。
余計なことをしたかな?」
「いや、助かったよ。……ありがとう」
エリオットは、意外そうにジェラルドを見ていたものの、昔のように気安く話しかけられて少しほっとした様子を見せた。
「現金を持たないでこの地域で遊ぶのは無理だ。もう、今日は帰った方がいいんじゃないか?」
ジェラルドの提案を聞いたエリオットは、自宅の車が迎えに来ると答えたが、それまでにはまだまだ時間がある。その間に何かあっても困るはずだ。ジェラルドが、なぜ伯爵令息が従者も連れずに出歩いているのかと聞いても、エリオットは口ごもって誤魔化すばかりだ。
ジェラルドは、遊び人のように噂されているエリオットの世間知らずぶりに、些か呆れてしまった。
しかし、ステイシー伯爵と自分の父親は友人であり、エリオットは一応幼馴染であるから、見捨ててしまうのも後味が悪い。
ジェラルドはそう考えて、緊急用にと少しばかりの現金をエリオットに渡した。
「ジェラルド、すまない」
「いや、幼馴染だからな。お父上経由で返してくれたら良いから」
「わかった……きちんと……」
「そうだ! ジェラルド! ジェラルド・コートネイ伯爵令息だね!」
エリオットとジェラルドの会話がいきなり甲高い声で遮られた。
そう、いつも通りのノエル・レイトンである。
エリオットとジェラルドは、同時にノエルの方を見る。
ノエルは、エリオットの腕にぶら下がるようにしながら立っていた。そして、そのピンク色の瞳をきらきらさせて、可愛らしい笑顔でジェラルドを見ている。
「君は……?」
「僕、ノエル・レイトンっていいます! ジェラルドさん、今日はごちそうしてくれて、ありがとう!」
「は?」
大きな声で礼を言った後に右手を差し出すノエルを見て、流石のジェラルドも困惑をした。
どうしてこのピンクは自分の名前を知っているのか。
どうして右手を差し出しているのか。
どうしてエリオットにお金を貸しただけなのにごちそうしたことになっているのか。
ジェラルドはこのピンクの少年をどこかで見たことがあるような気がするのだが、思い出せない。
「ノ、ノエル。勝手に人の名前を呼んだらいけないと、教えられているだろう?」
「えー、エリオット、だって僕、ちゃんと自己紹介したよ?」
ノエルの答えはエリオットの話とは明らかにずれている。その傍若無人な話しぶりを聞いて、ジェラルドはようやくノエルのことを思い出した。
デビュタントの夜会で、レイフに駆け寄って王族のダンスを邪魔した少年。そうだ、それがこのピンクの少年だった。
無邪気ともいえるし、小柄で顔立ちも可愛らしい少年だ。細い首に巻かれたオメガ専用のネックガードもほどほどの品物をつけている。おそらくデビュタントで仕出かしたことも大目に見てもらえる程度には、家族には大切にされているのだろう。
しかし、ジェラルドの商人としての勘が頭の中で警鐘を鳴らす。
この少年に関わるとろくなことにはならないと。
「エリオットの友人か。俺がごちそうしたんじゃなくて、エリオットにお金を貸しただけだから、お礼は不要だ」
ジェラルドは、差し出された手を無視しながらも、営業用の微笑みを浮かべてノエルに話しかけた。
「え、ジェラルド……?」
「じゃあエリオット、俺はこの後も予定があるから」
「あ、ああ、ありがとうジェラルド」
ジェラルドの微笑みにいったん舞い上がりかけたノエルは、握手を受け入れられなくて、手のやりどころに困っているようだ。しかし、ジェラルドはそれを黙殺すると、エリオットに声をかけてから踵を返した。
ジェラルドは、そのままアラステアとクリスティアンと合流すると、複合施設の裏手から自分たちの車に乗り込んだ。
「あの二人は、友人なのかな……?」
「いや、恋人同士と言っていいと思うが」
「うん……カフェテリアでのふるまいなどを見ているとそんな感じに見えるね」
車の中で小さく呟かれたジェラルドの疑問に、クリスティアンとアラステアはそう答える。
「恋人同士……
そうか、そんな感じに見えたのは、間違いないのか」
「お兄様、何か気になることでもあるの?」
「いや、俺たちが気にする必要のあることじゃないし、あまり人のことを詮索するのは品がない行為だとは思うのだが」
ジェラルドは、気になっていることがあるようなのにはっきりしたことを言わない。アラステアは、ジェラルドにしては珍しく歯切れの悪い様子を見て、首を傾げた。
「お兄様?」
「いや、他人の私的なことだからとは思うのだけれど、その……
エリオットはベータだろう? だから、男性のオメガが恋人だというのは珍しいことだと思っただけだよ……」
「ああ、確かに貴族のベータ男性は女性を恋人にすることが多いことを考えれば、気になるであろうな」
クリスティアンはエリオットがベータだと知っていたのだろう。ジェラルドの疑問について納得したように頷いている。
しかし、アラステアはエリオットがベータであるとは知らなかった。
アラステアの頭の中は疑問でいっぱいになる。
エリオットはベータだった。それは、男性オメガのアラステアとでは跡継ぎを成すことができないということだ。
では、ステイシー伯爵家からコートネイ伯爵家にエリオットとアラステアの婚約の打診があったというのは、どうしてなのだろうか。
「え? どういうことなの?」
アラステアは、少しばかり混乱しながら、クリスティアンとジェラルドの顔を交互に見るように視線を動かした。
「これはこれは、ありがとうございます」
ジェラルドは、カフェの従業員に声をかけると、代金を手渡した。代金さえもらえば文句はない従業員は笑顔で領収書をジェラルドに手渡すと、店の中に入って行った。
「……ジェラルド、どうしてここに」
「おや、立て替えのお礼より質問が先かい? ここにコートネイの店があるから視察に来ていたんだ。
余計なことをしたかな?」
「いや、助かったよ。……ありがとう」
エリオットは、意外そうにジェラルドを見ていたものの、昔のように気安く話しかけられて少しほっとした様子を見せた。
「現金を持たないでこの地域で遊ぶのは無理だ。もう、今日は帰った方がいいんじゃないか?」
ジェラルドの提案を聞いたエリオットは、自宅の車が迎えに来ると答えたが、それまでにはまだまだ時間がある。その間に何かあっても困るはずだ。ジェラルドが、なぜ伯爵令息が従者も連れずに出歩いているのかと聞いても、エリオットは口ごもって誤魔化すばかりだ。
ジェラルドは、遊び人のように噂されているエリオットの世間知らずぶりに、些か呆れてしまった。
しかし、ステイシー伯爵と自分の父親は友人であり、エリオットは一応幼馴染であるから、見捨ててしまうのも後味が悪い。
ジェラルドはそう考えて、緊急用にと少しばかりの現金をエリオットに渡した。
「ジェラルド、すまない」
「いや、幼馴染だからな。お父上経由で返してくれたら良いから」
「わかった……きちんと……」
「そうだ! ジェラルド! ジェラルド・コートネイ伯爵令息だね!」
エリオットとジェラルドの会話がいきなり甲高い声で遮られた。
そう、いつも通りのノエル・レイトンである。
エリオットとジェラルドは、同時にノエルの方を見る。
ノエルは、エリオットの腕にぶら下がるようにしながら立っていた。そして、そのピンク色の瞳をきらきらさせて、可愛らしい笑顔でジェラルドを見ている。
「君は……?」
「僕、ノエル・レイトンっていいます! ジェラルドさん、今日はごちそうしてくれて、ありがとう!」
「は?」
大きな声で礼を言った後に右手を差し出すノエルを見て、流石のジェラルドも困惑をした。
どうしてこのピンクは自分の名前を知っているのか。
どうして右手を差し出しているのか。
どうしてエリオットにお金を貸しただけなのにごちそうしたことになっているのか。
ジェラルドはこのピンクの少年をどこかで見たことがあるような気がするのだが、思い出せない。
「ノ、ノエル。勝手に人の名前を呼んだらいけないと、教えられているだろう?」
「えー、エリオット、だって僕、ちゃんと自己紹介したよ?」
ノエルの答えはエリオットの話とは明らかにずれている。その傍若無人な話しぶりを聞いて、ジェラルドはようやくノエルのことを思い出した。
デビュタントの夜会で、レイフに駆け寄って王族のダンスを邪魔した少年。そうだ、それがこのピンクの少年だった。
無邪気ともいえるし、小柄で顔立ちも可愛らしい少年だ。細い首に巻かれたオメガ専用のネックガードもほどほどの品物をつけている。おそらくデビュタントで仕出かしたことも大目に見てもらえる程度には、家族には大切にされているのだろう。
しかし、ジェラルドの商人としての勘が頭の中で警鐘を鳴らす。
この少年に関わるとろくなことにはならないと。
「エリオットの友人か。俺がごちそうしたんじゃなくて、エリオットにお金を貸しただけだから、お礼は不要だ」
ジェラルドは、差し出された手を無視しながらも、営業用の微笑みを浮かべてノエルに話しかけた。
「え、ジェラルド……?」
「じゃあエリオット、俺はこの後も予定があるから」
「あ、ああ、ありがとうジェラルド」
ジェラルドの微笑みにいったん舞い上がりかけたノエルは、握手を受け入れられなくて、手のやりどころに困っているようだ。しかし、ジェラルドはそれを黙殺すると、エリオットに声をかけてから踵を返した。
ジェラルドは、そのままアラステアとクリスティアンと合流すると、複合施設の裏手から自分たちの車に乗り込んだ。
「あの二人は、友人なのかな……?」
「いや、恋人同士と言っていいと思うが」
「うん……カフェテリアでのふるまいなどを見ているとそんな感じに見えるね」
車の中で小さく呟かれたジェラルドの疑問に、クリスティアンとアラステアはそう答える。
「恋人同士……
そうか、そんな感じに見えたのは、間違いないのか」
「お兄様、何か気になることでもあるの?」
「いや、俺たちが気にする必要のあることじゃないし、あまり人のことを詮索するのは品がない行為だとは思うのだが」
ジェラルドは、気になっていることがあるようなのにはっきりしたことを言わない。アラステアは、ジェラルドにしては珍しく歯切れの悪い様子を見て、首を傾げた。
「お兄様?」
「いや、他人の私的なことだからとは思うのだけれど、その……
エリオットはベータだろう? だから、男性のオメガが恋人だというのは珍しいことだと思っただけだよ……」
「ああ、確かに貴族のベータ男性は女性を恋人にすることが多いことを考えれば、気になるであろうな」
クリスティアンはエリオットがベータだと知っていたのだろう。ジェラルドの疑問について納得したように頷いている。
しかし、アラステアはエリオットがベータであるとは知らなかった。
アラステアの頭の中は疑問でいっぱいになる。
エリオットはベータだった。それは、男性オメガのアラステアとでは跡継ぎを成すことができないということだ。
では、ステイシー伯爵家からコートネイ伯爵家にエリオットとアラステアの婚約の打診があったというのは、どうしてなのだろうか。
「え? どういうことなの?」
アラステアは、少しばかり混乱しながら、クリスティアンとジェラルドの顔を交互に見るように視線を動かした。
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